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「森田さん、あなたはどうして日本のマスコミをきびしく批判しているのか」(その4)【森田実の言わねばならぬ】
http://www.asyura2.com/0601/hihyo3/msg/517.html
投稿者 天木ファン 日時 2006 年 8 月 28 日 14:58:50: 2nLReFHhGZ7P6
 

(回答先: 「森田さん、あなたはどうして日本のマスコミをきびしく批判しているのか」(その3)【森田実の言わねばならぬ】 投稿者 天木ファン 日時 2006 年 8 月 28 日 14:56:14)

2006.8.27
森田実の言わねばならぬ[299]

質問に答えます――「森田さん、あなたはどうして日本のマスコミをきびしく批判しているのか」(その4)倫理なきマスコミほど人間社会にとって有害なものはない

「己の欲せざる所は人に施すこと勿れ」(孔子『論語』)


 現在の日本のマスコミで働くジャーナリストの倫理性はきわめて低い。ここに日本の弱点がある。 同じ『論語』のなかに「君子に九思あり」とある。ジャーナリストを職業とする者にとって役立つので紹介したい。
 「君子の九思」とは、「視るには明を思い」「聴くには聡を思い」「色には温を思い」「貌(かたち)には恭を思い」「言には忠を思い」「事には敬を思い」「疑には問を思い」「忿(ふん)には難を思い」「得を見ては義を思う」――である。明、聡、温、恭、忠、敬、問、難、義の九文字を覚えておくとよい。
 私流に解釈すれば、「見るときははっきりと見る」「聞くときははっきりと聞く」「表情は穏やかに」「姿は謙虚に」「話は誠実に」「仕事は慎重に」「疑問があれば質問し」「怒りにはあとあとの難を思い」「利益を得るときは道義を思う」という意味である。この「君子の九思」はジャーナリストのために言われたような言葉である。
 マスコミは巨大な影響力をもっている。マスコミで働いている者は国民に多大の影響を与える。したがってマスコミで働いている者は「君子」(指導者)でなければならない。指導者としての自覚が必要な職業である。

 ジャーナリストを職業とする者が知っておかなければならないことがある。その一つが倫理学である。倫理に関する書物は数多くある。『論語』『孟子』『老子』『荘子』『荀子』などの中国古典もそうである。プラトン、アリストテレス、キケロ、モンテスキュー、パスカルなどもそうである。なかでもアリストテレスの『ニコマコス倫理学』は必読の最重要文献であろう。
 アリストテレスは、人間活動の究極の目的は善であり、善のなかの最高善が幸福であるとする。人間の善とは、人間の卓越性に即しての魂の活動であるとアリストテレスは定義している。魂の卓越性には、知的卓越性と倫理的卓越性とがある。知的卓越性は教育に負うもので、歳月が必要である。倫理的卓越性は習慣づけにもとづいて生ずるものである。倫理的卓越性を現代的表現にかえれば「豊かな徳性を身につける」ことであり、「神に最も愛される人」になることである。
 「徳性を磨く」ということは「節制」「勇気」「忍耐」「寛厚」「矜持」「穏和」「親愛」「教養」「気品」などの徳ないし徳的なものを身につけることである。
 長々と「倫理的卓越性」のことを書いたのは、ジャーナリストとして生きるということは――他の世界で指導的な立場で生きるのと同様――倫理を身につけるための必死の努力が必要だということを言いたいからである。

 だが、現実はどうか。私は四十数年間ジャーナリズムのなかで生きてきたが、人並み以上の徳性を身につけるために絶えず努力している人はごく少数であり、大多数はあたかもアニマルのごとき生き方をしている。
 大テレビ局、大新聞社の大多数の記者、編集者、ディレクターは、高慢・傲慢を隠そうとしない。「荒くれ」「ごろつき的人間」も少なくない。わが国のジャーナリズムのなかには、倫理性を高め、知性を磨こうと努力している「求道者」がきわめて少ないのである。そのうえ、求道者的な生き方をしている記者には、マスコミ内の実権のあるポストはほとんど与えられない。実権あるポストに就くのは、ゴマスリにたけた倫理性の低い人物が多いのが現実なのだ。要するに、わが国のマスコミにおいては、自己の人間性を“高める”ために努力し、理想を求めつづける者は好かれないのである。
 アリストテレスは、人間の職業を三つに類型化した。第一は政治家的職業、第二は実業家的職業、第三は学者的職業である。ジャーナリストは第三の類型に属する。
 それぞれの分野において、それが失われたらその職業が成り立たないものがある。「政治」においては「誇り」、「実業」においては「利益」、「学者」においては「理想」である。学者・ジャーナリストを職業とする人間にとっては「理想」が最も大切なものなのである。
 ところが、わが国のジャーナリズムは「理想」とは無縁の世界にいる。マスコミで働いているジャーナリストは理想を失い、「自分にとって得か損か」の利害意識を基準にして活動している。
 マスコミから倫理が失われ、大多数の記者、編集者、ディレクターが「自分にとって得か損か」のエゴイズムを行動原理にして動いているというのは、日本社会にとってきわめて危険なことである。倫理性に欠け、「自分さえよければいい」という情報が毎日毎日マスメディアを通じて発せられているのだ。毎日テレビを見ている日本の子どもたちはどうなるのか、青少年はどうなるのか――心ある人なら、心を痛めない人はいないだろう。

 小泉首相と自公連立政権の指導者の罪は、倫理性を失ったマスコミを自己の政治権力の強化のための道具として使い尽くし、ほんの少し残っていたマスコミ内の道義を破壊し、ごろつきのごときジャーナリストをはびこらせたことにある。小泉首相は、日本国民の「節度ある日本的生き方」を踏みにじった。この5年有余の小泉首相の政治手法は、ごろつき的手法に等しいものだった。
 だが、日本のマスコミは小泉首相を褒めたたえ、小泉政治への批判者を排除した。日本のマスコミは、小泉政治とはなにかについて、その洞察力をまったく欠いている。その背景には、繰り返すが、倫理性の欠如がある。
 日本のジャーナリズムがこれほど堕落したのは、第二次大戦中、すべてのマスコミが軍部に従属し、大本営発表を垂れ流していた以来のことである。
 現在、日本のジャーナリズムにとっての唯一の救いは、NHKのなかに良心的なジャーナリストがいて、活躍の場を与えられていることである。NHKのなかで燃えつづけている良心の灯を消してはならない。われわれはNHKを守らなければならない。


http://www.pluto.dti.ne.jp/~mor97512/C02850.HTML

森田実の時代を斬る:
http://www.pluto.dti.ne.jp/~mor97512/TEST03.HTML

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