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桑名事件 (新小児科医のつぶやき)
http://www.asyura2.com/0601/health12/msg/354.html
投稿者 どっちだ 日時 2006 年 11 月 21 日 23:14:24: Neh0eMBXBwlZk
 

(回答先: 【 訴訟の勧め 】 公立病院で診療対応が遅いと思ったときは、300万円以上取れる可能性が高い。 投稿者 どっちだ 日時 2006 年 11 月 21 日 22:56:54)

http://d.hatena.ne.jp/Yosyan/20061121

2006-11-21 桑名事件

医療訴訟はすべての医師の上に暗い影を落としています。その暗さは医師の心を萎びさせ、ついには折ってしまうほどの影響力を振るっています。奈良救急事件はあれ1件で日本の救急医療が瓦解するほどの破壊力があります。当ブログにもこの件についてたくさんのコメントが寄せられていますが、まず判決の内容自体が信じられない代物であり、判決が要求する医療水準を求めるのなら救急医を除いて誰も従事することが出来ないと判断されるものです。

もちろんこれ以外にも医師を震撼させる判決は日々作られています。別にそういう判決を紹介する事で医療崩壊を加速させるのが目的ではないのですが、医師ならばやはり知っておかざるを得ません。今日紹介させてもらうのもコメントで頂いたものですが、記事を読むだけで暗澹とさせられます。2006年11月18日付Asahi.com MY TOWN三重からです。

-ここから------------------------------------------------------------------------

2006年11月18日付Asahi.com MY TOWN三重
http://mytown.asahi.com/mie/news.php?k_id=25000000611180002

脳腫瘍(しゅよう)が悪化して重い障害を負ったのは、病院が適切な検査をせずに病気の特定が遅れたからだとして、桑名市の20代の女性が05年8月に桑名市民病院を相手どって2千万円の損害賠償を求めて名古屋地裁に起こした訴訟で、病院は17日、女性に和解金300万円を支払うことで和解したと、発表した。同地裁の和解勧告に従った。

 病院によると、女性は02年の10月30日と11月2日に頭痛やめまいなどを訴えて来院。3日に水頭症や脳がんの疑いがあると診断され入院。5日のMRI検査で脳腫瘍が判明した。当時は歩行できたが、その後、悪化し、現在は植物状態という。

 訴訟で女性側は、最初の来院でMRI検査をして脳腫瘍を特定し、適切に治療すれば、治癒の可能性があったと主張。病院側は女性の病状は11月5日時点で改善の見込みがなく、6日前に脳腫瘍が判明しても結果は同じで、診断に問題はないと反論していた。

 名古屋地裁は、病院の診断に誤りはないとした上で、「早期のMRI検査で的確に診断していれば、その後の対応が変わった可能性があり、もう少し良い症状が期待できた可能性は否定できない」として今年8月に和解勧告していた。

-ここまで-----------------------------------------------------------------------

記事から経過を抜粋します。

1. 患者は頭痛と眩暈で2002年10月30日(水)、2002年11月2日(土)に病院を受診。
2. 2002年11月3日(日)に脳腫瘍、水頭症の疑いで入院。
3. 2002年11月5日(火)に頭部MRI施行し脳腫瘍を診断。
4. 治療の結果、現在は植物状態。

この記事で事実はこれだけです。後は医師としてありそうなことを推測で付け加えながら、経過を考えたいと思います。

まず10/30初診時の頭痛と眩暈の程度ですが、少なくとも歩いて受診した事は間違いありませんし、診察の結果、治療として頭痛薬と眩暈薬ぐらいをとりあえず処方した可能性はあると思います。検査としては血液検査とCTやMRIの検査予約の手配は行ったのではないかと思います。病院にもよりますが、よほど緊急を要しない限り、当日にすぐCTやMRIをできる病院は少なく、後日予約の上検査施行のパターンが多いかと思います。CTでもありえますしMRIならなおさらです。受診したのが市民病院であればそういう可能性がより高い気がします。

11/2 と言えば初診から3日後です。この日に再診したのは症状が改善しなかったか、もしくは増悪したためと考えるのが妥当でしょう。翌日の11/3に入院したところから、かなり辛かった可能性があります。ただしこの時点でも即入院となっていないので、入院検査の可能性が話し合われたとしても、患者は歩いて受診し、自分で医師の話を聞いて判断していた事だけは間違いないと考えます。

もし11/2の時点で入院の話が出たとしても、翌11/3は日曜日、11/4は文化の日の代休ですから、11/5の火曜日に予定入院の話ぐらいが一番ありえそうな進行かと思います。少なくとも11/2再診時点では、即入院を必要とする状態で無かったと考えられます。これもおそらくですが、2002年の話ですから11/2土曜日も公立病院は休みである可能性は高いと考えます。

