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(回答先: 関連記事 比の旧日本兵、帰国支援求める(朝日新聞) 投稿者 田中大也 日時 2005 年 5 月 27 日 13:24:18)
http://homepage2.nifty.com/GARAKUTA/ashuu/phil01/phil03.html
マニラから長距離バスで二時間ほど南下したところにバタンガスという港町がある。この周辺には数ヵ所のダイビング・スポットがあり、日本人も時々訪れているようだが、都市からだいぶ離れているため、治安状態はあまりよくないようだ(つい先日も、若い日本人女性が一人、行方不明になっている)。
そのバタンガスから船でさらに二時間ほど海を渡ると、ミンドロ島のプエルト・ガレラに着く。少し歩けば、すぐ町の外に出てしまうような、そんな小さな町だ。
会長たちと別れて、一人フィリピンに残った僕は、そのプエルト・ガレラの近くにあるホワイト・ビーチという浜辺で、のんびりと時をすごしていた。
そんなある日、近くのジャングルに旧日本兵が潜んでいるらしい、そんな噂が僕の耳に入ってきた。僕は早速、捜索隊を組織すると、その旧日本兵を探すことにした。
まずは地元での聞き込み捜査からだ。僕はホワイト・ビーチの顔役であるフランキーに日本兵のことを聞いてみた。
「日本人ねえ。この辺じゃよく見るからねえ。俺も何人か知ってるよ。カワサキとかホンダとかいう名前だ。時にはヤマハとかヤンマーなんて奴も来るね」
また、島のディスコでダンサーをしているベティにも聞いてみた。
「日本人? みんな金持ちで親切でしょ。あたい、大好きだよ。ねえ、あんた、誰か紹介してよ。あたい、もうドイツ人なんかマッピラなのよ。日本に帰ったらさ、誰かにここに来るように言ってよ」
僕たちはこの二人の発言をもとに、ホワイト・ビーチの奥にあるタマラオ・ビーチに注ぎ込む川を遡ってみることにした(なんのこっちゃ)。
捜索隊のメンバーを紹介しておこう。
隊長はもちろん僕(最初に言い出した者の当然の権利である)。副隊長はドイツ人のハンス(どうでもいいけど、ドイツ人てどうしてみんなこんな名前ばかりなの)。女性隊員がカトリーヌにエルマ(エルマは日本に来たことがあるので片言ながらも日本語を話すことが出来る。ただし、彼女が知っている日本語は「シンパイナイヨ」「アイシテル」「ジョウダンジャナイヨ」「ケッコンスルヨ」の四語のみで、この四語がなんの脈絡もなく唐突に飛び出してくるので注意が必要)。それに奴隷のリチャード(オカマ)とジェームス(オカマ)の二人。以上の六人である。
僕たちはタマラオ・ビーチから川を遡りだした。午前九時。すでに太陽はギラギラと輝き、僕たちの肌をジリジリと焼く。
道はすぐになくなり、僕たちは川の中を歩いた。その時、僕は大変なミスに気付いた。僕は靴をはいてきてしまったのだ。なぜサンダルにしなかったのか、僕はグジョグジョの靴で川の中をザバザバと歩きながら心から悔やんだ。次回の探索のための重要な反省点、旧日本兵探索においてはサンダルを使用すべし。
原色の鳥が飛びかうジャングルの中を30分ほど歩いたところで僕たちは現住民に出会った。最初、裸の子供の姿だけが見えたので、「やった! ついに幻の裸族を発見したのだ!」と舌なめずりしたのだが、残念なことに母親はちゃんと服を着ていて、川で洗濯をしていた。おじいさんは山へしば刈りに行っているのだろう。
僕たちはそこで、旧日本兵の噂を聞かないか、と尋ねてみた。すると、旧日本兵のことは知らないが、ジャングルの奥にはオンゴイの神がいてアラウアラウの夜になるとハポン・カミのアサワをトゥロイトゥロイするのだと言う。何のことだかよく分らないが、とにかくおそろしそうではないか。
僕たちはさらに奥地へと進んで行った。
今度は巨大な竹を二本、肩に担いでズルズルと引き摺っている若者に出会った。この辺じゃお母さんは川へ洗濯に、おじいさんは山へしば刈りに、そしてお兄さんはジャングルへ竹を引き摺りに行くものらしい。若者はズルズルと竹を引き摺りながら僕たちの傍らを通り過ぎていった。
しばらく行くと、また竹をズルズルと引き摺っている若者に出会った。もしかしたら、この竹を肩に担いで引き摺るというのは、この辺の若者の最新流行のファッションなのかもしれない。聞いて確認しようと思ったのだが、噛みつかれるといけないので、やめておく。
僕たちは川が深くなっている所の傍らで休みをとることにした。すると、どこからともなく竹を編んだカゴをさげた一人の女が現われて、僕にバナナを煮込んで串に刺した食べ物を売りつけてはジャングルの中へと消えていった。おそらく一九七八年にミンドロ島の奥地で発見されたというニバナナ族の一人なのだろう。
僕が飲み干したコカコーラのビンを捨てていこうとすると、力トリーヌ隊員がそれをとがめた。もし旧日本兵がそのビンを見たら、今でもフィリピンはアメリカの占領下にあるものと思ってさらに山奥に逃げてしまうだろうと言うのだ。僕は自分のあさはかさを恥じた。
さらに川を遡る。と、先頭を歩いていたハンスが身振りで僕たちを止めた。何が? 音をたてないようにして彼の傍らまで行き、木の陰からそっとのぞきこむ。そして、僕がそこに見たものは……。
川で水遊びをするその生物。旧日本兵のなれの果てか? それともオンゴイの神なのか? 一体……。
だが僕たちはくわしく観察するだけの余裕を持たなかった。リチャードがうっかりたてた物音に驚いてジャングルの中にすばやく姿を消してしまったからである。
「シンパイナイヨ。アイシテル。ジョーダンジャナイヨ!!」
エルマが叫びながらそのあとを追ってジャングルの中へわけいって行った。そのあとをリチャードとジェームスが追いかける。ジェームスはジャングルの専門家であり、追跡の名人でもある。彼等にまかせておけば間違いあるまい。
だが、三人は手ぶらで戻ってきた。
果たして僕たちが見たものは何だったのか。旧日本兵の生き残りだったのか。それとも地元の人々が恐れるオンゴイの神なのか。
その夜、僕は背中に異様な痛みを感じた。触ると、皮がボロボロに剥けてきている。オンゴイの神の呪いに違いない。僕にはすぐに分った。カトリーヌは単なる日焼けだと言うが、とんでもない。
さらに僕は腹をこわした。生水を飲もうが何を食ベようが今まで何ともなかったこの僕がである。リチャードは油っぽいものを食べすぎたからだと言うが、冗談じゃない。オンゴイの神の呪いに決まっているじゃないか。
僕は三日三晩苦しみぬいてゲッソリと痩せたが、なんとか持ち直した。そして命からがらマニラまで逃げ帰ったのである。
以上がミンドロ島で旧日本兵を探しにジャングルに入っていって出会ったことの全てである。この事件のショックで「イーグル」の発行がすっかり遅れてしまったのだけれど、そういうことで許してもらえるだろうか……?
日本冒険小説協会会報『コピー版イーグル』第8号(昭和60年3月)に掲載