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(回答先: 行政改革に対してどのような立場で対峙するのか 投稿者 ジャン 日時 2005 年 9 月 26 日 01:22:29)
ここで、民間活力の導入の先進事例として、介護保険の状況をワーカーズから転載しておこう。
介護保険制度改正法成立
不正請求がまかり通る介護保険事業
●措置制度から契約制度への移行
介護保険制度の問題点を、民間事業者の参入の実情の側面から見てみたい。
介護保険制度以前の福祉サービスは措置制度のもとで行われていた。利用者は自らの所得に応じて利用料を支払えばよかった。市町村の措置という行政処分により提供されるサービスは手続きが面倒で自由に自分の好むサービスを受けることができるとは限らなかった。
たとえば施設入所に当たっては、ミーンズテスト(資産調査)に類する膨大な資料の提出義務があった。それにより施設入所の必要性を判断するという理由からである。入所が決定した場合は市町村が指定した施設以外には入所できなかった。仮にその施設とトラブルが生じ退所した場合には他の施設には入所できない仕組みであった。そのために嫌な施設でも居続けるしか施設入所を継続する方法はなかったのである。利用者本位より「行政本位・施設本位」の仕組みがまかり通っていた。サービスを提供する社会福祉法人は費用徴収された利用料等が安定的に入る仕組みであった。社会福祉法人は税制の優遇や補助金などによって守られており、倒産の心配はなく、経営の効率を考える必要はなかった。土地持ちの地域の地主が何か安定した事業を興したい時に安易に始められる事業でもあった。
この様な措置制度が介護保険制度という契約制度に変わったことには大きな意義もあった。利用者主導・住民主体の福祉サービスを考えるきっかけになったことである。
しかし、厚労省のねらいはそこにはなく、今まで無駄が多かった社会福祉法人等の効率化を図るために民間活力を導入することが目的であった。そのため民間企業の参入が積極的に行われたが、利用者保護の視点や、福祉サービスの特性に配慮したサービス提供が行われるようにするための事業者への規制などの仕組み作りには、関心が払われてはいなかった。
マスコミをにぎわしている高齢者をカモにしたリフォーム業者の詐欺まがいの営業なども、福祉サービスとしていとも簡単に企業が参入する仕組みを作ったことに一因がある。
●指定取り消しをされた事業者も会社名を替えれば再度営業
今この時点でも介護保険参入の事業者の指定の取り消しが相次いでいる。
指定の取り消しは都道府県が行うことになっているが、実際には余り機能していなかった。利用者のサービスについての不満や苦情に対応するために介護保険審査会が都道府県単位で設置されているが、利用者には余り知られていない。市町村では「契約制度」であることをたてに、以前のように苦情に対処してくれない。苦情を市町村の窓口に持って行っても「ケアマネジャーさんに相談しましたか」などといって逃げられる事が多くなった。
介護サービス業界は、悪徳サービス事業者が何の指導も受けずにやりたい放題ができる業界になってしまっていた。介護保険施行から4年間で232の事業所が指定を取り消され、報酬返還額は29億円にものぼり、介護報酬の水増しなど、不正請求・受給が介護給付費を押し上げ、保険財政を圧迫してきた。かくして厚労省は、制度上の問題解決に取り組まなければならくなったのである。
そもそも指定取り消しが行われるのは氷山の一角でしかなく、指定以外の罰則が法律上はなかったのである。また縦割り行政の弊害であるが、指定取り消しを受けた事業者の情報が他と自治体に通知される仕組みがないために、自治体を変えたり法人名を変えたりして指定を取り消された事業者が直ぐ営業を再開することもできたのである。 それは制度そのものに欠陥があったからである。仮に指定取り消しをされても、別の都道府県で指定申請をしたり、法人の名義を替えてしまえば安易に事業を再開できる仕組みであり、介護保険法では事業者に対して、指定取り消し以外の処分の方法がなかったからである。
厚労省は不正請求で介護事業の指定取り消しを受けた事業所の再申請を一定期間認めず、不正に加担したケアマネジャーに業務停止などを科し、指定取り消し権限を市町村にも拡大する対応を取らざるを得なくなってきた。野放し状態であった、指定取り消しにまでは至らないケースについても、改善勧告、改善命令、業務停止命令などの処分を行えるようにした。県の権限を市町村に移行して事業所の指定や監督が市町村で行なえりようにし、取り消し履歴を全都道府県、市町村で共有するために必要となるネットワークシステムつくりにもやっきとなっている。また指定しないことができる理由として、申請者、役員個人の指定取消履歴や犯罪歴を追加する方針がとられるようになった。このように、ようやく事業所の規制強化に乗り出し厚労省であるが、こうした悪質事業者を排除するための仕組みは、本来制介護保険度発足時にできあがっていることが最低限必要とされていたはずなのである。厚生労働省の安易な「介護保険制度見切り発車」のために、膨大な国民の保険料が無駄になったのである。
●民間業者の認定調査は不公平
―市町村職員アンケートより
介護保険制度の要である要介護認定の訪問調査を、市町村はこれまで居宅介護支援事業者の介護支援専門員に依頼をしていた。が、2006年からはこれを廃止し、原則市町村の職員によって認定調査を行うこととした。これは民間事業者が認定調査を行うと利用者の囲い込みをおこなったり、自社の利益のための営業が行われ、公平・中立な認定調査が行われていなかったからである。2004年に京都府の市町村の職員を対象に行った調査では「要介護認定調査を民間委託した場合、公正・公平性が保てない」と考える職員が21%いたと報告されている。その理由は「利用者獲得の手段となったり、限度額を増やすため、本来より甘く認定調査を行い得る」というものである。民間事業所に認定調査を依頼している市町村の職員でさえ利益誘導型の認定調査を実感しているというのである。
介護保険制度により、今まで福祉サービスは社会福祉法人や市町村が提供するものであったが、民間企業が参入できる道が開かれ、福祉ビジネスが巨大マーケットになった。民間企業の参入は、措置制度時代の弊害を見直す機会を与えてくれる反面、利用者には大きなリスクも伴う。
事業者の情報提供窓口を全国に設置、不正事業者を監視する。利用者やその家族は電話やメールで簡単に苦情を伝えるができる。苦情に対するその後の対応状態などを他の利用者が閲覧できるような情報ネットワークをつくる。「情報弱者」となりがちな高齢者世帯については戸別訪問するなどして事業者の情報を公開する、等々は最低限必要なことである。
高齢者や障害者の生活を支えるための福祉サービスに企業の参入を許す以上、サービス利用者の保護のためのシステム構築には万全を期する必要がある。悪徳事業者排除するためのシステムを住民の手で作り上げることが今求められている。 (Y)