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(回答先: まんず、日本経済新聞小説大賞応募は、大変だんべ (2) 投稿者 愚民党 日時 2005 年 11 月 19 日 00:46:45)
ディアラ物語
3
昭和五十七(一九八二)年の八月だった。ノブの息子、泥荒
は朝からひとりで、下地塗りのシーラーを塗っていた。仕事はモルタル壁の塗装だった。
現場は横浜戸
塚の高台にある住宅地だった。住所は横浜市戸塚区戸塚2675番地の渡辺寛之邸だった。
施工仕様は、吹き付けではなくローラー工法よる合成樹脂エマルジョン系のアクリル樹脂弾
性タイル塗装だった。
親方は次の現場の下見に行って、
十時になった。施主の若い奥さんが、お茶にしたらと声をかけてくれた。
家の主人は戸塚にある大企業の製造工場に勤めている人とのことだった。泥荒は足場から
下に降りていった。玄関口に奥さんが立っていた。
奥さんが、今日はひとりなの? と声をかけてきたので、親方は午後にはきます、泥荒
は答えた。増録村出身の泥荒は二十八歳になっていた。横浜・戸塚の前田塗装店でペンキ
工として働いていた。
若いのにがんばるわね、あなた、いい仕事をすれば、あたしお友達に紹介してあげるわ、
お茶、玄関のところに用意して置いたから、どうぞ、そう若い奥さんは紅い唇で言った。
甘い声だった。三十代前半だと泥荒は思った。ありがとうございます、そう泥荒は奥さん
の後から玄関に向かった。夏の午前中の陽光が奥さんのうしろ姿に反射する。泥荒にはま
ぶしかった。泥荒は玄関に座った。外は暑いからここの方がいいでしょう、そう言いなが
ら色気が爆発しそうな奥さんは、泥荒に氷が入った麦茶を泥荒に差し出した。そのグラス
を受け取るとき、泥荒は奥さんの乳房に目を奪われてしまった。泥荒の情感に、奥さんの
乳房が侵入してきた。奥さんの乳首は、つんと今にもTシャッツを破るかのように突き出
ていた。奥さんの首の肌にはちいさな汗の玉があり、玉は窓からの陽光に反射している。
きれいな肌だ、泥荒はごくりと唾液を飲み込んだ。その恥ずかしさを一挙に麦茶ととも飲
み込んだ。
ねえ、手相をみてあげる、奥さんは泥荒の右手をつかんだ。その感触は柔らかさに舌に
なめられているようだった。泥荒の指と手のひらをつつんだ奥さんの手は自分の乳房まで
持っていった。泥荒の手を乳房に押しあてる。ノーブラであることが感触でわかった。泥
荒の心臓に熱いものが手のひらから伝わってきた。奥さんの首には細い紫色の血管が見え
た。おんなの乳房は紅い血液が白い乳液になる不思議な器官、柔らかい感触は気持ちがよ
かった。泥荒の脳天はぐらんぐらんしてきた。
つぎに奥さんは泥荒の手をおんなの花園へと導いた。スカートの上から泥荒の手を花園
へと押し当てる。奥さんは、おまんこをやる気だなと泥荒は確信する。恥骨を感じるまで
強く奥さんは泥荒の手を花園に押し当てた。泥荒の指は恥肉の草むらを感じる。柔らかい
肉の洞穴は、どこまでも吸い込む宇宙だった。ここもノーパンだった。泥荒は奥さんの爛
熟した火照りに反応した。奥さんを下から抱きしめ、その紅い唇に自分の唇を押し当てた。
奥さんの唇が開いた。そこに泥荒は紅いあかい舌をべろんべろんとかき回すようにいれる。
奥さんの顔はうしろにだらんとのぞける。おんなのからだはもうどうにでもしてと放心し
ていた。泥荒は奥さんの唇から今度は耳に紅い舌を入れた。そして熱い吐息を吹きかけて
みる。ああんと奥さんが子宮からしぼりだした声をだす。
あなたに塗ってもらいたいところがあるの、どうぞあがってちょうだい、奥さんはく
らくらしながら子宮から言葉を出した。泥荒は作業足袋を脱いで玄関から床に上がった。
