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http://www.jca.apc.org/stopUSwar/Japanmilitarism/kokumin_hogo_shishin.htm
脅威は北朝鮮でも中国でも「国際テロ組織」でもない。ブッシュのアメリカであり、ブッシュの言いなりになる小泉首相と日本政府自身なのである。
戦争への国民総動員と“銃後”体制確立を図る「国民保護基本指針」に反対する
−−中国との核戦争まで視野に入れ“戦争する覚悟”と戦争準備訓練を国民に押し付け義務化する−−
□「平素からの備え」で、都道府県、市町村、公共機関、学校、病院から国民までを有事体制にがんじがらめ
□防衛庁と自衛隊の連携を強化し、防災訓練と防災組織、ボランティア団体、自治会など既存の組織をそのまま戦争準備に利用。
□北朝鮮を想定した脅威をあおり、「戦争準備」の意識を植え付ける
□「戦争熱」を煽ることで侵略戦争への世論動員を狙う
[1]はじめに−−この4月からいよいよ「国民保護基本指針」の具体化が本格化する。地域・職場・学校・病院など、それぞれの持ち場で私たち一人一人がどう対応するのか。
(1) マス・メディアでは、郵政民営化問題、ライブドア・フジ問題がニュースのほとんどを占めている。しかしその下でとんでもない事態が進んでいる。
3月25日、日本政府は、戦争に対する準備を広範な国民に強制する「国民保護基本指針」を閣議決定した。韓国が、つくる会教科書による歴史歪曲や島根県の「竹島の日」条例に反発を強め、賠償要求も含めた日本の植民地主義・侵略戦争に対する批判を展開している中での戦争準備指針の閣議決定である。私たちは絶対反対である。
※有事の国民保護指針を閣議決定、4分類で対応(読売新聞)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050325-00000203-yom-pol
※国民保護に関する基本指針要旨(概要)
http://www.fdma.go.jp/html/intro/form/pdf/kokumin_041224_s1-3.pdf
※国民保護に関する基本指針(案)
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/hogohousei/pc/050304sisin.pdf
(本文中での国民保護基本指針からの引用はすべて、案からのもの)
今回の閣議決定と基本指針の具体化は、日本政府が、米と一体の「対テロ戦争」、北東アジア、「不安定の弧」そして中東から全世界への侵略戦争遂行のための戦争法作り−−武力攻撃事態法、国民保護法、新防衛計画大綱策定−−を一旦終え、いよいよ具体化の段階に入ったことを意味する。侵略戦争を遂行するためには、軍隊だけではできない。一方で、政府による一元的・国家的な統制強化と国民への強制と命令、国民財産の取り上げと徴発、批判者・反対者への弾圧が必要になり、他方で、国民の側の戦争をする覚悟、協力と忍耐、財産や土地の供出、政府への無批判な追従が不可欠となる。政府にとって、有事法や国民保護法という法律が出来るだけでは全く不十分である。それらを機能させるためには基本指針に基づき「銃後」の体制作りを具体化しなければならないのである。
(2) 実際、昨年6月の国民保護法法制定以来、国は各地方自治体や指定公共機関に対して有事対応計画を作成するよう求めてきた。しかし、その進展はまだまちまちであり、全体としては進んでこなかった。進んだのは、東京のような極右首長が牛耳る自治体や鳥取や福井など特殊事情のある自治体など一部である。政府与党は、このような足並みの乱れを、今回の閣議決定によって一気に払拭し加速しようとしているのである。
2005年度の国民保護計画作成が義務づけられていることから、今年に入って各都道府県議会などで「国民保護協議会設置条例」の制定、「国民保護計画」策定のための事業費計上、国民保護対策本部の設置などが矢継ぎ早に決められ、そして4月1日には、大規模な人事異動−−「有事対応」部署の新設と人員配置、防衛庁・自衛隊関係者の配属などが行われる。
いよいよ、私たちの地域や都市、町や村、職場や学校や病院が、この国民保護基本指針にどう対応するのかが問われる段階に入る。反対運動や義務化反対、命令拒否をどう組織するのか。「戦争訓練」「戦争教育」に巻き込まれないために一人一人がどう振る舞うのか。
[2]暴走する戦争準備、破綻する外交。小泉の日米同盟最優先、対米従属路線が、対韓国・対中国・対北朝鮮など日本の対アジア外交全体を行き詰まらせ始めた。
(1) 小泉政権の内外政策があちこちで行き詰まり破綻し始めている。内政も外交も経済も、全てが行き詰まっている。もちろん首相就任以来初めてのことである。
まず内政面では、首相自らが固執する予算成立後最大の政治焦点である郵政民営化問題が、自民党内の反対で具体案が取りまとめられない状況が続いている。郵政民営化法案が難航しているあおりで、重要法案のメドも立たない状況となっている。ミサイル防衛システムの迎撃手続きを改悪する自衛隊法の改悪法案は2月15日に提出されたが、とりわけ公明党との協議が必要な教育基本法改悪法案や、自衛隊の「海外任務」を本来任務に格上げする自衛隊法改悪法案、緊急事態基本法案などが、壁にぶちあたっている。一旦、国会上程に動き始めた人権擁護法案も、今度は右からの反対で暗礁に乗り上げた。
(2) 4月1日に発表された日銀短観によれば、これまで好調と言われてきた大企業製造業の景況感が2四半期連続で悪化した。「日米同盟経済」とはやされた一心同体の日米経済が明らかに限界と行き詰まりを見せ始めている。政府が無理に無理を重ねて主張してきた景気の「踊り場の長期化」の虚構が剥がれ落ちている。楽観論が支配的な政府与党関係者やエコノミストの見通しとは裏腹に、実質的に日本の景気は昨年来リセッションに入ったまま底を這い続けている。
(3) 小泉はどこまで米の言いなりになれば気が済むのか。ついに政府は、米国産牛肉の輸入再開問題で、あれだけ国民と消費者が強く求めていた「食の安全」を切り捨て、日米同盟最優先を貫いた。日本国民の命をブッシュに売ったのである。内閣府の食品安全委員会は3月31日、プリオン専門調査会がまとめたBSEの国内対策見直し案(全頭検査を緩和し、検査対象から「生後20カ月以下の牛」を除外することが柱)を了承したのだ。新基準は早ければ6月中にもスタートするという。消費者団体は政府の屈服を厳しく非難しており今後更に反対運動を強めるだろう。
