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貧窮問答歌 是非声に出して読んで下さい。 【山上憶良】
http://www.asyura2.com/0601/hasan46/msg/429.html
投稿者 hou 日時 2006 年 5 月 24 日 22:20:42: HWYlsG4gs5FRk
 

(回答先: 中高年フリーター:2021年には150万人規模に(毎日新聞 2006年5月24日) 投稿者 まさちゃん 日時 2006 年 5 月 24 日 21:31:15)

http://www.tetsureki.com/home/library/shiryoukan/hinkyuu.html

農民の悲哀〜貧窮問答歌

奈良・平安朝は農民から搾取すること以外、なにも政治らしい政治を行わなかった政権でした。
ここでは山上憶良の「貧窮問答歌」を引き合いに、当時の農民の状況を見ていきましょう。
「貧窮問答歌」は五・七調になっており、是非声に出して読んで下さい。悲しさがひしひしと伝わってきます。
問いの部分
原文
貧窮問答の歌一首 短歌を併せたり
 風雑(まじ)へ 雨降る夜の 雨雑へ 雪降る夜は 術(すべ)もなく 寒くしあれば 堅塩を 取りつづしろひ 糟湯酒 うち啜ろいて 咳(しわぶ)かひ 鼻びしびしに しかとあらぬ 髭かき撫でて 我を除(お)きて 人はあらじと 誇ろへど 寒くしあれば 麻襖(あさぶすま) 引き被(かがふ)り 布肩衣(かたぎぬ) 有りのことごと 服襲(きそ)へども 寒き夜すらを 我よりも 貧しき人の 父母は 飢え寒(こご)ゆらむ 妻子(めこ)どもは 吟(によ)び泣くらむ 此の時は 如何にしつつか 汝(な)が世は渡る

堅塩:固まりになっている粗製の塩、上質の塩に対する語  取りつづしろひ:少しずつ食べる  麻襖:麻でつくった粗末な夜具  服襲へ:着重ねる  吟び泣く:力のない声で呻き泣くこと


風まじりに雨が降り、その雨にまじって雪も降る、そんな夜はどうしようもなく寒いから、堅塩を少しずつなめては糟湯酒をすすり、咳をしては鼻水をすすり上げる。たいして生えているわけでもない髭を撫でて、自分より優れた人はおるまいと自惚れているが、寒いから麻でつくった夜具をひっかぶり、麻布の半袖をありったけ重ね着をしても、それでも寒い。こんな寒い夜には、私よりももっと貧しい人の親は飢えてこごえ、その妻子は力のない声で泣くことになろうが、こういう時には、どうやってお前は生計を立てていくのか。
解説
「貧窮問答歌」は問いとその答えで構成されており、ここまでは問いの部分にあたります。非常に寒くつらそうなのが伝わってきますが、これはまだましな人のようです。次の答えの部分で、もっと貧しい人の様子が描かれています。

答えの部分
原文
天地(あめつち)は 広しといへど 吾が為は 狭(さ)くやなりぬる 日月(ひつき)は 明(あか)しといへど 吾が為は 照りや給はむ 人皆か 吾のみや然る わくらばに 人とはあるを 人並に 吾も作るを 綿も無き 布肩衣の 海松(みる)の如(ごと) わわけさがれる かかふのみ 肩にうち懸け 伏廬(ふせいお)の 曲廬(まげいお)の内に 直土(ひたつち)に 藁(わら)解き敷きて 父母は 枕の方に 妻子どもは 足の方に 囲み居て 憂え吟(さまよ)ひ 竃(かまど)には 火気(ほけ)ふき立てず 甑(こしき)には 蜘蛛の巣懸(か)きて 飯炊(かし)く 事も忘れて ぬえ鳥の のどよひ居るに いとのきて 短き物を 端きると 云えるが如く 楚(しもと)取る 里長(さとおさ)が声は 寝屋戸(ねやど)まで 来立ち呼ばひぬ 斯(か)くばかり 術無きものか 世間(よのなか)の道 世間を憂しとやさしと思へども 飛び立ちかねつ鳥にしあらねば
山上憶良頓首謹みて上(たてまつ)る

わくらばに:たまたま  海松:海藻の一種  かかふ:ぼろのこと  伏廬:屋根が低くつぶれたような家  曲廬:曲がって傾いた家  甑:米を蒸す道具  ぬえ鳥:「のどよふ」にかかる枕詞  いとのきて:極端に  楚:細い木の枝でつくった鞭  憂しとやさしと:耐え難い、身もやせるように感じる


天地は広いというが、私にとっては狭くなってしまったのだろうか。太陽や月は明るく照り輝いて恩恵を与えて下さるとはいうが、私のためには照ってはくださらないのだろうか。他の人も皆そうなのだろうか、それとも私だけなのだろうか。たまたま人間として生まれ、人並みに働いているのに、綿も入っていない麻の袖なしの、しかも海松のように破れて垂れ下がり、ぼろぼろになったものばかりを肩にかけて、低くつぶれかけた家、曲がって傾いた家の中には、地べたにじかに藁を解き敷いて、父母は枕の方に、妻子は足の方に、自分を囲むようにして、悲しんだりうめいたりしており、かまどには火の気もなく、甑には蜘蛛の巣がはって、飯を炊くことも忘れたふうで、かぼそい力のない声でせがんでいるのに、「短いものの端を切る」ということわざと同じように、鞭を持った里長の呼ぶ声が寝室にまで聞こえてくる。世間を生きてゆくということはこれほどどうしようもないものなのだろうか。
この世の中をつらく身も痩せるように耐え難く思うけれども、飛んで行ってしまうこともできない。鳥ではないのだから・・・。
解説
読んでいて胸が痛くなるような詩です。必ずしも実体をそのまま欠いたものとは言えませんが、作品を裏付けるような現実が存在したことは否めない事実です。ちなみに出典は「万葉集」です。

万葉集には、読んでいてその情景がありありと想像できる優れた詩が多く載っています。特にぐっとくるのが防人の歌です。みなさんも一度読んでみて下さい。どこぞの貴族の恋ゲームに使われた「新・旧古今和歌集」などよりは、よっぽど詩として素晴らしいものばかりだと、私は思います。


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