奥さんを真正面から抱きしめ勃起した下半身を奥さんの熱い下半身に押し付ける。ぐぐっ
と女の中心に熱い男の中心棒で圧迫していった。泥荒の両腕は奥さんの腰へ、両手は奥さ
んの柔らかい御尻に食い込んでいた。熱いものが放出され内部では女と男の中心軸が交流
電気の火花を散らしていた。奥さんは泥荒の手を強く握りしめ風呂場へと案内した。ここ
の壁を塗ってもらいたいの、いいでしょう、そう言いながら奥さんは泥荒のベルトをはず
し、ズボンを下に降ろした。奥さんは膝をついてパンツの上から泥荒のきんたまを右手で
まさぐる。左腕は泥荒の腰に回している。こんなに大きくなって、たくましい、ねえ、お
休みはいつなのと奥さんは甘い声で聞いてきた。日曜日ですと泥荒は答えた。日曜日、塗
りに来て、主人はゴルフでいないから、ねぇ、お願い、そう言いながら奥さんは泥荒のパ
ンツを降ろす。わ・か・り・ま・し・た、泥荒は一音づつ区切りながら言った。奥さんは
塗れた白いタオルで泥荒のきんたまを拭いた。そして今度は食べるように泥荒の勃起した
肉棒を右手の親指と人差し指でつまむ。そして奥さんは肉棒を口のなかに入れてしゃぶり
だした。しゃばしゃば、くっぱくっぱという激しく連続の音がする。奥さんの左手は泥荒
の尻にまわし、その中指が黄門に侵入してくる。泥荒は、ううと声をあげる。その声を聞
いて奥さんが泥荒の顔を下から見上げる。隣に聞こえるから、大きな声は出さないでね、
そう泥荒に命令する。奥さんの瞳が泥荒には水晶のおまんこに見えた。泥荒は上半身を沈
め奥さんの左の瞳を唇でふさいだ。うううと奥さんが乳房と子宮からしぼりだした声をあ
げる。泥荒は奥さんを湯船に座らせ、Tシャッツをまくりあげ奥さんの左の乳房に吸い付
いた。舌で乳首をころがし唇で強く圧迫する。右の乳房に泥荒の指が食い込む。そして柔
らかくもむ。指と手のひらと唇と舌による強弱の圧迫により奥さんの乳首は勃起してきた。
泥荒は奥さんのTシャッツを脱がした、奥さんの両腕がだらんと上にあがる、Tシャッ
ツは顔を通り抜け髪を引きづりながら奥さんの上半身から抜け、泥荒はそれをバスルーム
のドアに放り投げた。きれいな、いいおっぱいだと泥荒はみとれた。スカートはいじらな
いで、自分でやるから、あなたも全部脱いで、奥さんが甘く命令する。ああと泥荒は了解
した。奥さんがスカートを脱ぐ、やはりノーパンだった。泥荒もTシャッツと足にからん
でいた作業ズボンとパンツを脱いだ。軍捉も脱いで裸足になった。泥荒は奥さんの花園へ
飛びついた。
なんともいえない花の雌しべのような匂いがした。おまんこの毛は逆ピラミッドだった。
よく手入れされている芝生だった。泥荒はぺろぺろと花園の草をなめまわした。花園の茶
色い土手を舌が走る。奥さんは湯船に座り股を大きく広げている。ふとももには紫色の血
管の道がある、それがいっそう白い肌を浮き出させている。すでにクリストルはめくれあ
がり勃起していた。泥荒はそこを攻撃的に舌で刺激を試みた。あふうと奥さんのあえぎ声
はからだの奥底からの木霊だった。
花園には濡れた割れ目の洞穴がある。泥荒は割れ目を舌で上下にくりかえし舐めてみる。
舐めてなめて舐め尽くすと、アマテラスの岩戸のように割れ目は開いてくる。泥荒はすぐ
さま舌を入れた。続いて鼻を花園の開いた割れ目に入れかき回してみる。花園は男の最高
の遊び場だった。泥荒の両手の指は奥さんのまろやかなまるい御尻の肉につきささって食
い込んでいく。続いて指は桃割れの路にそって上から下へと上下になぞる。指は肉の彫刻
をなでまわしている。顔を上げると奥さんは自分の両手で左右の乳房を揉んでいた。さら
なる快楽を求め自分で刺激を楽しんでいる。泥荒は右手の中指を奥さんの黄門に入れてみ