(4) 小泉政府の外交政策、特に対韓国、対中国、対北朝鮮など、アジア外交全体がことごとく暗礁に乗り上げ、完全にストップしている。こんなことは戦後日本の歴史でもなかったことである。
とりわけ3月16日、島根県が「竹島の日」条例を制定したことをきっかけに日韓関係が最悪の状況に発展している。3月31日にも、韓国の国連大使は、日本の国連安保理常任理事国入り反対の立場を表明、過去の反省の問題を前面に押し出し、「周辺国の信頼を受けず歴史を反省しない国は国際社会の指導的役割を果たすことに限界がある」「日本に理事国入りの資格はない」と痛烈に批判した。当然のことである。
しかし島根県の動きはきっかけに過ぎない。すでにこの「竹島(独島)問題」では、在韓日本大使が「竹島は日本固有の領土」と、韓国世論を挑発していた。今回の問題を解くカギは、それが領土問題であるだけではなく、歴史問題、つまり日本の侵略戦争と植民地支配の問題であるという点にある。韓国政府と韓国の民衆は「竹島(独島)問題」を糾弾すると同時に、「つくる会」教科書採択をやめるよう求めている。
盧武鉉大統領は対日政策を転換、歴史問題で、真相究明、謝罪と補償を日本政府側に求める「新外交原則」を発表した。日韓関係の険悪化は、@すでに前回から9ヶ月も開かれていない6ヶ国協議の行方にも影響を及ぼすだろう。A敗戦60年を迎え、教科書問題、戦争責任問題、憲法改悪問題など、日本の軍国主義化、政治反動化にも影響を及ぼすだろう。Bそして日米韓軍事同盟そのものに複雑かつ重大な亀裂を持ち込むだろう。
※いわゆる「竹島(独島)問題」と日本の戦争責任−−歴史歪曲・戦争挑発の「つくる会」教科書の採択を許すな!(署名務局)
※<韓国政府>歴史問題で謝罪と反省求める 対日政策を転換(毎日新聞)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050317-00000120-mai-pol
(5) 小泉首相が就任と同時に強行した靖国参拝問題によって、もう丸々4年に渡って日中関係の悪化が続いている。こんなに長い外交関係の中断はかつてなかったことである。更に、2月19日、日米安保協議委員会(2+2)の共同声明の「共通の戦略目標」で、「台湾海峡をめぐる問題」に言及し、日米が共同で異例の内政干渉の表明を行い、中国からの反論を受けた。
折りもおり、空自が伊良部島の下地島空港を、対中有事の拠点にすると表明、対中国対決姿勢を鮮明に打ち出した。昨年末の新防衛大綱・中期防をきっかけに、小泉政府は、中国を事実上の「仮想敵」扱いし、今後の在日米軍基地再編を通じても、日米安保の「再再定義」の相手を明確に中国に定める挑発的な動きを見せ始めた。
※日米防衛協力 指針改定作業に着手 対中・北対処を強化 8月めど(産経新聞)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050313-00000003-san-pol
※2プラス2、19日に米で開催 「共通戦略目標」合意(産経新聞)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050205-00000005-san-pol
※米軍再編日米協議 指針改定3月着手へ 新たな脅威に対応 8月新安保宣言(産経新聞)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050130-00000001-san-pol
(6) 小泉政府は遺骨問題をきっかけに日朝関係をますます悪化させている。日朝国交正常化交渉再開にリーダーシップを発揮するどころか、自民党内の北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)への経済制裁論の高まりになすがままに任せ、ついに3月1日には船舶油濁損害賠償保法改悪を施行し、事実上の経済制裁を開始し、対北朝鮮政策は完全に袋小路に入った。
[3]一方では戦争動員体制体制作り、他方では外交関係の途絶−−まさに疑似戦争体制への道。
(1) 何よりもまず私たち国民は、小泉政府が今やっていることを中国・韓国・北朝鮮の側から客観的に見なければならない。日本はどう映っているかだ。一方では戦争動員体制体制作り、他方では外交関係の途絶。この両方を一体のものとして本気でやれば、これはもはや米日の軍事同盟による封じ込め政策、“疑似戦争体制”への道である。冷静になり自分を見つめ直さねばならないのは、中国や韓国の方ではなく、日本自身の方である。これ以上エスカレートする前にどこかでストップさせなければならない。
中国、韓国、北朝鮮は、全て日本があの「15年戦争」の際に、侵略し植民地支配した国々である。日本の未来を展望する場合、万難を排して協力関係・共生関係・善隣友好関係を構築して行かねばならない東アジアの最も重要な隣人である。にもかかわらず中国・北朝鮮とは「仮想敵」で対決を公言し、韓国とは急浮上した歴史問題での関係悪化に突き進んでいる。
(2) 外交関係途絶の下で、今回の「国民保護基本指針」をどんどん進めれば一体どうなるのか。空恐ろしくなる。
この国民保護基本指針の最も大きな狙いは、国民に戦争をやる覚悟を植え付けることである。政府与党は、「戦争教育」「戦争訓練」をするだけでも十分な効果を持つと考えている。すでに拉致問題と核保有問題をきっかけに、政府・マスメディアが一体となって「北朝鮮の脅威」を持ち出せば国民が「戦争やむなし」の社会的心理状態になり、「戦争熱」を浮かせるところまでは来た。
しかし政府・自民党・極右勢力にとっては、まだまだ物足りない。彼らは、国民の間に残る平和意識、戦争への反対と躊躇に我慢が出来ないのである。ちょうど今から60年前にアジアと日本自身の民衆に途方もない犠牲を強いた「15年戦争」、その結果生まれた憲法第9条、戦後の平和運動や原水禁運動などによって国民全体に染み渡った平和主義を今度こそ打ち破り、完全に払拭することを狙っている。
国民保護基本指針は、中国や北朝鮮との核戦争まで視野に入れている。こんな現実にはありもしない戦争の可能性を「国民保護」体制作りを使って針小棒大に宣伝することで危機感をあおり、「集団ヒステリー」状態を作り出す。侵略戦争に対する国民の躊躇や抵抗感をなくし、「仮想敵」への敵意を作り出し、日常生活の中に「軍事」「軍隊」「戦争」が入り込む状況を作り出す。反対する者、拒否する者を洗い出し尾行し、嫌がらせをし、逮捕・投獄をやりやすくする。これまでとは比較にならない監視体制、治安弾圧体制を作り上げる。戦後日本の雰囲気をすっかり変えてしまい、「平和主義的な国民性」を「好戦的な国民性」に一変させてしまう−−このような効果を狙っているのである。
