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(回答先: 那覇カプセルホテル殺人事件 − 野口英昭殺害の目的と手口 【世に倦む日日】 投稿者 愚民党 日時 2006 年 1 月 22 日 20:05:19)
エンロンが示したアメリカ型経済の欠陥
2002年2月11日 田中 宇
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さる1月25日未明、アメリカ・ヒューストン市の高級住宅街の路上で、巡回中の警察官が、駐車していた新車のメルセデス・ベンツの車内で一人の男性が死んでいるのを発見した。男性の頭には銃弾が打ち込まれており、手には38口径の拳銃が握られていた。傍らには遺書らしき書きつけも置いてあり、警察は自殺と断定した。
男性は43歳のクリフォード・バクスターという人で、昨年5月までエンロンの副会長をしていた。昨年12月初めにエンロンが倒産し、捜査当局や議会が不正経理などについての調べを始めていた。バクスターは、自分に対する不正の嫌疑に耐えられず、自殺したのではないか、と報じられた。バクスターは、辞任前にエンロンのストックオプション(自社株を買う権利)を行使して3500万ドルを手にしていた。
ところがその後、エンロン関係者の中から、バクスターは自殺するはずがないのではないか、という声が聞かれ出した。昨年5月にバクスターがエンロンを辞めたのは、自社の経理処理に不正があるのに会長らがそれを改めようとしないことを指摘した上での抗議の辞任だった。
バクスターが死んだのは、議会に証人喚問される直前で、精神的な圧迫があったのか、ふだんはタバコをあまり吸わないのに、ヘビースモーカーになっていたという。こうした状況は「自殺」を思わせるものだが、その一方で彼は死の何日か前に「ボディガードを雇わないといけないかもしれない」と漏らしていたという。(関連記事)
別の報道では、バクスターは知人から「ボディガードを雇った方がいいのではないか」と忠告されたが、不要だと答えていたという。とはいえこの報道でも、バクスターの家族は皆、彼の死は自殺ではないと考えている、と指摘している。(関連記事)
バクスターをよく知っているエンロンの社員は、彼は嘘が嫌いなまじめな人で、だからこそ自社の不正経理の拡大が耐えられなかったのだ、と考えている。そんな彼なので、議会や捜査当局が話を聞かせてほしいといえば、自殺するのではなく、逆にエンロンの不正の仕組みを洗いざらい話すのではないか、というのだった。(関連記事)
バクスターは、エンロンの内情を「知りすぎていた」から、それをばらされることを恐れた何者かが彼を殺したのではないか、と疑うエンロン社員もいた。(関連記事)
遺体が発見されたときの状況にも不審な点があった。一つは拳銃が手に握られていたことで、頭を撃って自殺した場合、銃弾発射の反動で拳銃は手から離れ、握られているのではなく近くに転がっている状態で発見されるはずだ。また、その拳銃は地元テキサス州で登録されておらず、誰の拳銃なのか分からないままである。(関連記事)
また、遺体を乗せた車が発見されたのは、大通りの真ん中で、車はUターン用の中央分離帯の切れ目に停車していた。自殺する場所として、そんな場所を選ぶ人がいるだろうか。また、警察は「今後の捜査のため」を理由に、現場で見つかった遺書らしき書きつけを公開していない。(関連記事)
▼CEO交代はエンロン創設者の責任回避策?