た。ううと奥さんは鳥のような声を出した。次にはうふううと低音の息を出した。バスル
ームは擬音のパーティだった。
ねえ、して、と奥さんは泥荒に結合を哀願した。泥荒は湯船に腕をつっこみ水を抜く。
ざざあと勢いよく風呂水が落とされる。その音にともに泥荒のきんたまは奥さんのおまん
このなかに入っていく。手で穴に誘導しなくても自然に肉棒が花園へ入っていくのに泥荒
は驚いた。奥さんの花園は器官が食植物のように獲物をなかに入れたのである。歓迎の器
官運動に泥荒はすごいおまんこだと感激した。風呂水が湯船から落ちる音、ざざあ、ざざ
あ、男と女の中心が摩擦し圧迫し離れてはまた億へ入る、花園が奥へ向かえては肉棒が引
かれまた奥へ迎えられる音、ばっこん、ばっこん、ぶっちゅん、ぶっちゅん、ぐっちゅん、
ぐっちゅん、奥さんの両腕は泥荒の背中にしがみつき、男と女の腰が求心力と遠心力の快
楽運動の時間、そして音は振動していた。すでに湯船からは水が落ちていたが、奥さんと
泥荒は激しくもみあっている。そして泥荒は一度きんたまをおまんこから抜いた。
泥荒は女体を湯船のなかに入れた。どうするのと奥さんが息の声で泥荒に聞いた。泥荒
も湯船のなかに入る。うしろからと泥荒は息で答えた。
空のバスのなかんでなんか主人ともしたことがないわ、うふふと奥さんは息で笑う。奥
さんは腕を広げ湯船の壁に手をつき御尻をつきだす。泥荒は奥さん背中から右腕を乳房に
まわし揉みはじめる。左手はきんたまをつかみ奥さんの桃割れの道を往来させる。きんた
まによる中心軸への愛撫は刺激があった。いい感じよ、あなた、と奥さん。はやく、ちょ
うだいと奥さんがせがむ。きんたまは自然におまんこのなかへ迎えいれられる。
燃えろ、いいおんな、泥荒は奥さんの耳へ熱い息声をふきかける。大きな声を出すこと
ができない世間様への禁止事項がかえって奥さんを激しくさせる。あうん、あうん、息の
声は壁を溶かすかのようだった。泥荒のからだはロックを演奏していた。ばっこん、ばっ
こん。奥さんはとうとう立っていることはできず、ずりずりと落ちていく。
麻薬が脳に分泌してきた。泥荒は湯船の底に落ちていった奥さんを今度は風呂場のドア
の方向に向けさせた。奥さんは湯船をつかみ犬の姿になる。突き出した奥さんの桃割れの
御尻を泥荒は両手で支え、またバックからきんたまをおまんこに入れた。ばっこん、ばっ
こん、ぐっちゃん、ぐっちゃん、ぶっしゅん、ぶっしゅん、ぺっちゃん、ぺっちゃん、汗
だらけの裸体の摩擦と結合の擬音、みが風呂場に反響するのは麻薬の分泌を増幅させ加速
させた。泥荒も奥さんもからだの深部がくらくらになった。外は夏だった。ぎらついた陽
光がバスルームに窓からさしこんでいる。太陽は昼間の頂点に到来しよとしていた。
あうん、あうん、もっと、もっとついてえ、こわしてえと奥さんは御尻をゆさぶり突き
出す。奥さんは泥荒のピストン運動と連動して腰を激しく動かしている。泥荒は腰を回転
させながら円運動とピストン運動で突きまくる。奥さんは、崩れながら、なかに出さない
でと息声で哀願する。うううきたあ、と泥荒はきんたまをおまんこから抜いた。奥さんは
身震いしながら湯船の底に落ちていった。泥荒は奥さんの乱れた黒髪、脳天に真上から精
液を発射した。乳のような白い精液の玉は黒髪に吸い込まれ、頭皮に浸透していった。奥
さんは麻薬中毒患者のように身震いしていた。そして虚脱の奥底へ沈んでいる。はあはあ
とふたりのからだは呼吸を整えようとしていた。からだはパーティから日常に戻ろうとし
ていた。奥さんと泥荒の汗のしずくはぽたぽたと湯船の底に落ちて、風呂場には祭りの終
焉の擬音が反響していた。外から道路で遊ぶ夏休みのこどもたちの声が聞こえてくる。
奥さんは舐めてと哀願した。泥荒は奥さんを起こし、湯船に座らせた。奥さんはまた両