国民保護基本指針では「敵国による」「敵もその行動を」「ゲリラ」「特殊部隊」「あなたの隣に敵がいるかもしれない」等々の戦争を煽る言葉が踊る−−すでに始まっていることだが、中国や北朝鮮、在日韓国・朝鮮人に対する敵意と憎悪を意図的に煽る。地域・町内会組織を利用して住民同士の相互監視、戦前の「隣組」復活を目論む。戦争に反対する者、こうした動きに違和感を持つ住民を探しだし暴き立てる「非国民」探しが始まる。そしてこうした好戦的で民族排外主義な「戦意高揚」は、憲法改悪や教育基本法改悪などの、軍国主義化・反動化の動きをますますエスカレートさせる。等々。−−政府与党の思惑通りに事が進んでいけば、このようなきな臭い世の中、暗い世の中に変わっていく。
[4]政府は本気で中国、北朝鮮と戦争するつもりなのか−−国民保護基本指針の本質は、「攻撃を受けた場合」ではなく、「攻撃する場合」。「戦争被害者」ではなく「戦争加害者」。「受動的対応」ではなく「能動的対応」。
(1) しかし、今回の国民保護基本指針の重大な決定について、新聞やTVなどマス・メディアは極めて小さい取り扱いでしか報道しなかった。もちろん批判や非難はほとんど聞こえなかった。しかも、「日本が外国から攻撃を受けた場合の住民の避難や救済方法を定めた」(朝日新聞)などと政府の説明をそのまま垂れ流しているのだ。
「日本が外国から攻撃を受けた場合の住民の避難や救済方法を定めた」−−まるで国民保護基本指針が日本の側の受動的対応、攻撃された場合の対応、戦争被害者としての対応を取り決めたものであるかのようだ。そもそもここに指針のウソとごまかしがある。実際には全く正反対なのである。
現に今、中国、北朝鮮が日本を「仮想敵」に据えて直接戦争準備、戦争訓練をしているであろうか。しかも小泉は外交関係を途絶している。そんな状況の下で、日本が具体的な形で戦争準備・戦争訓練を開始すれば一体どうなるのか。一気に緊張を高め、抜き差しならぬ状況に至ることだけは間違いない。誰が戦争回避のため、日本国民のためだと思うだろうか。日米同盟が一体となって戦争を仕掛けてくると身構えるのが当然である。なぜ今、戦争に備えて動員体制を作る必要があるのか、戦争を起こそうとしているのではないか。そう疑惑を持たれても仕方がない。
悪化した外交関係・信頼関係がますます悪化するだけである。中国・北朝鮮との関係を悪化させ、緊張を激化させるだけだ。国民は目を覚まさねばならない。政府に騙されてはならない。今回閣議決定された国民保護基本指針は、「国民を守る」「国民保護」という美名の下に、実際には近隣諸国との緊張関係をエスカレートさせ戦争の危険に追いやるものなのである。
(2) 国民保護指針は、想定する「武力攻撃事態」を類型化した。このような類型は、国会で提起されたことも、議論されたことも一度もない。初めてのことである。危機が迫っているというのなら、その具体的な中身を国民の前に提起して、その真偽を徹底して議論すべきである。そのような国民の一大事を政府は、何の科学的な根拠もなく勝手に閣議決定したのである。(第2章「武力攻撃事態の想定に関する事項」 第5章 「緊急対処事態への対処」)
−−すなわち第2章では、@敵国による船舶や航空機による着上陸侵攻、Aゲリラや特殊部隊による攻撃、B弾道ミサイル攻撃、C航空攻撃。さらに「NBC」攻撃の場合の対応を抜き出して核兵器等、生物兵器、化学兵器を挙げ脅威をあおる。
−−さらに第5章では「武力攻撃に準ずるテロ等の事態」という「緊急対処事態」なる概念を導入し、「武力攻撃事態」に準ずる措置を求めている。緊急対処事態は「武力攻撃事態」におけるゲリラや特殊部隊による攻撃と類似の事態が想定され、武力攻撃事態同様「明白な危険が切迫していると認められるに至った事態」を含んでいる。そしてそれを、@危険物資がある部隊への攻撃、原発の破壊、石油コンビナートやガス貯蔵施設の爆破危険物積載船への攻撃、ダムの破壊、A多数の人が集合する大規模集客施設、ターミナル駅等の爆破や列車の爆破、Bダーティボムの爆破、炭疽菌等の大量散、市街地等でのサリンなどの大量散布、水源への毒素混入(4)航空機による自爆テロ、弾道ミサイルの飛来−−に分類している。
(3) 国民保護基本指針が「武力攻撃事態の想定がどのようなものになるかは一概には言えない」としているように、そもそも想定しにくい事態をあえて想定している。それはあたかもB級のマンガのようである。
−−たとえば、「核攻撃」では、爆心地に重大な被害をもたらしたヒロシマやナガサキのような大規模な核被害を想定しながら、死の灰の降下をさけるために手袋や帽子、雨ガッパを着用して避難する(意味があるのか?)。
−−弾道ミサイルが発射されたときは、屋内へ避難して、消火活動をする(屋内で消火活動?)。−−空爆は攻撃目標を早期に判定することは困難であるから、屋内へ避難し、生活関連等施設の安全確保につとめる(どうやって?)。
まさに私たちの父母、祖父母がかつて体験した、防空ずきん、防火槽とバケツリレー、床下の防空壕などと全く同じ発想である。要するに、一般的に考えられる危険を挙げられるだけ挙げ、国民に危機感を植え付けること、そして隣国に対する恐怖心・脅威を煽り立て戦争準備に巻き込むこと−−これが目的であることがこの想定からも明らかである。
(4) 何と基本指針は“核攻撃”をも想定している。しかし、冷戦の終了後は大規模な核戦争はありえないことは明白である。日本に核攻撃を加え、大都市から住民が避難するほどの被害をもたらすとすれば、そのような国は中国しかない。しかし今、中国が日本に核戦争を仕掛けてくると想定するのは、荒唐無稽で、あり得ないシナリオである。
また、基本指針は弾道ミサイル攻撃を想定している。これは言うまでもなく北朝鮮のテポドンである。しかし、北朝鮮が日本に弾道ミサイルを撃ち込めば、米の総反撃によって、一瞬のうちに国家を滅ぼす。これも全くリアリティが無い。内閣官房自身が「可能性は極めて低い」としているケースだ。
