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(回答先: 両統迭立の原則 投稿者 サンシャイン・リング 日時 2005 年 9 月 13 日 15:27:15)
朝日新聞などで昨年末には紹介されておりますので、貴会も既にご存じのことと は思 いますが、昨年米国で Hirohito and the Making of Modern Japanという昭和天皇に関する一冊が出版されました。作者は現在ハーバード大学の教授職にあるハーバート・ビックス氏で、氏は同 書 において、これまで例えばライシャワーなどによって主張され、米国の知日派知 識人による昭和天皇像に対する挑戦を試みております。
私も既に読みましたが、「これはひどい。」の一言に尽きるものでした(もっとも バーガミニの「天皇の陰謀」ほどではありませんが)。木戸など天皇側近の残した 記録から天皇の言動、行動を自分の論旨に沿うように引用し、それをつなぎあわせ ると いう、ありきたりの手法ではありながら、実に都合よく「歴史」を作り上げている と いった類の歴史研究書というのが私の読後感でした。二年ほど前に出た「天皇の 政治史」に多くの部分で似ていなくもないのです。
ところが最近、それがNational Book Critics Circleから賞を獲得したというの です。チャルマーズ・ジョンソンやジョン・ダワ−といった日本でもその名を知られた米国日本学の泰斗たちの書評も非常に好意的で、このまま適切な反論を試みなく ては、もう一つの「南京大虐殺」、もう一つの「アイリス・チャン」になってしまうのではないかと危惧するのは私だけでしょうか。
また、今年になって、Association for Asian Studiesの会員に田中正明氏の南京事件に関するWhat really happened in Nanking; the refutation of a common >myth が期せずして無料送付され、日本はじめ東アジア研究者のなかで話題になってお ります。ただし、総じて好ましい反応は得られておりません(今のところ)。しかもそれが無料配布であったがために、本の内容よりも、(胡散臭いというニュアンスで)一体誰が、どこの団体が背後にいるのかという点に議論の中心が行ってしまっていると いうのが今のところの状況です。
もしかしたら、キャロル・グラック氏あたりの この問題に関心を持っている研究者が、そのうち何らかの反応を示すのではないかとも期待しているのですが、もしそうだったとしてもやはり批判的なものになるにちが いありますまい。 特にグラック氏は。
米国における南京事件研究のレベルは、昨年日本でも翻訳出版されたジョシュア ・ フォーゲル氏の編集による南京事件に関する一冊に象徴されているように思います。より端的に言えば、極めて低劣なレベルということです。しかも、「南京大虐殺はあった」という前提ありきですべてが始まる、というおよそまともな学術研究を 期待できるような状況ではありません。
南京事件肯定派の中にも犠牲者数をめぐって 多様な見解があるのだとか、あるいは俗に「まぼろし派」と呼ばれる研究者たちの見解に対して腰を落ち着けて検討を試みようなどという雰囲気は皆無に等しく、そうし た類は総じて「修正主義」の範疇に押し込められて、あたかも「戦争責任を認めない日本」の一例として槍玉にあげられるのがおちなのです。
「南京大虐殺」、「従軍慰安婦」の次が、「昭和天皇」というわけなのでしょ う。中国、韓国に限らず、アメリカでも日本の「戦争責任」というものに対する追求は、単にマスコミやジャーナリズムだけではなく、学術研究レベルにおいても今後より 一層激しくなるのではないか、と思うのは私の考え過ぎでしょうか。
それが正当な主 張であれば、日本人としてそれを受け入れるべきでしょうが、誹謗中傷、謬説の類で あれば、言論による断固たる態度を早急かつ適宜に示さなくてはなりますまい。ビックス氏の作品に対する学術レベルでの本格的な評価がなされるのはこれからなので しょうが、それにしても、上記受賞の報に接して、現在只今取るべき対応、批判を試みなければ、との思いにかられてなりません。ビックス氏のごとき昭和天皇論の出現 は、 これまでの南京事件や慰安婦問題以上の重大性をもつと私は考えますが。