足を開いていった。自分のきんたま入れかき混ぜたおまんこを泥荒は舌で舐めた。それは
祭りの後、女の花園を男がテッシュで拭いてやる行為にも似て、祭典の閉会宣言でもあっ
た。奥さんはうっとりとからだを開いていた。泥荒はただで塗ってやるよと言った。あり
がとう、これでバスルームもきれいになるわ、奥さんが甘ずんだ息の声で言った。外から
また、こどもたちの声が聞こえてきた。くらくらした頭で泥荒は、親方がそろそろ現場に
戻ってくる時間だと危惧した。
脱ぎ捨てたパンツをはき作業ズボンに足を通す、Tシャッツに腕を通す、そして泥荒は
急いで外に出た。再び足場に上った。奥さんは黒髪を指ですいている。指にべっとりとか
らんだ男の乳色の精液を小瓶の口にからませ、底に落としていた。彼女は声を出さず笑い
収集家のように満足していた。泥荒の精液は「新昆類」のエサとなる。その家の二階の小
部屋には、大きなガラスの槽があり、そこには茶色のゴキブリが蠢いていた。彼女は主人
の命令で、若い男の精液を収集していたのである。そこは人間の精液をエサとしてゴキブ
リに食べさせ、新世代を誕生させていく「新昆類」の実験場でもあった。家の主人の名前
は渡辺寛之、彼の職業はコンピュータ開発技術者だった。そして彼は秘密結社に属し、密
かに生物情報体を研究していた。渡辺寛之は、大和朝廷に滅ぼされ、その復讐として平城
京で藤原不比等を暗殺し、下野北部箒川の豊田で坂上田村麻呂将軍を暗殺した鬼怒一族の
末裔だった。ゴキブリが蠢くガラス槽は「新昆類」概念の展開だった。足場に戻った泥荒
は仕事に力が入らず、ペンキとローラーが入った容器を屋根に置き、住宅地を見下ろして
いた。真夏の太陽に肌を焼かれ、ひたすら風を求めていた。
──親方にバレたら、おれは首だろう……
渡辺寛之の妻、真知子は裸体のまま、二階にあがり、白い小皿に、先ほど収集した泥荒
の精液を小瓶から移すと、ゴキブリの棲家であるガラス槽の底に置いた。
「さあ、おまえたちのご飯だよ、人間のエキスをしっかりとお食べ」
真知子は小声で「新昆類」にささやいた。
それから一階に降り、バスルームでシャワーを浴びた。男のエキスと女のエキスが摩擦
で混合され独自の匂いを発するセックス祭りの後の臭覚を洗い流した。バスタオルで水滴
を肌からふき取ると、真知子は寝室の桐タンスの引き出しを開け、洗濯されたパンティと
ブラを身に付けた。彼女は白いTシャッツを着て、薄布の夏用ロングスカートをはいた。
真知子は自家用車のキーをハンドバックに入れ、玄関から外に出た。
「出かけますので、あと、よろしくお願いしますね、冷たい麦茶を魔法瓶に入れ濡縁に置
いときましたから」
サングラスをかけた真知子は何事もなかったように足場に上がっている泥荒に声をかけ
た。泥荒は真知子を恥ずかしそうに見下ろし、ただうなづいた。真知子の胸とくびれた腰
まわりが悩ましく真夏の太陽に反射している。真知子は車庫にあったホンダシビックに乗
り高台の住宅地を降りていった。車が視界から消えるまで見ていた泥荒は、親方に仕事が
遅いと注意されるを怖れ、塗装前の下地つくりのシーラーを壁塗りしていった。
真知子のホンダシビックは新横浜国道を藤沢方面に向かっている。真知子は遊行寺の坂
を降り、藤沢橋交差点を直進して茅ヶ崎方面に車を走らせた。道路は正月二日にいつも行
われる大学駅伝のコースだった。開けた窓から乾いた潮風が踊りこんでくる。海は近かっ
た。真知子は湘南海岸通りに出て、江ノ島方向へと左折した。やがてレストランの「すか
いらーく」の看板が見えてきた。真知子は「すかいらーく」の駐車場入り口に車を進めた。
車を駐車場に止め、外に出ると、海岸道路の歩道には、海水浴の水着姿で若い男女の群れ
