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(回答先: JMM [Japan Mail Media] 「迷走するカール・ローブ疑惑」 冷泉彰彦 投稿者 愚民党 日時 2005 年 7 月 17 日 02:39:01)
2005年7月15日発行
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JMM [Japan Mail Media] No.331 Extra Edition
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http://ryumurakami.jmm.co.jp/
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▼INDEX▼
■ From Kramer's Cafe in Washington DC Vol.31
「連邦最高裁判事人選」
□ 村上博美 :ワシントンDC在住
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■ From Kramer's Cafe in Washington DC Vol.31
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「連邦最高裁判事人選」
米連邦最高裁の判事の席が11年ぶりに空く。判事自身が死亡したり辞任しない限
り最高裁判事は任命されれば終身である。今回夫の看病のために辞任を表明したサン
ドラ・オコナ−判事と高齢で闘病中のウィリアム・レンキスト最高裁長官の少なくと
も2つの席が空くといわれている。最高裁判事の人選がなぜ大事なのか。現在アメリ
カの価値観の二極化が進む中で、最高裁判事のイデオロギー分布が変わることは、ア
メリカの政策や価値観の方向性に変化が生じるからだ。大統領選から明確になった保
守とリベラルの溝は、国論を二分する価値観の是非を決める連邦最高裁判事の人選バ
トルへと場面を移している。
今回辞任するオコナ−判事は、歴代の大統領の中でも保守的なレーガン氏に任命さ
れた保守系中道派で、自身の信条より理性を重視した判断を下すことで知られており、
時として保守的な動きには抵抗した。例えば、1997年の安楽死(ワシントン対グ
ラックスバーグ)のケースでは、安楽死を容認するオレゴン州裁判所の判断を尊重し
たり、2003年の妊娠後期中絶禁止法案では、母体の危険性がある場合は中絶禁止
の例外事項にすべきだと待ったをかけた。また、オコナ−氏は女性初の最高裁判事で
あると同時に活動的な一面も持ち合わせていることから人気が高く、全米で最も尊敬
され活力のある女性は誰かといえば彼女の名前が必ず出る。それ以上に彼女が有名な
のは、価値判断が分かれるイシューの“スウィング票”の役割を担うことが多く、テ
レビのコメンテーターが、「オコナ−の時代」と呼ぶのもそのためだ。その一方で、
保守派やキリスト教右派などはオコナ−氏のこれまでのいくつかの判断を苦々しく
思っており、彼女の辞任によって、「中絶禁止という正しい方向」へ戻すよいチャン
スだと考えている。しかし個人の信条やイデオロギーが判断に直結する判事が多い中
で、比較的イデオロギーに偏らない彼女の判断は保守・リベラル双方から支持を集め
ていたともいえよう。
最高裁判事のポストは長官も含め9人。中道派のオコナ−氏の代わりに保守派が判
事となれば、イデオロギー的なバランスは保守派4人、中道寄りリベラル派4人、そ
して保守系中道派または“スイング”1人となり、人工中絶の非合法化や同性婚の否
定の明文化などが実現する可能性があるともいわれている。ブッシュ政権は2人の保
守派を送り込むだろうと考えられているが、イシューによってはこれまでの憲法判断
が覆されることもありえる。民主党のホルツマン議員が懸念するのは、5対4という
微妙な事態にいつも死活的な役割を果たしていたオコナー判事の辞任で最高裁の均衡
が崩れることであり、1973年の人工中絶に関する女性の権利を認めた最高裁判定
を覆す意向を持った判事が任命されることだという。
空席となる最高裁判事ポストをめぐって、ブッシュ大統領のテキサス州時代からの
友人で現司法長官のアルベルト・ゴンザレス氏が有力候補だといわれている。ゴンザ
レス氏がテキサス州高裁判事時代に下した判決の内容を徹底的に調査するなど、双方
の陣営からゴンザレス氏への個人攻撃が続いている。特に超保守派は氏がアファーマ
ティブ・アクション(差別是正措置)や人工中絶に消極的で“中道すぎる”と批判を
強めており、超保守派によるゴンザレス氏への執拗な批判にブッシュ大統領でさえ不
快感を露わにしている。一方民主党は、氏が決定に関わった拘留方針がテロ容疑者な
どの拷問へとエスカレートさせたと批判。5月の両党の取り決めでは、ブッシュ政権
が極端に保守的な人物を候補者として任命しなければ、民主党は承認プロセスで協力
すると約束した。ただし超保守派の人材を任命する場合、民主党あらゆる策を使って
強硬に抵抗すると言明している。
そんな中で超党派の圧力団体が前代未聞の1億ドルをかけて最高裁判事の選択に影
響を与えるべくTVコマーシャルを打つなど、政治バトルが加速している。特に、保
守系宗教団体や教福音派グループは2万人もの聖職者や宗教集団を動員して、キリス
ト教系ラジオ、TV、ダイレクトメールで大々的なキャンペーンを展開している。あ
る保守系宗教団体の長は「保守派が待ち望んでいた、連邦最高裁の思想の均衡を変え
るまたとないチャンスがめぐってきた」ことで、人工中絶や同性愛者、公共の場での
宗教的展示、学校での宗教教育といったイシューで今までの方針が覆されることを期
待しているようだ。
アメリカの国論を二分する人工中絶、安楽死、同性婚、アファーマティブ・アク
ションといったイシューはアメリカ人にとってイラク戦争よりはるかに重要である。
特に人工中絶に関しては、アメリカ人の世論調査で反対は6割を越える。事実ブッ
シュ政権になってから規制が厳しくなっており議論も活発に行われている。例えば先
日、ある田舎町に一軒しかない薬局で、レイプによる堕胎薬を要望した患者に対し薬
剤師は「自身の(中絶反対という)信条に沿わないので」薬を出すことを拒否したケ
ースがあった。その薬剤師は職務を放棄したという点で罰せられるべきか否かという
議論があり、最終的には「個人の信条を優先することは罪にはならない」との結論に
なった。このような議論が極めて真剣にされるのが今日のアメリカ社会なのである。
候補者の発表は今月末といわれているが、公聴会での承認プロセスを経て10月の
初めには新しい最高裁判事が決まる予定だ。ブッシュ大統領は「職務を全うし、まじ
めで頭脳明晰、そして憲法を厳格に解釈する人物」を任命するという。ローラ・ブッ
シュ大統領夫人をはじめ、オコナー判事の辞任を惜しむ声が多く、保守・リベラル双
方にバランスが利き、しかも女性であることから、ブッシュ大統領はもしかしたらオ
コナー判事をレンキスト氏の後任として長官に指名するかもしれないという憶測も流
れている。これならば政治的にも両陣営のダメージが小さいだろうが、ブッシュ陣営
も中道派を選べば身内から攻撃を受けることになり、最終的に判事が決まるまで、ど
うやらもうひともめありそうだ。
参考:Washington Post, CNN他
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村上博美:ジョンズ・ホプキンズ大学高等国際問題研究大学院講師
上智大学理工学部卒。経営学修士。国際関係論修士。ワシントンDCの戦略国際問題
研究所、経済戦略研究所の研究員を経て2004年より現職。政策海外ネットワーク
メンバー。http://pranj.org
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JMM [Japan Mail Media] No.331 Extra Edition2
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まぐまぐ: 19,160部
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発行部数:134,693部(7月11日現在)
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【編集】 村上龍
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