11/3に入院していますが、これが予定入院である可能性は低いと考えます。休日のそれも連休の初日に入院する必然性が低いからです。この時点での症状は記事にはありませんが、頭痛や眩暈が強くなっていたとしても、意識不明なんて状態ではなかったと考えられます。脳出血などの緊急を要する疾患の可能性が排除できたのであれば、記事にもあった脳腫瘍や水頭症の検索という事になり、それであれば週明け早々に検査すれば十分と言う判断であったと考えられます。

連休明けの11/5にMRIで脳腫瘍が発見され治療が開始されています。どのような脳腫瘍であり、どのような治療が行なわれたかは書いてありませんが、治療結果として植物状態であるとなっています。不幸な結果ですが、診察から治療検査の進め方に格別の誤診、遅滞があったと思えません。初診から6日目で診断がつき治療開始であればごく普通の展開かと思います。この事件の場合は間に連休も挟んでいますから、スムーズな経過と感じられます。

また治療内容自体は特別争った事は無いようです。争点は受診から治療開始までの期間が長すぎたと言う事のようです。長すぎたのであればどの時点なら問題なしとなるのでしょうか。考えられる時点は3つあります。一つは初診時、もう一つは再診時、そしてもう一つは入院時です。

脳腫瘍の診断はCTでもできる可能性はありますが、手術も含めた治療となるとMRIは必要かと思います。脳腫瘍は詳しくないので勇み足かもしれませんが、造影CTも場合によっては必要かと思います。MRIも造影画像が必要になるかもしれません。もし初診時ないし再診時に単純CTを行なって脳腫瘍を発見しても、10/30の水曜日から11/2の土曜日までにすべてその検査がスムーズに行なわれたかは正直疑問です。CTはともかくMRIは検査時間もかかり、一日に検査可能の人数は限られるからです。

推測の上に憶測を重ねる事になりますが、10/30の水曜日に単純CTを行い脳腫瘍を発見しても、MRIは翌週の11/6火曜日以降になる可能性が高いと考えます。この辺の検査スケジュールの動きは公立病院ならごく普通の進み方であると考えます。10/30の水曜初診時でもそれであるなら、11/2土曜日の再診時、11/3日曜日の入院時も同様かと思います。

つまり初診時に外来から強引にCTを割り込んで検査を行い、頭部CTで脳腫瘍を発見しても治療開始は早くて2〜3日縮まるぐらいが精一杯となります。また脳腫瘍に対して手術を行なったとすれば、患者の記事に書かれている状態からして緊急手術で行なう可能性は低く、通常の手術スケジュールに沿ってのものと考えるのが妥当です。当時のこの病院の脳神経外科の手術枠だとか、手術件数は分かりませんが、11/2までに術前検査が終了していても、翌週に手術できるかどうかはなんとも言えないと考えます。

推測や憶測を重ねた部分が多いので断言は出来ませんが、この診察治療経過にどう読んでも過失となるような行為が認められません。これぐらいの経過で診察、検査、治療を行なっている病院は日本中に数え切れないぐらいあります。症状や病態の情報量が少ないので言い切れませんが、出来る範囲で最善を尽くしていると考えます。

それでも民事訴訟になっています。2000万円の賠償金に対し300万円の和解金と言うのは法曹の立場から言えば敗訴と言えないような意見を目にしたことがあります。また判決ではなく和解であるとの意見もあります。判決と和解は意味が違うと言う事です。ただ和解と言うのは案外微妙なものだとも聞いたことがあります。訴訟でシロクロをつけるのは言うまでも無く裁判官です。プロの法曹関係者はともかく、一般人では法廷に身を置いていると言うだけで震え上がります。裁判官の心証一つで判決が左右されるのですから、裁判官から和解を勧告されれば非常に判断を迷わせられると聞いたことがあります。和解勧告を一蹴した事で判決に影響は出ないかと言うことです。

今回の訴訟は判決でなく和解ですが、和解理由は

「早期のMRI検査で的確に診断していれば、その後の対応が変わった可能性があり、もう少し良い症状が期待できた可能性は否定できない」

おそらくですが、和解勧告理由と判決では重みは司法では遥かに違うとは考えています。では報道にもなり公にもなった勧告理由は今後一切無視して診療に従事しても構わないのでしょうか。司法的にはこの勧告理由は他の類似の裁判を律するものではないとの解釈であるような気がしますし、これはわかりませんが、この勧告理由を根拠に他の類似の案件の告訴理由に必ずしもならないとの解釈が法曹の常識かもしれません。