が歩いている。鵠沼海岸は太陽の季節だった。真知子は「すかいらーく」の店内に入って
いた。そして待ち合わせている知人を探した。奥に目当ての老人と若い女がいた。老人の
名前は有留源一郎、若い女は彼の孫で十九歳の有留めぐみだった。ふたりとも秘密結社の
一員だった。真知子はふたりの前に座り、やってきた店員にアイスティを注文した。店は
昼の食事時でにぎわっていた。有留源一郎は白いヒゲを左手で撫ぜながら、右手でパイプ
煙草を持ち、ゆったりと煙を口から吐き出していた。有留めぐみは海をみていた。真知子
は源一郎の娘だった。有留一族の故郷は広島県広島市安佐北区白木町大字有留という山に
囲まれた村だった。真知子は、有留一族と鬼怒一族との古来からの同盟永続、世代間継承
の証として、鬼怒一族の渡辺寛之と結婚した。
親方は昼前に帰ってきた。足場に上がってきた親方は、泥荒の仕事の進み具合に何も言
わなかったが、顔を不機嫌にしかめた。それを察して泥荒は、すいません、親方、今日は
体の調子が少し悪いもんでと謝った。
「おめぇ、おまんこの匂いがするぞ、昨日の夜、やったな」
親方はしょうがねぇな若いのはという表情で苦笑い顔で言った。泥荒はどきっとして一
瞬凍った。
昼時になって、濡縁で弁当を食っていると、神奈川リフォームの営業マンである、関塚
茂がアイスコヒー缶をふたつもってやってきた。塗り替え外装工事をしている渡辺寛之邸
は、訪問営業による関塚茂が契約したのだった。営業マンは工事管理もしていた。毎日現
場に顔を出し、施主にあいさつをする、施主とのコミュニケーションをうまくやらないと、
必ずクレームやトラブルが発生し、工事終了後に待っている工事代回収がうまくいかなか
った。
「親方、お世話になっています。次の現場、見てもらいましたか?」
「さっき、見てきたよ」親方が関塚に応じた。
「木部が多い現場ですが、よろしくお願いします。奥さん、いらしゃいますか?」
関塚が小指をたて、親方に聞いた。
「さっき、車で出かけたよ、なぁ」親方は泥荒にふった。
「はい」
泥荒は下を向いて弁当を食いながら答えた。親方である前田塗装店にペンキ工として職を
紹介してくれたのは、同じ矢板の出身である関塚茂だった。昼前の出来事が知れると、大
変な問題に発展してしまうと泥荒はびくびくしていた。
「おめぇ、今日、調子が悪そうだな、顔が青いぞ……」
関塚が泥荒に声をかけた。
「昨日、女とやったんだってよ、あんまり寝てねぇんじゃ、ねえか、あっははは」
親方が笑いながら言った。
「チッ、おめぇ、女もいいけどよ、仕事にさしつかえるまでやるなよ」
関塚も笑いながら泥荒に注意した。泥荒は苦笑いをしながら頭をペコペコした。
「それじゃ親方、よろしくお願いします」
関塚は親方に頭を下げると、カバンを持って訪問営業へと歩いていった。
翌日の朝、大雨が降っていた。有留めぐみが住むアパートは小田急線片瀬江ノ島駅から
鵠沼海岸駅方向に歩いていく裏道沿いにあった。それは江ノ島が見える大きな海岸通りの、
ひとつ裏の道だった。車は一車両しか通れなかった。海岸通りにある「すかいらーく」の
裏、住所は藤沢市片瀬海岸三丁目13番地になる。有留めぐみはアパートのドアを開けた。
隣の部屋に住む関塚茂も丁度、雨の様子を見ようとドアを開けたとこだった。一階の一○
一号室にめぐみ、一○二号室に茂が住んでいた。アパートは二階建て四世帯のセキスイプ
レハブ住宅だった。ふたりは顔を見合わせた。おはようございますと茂るが言った。その
声を聞いてからめぐみは、おはようございますと挨拶をした。めぐみはビニールゴミ袋、
ふたつを手に持ち、雨傘を開いた。
「田舎から、おじいちゃんが来ているので、ふたり分のゴミが出ちゃいました、エヘヘ」
可愛い笑顔でめぐみは茂に言った。そして近所のゴミ集積所まで歩いていった。