しかしこのように、リアリティが無いにも関わらず危機を想定するというのはどういうことか。また「武装ゲリラ上陸(北朝鮮)」「島嶼への侵攻(中国)」「テロ攻撃(中東)」などが想定されている。初めの2つは、直ちに大規模な戦争につながる行為であって、米の核兵器との対決なしにはあり得ず、現実には起こりえないものだ。3番目の「テロ攻撃」こそ、小泉首相がアメリカのアフガニスタン、イラクなどの侵略を全面支持したことによって新しく発生した危険である。「テロ攻撃」から国民を守る最も効果的で手っ取り早い方法はただ一つ、イラクから撤退すること、インド洋に派遣している艦隊を撤退させること、米国のイラク戦争支持を撤回することである。
では、なぜリアリティのない戦争に向けた国内総動員体制を進めるのか。それは、これら諸国との戦争、軍事的包囲、対峙に備えた単独行動主義的・先制攻撃的な軍事戦略をとっているブッシュ政権との従属的軍事一体化を推進するためである。実際に危険が無いにもかかわらず、あたかも危険があるかのように世論を操作することで、ブッシュの言いなりになって、北朝鮮、中国を仮想敵とし、敵視政策・緊張激化の方へと政策転換するということである。
(5) この「国民保護」体制が下部まで具体的な形で徹底されるとどうなるか。現在でも災害訓練を名目に住民組織を挙げて参加させている。これを戦争訓練版でやるということだ。しかも、今度は国民は「協力するものとする」となっており、当然のごとく住民は強制力をもって参加させられる。住民組織をあげて避難、被害者救済、物資や弾薬運搬、戦闘部隊の展開などを行う。
動員された人々は当然何のための訓練かを問う。「ミサイル攻撃を受けたときの訓練だ」となる。しかし動員された人々は、北朝鮮が金正日体制と国家の滅亡を覚悟しなければミサイルを発射できないことも、そのミサイルが精度が悪くて殆ど何の被害を与えることも出来ないことも、ましてやそのミサイルに核弾頭など搭載されていないことなども、決して知らされない。人々に刷り込まれるのは、北朝鮮は何をするか分からない恐い国だ、理由なしに攻撃してくる国だ、だから被害に遭う前に米日政府は先制攻撃を含めて「自衛権」を発動すべきだという意識だけだろう。
(6) 以上見てきたように、「国民保護基本指針」は、国民を保護するどころか、逆に国民を戦争の危機にたたき込むためのものである。脅威は北朝鮮でも中国でも「国際テロ組織」でもない。ブッシュのアメリカであり、ブッシュの言いなりになる小泉首相と日本政府自身なのである。
※2004年11月28日に「国民保護の先進県」鳥取県で行われた「鳥取県第二回国民保護フォーラム」において総務省消防庁総務課国民保護室長平嶋彰英氏は「国民保護と地方自治体」という講演を行った。地方自治体には国民保護計画の作成について「大変取り組みの早いところと普通のペースのところ」があり、これを加速するために地方公共団体国民保護懇談会を作り、「基本指針」を作成したことを明らかにしている。平嶋氏は、その講演の中で、国民保護計画の策定と普及啓発、訓練、組織体制の整備など地方自治体の役割を述べているのであるが、実際には講演の大半を脅威のシナリオの説明に費やしている。そこでは「イスラエルが行う戦争といえば外に出て華々しく活躍していた」などと好き勝手なことをしゃべり、「武力攻撃事態」の「弾道ミサイル攻撃」に関して、ノドンで「東京のど真ん中を狙えば山手線のどこかに落ちる」、ノドンは「日本あるいは在日米軍基地を意識したモノ」、「ゲリラや特殊部隊による攻撃」に関して、「ゲリラ戦」(北朝鮮の状況)というスライドを見せ、北朝鮮の特殊工作員の能力を紹介するなど、露骨に北朝鮮を名指しした敵意と危機をあおっている。
http://www.pref.tottori.jp/bosai/kokuminhogo/forum2/report/04_lecture2.pdf
[5]イラク派兵、「新防衛大綱」と海外派兵の恒常化、在沖・在日米軍基地の再編と国民保護基本指針はワンセット
(1) 政府が想定する「武力攻撃事態」の類型は妄想でも何でもない。日本の新しい「防衛政策」=「新防衛大綱」の基本に基づいたものである。
国民保護基本指針は「はじめに」でまず、指針策定の根拠として昨年9月に施行された「国民保護法」第32条を元にしていることを挙げながら、「武力攻撃事態法」および「国民保護法」に加え、昨年末の「新防衛大綱」の閣議決定を受けていることを明らかにしている。「日米安全保障体制を基調とする米国との緊密な協力」を前面に押し出し、「我が国に直接脅威が及ぶことを防止すべく最大限つとめるとともに、我が国に脅威が及んだ場合には、政府が一体となって統合的に対応すること、このため、平素から国民の保護のための各種体制を整備するとともに、国と地方公共団体とが緊密に連携し、万全の体制を整える」という観点から、「指針」作っていることを明言する。
(2) ところでこの「新防衛大綱」は、日本の軍事戦略と日本の自衛隊のあり方を根本的に変える政策決定である。安全保障の目標を「我が国に直接脅威が及ぶことを防止排除する」といういわゆる「専守防衛」に加え、「国際的な安全保障環境を改善して我が国に脅威が及ばないようにする」−−すなわち、イラク戦争など米が「脅威の排除」「悪の枢軸」などをでっち上げて全世界で行う侵略戦争と軍事行動に対して積極的に関与していく軍隊に変貌させることを明らかにしたものである。
新しい防衛大綱では、第一に、「国際テロ組織などの非国家主体が重大な脅威」であり、「大量破壊兵器や弾道ミサイルの拡散の進展、国際テロ組織等の活動を含む新たな脅威や平和と安全に影響を与える多様な事態」を脅威と認定している。
第二に北朝鮮と中国である。北朝鮮に加えて強大な国・中国に敵対しようとしている。
このような「脅威」への対抗を眼目に、自衛隊を海外派兵できる軍隊にするために根本的に改編し再組織し、その上で米政府・米軍の命令通り、途上国への先制攻撃侵略戦争に参戦し、米政府・米軍に全面的に奉仕しようというのである。さらに、日本の国と国民を丸ごと米軍の対中東侵略、対北朝鮮・対中国との軍事対決の“最前線”“要塞”にしようというのである。
※新「防衛大綱」「中期防」閣議決定批判:シリーズその1 血まみれのブッシュの侵略戦争と軍事覇権に全面奉仕する愚挙 (署名事務局)
(3) 自衛隊イラク派兵は、日本軍国主義と日米同盟の歴史の中で全く新しい段階を画するものである。米のイラク侵略戦争への全面支持と加担、銃撃戦を覚悟しての「戦闘地域」への自衛隊派兵、ファルージャをやアブグレイブをはじめ米軍による大虐殺・拷問・虐待への占領軍の一員としての直接的協力。明らかに一線を超えた。いかに「復興支援」「給水活動」を隠れ蓑にしようとも、自衛隊は、イラクの反米勢力にとっては米の最有力の同盟軍であり侵略軍である。
