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信頼される報道のために 検証・虚偽メモ問題 (3,4) [朝日新聞]
http://www.asyura2.com/0505/hihyo1/msg/392.html
投稿者 white 日時 2005 年 9 月 15 日 20:25:48: QYBiAyr6jr5Ac
 

(回答先: 信頼される報道のために 検証・虚偽メモ問題 (1,2) [朝日新聞] 投稿者 white 日時 2005 年 9 月 15 日 20:22:36)

□信頼される報道のために 検証・虚偽メモ問題 (3,4) [朝日新聞]

 http://www.asahi.com/information/release/20050915c.html

3.虚偽メモを使った記事の掲載

●新党結成の初報で利用

 国民新党に続く第2新党が夕方に立ち上がる。その党首は田中康夫・長野県知事――。

 20日朝、政界関係者から入った一本の電話で政治部は緊迫した。

 情報が確かなら、「特ダネ」で報じることができる。政治部は夕刊で記事にしようと裏付け取材に動いた。しかし、夕刊の締め切りまでに、この情報の真偽を確認する証言を得ることはできなかった。夕刊での出稿は見送られた。

 午後から夜にかけて、政治部には新たな情報が集まり始めた。複数の関係者が新党の立ち上げが翌21日になりそうだと認めた。第2新党結成への動きを朝刊で記事にする方向が固まっていった。

 与党キャップが長野総局長に電話して「お願い」メールの取材の進み具合を問い合わせたのは、そうした動きの中でのことだった。

 午後6時49分にN記者作成の虚偽メモが電子メールで届いた。文面は、8月13日に亀井氏と田中氏が長野県内で会ったことを、田中知事への直接取材で裏付けるものだった。

 もっとも、政治部が作ろうとしていた原稿は、田中知事を党首に担いだ新党結成の動きだ。亀井氏はすでに17日に国民新党を立ち上げている。このメモの内容だけなら、郵政民営化反対派による新党結成をめぐる過去のエピソードの一つに過ぎなかった。

 そのため、N記者のメモをもとにした亀井・田中会談は、21日朝刊に「郵政反対派、『第2新党』が浮上 都市部の支持を目指す」との見出しで掲載される記事の末尾に添えられる小さな扱いとなった。

 亀井氏が8月中旬に長野県で田中知事と会談という内容で、その趣旨については「国民新党など反対派への協力を要請したとみられている」という表現にとどめた。この時点で、亀井氏側から2人が会ったことを確認することができなかったためだった。

 この日の原稿について、政治部は与党キャップが長野総局の金本総局長に電話をかけてはいるが、原稿のモニター、印刷する前の1ページごとのゲラ(大刷り)のいずれも総局へファクスで送らなかった。

 通常は、デスクが原稿の出稿を終えると、筆者の記者がモニターを印字してチェックすることになっている。

 しかし、本社が総局から得た情報をもとに記事を作った今回のようなケースでは、本社側からモニターや大刷りが届かなければ、送ったデータのどの部分が記事に使われたかを確認するのは難しい。こうして、総局側が原稿をチェックする機会を逸してしまった。

●慌ただしい中、総局了承

 田中知事を党首に担いだ第2新党の結成をめぐり、21日、長野総局は慌ただしい一日となった。

 総局デスクが当番デスクとして午前11時半ごろ、席に着いた。しかし、前日の当番だった金本総局長からは政治部の「お願い」メールにN記者が回答したという引き継ぎはなかった。

 新党の立ち上げ、しかも知事が党首。知事選の可能性もはらんだニュースである。政治部への回答のメモのことは何も知らず、デスクは、記者の配置やこの日の地域面の紙面展開について総局員に指示した。

 午後1時過ぎには、東京本社の社会部デスクから電話が入った。田中知事の党首就任をどう見るか、地元長野県の反応を社会面の原稿として出稿してほしいという依頼だった。

 記者会見の取材のために県政キャップが東京に向かった。午後5時の記者会見を待って取材を始めると、関係者がつかまらずに締め切りに間に合わない可能性がある。地元での取材にはN記者と休日返上で出てきた市役所担当記者(31)の2人があたった。

 夕方にかけて、2人は田中知事の後援会関係者や地元首長、県内の政党関係者などに電話をして、賛否の声を記事にして社会面と地域面の両方に出稿した。原稿のまとめ役はN記者だった。

 この日、朝日新聞社の本社と各総局は総選挙のシステムテストをしていた。投開票日には、開票所や市町村選管に派遣した記者らから刻々と入る情報をもとに、各候補や政党の得票数を集計し、総局から本社に送信する。当日の票の動きをシミュレーションしてテストを繰り返し、本番でのミスを防ぐ必要がある。