雨傘をさした群青のジーンズ、めぐみのうしろ姿を見ながら茂は、いいけつしているな
と欲情した。ああいう女学生と一発やれたら、最高だんべよ、バックでガンガン突きまく
るイメージに茂は朝から勃起した。あぁ、仕事なんぞせず、こういう雨の日は朝からおま
んこをやりたいもんだと茂は思った。泥荒もいいもんだな、寝ないで女とやれるなんてよ
と昨日の現場での会話を思い出した。
そうだ、おれもゴミを出さねば・・・だいぶたまってしまったからな、今日は燃えるゴ
ミの日か、茂は部屋に戻った。どうせ今日は一日中雨だから仕事にもならない、そう茂は
ずる休みをする決意をするのだが気持ちの奥底では迷った。雨の日に休むと根性無しと認
定されてしまうのが怖かった。雨の日はお客さんが玄関の外に出てこない。それで営業マ
ンは車の中や公共施設のなかで昼寝をしているのがおちであった。みんな朝に顔を出し、
大声で気合の合唱をしてら訪問営業に飛び出すのだが、雨の日は夕方まで時間をつぶすし
かなかった。
ゴミ袋を持って外に出ると、ちょうどめぐみが帰ってきたところだった。だいぶ、降っ
てきましたね、そう茂はめぐみに声をかけてみた。えぇ、雨の日は憂鬱だわ、そうめぐみ
は茂に笑顔で答えてみた。
「もしよかったら今度飲みに行きませんか? 鵠沼海岸駅通りに『ラ・メール』という面
白い店があるんですよ」
茂はそれとなく、めぐみを誘ってみた。
「あ! その店ならわたし一度、行ったことがあります。素敵な店ですね」
「飲みに来る店のお客さんが面白い人ばっかりなんですよ。今晩どうですか?」
茂は会話のかけひきに押してみた。
「そうですね、行きますか」
めぐみが承諾した。
「じゃあ、夜8時、鵠沼海岸駅での待ち合わせでどうですか?」
茂は約束を取り付けようとした。
「わかりました。行きます。じゃあ、そこで」
あっさりとめぐみが約束に乗ったので、茂は歓喜したが表情には出さなかった。めぐみ
は茂に頭をちょこんと下げ、自分の部屋の玄関に入り、そしてドアを閉めた。
めぐみの表情とからだには十九歳とは思えない色気と人をひきつけてやまないオーラー
があった。いいおんなだ、今日はいい日だと茂は雨のなかを濡れ踊るようにゴミ出しに歩
いていった。憂鬱なずる休みの誘惑などすでに消えていた。茂の体には今日も仕事でがん
ばるぞ、契約をとってみせるぞという気合が生まれていた。夜が楽しみだった。
「おじいちゃん、誘惑に成功したじゃけんね」
めぐみは部屋の中央に座っている有留源一郎に報告した。源一郎は満足そうにうなづい
た。有留一族の目的は「新昆類」のエサとなる男の精液エキスの収集だった。八十年代か
らの世代交配の反復により、21世紀には、新たなる新世代のゴキブリが誕生するはずだ
った。「新昆類」昆虫情報体である。その開発とは広島がアメリカに原爆を落とされた怨
霊のなせる業でもあった。もうひとつの日本に有留一族は息を潜めて、ひたすら「新昆類」
昆虫情報体の新世代開発に勤しむ長期戦略があった。それはもうひとつの日本で潜水して
いる進行でもあった。出来事は二十一世紀ゼロ年代の中頃、日本列島各地にある在日アメ
リカ軍に向けて、「新昆類」昆虫情報体が放されるはずである。原爆投下への復讐だった。
秘密結社の棟梁、源一郎はめぐみの部屋で、タンスの上のガラス槽を見ながらゆっくりと
パイプ煙草をふかしていた。そして彼はお茶をすすった。ガラス槽には、夜、活動する茶
色い昆虫が眠っている。彼にとってそれは沈黙の生物兵器だった。昭和56年、夏の雨、
広島原爆記念日はとうに過ぎ、晩夏の匂いがする朝だった。めぐみもアルバイトに出かけ
ひとり有留源一郎は、海岸通りにある「すかいらーく」裏のアパートで、二十一世紀を夢
想していた。