失語症メルクマニュアルより一部抜粋
言葉の理解,または表現(または,言葉に相当する非言語的なもの)が,大脳皮質の言語中枢への損傷または変質の結果損われている言語機能の欠落あるいは喪失。
言語機能は,後上側頭葉,これに隣接する下方頭頂葉,下外側前頭葉,およびそれらの部位の間の皮質下の接続部に主として存在する。通常左半球にある。左利きの人でも同様である。この三角形状の領域のどの部位への損傷でも(例,梗塞,腫瘍,外傷,変性など),言語機能が部分的に損われる。構音障害とは,言葉を明瞭に発音できないことである。これは皮質の言語野の欠陥によるのではなく,運動経路の欠陥に起因する。
感受性(感覚)失語症は,言葉理解,およびそれらの聴覚的,視覚的触覚的象徴の認識に関する機能障害である。ウェルニッケ失語症はその1型で,患者はしばしば普通の言葉を流暢に話すが,意味のない音素を含み,それらの意味とか関係などはわかっていない。その結果は言葉のごたまぜであり,ことばのサラダである。失読症は言葉を読む能力の喪失である。
顔面と舌領域の運動野のすぐ前にある下前頭回(ブローカ野)の損傷は,表出失語(運動失語)を生じる。本症では,患者の理解力や概念化能力は比較的保たれるが,言語を構成する能力が損われる。通常,この障害は発話(失語),および筆記(失書,書字障害)に影響を与え,患者に著しい欲求不満を起こす。失名辞は,対象の名がいえないこと(文法や構文はわかっている)で,その起源は受容的なことも表出的なこともある。韻律,つまり会話に意味を加える律動や語勢の質は,通常両半球が司っているが,非優位性半球だけが司っているときもある。
言語能力を損うのに十分な大きさをもつ脳病変が,純粋な機能障害をもたらすことはまれである;したがって,受容失語のみ,あるいは表出的失語のみを生じることはまれである。前頭葉から側頭葉にわたる大きな病変は全失語を生じ,理解や表現の著しい欠失を来す。
失語症を診断するための種々の公式なテスト(例,ボストン失語症診断)が使われる。しかし,通常はベッドサイドの交流で十分である。非流暢性の言葉が出ず口ごもる発語(ブロカ失語症)は,前頭葉障害を暗示する。ウェルニッケ失語症は,後外側の左側頭部領域および下頭頂言語領域の異常を示唆する。名称失語は,後側頭頭頂の異常または変性を示す。聞こえた言葉をただ自然発生的に繰り返すことは出来るウェルニッケに似た失語症は,前頭葉と側頭葉の言語領域を結合する経路の断絶に起因する。
予後と治療
失語症からの回復は,いくつかの要因にかかっている。その中には,病変の大きさおよび部位,言語障害の程度,それに程度はそれ程ではないが,年齢,教育,全身的な健康などが含まれる。8歳以下の小児は,しばしばどちらか一方の半球に対する重篤な障害の後も言語機能を取り戻す。その年齢以降は,大部分の回復は最初の3カ月以内に起こるが,1年までの改善程度は様々である。概して,理解力は言語機能よりも改善する。全体のほぼ15%の人で,手や話す能力にとって右半球が優位である。このような人のうち,どちらか一方の半球に対する特異な損傷は失語を起こすことがあるが,ほとんど全て急速に回復する。
治療には議論が多い。資格のある言語療法士によって系統的に治療を受けた患者は,類似の障害があるが治療を受けていない患者よりもずっとよくなるという証拠がある。一般的に,発症直後に治療を受けた患者が最もよくなる。
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