 長野総局でも記者3人がテストにかかわり、アルバイトの学生十数人が総局を出入りした。

 午前中には新潟県中越地方を震源とする地震があり、長野県北部で新潟県境に近い三水村で震度4を記録。大きな被害はなかったが、JRの在来線の運行に影響が出ており、警察担当記者(24)が取材した。

 夕刻。慌ただしい長野総局に、与党キャップから電話があった。総局から送ったメモを記事に使っていいか、という問い合わせだった。

 このメモとは、前日にN記者が電子メールで政治部に送った報告だ。政治部からはどんな原稿を準備しているのか、メモはどんな文脈の中で使うのかという説明は何もなかった。

 一方で、電話を受けた総局デスクはメモの存在そのものを知らなかったが、即座に了承した。さらに、政治部からの連絡を総局にいたN記者に伝えなかった。

 総局デスクは「政治部と県政グループとの間で何らかの情報交換があったのだろうと思い、深く考えずに了承した」と話す。

●メモ柱に内幕記事掲載

 政治部は21日夕、田中知事を党首とする新党の結成について朝刊1面用の記事とともに、新党旗揚げに至る内幕記事を掲載しようと準備していた。

 衆院解散の日から政治部は、企画記事「追跡 政界流動」を始めた。政治の内幕を同時進行的に掘り起こそうという狙いだ。密室での政治家たちのやりとりや政局を象徴する政治家の「言葉」を出来るだけ紹介していこうという狙いだ。

 政治部は、総局で経験を積んだ中堅、ベテラン記者で構成される。その原稿は、部員が取材したメモをもとに経験豊富な記者が記事をまとめる、いわゆる「アンカー方式」が採られている。今回の企画では、2人のアンカー記者を決め、記事執筆と取材の役割分担をよりはっきりと分けた。

 この日の「追跡 政界流動」の狙いは、都市部の有権者の支持拡大を狙う第2新党の位置づけを田中知事を軸に描くことにあった。N記者から送られてきたメモには、亀井・田中会談での田中知事の生の言葉を知事自身が語っており、記事を構成するうえでこのうえない素材だった。

 政治部の原稿作成の慣行で、同僚のメモの性格を細かく問い合わせることはほとんどしない。メモに「サシ」とあれば取材相手と一対一で会ったとわかる。「オフ」は「オフレコ」の略で、情報源を特定して記事に直接引用しない。「オン」であれば発言者を特定してメモの中身を引用できる、というルールになっているからだ。

 N記者のメモには田中知事と「サシ」で会ったと書かれていた。知事とのやりとりに不自然なところもなかった。与党キャップは長野総局に電話をして、メモを使っていいという了承を得た。

 「亀井さんも、いろいろ大変かもしれないけど、郵便局を守れっていうだけでは選挙に負けますよ。サラリーマン増税反対とか、もっと言うことがあるでしょう」

 虚偽メモに基づき、田中知事と亀井氏との架空の生々しいやりとりが記事に盛り込まれた。

 これまで政治部は、亀井氏ら新党関係者に取材を重ね、田中氏をめぐって二つに新党づくりが分かれる経過はつかんでいた。ただ、亀井・田中会談の事実を確認できていなかった。この日夜、政治部記者が改めて亀井氏側に取材したところ、新党結成をめぐり13日に田中知事と会談していたことを認めた。しかし、場所や会談内容までを詰めることはできなかった。

 結局、「追跡 政界流動」の大刷りが総局にファクスで届いたのは午後9時半ごろ。ちょうど地域面の紙面作りの作業が終わろうとするころだった。虚偽メモのやりとりが、記事の見出しに使われていた。

 政治部もまた、第2新党結成の取材や原稿作成に追われ、忙しかった。メモのどの部分をどのように使うか、長野総局には詳しい連絡がなかった。どんな状況で田中知事とやりとりをしたのか、といった問い合わせも長野総局にはなかった。前日の記事と同様にモニターも送られてこなかった。

 大刷りが送られたことに気づいた総局デスクは、記事を斜め読みしながらN記者の席に歩いて手渡した。N記者はそこで初めて、自分のうそのメモが使われていることを知った。「頭が真っ白になった」という。

 N記者はうそのメモを政治部に送ったことをだれにも告げず、虚偽メモに基づいた記事が翌日の朝刊に掲載された。

【主な経緯】

 20日 午前 政治部に、田中知事を党首にした第2新党結成との情報が入る

     夕  政治部が「第2新党浮上 田中知事に党代表打診」の記事の中に、N記者のメモを使うと長野総局に電話連絡

 21日 午後 田中知事らが東京都内で「新党日本」の結成記者会見

        政治部が「追跡 政界流動」の記事の中にN記者のメモを使うと長野総局に電話連絡

   夜    本社から長野総局にN記者のメモをもとに作られた記事の大刷りがファクスで送られる

【問題点】

 政治部は、N記者のメモをもとに原稿を作りながら、具体的な問い合わせや説明を総局にせず、原稿の内容を伝えることも怠った。総局では、政治部へのメモ回答について総局長から総局デスクへの引き継ぎはなく、総局デスクは政治部からのメモ使用の連絡をN記者に伝えなかった。

