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大売れ『福袋』なぜ
景気の本格回復の前兆か、はたまたその逆か? 新年を祝って売り出される「福袋」が大人気だ。デパートでは未明から主婦らが並び二万人が駆けつけたり、二日だけで二十数億円を売り上げる“起爆剤”になった店もあった。今やドーナツ店やパソコン、インターネットの世界まで幅広く繰り広げられる福袋の最新事情とは。
■2万円の商品に18万円分の中身
「今年のお気に入りは四万円相当の手編み風ニットのコート。これだけで得した気分」
横浜市内のブティックで初売りの二万円の福袋を購入した同市の女子大学生(21)はこう語る。今年の中身は十八万円分の内容だった。福袋歴は二年目だ。
友人の一人は中学時代から正月は福袋商戦に参戦していたというが、「殺気だった売り場の様子とかを見ていて私はそこまでやるかと思っていた」。
しかし、福袋を購入するようになって楽しさに気付いた。「ふだん絶対に買わないものが入っていて、でもあったら使うという商品があるところがいい」
都内の保育園園長(50)の場合、衝動買いではなく、狙いを定めて福袋を買う。「ユニクロや茶店の福袋を買っている。冒険したって使えない商品は入っていないだろうと思って」
この園長は以前に女性ブランド服の福袋を購入し、「ヒョウ柄のパンツとかどうしようもないものも入っていた」経験から堅実な路線に転向したという。
「宝くじを買うより地道に得した気分を味わうことができる。いらない商品も正月に親せきの子どもにあげればコミュニケーションの一環になる」
大学生の娘二人の福袋購入に付き合った神奈川県内の会社員(51)は「娘たちの福袋熱があんなに高いとは」と驚きを隠さない。娘たちはふだん質素な生活をしており一万円以上の買い物をすることはほとんどないという。「われわれはドーナツ店の福袋。けっこうこれがお得なんです」
■客2万人が殺到 混雑避け分散も
ブームを裏付けるように、デパートなど小売業界から年初から景気のいい声が上がっている。
西武百貨店池袋本店(豊島区)では、二日の初売りに約二万人もの客が押し寄せた。一万円の福袋が完売したほか、純金製の犬の置物を含む五百万円の「ここ掘れワンワン“犬に小判”福袋」も売れた。
伊勢丹本店(新宿区)は毎年の混雑を避けるため、二日の初売りの福袋と四日以降に販売する福袋を分ける分散開催を行ったが、それでも二日には昨年より千人多い一万六千人の客が。
傾向としては、高額商品に対する関心が強くなったといい「今年は三千百五十万円で自分好みの一戸建て住宅を建てられるプランなど、高額商品の引き合いが多かった」。
三越日本橋本店(中央区)では、五千個以上の宝石がちりばめられた照明スタンド(一億五百万円)など超高額商品も売れた。自分を主人公とする映画の制作権(同)にも複数の問い合わせがあるという。
同社の中国の上海支店でも福袋を売っており、八百八十元(約一万円)相当のカシミヤの洋服などを入れている。ヨーロッパでは、ドイツのデュッセルドルフやロンドン支店で日本人観光客や現地駐在員向けの福袋を販売しているという。
松坂屋名古屋本店(名古屋市中区)では、目玉の「宇宙旅行」(約二千二百万円)に三組が応募した。
■お値打ち価値観 名古屋から波及
毎年、奇抜な福袋を提供することで知られている名古屋市の貴金属店、美宝堂の今年の福袋は、なんと同社の野々垣敬(けい)専務。といっても商品そのものは六千万円相当の宝飾品で、野々垣専務が手品を披露したり、お付きのコックが料理を出すなどの付加サービスを含めて二千六万円の商品だ。
東京で働いたこともある野々垣専務は昨今の福袋ブームをこう評する。
「以前は東京ではそれほど福袋熱は高くなかった。福袋は高くて高品質なものを安く買うという“お値打ち”の価値観からして、名古屋が生んだもの。名古屋から東京に福袋熱が波及したことに驚いてます」
福袋の起源は諸説ある。一九〇七(明治四十)年に東京の今川橋松屋(現在の銀座松屋の前身)で売り出されたのが発祥という説や、一一(同四十四)年に松坂屋が「多可良函(たからばこ)」として売ったのが最初という説だ。
■江戸時代の大丸 起源とする説も
だが、インターネットのホームページで「福袋研究会」を掲載しているフリーライターの恩田ひさとし氏は「起源は、老舗の百貨店に限って言えば、江戸時代の大丸」と説明する。
「大丸は呉服屋で、縁日などで布の端切れをハコに詰めて売った。いわば在庫処分。中に金糸の布が入っていて、量的なお得感と金糸が入っているという心的要素から庶民が買い求めた」と解説する。
恩田氏は福袋に魅せられる理由について「買う側からすると理由は二つ。一つは、何が入っているか分からないものを買うワクワク感。もうひとつは、セット販売のお得さ。福袋が一つ一万円として、中身が五万円、六万円と何倍にもなるうれしさ。『限定』とか言われると欲しくなる。それと行列をつくって並ぶのが好き、ということ。売る側からすると、人を集めるための広告」と分析する。
上智大学の杉本徹雄教授(消費者心理学)は「明治の正月広告を見ると、宝船に七福神が乗っている。それは開運とか招福の意味がある。現代の福袋には、そうした新春を迎える縁起物の意味があるのでは」と文化的な側面から推測する。
さらに拡大傾向の理由として「売る側からすれば、クリスマスやバレンタインなどのイベントに比べ幅広い購買がある」とみる。
バブル崩壊後の九一年ごろから、高額商品の入った福袋がマスコミでさかんに取り上げられるようになった。九六年ごろには、松屋や三越などがひしめく百貨店の激戦地で、プランタン銀座が開店以来、福袋を主力商品の一つとして商品開発を行っていることがマスコミで取り上げられ、ブームに火がついたとされる。
■在庫処分を脱却 商品選択重視に
その後「住宅福袋」「宝石貴金属系福袋」など、百貨店や専門店が競うように新しい福袋を開発。前出の恩田氏は「客の目は内容的に満足できるかどうかへ方向転換し、各デパートは、福袋に対し在庫処分イメージからの脱却、商品選択の重視という路線を歩み始めている」とする。
マーケティングコンサルタントの西川りゅうじん氏は「夢を求めて買うのだろうが、並んで買うことが年中行事になって、参加することに意味がある、というようになっている人もいると思う。福袋貧乏というか、得したつもりで、損している人や、福袋を買うためにキャッシングしているような人もいるのではないか」と厳しい見方を示す。
現在の日本人の福袋好きについて、「日本人は買うものがない。何を買ったら良いか分からない。でも、若い人を含めお金はある。そのはけ口みたいなもの。それと、日本人は賭博を警戒してきたが、IT長者や株長者の誕生などで、賭博精神が解放されたから」と分析するのは常磐大学大学院の湯浅赳男客員教授(経済人類学)だ。
■「浮かれた時の日本人危ない」
前出の杉本教授は「不況で生活に閉塞(へいそく)感があるが、『晴れ』の日に、思い切って物を買う、という、素直な喜び、明るさを感じる」とする。
その一方で、湯浅教授は福袋が流行る世相をこう注視する。
「初めは、売り上げが下がりっぱなしの百貨店側にとって景気づけだったものが、今は祭りになっている。はしゃぎ、社会全体が浮かれている面がある。このはしゃぎは、日露戦争や終戦、安保闘争、そして小泉自民の大勝にもあった。浮かれた時の日本人は危うい」
http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20060106/mng_____tokuho__000.shtml