しかし私は安心できません。次の類似案件に適用しないのが原則であったとしても、適用される可能性も先例として十分あると言う事です。それも次回はもっと拡大解釈して適用される可能性もまた十分あると言う事です。被害妄想と笑われるかもしれませんが、医療訴訟の知る限りの流れにおいて、そういう事になる可能性を笑って否定し得ない現状があるからです。一つだけ確かな事は、この訴訟の経過で診断治療を行なっても「手遅れ」として民事訴訟になる可能性はあり、訴訟の結果として医療側が非をわびて和解金を支払う事は今後も十分ありうる事です。

こういう訴訟に巻き込まれないためにはどうしたらよいか。頭痛と眩暈で受診したら問答無用で即ルチーンで頭部CTと言う事でしょうか。それとも診察だけで100%間違い無く頭蓋内病変の有無を見抜ける能力を養う事でしょうか。前者は検査機器のキャパシティと健康保険が許さず、後者が自信を持って出来る医師はほとんどいないでしょう。

新たな地雷原がまた増えたような気がします。


[コメント]

# 元田舎医

半分レセ審査の中の人の立場にいる元田○医です。

ん?ここの病院はただの緊張性頭痛に全例「脳腫瘍疑い」病名を付けて、造影CTと造影MRIまでやっとるな。「傾向的診療」の最たるもんじゃ。とりあえず削っとくとするか。続くようなら縦覧点検もせにゃならんし、監査にも入らにゃいかんな。

※上記文章はフィクションです。実在の人物の思想・信条とは一切関係ありません。』

# 元田舎医
『×緊張性頭痛→○筋緊張性頭痛』

# 市中病院の医師
『ひどいですね。言い方悪いですけど、これは患者のゆすりですよ。判決では、治療が変わった可能性と濁していますが、何がどう変わるのか具体的に示されないと医師は誰も納得しませんよ。』

# falcon171
『Yosyan様
大筋先生の意見に同意します。
先生も推測に推測を重ねてとおっしゃっていますし、私もモトケンさまのブログで推測に推測を重ねた推論しております。

結局この方の場合、
>少なくとも11/2(土)再診時点では、即入院を必要とする状態で無かったと考えられます。
私は、土曜から夜中かけて日曜に入り込んだ時点で緊急入院かと解釈しました。先生の解釈でも、もちろんOKと思いますが、その際は一度土曜帰宅して、再度症状悪化?の為、3日日曜来院し入院。
>11/3に入院していますが、これが予定入院である可能性は低いと考えます。
なのでやはり緊急入院ですね。

>この時点での症状は記事にはありませんが、頭痛や眩暈が強くなっていたとしても、意識不明なんて状態ではなかったと考えられます。
同意します。がここでこの緊急入院が、「医師から入院を勧めるべき症状があったから、医師から勧めて入院させたのか」のか、「あえて緊急入院する病態じゃないから医師は帰そうとしたけれど、患者?家族が言うから様子見入院」だったのかで話が変わる気がします。

>週明け早々に検査すれば十分と言う判断であったと考えられます。
様子見入院であれば、主治医も決まっていない状況で「頭痛、経過観察入院」と申し送りされた患者さんに、結局3日、4日はほとんど何もしない状況だったんじゃないでしょうか。裁判になった最大の原因は、「この3日、4日、入院しながら何もしなかった。(推測です、ほんとはいろいろ処置されていたのかもしれません)」が患者不満を呼び込んだんだろうと推測します。

裁判官は同情したけれど、「診断過誤はない、病状悪化と5日間の遅れに因果関係は見いだせない」で、無理筋ながら「(前略)期待できた可能性は否定できない」といって強力に和解勧告(これで被告敗訴の判決は書けないと思ったんでしょう)したのではないでしょうか。

同情はわからなくはないけれど、無理を通すと道理が引っ込むたとえで、トンデモ和解勧告になってしまったのだと推測します。』

# れい
『頭痛のある方が病院受診したなら、CTを置いているところであれば、ルーチンCT(単純)は必須だと思います。恩師の神経内科の先生が頭痛の統計を出していましたが(非公式か公式かはわからないけど)、初診1000例のうち脳腫瘍は5例見つかっております。この統計を知ってから、頭痛の患者さんはルーチンに単純頭部CTをとるようにしています。確率からいって、スクリーニングでCTは間違っていないと思います。
ただ、単純CTだけでは判断できない症例も確実に存在し、その場合には、MRI(造影つき)をとることになりますが、設備の関係で造影MRIは1週間くらい先になるのは普通ですね。1週間で取れれば、早いと思うほどでもあります。
自験例では、頭痛のみでの脳腫瘍は2例です。頭痛のみの人の頭部CTは300件もとっていないと思うので、確率は結構高いと思っています。
ただ、神経症状の出る脳腫瘍が1週間前からゼロのところから急激に発症することは考えられないので、この和解案はどう考えてもおかしいと思うのですが。診察初日に見つけられたとしても、後遺症は残るでしょうね。
逆に、患者さんが脳腫瘍の症状に気づかなかった、とのことで健康管理面での不備、症状が出てからしか医師にかかれていないのだから、医師にストレスを与えたとのコトで、損害賠償を求めるのがいいんじゃないかと思えます。これくらい、むちゃくちゃな和解案ですね。』