バクスターが昨年5月に抗議の辞任をしたということは、そのときすでにエンロンの内情はかなり行き詰まっていたということが考えられる。
エンロンの創設者でCEOだったケニス・レイは、一昨年から自分が保有する自社株を売り始めていたことが分かっており、倒産後、これは自社の崩壊を見越した「売り逃げ」だったのではないかと疑われている。レイは自社株の売却で1億ドル以上を手にしている。
その一方で一般の従業員は、給料の一部としてもらった自社株を売ることを社内規定で禁じられ、倒産とともに自社株が急落するのを見ているしかなかった。
昨年2月には、レイはCEO(経営責任者)の座を、自分の部下だったジェフリー・スキリングに譲り、自分は会長に退いた。ところがスキリングは昨年8月、譲り受けたCEOの座を突然手放し、退職してしまった。その翌日、経営責任者に戻らざるを得なくなったレイに宛ててエンロン幹部がメールを出し、不正な会計処理を止めるよう忠告している。
レイは、不正な会計処理を始める前に、自分がその責任を取らずにすむようにCEOをキスリングにやらせることにしたが、やがてキスリングがそれに気づき、策略にはまりたくないので辞任した、という筋書きを感じ取れる。
エンロンのドル箱は、石油や天然ガス、電力の先物販売だった。石油やガスは国際相場の上下によって価格が変動するが、電力会社や工場などは、相場の上下に合わせて自分が売っている電気や製品の値段を上下させることができないので、石油などの仕入れ値が一定になることを望んでいる。
エンロンはその需要を使い、何カ月か先に決まった値段で石油や電力を売ることを契約してお金をもらう先物ビジネスで利益を出し、さらにその先物契約の権利を売買する市場を作り、自ら売り買いして利益を増やした。
▼ウソだった高成長
こうなると、商品が「エネルギー」だというだけで、やっているビジネスの仕組みは株式や債券の取引と同じだった。株や債券の市場には、1980年代に不正が多かった反動で厳しい監視があり、不正防止策がとられているが、エンロンが90年代後半に急拡大させたエネルギー先物市場は、政治献金のばらまきが功を奏し、不正防止強化策の立法が進まなかった。
ところが、一昨年後半からの景気後退でアメリカのエネルギー需要が縮小し始め、エンロンのビジネス戦略は破綻に向かった。エンロンは、先物の契約が取れた段階で利益を計上してしまっていたが、実際には相場が予想と逆の方向に動いたときは損失が出てしまっていた。
エンロンは3000社もの子会社(決算に反映させなくて良い関連会社)を作って損失をそこにつけ替え、その損失を子会社間で移動させて紛らすことで、利益の部分だけを外部に見せていた。だが、景気後退と原油価格の低下によって損失が膨らみ、隠せない状態となった。(関連記事)
利益が出ている間は、株価が上がり、従業員は給料の中の現金支給を減らして自社株を買う権利(ストックオプション)をもらうことを希望し、会社にとっては経費削減ができた。ところが損失が出てしまうと株価が下がり、従業員にも現金支給が必要となり、経費が増えてしまう。銀行も金を貸すときに高い金利を要求するようになり、やがて貸してくれなくなってしまう。
だからエンロンの経営者には粉飾決算が必要だったが、昨年初め以降、それがますますひどくなり、会社の首脳が危機を感じて次々と辞める事態となったのだった。9月のテロ事件後、アメリカの景気はいっそう悪くなり、10月には粉飾によって損失を隠すことができなくなり、4年前の1997年から実は利益が出ていなかったのだとする決算の修正を発表するに至った。
エンロンはまさにこの4年間、利益を毎年急増させる決算を発表し、株価を急上昇させ、経済雑誌や証券アナリストから絶賛されていた。エンロンは自ら、そのすべてがウソだった、と発表したのだった。これ以後、エンロンの問題は犯罪の色を帯びることになった。
エンロンがどのような経緯で破綻したかについては、ホワイトハウスが情報公開をできる限り防ごうとしているため、明らかにされていない部分が大きい。米政府の首脳たちが911テロ事件の発生を事前に知っていた可能性があるということと合わせて考えると、エンロンの破綻は911後の石油相場の動きと関係している可能性もある。(関連記事)
▼グローバルスタンダードの崩壊
エンロンの破綻は、単に一つの大企業がつぶれたということを越えた、世界的に重大な意味を持っている。「グローバルスタンダード」と呼ばれている経済システムの根幹をなす、株式投資、ストックオプション経営、会計事務所などに対する信頼が、この事件を機に失われてしまったからである。
近年のアメリカでは、株式投資は老後の年金など、一般の人々の人生に不可欠な部分のお金の確保に使われてきた部分が大きい。エンロン株は、アメリカで最も優良な銘柄の一つとされていたため、それを組み入れた投資信託や年金基金が多かった。株式投資は、アメリカ経済の成長を支える愛国的な行為である、と思われていた。
ところが、超優良企業のはずのエンロンは、実は八百長で株価をつり上げていた。しかも政府の首脳にはエンロンの関係者が多く、議会がエンロン関係の情報公開を求めても、大統領府はそれを拒否している。
政府や財界を信じて株式に財産を託していた人々は、生活資金を失っただけでなく、株を買うことは愛国的な行為などではなく、政府と企業にカモにされることなのだと考えるようになっている。(関連記事)