3月のオランダ軍撤退以降自衛隊はますます米英軍と軍事的に一体化している。ところが、ブッシュはイラク戦争と占領支配の泥沼に陥りながらも、イラク各地に恒久基地を建設し、石油支配と中東覇権のために居座り続けようとしている。さらにブッシュはシリア、イラン、北朝鮮などを次の標的として名指ししている。ブッシュの任期は05年の1月を起点としてまだ09年まで4年もある。
国民保護基本指針は、このように中東で我が物顔に振る舞う米軍への自衛隊の一体化・従属化、在沖・在日米軍基地再編問題と深く結び付いている。指針は、日本列島全域に渡って米軍の自由な移動と戦闘態勢を保証しようとしている。自衛隊基地強化による在日米軍基地補完もその一例である。政府は、米軍の指揮下で日本の国土と国民を戦争に総動員出来る体制作りを急いでいるのである。
一方で、そんな対米従属的な軍国主義のエスカレーションを推進しながら、他方で、イスラム原理主義等による「テロ」を本気で恐れているのなら、本末転倒も甚だしい。イラクと中東、イスラムの民衆に屈辱を与え残虐行為を繰り返す米軍を全面支援しそれに従属しながら、報復はけしからんというのはふざけた対応である。イラクの自衛隊宿営地への、迫撃砲弾・ロケット弾の攻撃が相次いで起こっているが、大きな被害がないのは奇跡的である。本当の意味で、「テロの復讐」を防止するには話は簡単だ。対米加担を今すぐやめ、自衛隊を撤退することなのである。
[6]「有事」に向け、全国各地の地方自治体に指示・命令する形で「平素からの準備」体制を強化
閣議決定された国民保護指針は、地方自治体レベルで作成する「国民保護基本計画」の下敷きになる。「有事」に向けて末端にまで至る日常的な組織体制の構築、人員配置、訓練を行わせ、有事の網の目の中にがんじがらめにし、国民の中にはっきりと、戦争準備の意識を植え付ける。戦争を生活の中に組み込ませるのだ。
@非常物資の備蓄、警報、避難、救援などの平素からの準備。A国、都道府県、市町村、指定公共機関、公共機関による組織体制と人材育成。B自衛隊、防衛庁との連携の平時からの強化。C既存の防災組織や防災活動。ボランティアなどの有事への組み入れ。防災訓練の有事訓練への活用。D「自発性」に基づく国民の協力の要請。あらゆるレベルでの訓練への参加促進。等々。
国民保護指針は、まず第一章の1で「基本的人権の尊重」を第一に挙げるが、言った尻から「物資や土地家屋の使用、退去命令において基本的人権の制限が公正かつ適正な手続きの元に行われなければならない」とし、国民保護法で確認された、基本的人権の制約・蹂躙の条件を明らかにする。国民保護指針そのものが、国民主権、基本的人権の尊重、平和主義を掲げた日本国憲法の重大な違反なのである。
以下、国民の権利を蹂躙し有事体制に巻き込む国民保護基本指針のいくつかの中身を見てみよう。
※国民保護基本指針は以下の構成である
「はじめに」
「第一章国民の保護のための措置の実施に関する基本的な方針」
「第二章武力攻撃事態の想定に関する事項」
「第三章実施体制の確立」
「第四章国民の保護のための措置に関する事項」
「第五章緊急対処事態への対処」
「第六章国民の保護に関する計画等の作成手続き」
「はじめに」、「第一章」で基本方針を述べたあと、第二章で「武力攻撃事態」を類型化し、第三章「実施体制の確立」で国内組織・体制の整備・確立をはかる、第4章では、a)住民の避難、b)炊き出し、医療などの避難住民の支援、安否情報など、c)原発の停止、危険物資の取り扱いなど「有事」への対処、d)情報、交通等の確保、e)ライフラインの確保等具体的な準備のための方策を詳述する。第5章では、「武力攻撃事態」と区別した「緊急対処事態」を類型化している。
この中で、一番の眼目は、第3章および、第4章である。「平素からの備え」−−官公庁での勤務体制や組織体制、新たな部署の創出、人員配置を迫るものであり、日常的な訓練を通して意識を植え付けるものである。
(1)情報の管理統制と「大本営発表」の垂れ流しネットワークの構築。
侵略戦争を正義の戦争と信じ込ませ、戦争熱を煽るための最重要の武器は虚偽の情報を作り流す世論誘導と情報統制である。国と地方公共団体は、「正確な情報」を「適宜かつ適切」に提供する。(第1章−3)武力攻撃事態を認定するのは、国であり、その根拠となる情報は米軍から提供される。「正確な情報」(これがウソとデマに満ちたものであることはイラク戦争における「大量破壊兵器疑惑」で白日の下にさらされた)とは米軍からもたらされた情報であり、「適宜・適切」とみなされた方法で流す。これが基本的な前提である。このために国民からの真の情報の排除を確立する情報統制=「大本営発表」のネットワークが構築される。
「警報の通知及び伝達」(第4章−第1節−1−2)では、「中央防災無線、消防防災無線、都道府県防災行政無線及び市町村防災行政無線を中心に、霞が関WAN、総合行政ネットワーク(LGWAN)等の公共ネットワーク、地域衛星通信ネットワーク等、これらの情報通信手段をその特性に応じて適切かつ効果的に活用して、国から地方公共団体及び放送事業者等の指定公共機関へ通知・伝達するものとする」とされ「正確な情報」とは国から発信される情報であり、それはまずは行政ネットを通じた配信であることが定義されている。
その上で「警報等の放送、避難の指示等の放送及び緊急通報の放送については、放送の自律を保障することにより、その言論その他表現の自由に特に配慮するものとする」として、表現の自由は、「保障」ではなく、何の法律的裏付けもない「配慮」の対象となり、憲法21条は蹂躙される。
※ 情報統制されたもとでの偽情報発信のもつ恐ろしさを見せつけたのが、NHKによるニュース「誤発信」である。ところで、「新宿駅陥没」「山手線炎上」とはただならぬ事態、都心部での「テロ攻撃」を想起させる事態である。NHKは3月17日、独自の有事演習をしていたのではないのか。
<NHK>「新宿駅陥没」などと携帯向けニュース誤配信
http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/wadai/news/20050319k0000m040186000c.html
※米軍情報によって、日本で戦争熱があおられる事例は最近のいくつかの事件を見るだけで十分である。
突如の「ノドン発射準備」騒ぎは何を意味するのか? 米軍のMDイージス艦日本海配備と連動、「予測事態」で初の有事法発動演習(署名事務局)
小泉政権による公海での不法な武力行使、北朝鮮敵視政策を糾弾する!(署名事務局)