# ni-ni
『うちの病院は単純CTなら手軽に検査をできる恵まれた病院です。さすがに救急外来では偏頭痛と思われる頭痛患者に対しては「鎮痛剤で効かなかったらもう一度受診しましょうね」と言って帰しますが、一般の外来で同様のコメントをすると「授業を休めないからもう来られない」とか「異常がある可能性は100%ないんですね?」とかギャンギャン言われると、面倒くさくなって検査をしてしまいます。

先日「心雑音精査」目的で外来を受診された学童に対し、胸部レントゲンと心電図を施行の上、「大きな異常はありませんので御安心ください。念のため、後日に超音波検査をすることも可能ですよ。」と話したところ、母親は「なぜ全ての検査を1日でやれないの!?」とごねたあげく、予約した検査当日にわざわざ病院の事務に電話をしてきて「他の病院で検査をしたから結構です。」と嫌味を言ったそうです。

親の思うとおりに検査をしないと医者は怒られます。昔は説得する努力もしましたが、最近は面倒くさくなり「医療費のムダだな」と自嘲しつつも緊急性がなければ親の言いなりです。なんだか情けないです。

今回の地裁の和解勧告も「患者の言いなり」という印象を受けます。この内容で和解勧告をされるなら、どんな病気で受診しても精査に時間を要した場合は治療結果が悪ければ患者が裁判に勝つことは必然な気がしてきます。』

# pibe
『やっぱり和解勧告は和解勧告でしかないと思いますよ。裁判官はどっちが悪いとか言ってないですよ。
批判は、裁判官じゃなくて、和解を受け入れた病院へ向けるべきだと思いますが。病院も嫌々か進んでか知らないけれど、総合的に和解が妥当と判断したんだから第三者がとやかく言うにはおかしいとそもそも思うんですけど、とにかく批判の矛先が違ってると思います。
医師がどう思うかお前は全然わかってない!って思われるだろうと思いますが。批判を裁判官に向けるのは筋違いだと感じました。』

# ssd
『和解勧告ってぶっちゃけた話「いちいち裁判で判決出すのもたるいから、お前らでやっとれ」ってことでしょ。
ある意味、変な判決を出すより批判を受けても仕方がないのでは。』

# ni-ni
『確かに、和解勧告=裁判に勝つ。ではありませんね。この裁判の判決に対する憤りの矛先を何処に向けるべきか私にはわかりません。でもこのままでは「どんな病気で受診しても精査に時間を要した場合は治療結果が悪ければ患者が裁判でお金を手に入れることが可能である。」という図式は変わらないと思いますが…。』

# Yosyan
『そうそうエントリーした後から気がついたのですが、記事の内容が正しいとして、入院時の病名が脳腫瘍ないし水頭症であったのが引っかかります。脳腫瘍疑いはともかく、成人で水頭症がCTもせずに疑えるとは思えないのです。もっと言えばコメントにもありましたが、20歳代の女性に頭痛と眩暈で脳腫瘍疑いは入院病名として飛躍しすぎている考えます。

そうなると11/5にMRIとの事から、10/30の初診時に単純CTは行い、水頭症は確認していたんじゃないでしょうか。ただCTでは腫瘍が確認できなかったため造影MRIを予約し、それが6日目の11/5のMRIを指している可能性が考えられます。

最近MRIの造影なんて縁が薄くなってしまいウロ覚えなんですが、MRI用の造影液は発注しての取り寄せだったような気がします(間違っていたらゴメンナサイ)。そうなれば水曜日に初診で、土日月の3連休が週末にあれば、木曜、金曜の2日間に造影MRIは急いでも相当難しいような気がします。』

# pibe
『 ssdさん

じゃ「裁判官が和解勧告するのを禁じる」という法律を作らない国会を批判しなきゃダメってことになります。つまりおっしゃることは暴論ですよ。』

# sui
『MRIの造影剤は普通の病院なら通常置いてあるものと思いますよ(よっぽどMRI検査の件数が少ない病院などは別ですが)。』

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