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戦場カメラマンを悩ます「ポスト・ウォー・シンドローム」
http://www.asyura2.com/0505/war70/msg/490.html
投稿者 外野 日時 2005 年 5 月 18 日 22:52:24: XZP4hFjFHTtWY
 

(回答先: 米軍訓練プログラムがはらむ危険性 (JNN─TBS系) 動画あり。ただしページの消滅早し。 投稿者 外野 日時 2005 年 5 月 18 日 21:54:07)


 「SAPIO」2005.03.23号

 ”第4権力”の行動を監視する検証コラム CJR特約
 『メディアを裁く!』 第119回

 戦場カメラマンを悩ます「ポスト・ウォー・シンドローム」

 最近、「国境なき記者団」のパリ本部は、2004年に53人のジャーナリストが戦争取材で殺害されたと発表した。そのうち19人がイラクでの死者で、最も多い。このような危険を冒して取材活動から帰国したジャーナリストにとって深刻な問題となってきたのが、心の病である。彼らは、週末たった一人で家にふさぎこむ。意識がなくなるまで一人で酒を飲む。ひどい不眠症にかかるなどの症状を見せる。
 今回のCJRは、実際に戦争取材で恐怖症を経験し、コロンビア・ジャーナリズム・スクールで「戦争報道コース」を教えるジュディス・マットロフ女史のレポートである。

     ※     ※

 フリーランス・フォトグラファーであるグレッグ・マリノビッチ氏は、1990年代、内紛に明け暮れるアフリカ各地を取材した。銃で撃ち殺された人々、メッタ斬りにされて殺された人々の写真を撮り続けた。AP通信によって配信されたマリノビッチ氏の写真は、見事ピュリッツァー賞を受賞した。しかし彼自身はとても受賞を喜ぶ気分になれなかった。
 殺された男は、まず5人の暴徒に汽車から引き摺り降ろされ、殴られ、石で打たれ、頭をナイフで刺され、そして、ガソリンをぶっ掛けられ、焼き殺された。「ショックだった。嫌悪した。恐怖だった。自分はこの犠牲者を救えなかった。この写真を撮り、賞をもらい、褒美の金をもらった。しかし、やがて強い罪悪感にさいなまれるようになった」とマリノビッチ氏は語る。
 その後、同氏は胸に銃弾を受けたが、命だけは何とか助かった。やがて仕事に復帰した。しかし、マリノビッチ氏の親友のジャーナリストは銃弾に倒れ、さらに2人の同僚が自殺した。マリノビッチ氏は、同僚のジャーナリストがそうしたように精神的苦痛から逃れるため麻薬やアルコールに走ることだけはしなかったが、しかし、ひどい欝病に陥ってしまった。そして、友達も失った。
 第1次湾岸戦争後、クルド人の反乱が起こった当時、CBSテレビのフランク・スミス氏は、この反乱を現地取材していて、戦闘に巻き込まれた。彼は17時間にわたり溝の中に隠れていたのだが、その間にイラク兵に見つかった同僚が処刑される音を聞いた。スミス氏も結局は捕まってしましい、アブグライブ刑務所にぶち込まれた。スミス氏の檻からは、電気ショックの拷問や、板切れでぶたれる虐待を受ける囚人達が見えた。いまでもスミス氏の脳裏に焼きついているのは、ゴムのホースで滅多打ちにされ、犬のように泣き叫ぶ幼い少年であった。「それでもその少年の泣く声は途絶えなかった」と同氏は語る。
 スミス氏は、やっと出獄できたが、悪夢で眠れなくなっていた。「毎晩が怪奇映画を見ているようなものだった」と語る。心の病に陥り、カウンセリングを受けた。そして針治療まで受けて、やっと悪夢を見なくなった。
「アメリカ精神療法ジャーナル」誌の調査では、フォトグラファーは、戦争取材で最も心の病にかかり易いという。何故なら、彼らはより被写体に近づかねばならず、犠牲者を助けようとする人間の本能を捨てざるを得なくなるからである。
「フォトグラファーは、恐ろしいイメージが断片的に脳に蓄積され、それが突然現われてくる。一方、ライターは取材した事実を起承転結をつけて整理して書くので、突如忌まわしい記憶が襲ってくるようなことは少ない」と元BBC記者の精神科医マーク・ブレイン氏は語る。
 専門家は、ジャーナリストの精神的外傷は、暴力、殺戮が唐突に起こる場所、人々がそれらを予期できず、備えることができないところが最も悪いという。今のイラクがまさにそうだ。爆弾はあちこちで容赦なく爆発し、人々を殺している。しかもイラクに送られている記者の多くは、これまで戦争取材を経験したことがない。
 シカゴトリビューン紙で長年中近東を取材したスティーブ・フランクリン氏は、「バグダッドの外国人記者達は、安全という悪魔に取りつかれている。彼らは常にトランシーバーを持ち歩き、住む家を土嚢で固めなければならない。しかし、本国のボスには、『危なくて、家から取材に出られない』などとはいえない」と語る。本国のエディターは、バグダッドで孤立している特派員達に精神的サポートを与えていないのである。
 報道機関は、戦争取材から帰国した記者に十分な注意を払わなければならない。まず、そのような記者は帰国後、強い孤独感に襲われる。そして彼らは、自分と同じ経験をしてきた同僚としか付き合わなくなる。彼らの袖を引っぱり、必死に食べ物を求めてきたイラクの子供達の手を振り払って帰国した罪悪感を、どうやって何も知らない同僚に理解してもらえるか、わからないからである。
 昨年、BBCは対処法を安全トレーニングプログラムに組み込むようにした。監督者は、戦争取材を終えた帰国記者に対する対処法を教えられている。ロイター通信も同じようなプログラムを持ち、マネージャートレーニングや電話による対処も行なっている。CNNは、記者達に対するトレーニングを他社に先駆けて行なっている。また、希望者にはプライベートなカウンセリングも行なっている。

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「コロンビア・ジャーナリズム・レビュー(CJR)」:
ジャーナリズムの本質を追求し、常にアメリカのメディアの最新動向を鋭くウオッチングする最も権威ある雑誌。この発行元は1912年にジョセフ・ピュリッツァーによって設立されたコロンビア大学ジャーナリズムスクール大学院である。
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