(2)警報には、人心をかき乱す特殊なサイレンを用いる。
国民に知らせるための手段としてサイレンが最重視され、警報の「サイレンのパターンと音色」は明確に有事と認識できる明瞭なものを定める。空襲警報のような異様なサイレン音によって、情報統制と併せて国民を否応なく有事にたたき込む。このサイレンは当然、「有事」だけでなく、「訓練」時にも流して、国民に周知徹底しなければならない。(第4章 第1節−1「警報」)
(3)自衛隊と都道府県・市町村などとの連携強化
国民保護基本指針は、これまで「防災対策」「防災訓練」の名目でなし崩し的に進められてきた自衛隊と地方自治体との連携を一気に強化拡大しようとしている。指針は、「関係機関相互の連携体制」(第1章−4)として「平素からの関係機関相互の連携体制の整備につとめるものとする」、その中でも(3)として「地方公共団体と防衛庁・自衛隊との連携」が独立の項目としてとられ「地方公共団体と自衛隊は防災のための連携体制を活用しつつ・・・平素から連携体制を構築しておくものとする」、「自衛隊の部隊等による国民保護措置が円滑に実施できるよう、相互の情報連絡体制の充実、共同訓練の実施等につとめるものとする」と自衛隊との関係強化、共同訓練を要求している。この連携強化の目的は、「自衛隊の部隊等の活動が」「円滑に実施できる」ことである。米軍・自衛隊の活動と住民避難が対立する場合どうするのか。ここには軍事行動が優先されることが明記されている。
(4)学校現場も含めた有事訓練国民への啓発活動
国民保護基本指針は、教育現場、学校で「有事教育」と「有事訓練」を行うよう要求している。
○「国民の協力」(第1章−5)において「国民はその自発的な意思により、必要な協力をするようつとめるものとされている。国は地方公共団体の協力を得つつ、パンフレット等防災に関する啓発の手段等も活用しながら、国民保護措置の重要性について平素から教育や学習の場も含め様々な機会を通じて広く啓発につとめる」とされ、有事訓練にとって学校と教育は重要な役割を担おうとしている。
学校は、「有事教育」の場として、「有事訓練」の場として、さらには避難所として、安否情報収集の協力対象として等々、「平素からの備え」にとって恰好のターゲットなのだ。国民保護基本指針には教育と学校、教育委員会の役割が随所に登場する。「日の丸」「君が代」の強制だけでなく、有事訓練と有事のための備えが強制されることになる。これは重大である。なぜなら、過去の侵略戦争の賛美、愛国心一般の強制である日の丸・君が代に対して、「有事訓練」は、仮想敵を直接に意識した避難行動が必要になるからである。「北朝鮮が弾道ミサイルを撃ってくる」、「イスラム過激派が白い粉をまく」等々を想定した訓練が要求されるからである。露骨に民族排外主義と差別を煽るものである。
○「市町村その他の関係機関は、できる限り自治会、町内会等又は学校、事業所等を単位として避難住民の誘導を行うよう努めるものとする。(第4章第1節4−1「避難住民の誘導」「平素からの備え」)
○「避難所として、学校、公民館、体育館等の施設を指定する(第4章第1節5−5「避難施設の指定」)
○「武力攻撃事態等に至ったときに直ちに安否情報の収集が実施できるよう、保有する資料等に基づき事業所・学校等安否情報の収集の協力を要請する関係機関を把握しておくなど、平素から必要な準備をするよう努めるものとする。」(第4章第2節−6「安否情報の収集および提供」)
○「市町村は、関係機関(教育委員会など当該市町村の各執行機関、消防機関、都道府県、都道府県警察、海上保安庁、自衛隊等)と緊密な意見交換を行いつつ、消防庁が作成するマニュアルを参考に、複数の避難実施要領のパターンをあらかじめ作成しておくよう努めるものとする。(第4章第1節4−1「避難住民の誘導」「平素からの備え」)
(5)ボランティア・消防団・赤十字など既存の組織の充実と、その有事体制への活用
国民保護指針では、有事体制を既存の組織を強化し最大限巻き込む形で準備している。地震や台風、火事などの防災訓練、各地の消防団など自主防災組織、被災地で活動するボランティア団体、障害者や高齢者を介護するボランティア団体、これらも「連携」の対象である。被災地などでボランティアをする団体や個人も政府の有事体制=戦争準備に巻き込まれることなしにはできなくなる。
@消防団と自主防災組織
○消防庁及び地方公共団体は地域住民の消防団への参加促進の自主防災組織の核になるリーダーに対しての研修等を通じて自主防災組織の充実を図り、国民保護についての訓練の実施を促進、施設の充実。
(第1章5−2「消防団及び自主防災組織の充実・活性化」)
A赤十字やボランティア団体
○「平素から日本赤十字や社会福祉協会その他ボランティア活動団体との連携をはかり、武力攻撃事態におけるボランティアとの連携方策について検討するものとする。」(「第1章5−3ボランティアへの支援」)
すでにテロ対策を隠して、訓練実績が次々と積み上げられている。
※陸自西部方面隊と日赤 「災害対処」で対テロ訓練
http://kumanichi.com/feature/kenpo/9jyo/3sho/01.html
B情報ネットワーク、運送ネットワーク等々の構築
学校、病院、駅、空港、大規模集客施設、大規模集合住宅、官公庁、事業所その他の多数の者が利用又は居住する施設の管理者に対する避難誘導の措置や訓練、鉄道、バス、航空機、船舶等の掌握、通信の確保、運送の確保、交通の管理、民間からの救援物資等の受け入れ−−要するにすべての施設やサービス、活動が「平素からの備え」の対象となっているのだ。(第4節「国民の保護のための措置全般についての留意事項」など)
(6)「有事のプロパー」と実施体制の確立−−24時間当直体制と研修制度の充実・人材の育成
国民保護基本指針は「実施体制の確立」の「組織・体制の整備」において、「対策本部」「国民保護対策本部」の設置を求め、各部局における事務分担、職員の配置等をそれぞれの国民保護計画、国民保護業務計画等で定め、職員に周知徹底することを要求している。そのために「研修制度の充実」「人材の育成」につとめることを要求している。公務員の中に「有事のプロパー」を役職として配置し、都道府県では、防災体制と併せて担当職員による当直等24時間即応可能な体制をつくり、市町村は消防との連携をはかり当直の強化をはかることを明記している。地方自治体は、平素から職員配置、食料、燃料の備蓄、自家発電設備及び仮眠設備の確保を図らなければならない。(第3章「実施体制の確立」)