▼露呈したストックオプション経営の限界
エンロン破綻が持つ世界的なもう一つの意味は、アメリカから世界に広がった、ストックオプションなど株式を使って会社のコストを下げる経営方法が、株価が下落する景気後退の時期には会社に大打撃を与えてしまうと分かったことである。
アメリカの景気が悪くなったため、ストックオプションを活用して急成長した(ように見えた)会社が、エンロン以外にも次々と破綻している。たとえば海底ケーブル事業のグローバル・クロッシングという会社がそうである。この会社の首脳は、自社の破綻を予見して自分の持ち株を売り、巨額の利益を手にしたインサイダー取引の疑いを持たれている。(関連記事)
ついこの間まで最新の経営手法だと思われていたストックオプションに頼る経営が、実は株価が右肩上がりの間しか通用しないバブル経済そのものだという指摘は、以前から出ていた。
たとえば、イギリスの経済専門家によると、ネットワーク機器の優良メーカーとされるアメリカのシスコシステムズは、1998年に13億5000万ドルの利益を計上したが、もしシスコが給料や報酬のすべてをストックオプションではなくお金で払っていたとしたら、この年の決算は49億ドルの赤字になっていた、と試算されている。(関連記事)
こうした警告が発せられていたものの、景気が良い間は、ストックオプションが一種の粉飾決算の容認であるという見方をする人は少なかった。こうした状況は今後変わる可能性が大きい。
▼会計事務所の腐敗
もう一つ「会計事務所」に対する信頼が失われたことも重大だ。エンロンが数年間にわたって行っていた損失のつけ替えによる利益の水増しは、合法と違法の間のグレーゾーンにある会計手法で「積極型会計」(aggressive accounting)などと呼ばれているが、これは会計事務所が入れ知恵し、協力しない限り、実現するものではない。
エンロンの会計を担当していたのは、アーサー・アンダーセンというアメリカ最大級の会計事務所の一つである。アンダーセンの担当者は、エンロンの不正が発覚する直前の10月、エンロン社内の関係資料をシュレッダーにかけて粉砕するよう指示していた。
このことは、当局側がこの指示のメモを押収したため発覚したが、アンダーセン本社は、担当者が個人的にやったことだとして、この担当者を解雇して話を終わらせようとしている。だが、アンダーセンは前述のグローバル・クロッシングなど他の倒産会社でも「積極型会計」の手法をとっており「なるべく多くの仕事を依頼してもらうため、企業側を喜ばせようと違法すれすれの会計を行ったに違いない」と米議会などから攻撃されている。
会計事務所は、企業が不正をしないように監視するのが役割なのに、アンダーセンのような優良とされていた世界規模の会計事務所が不正に荷担していたということは、エンロン以外にも無数の会社が不正経理を行い、それを会計事務所が承認していた可能性がある。エンロン事件は、アメリカ経済を正しい状態に維持するための、いくつもの機能の信頼を失墜させてしまったことになる。
▼とられない再発防止策
このような状況に対してブッシュ政権がとり得る選択肢は、(1)不正を取り締まって再発防止策を立法する、(2)何とかして景気を上向かせてこれ以上の不正暴露を防ぐ、(3)米国民の関心を他にそらす、といったところだろうが、(2)と(3)は行われている反面、(1)は表向きにしか行われていない。
911テロ事件の発生を誘発したことは、国民の関心を他にそらし、政府批判するマスコミを売国奴扱いできるという利点があった。エンロン事件の報道が過熱してくると、国防長官が「911より大きなテロが今後あるかもしれない」などと発表したりしている。
また最近、米当局は「景気が上向いてきた」とさかんに発表しているが、そこにどの程度政治的な統計数字の歪曲が含まれているか、猜疑心を感じるところだ。そして「再発防止策」はとられるかわりに、大統領府は議会の真相究明の動きを妨害している。
今後アメリカの景気が回復した場合、これ以上の不正の暴露が防がれ、政府批判も下火になるかもしれない。しかし、それはアメリカの政財癒着の構造が温存されることを意味している。今回はごまかせても、いずれ破綻するだろう。
アメリカ政府はこれまで、日本や他のアジア諸国などの経済体制を「コネ重視型資本主義」(crony capitalism)と呼び、「腐敗体質や情報公開不足を改めない限り、アジアの成長はない」などと主張してきた。
アジア通貨危機の後、腐敗体質を改めるためだとしてIMFがとった政策が、実はアジア諸国の経済を破壊するばかりだったということが指摘された後も、アジア経済の問題点は政財の癒着体質と情報公開不足にあるというアメリカ政府の主張自体は正しいとされていた。ところが、エンロン事件が示したのは、アメリカ経済には、下手をするとアジア以上に腐敗と癒着体質、情報公開不足が多い、ということだった。
アメリカ政府が、エンロンのような政界と癒着した自国企業の情報公開不足を大目にみていた反面、アジア諸国に対しては厳しい批判を続けていたという事実は、情報公開や腐敗防止策をさせることでアジアの企業を弱体化させるのが真の目的だった、という見方が正しかったことを表している。
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