【モニターとは】

 朝日新聞では今春から、記事作成の仕組みが大きく変わった。それまでは、原稿がデスクを通じて出稿されると、文章が記載された「モニター」と呼ばれる紙がプリンターから自動的に印字されて出てきた。しかし、新しいシステムでは自動的に出力されないため、原稿を書いた記者がモニターを見るためには、パソコン上で新システムの画面に接続し、プリンターから出力することが必要になった。
(2005/09/15)


 http://www.asahi.com/information/release/20050915d.html

4.問題の発覚と懲戒処分

●田中氏から記事に指摘

 「追跡 政界流動」の記事が掲載された翌日の23日、長野県庁で開かれた定例記者会見で、田中知事は新党設立をめぐる朝日新聞の2本の記事に不快感を示した。(1)亀井氏と東京で会ったが、長野県で会った事実はない(2)この件について朝日新聞から直接の取材はなかった――などと指摘した。

 この会見には県政キャップとN記者が出席。会見後、N記者が金本総局長の携帯電話に田中知事の指摘について連絡した。総局長は、県政キャップとN記者に、知事に会って発言の趣旨を確認するよう指示した。

 その日の午後、田中知事は長野市郊外にある研修所に行く予定だった。N記者が「確認に行きます」と県政キャップに申し出た。

 総局では午後3時から、県内各地の選挙情勢について取材結果を持ち寄って検討する会議が開かれた。会議後の夕方、N記者は総局長に「知事はあまり問題にしていません」と報告した。

 ところが、N記者は現地まで足を運んだものの、田中知事には直接話はしていなかった。報告はうそだった。

 25日朝、総局にいた県政キャップに県秘書広報チームから電話がかかってきた。田中知事の指摘に対して、朝日新聞社としての見解を文書で求めるという話だった。県政キャップは総局長とN記者に伝えた。

 昼ごろに総局にやってきたN記者は「秘書とやりとりしてきた」として、「知事は僕の取材を受けていないと言っています」と総局長に伝えた。しかし、実際には秘書と話をしておらず、この報告もうそだった。

 N記者の報告を聞いた総局長は、県政キャップと2人で田中知事に会って話を聞いてくるように指示。松本市で予定されていた会議に向かった。

●告白を受け、調査し処分

 N記者が「知事に取材していないんです」と言い出したのは、その日の夕方だった。東京本社管内の総局を統括する地域報道部の部長代理(48)らが総局に出向き、28日までに3回、N記者らから聞き取り調査をした。

 秋山耿太郎(こうたろう)社長(60)に一報が入ったのは27日だった。「たいへんなことになった」と思った。30日の衆院選公示が迫っていた。選挙報道に関する不祥事だけに、選挙妨害だと指摘されることを避けるためには、公示前日の29日までに対応を明確にするとの意向を固めた。臨時取締役会を29日に開くことが、この時点で固まった。

 秋山社長は「報道機関として、あってはならないという認定を明確にしなければならないと思った」と話す。

 29日、東京本社で代表取締役ら関係役員の会議が開かれ、N記者を懲戒解雇にするなどの処分案がまとまった。臨時取締役会が午後5時から開かれ、N記者を懲戒解雇に、木村伊量・東京本社編集局長(51)と金本総局長を減給、更迭するなどの処分が決まった。

【主な経緯】

 23日 午前  田中康夫・長野県知事が定例記者会見で、新党設立をめぐる朝日新聞の2本の記事に対して不快感を表明

     午後  N記者が長野市郊外の研修所にいた田中知事に発言の趣旨を確認に行ったが、話しかけずに帰社。総局長に「知事はあまり問題にしていません」と虚偽報告

 25日 朝   長野県秘書広報チームから長野総局の県政キャップに電話があり、朝日新聞社としての見解を文書で回答するよう求められる

    昼ごろ  N記者は田中知事の秘書と話をしないまま、「秘書とやりとりした。知事は取材を受けていないと言っています」と総局長に虚偽報告

 25日〜28日 朝日新聞東京本社の地域報道部長代理らが、N記者ら関係者から事情を聴く

 29日    東京本社で臨時取締役会が開かれ、N記者を懲戒解雇にするなどの処分が決まる
(2005/09/15)

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