(7)有事訓練の推進。なんとしても国民を「自主的に」参加させろ。
国民保護基本指針の目玉の一つはなんと言っても、訓練への国民の「自主的な」参加を地方自治体に義務化することである。この構図は、君が代を生徒たちに歌わせることを教職員に強制するのと似ている。地方自治体は、住民が参加しやすいような日程や場所を選定しなければならない。
○防災訓練の有事訓練との結合
「国民保護措置と防災のための措置との間で共通する収容施設の運営、避難住民等への炊き出し等の訓練については、これらを実施する際に相互に応用できることを示して、国民保護措置についての訓練と防災訓練とを有機的に連携させるよう配慮するものとする。」
○警察の協力
「都道府県警察は、訓練の効果的な実施を図るため特に必要があると認めるときは、標示の設置、警察官による指示等により、交通の禁止又は制限をするものとする。」
「警察は訓練に対して、交通の禁止や制限をおこなう。」
○国民の協力を得るのは国と地方公共団体の義務
「住民の避難に関する訓練を行う場合において、必要と判断するときは、地方公共団体の長は、住民に対し、当該訓練への参加についての協力を要請するものとする。この場合において、訓練の時期、場所等は、住民が参加しやすいものとなるよう努めるものとする。」(第7節訓練及び備蓄 1 訓練)
○「地方公共団体の長は住民に対し訓練への参加についての協力を要請する。」
○「国及び地方公共団体は、国民保護措置についての訓練を行う場合は、住民に対して、訓練への参加を要請するなどにより、国民の自発的な協力が得られるよう努めるものとする。」(国民の協力 国民への啓発)
○指定公共機関、指定地方公共機関の訓練参加は義務
指定公共機関指定地方公共機関は自主的な訓練、国や地方公共団体の訓練に参加するようつとめる。
[7]首相の非常大権と国家の無法。やりたい放題の治安弾圧。米軍基地が集中する沖縄だけは政府の直轄下に。再び“捨て石”にされる危険。
(1) 「内閣総理大臣の是正措置」=首相大権。
都道府県知事によって避難措置などが行われない場合には、首相が直接住民の移動などの措置を行うことが認められている。首相の非常大権である。これによって、戦争に反対する都道府県や住民に対して強権を発動することができる。( 第4章第3節−4内閣総理大臣の是正措置4)
(2) 警察官、海上保安官に加え、消防員、自衛隊員も治安弾圧が可能。
国民保護基本指針は、「避難経路となる場所に避難の障害となるような物件を設置している者や避難の流れに逆行する者等に対して行うものとする」とし、警察官又は海上保安官に加え、消防員、自衛隊員による治安弾圧を認めている。(国民保護法第66条第2項に規定する措置 立入禁止、退去命令、物件の除去等)(避難住民を誘導する者による警告、指示等)
(3) 「沖縄県の住民の避難」は国が管轄する。
国民保護基本指針では第一章 第一節−2−(4) 避難に当たって配慮すべき事項において、「@ 避難に当たって配慮すべき地域特性等」で「都道府県の区域を越える避難」「離島」「大都市」「積雪地域」「原子力事業所近接地域」「自衛隊施設、米軍施設等の周辺地域」などとともに、「沖縄県の住民の避難」の一項目をとっている。ところが、他の地域における避難指示を出す主体が都道府県、市町村であるのに対して、「沖縄県の住民の避難は・・・国が特段の配慮をすることが必要」とし、「国は、沖縄県と連携協力して・・・避難に必要な航空機、船舶、飛行場及び港湾の確保につとめるものとする」などと、あくまで国が統括し、沖縄県は協力者でしかないことを確認している。つまり沖縄県は、県内避難、県外避難に関わらず勝手に運送業者に避難民の輸送を依頼することができないのだ。一般の「自衛隊施設、米軍施設等の周辺地域」でさえ、避難に関する措置を行う主体は地方公共団体であり、国は「必要な調整」に留まっているのである。
沖縄は日本全国の米軍基地の約75%にのぼる米軍基地が集中し、沖縄本島の2割近くを米軍基地が占めそのほとんどが県民の住宅地区に近接している。有事には、米軍の行動が最優先である。そこで沖縄県が勝手に住民避難をさせては困る。反米闘争、反戦運動が道路や米軍基地周辺に押し掛けるようなことがあれば困る。そのために、沖縄県の自立性、自主性をあらかじめ封じ込めておくというのだ。何と露骨なことか。
※離島や大都市、豪雪地帯などは、パブリックコメントで寄せられた意見によってあとから追加されたもので、もともと「沖縄」は「原子力事業所近接地域」と並ぶ重要項目であった。できあがった文書では目立たないようにうまく埋もれさせている。
[8]有事法制反対闘争は新しい段階に−−各地・各職場での基本指針具体化、戦争教育、戦争訓練などとの闘いへ。
(1) 国民保護基本指針閣議決定をうけて、「有事」における国や地方自治体−−都道府県・市町村、指定公共機関は、住民の避難と統制、野戦病院の開設、運送業者の協力等々について、各地の地形や人口密度、交通網、文化財などの有無などの特殊性を考慮した計画を策定することになる。4月1日に始まる2005年度中には都道府県と各省庁が「国民保護計画」を、「指定公共機関」が「国民保護業務計画」を策定し、2006年度には市町村が「国民保護計画」を策定することになる。政府は、NBC兵器による攻撃を受けた場合の避難方法や応急措置を住民に説明するパンフレットを年内に作成し、さらに2007年度には弾道ミサイル攻撃なども含めた有事の手引き書である「国民保護パンフレット」を全世帯に配布する予定という。
また2005年度には国と自治体、放送、通信、電気、ガス、運送、医療の民間業者など指定公共機関が参加した初の実地訓練を実施する。2005年から2007年までの国、都道府県、市町村、自治会、各家庭までを射程に入れた、有事法制への本格的な巻き込みの第一歩になる。戦争準備への異常な執念、有事体制構築への異常な執念である。
※<国民保護法>攻撃受けた際の説明、パンフ年内に作成 政府(毎日新聞)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050321-00000009-mai-pol
※有事手引07年度に全戸配布 避難や救急方法を周知(共同通信)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050109-00000034-kyodo-pol
※日本政府は、91年の湾岸戦争の際6週間で約40発もの弾道ミサイル攻撃をうけたイスラエル国民がパンフレットに沿って避難した結果、死者がわずか2人にとどまった事例から、それを参考に「国民保護パンフレット」を作成するという。いつから日本はイスラエルになったのか。パレスチナを不当に占領支配し、虐殺と暴力の限りを尽くすイスラエル帝国主義を手本にしようと言うのだ。あるいはいつから日本はアメリカになったのか。世界に600もの軍事基地を配し、中東支配、石油支配のためにイラクを侵略し時代錯誤の植民地主義戦争を仕掛けた世界最大最強の軍事力を持つ軍国主義国家、故にイスラムからの報復を恐れる国アメリカ。憲法第9条を持ち、侵略戦争を放棄した日本がこれら無法国家、テロ国家と肩を並べる準備をすることはない。
※国民保護基本指針の意見募集には1200もの改善意見が寄せられ、その半数以上が自治体であったという。その中では、地方自治体における人材の育成や研修制度の要求、都道府県だけでなく市町村での24時間当直体制の実施などの要望が寄せられている。いずれも「積極意見」である。さらに避難時のペット同伴の許可やマイカーの使用要求等々もあった。上記に詳しく述べてきたように国民保護基本指針とは日本が戦争を起こす指針である。彼らは、ピクニックにでも行くように考えているのだろうか。戦争によって国民一人一人に降りかかる犠牲に関しての認識不足とでも言おうか。まさに「支配されたがる人々」である。「主なご意見の概要及びそれに対する考え方」(首相官邸) http://www.kantei.go.jp/jp/singi/hogohousei/pc/050304sisin_kekka.pdf
(2) 国民保護基本指針の作成に合わせて、地方自治体や指定公共団体などでの基本計画づくり、訓練の計画作成などが急速に進んでいる。
※自治体間で安否情報伝達 国民保護、新システム検討
http://news.goo.ne.jp/news/kyodo/seiji/20050214/20050214a1020.html
※<消防庁>有事に自動サイレン開発へ 05年度全国規模実験
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050312-00000044-mai-soci
各都道府県では、国民保護協議会が設立されている。基本計画を策定する諮問機関である協議会の構成員には、「自衛隊に所属する者」が入ることになる。有事のために、自衛官も含めた各職のメンバーが一堂に会し、国民統制のために策を練るのである。恐るべき光景である。国民保護協議会と地方防災会議は、構成員が重複し、開催日が同日になることが認められている。もとより、防災訓練と有事訓練は一体化が目論まれている。
※「国民保護法第38条」では、国民保護協議会の「委員は、次に掲げる者のうちから、都道府県知事が任命する」とし、「指定地方行政機関の長・職員、自衛官、副知事、教育長・県警本部長、県職員、市町村長・消防長、指定(地方)公共機関の役職員、有識者」を挙げている。条文を読む限り、自衛官を委員にするかどうかは任意であるが、実際にはこれらの職にある者をそれぞれ任命させられている。
確かに現在でも防災訓練への自衛隊の参加は広範に行われており、有事訓練と防災訓練の垣根は低くなっている。しかし、戦争を想定した有事訓練と防災訓練=大規模災害時の避難訓練は質的に全く異なる。地震、台風、津波、火災などの場合には、通常すでに起こった被害に対する避難と救援活動である。当然のことであるが、この過程での武器の使用、敵の殺戮は想定されない。また、救助活動を妨害する住民や自治体職員を想定するのは困難である。しかし有事訓練の場合は、国民の避難・救援と「敵に対する攻撃」(敵からの攻撃に対する防御と政府は言うだろう)は同時に必要である。そして双方は対立する。しかも、戦争に反対する市民の活動が活発化する可能性がある。ここが、防災訓練への自衛隊の参加と、有事訓練との違いである。有事訓練では自衛隊の軍事行動をどう保障するのか、戦闘の障害にならないように住民をどう統制するのかの訓練が行われるのである。
富山県では、石油コンビナートへの大規模なテロなどでの自衛隊の治安出動を想定して警察本部と陸上自衛隊との共同図上訓練の実施方針、和歌山県での陸自OB採用と防災対策の強化、滋賀県での「国民保護」対策の一環としての琵琶湖の不法占拠対策、等々本格的に有事対策と訓練は本格的に始動する。
※国民保護計画:避難誘導体制など、15項目を提言−−府検討委 /大阪
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050331-00000161-mailo-l27
※2004年12月28日に設置された神奈川県国民保護協議会
http://www.pref.kanagawa.jp/osirase/saigai/kokuminnhogo/kyogikai/kyogikai-gaiyo.htm
※「鳥取県国民保護協議会」
http://www.pref.tottori.jp/bosai/kokuminhogo/law/kyougikaiiinninmei.htm
※武力攻撃の場合の手当準備 国民保護法で条例改正へ
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050305-00000141-kyodo-soci
※総務部に危機対策企画専門監を新設。防衛庁から陸自東北方面分遣隊を起用(宮城県)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050326-00000146-mailo-l04
※防災局を危機管理局に改変し強化(徳島県)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050326-00000157-mailo-l36
※危機管理・国民保護室、琵琶湖の不法占拠対策を進める琵琶湖不法占用対策室などを新設(滋賀県)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050316-00000123-mailo-l25
※兵庫県、国民保護計画策定へ 有事対応の関係条例成立で
http://www.kobe-np.co.jp/kobenews/sougou05/0310ke81930.html
※訓練の反映や意識啓発必要 国民保護計画作りで懇談会
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050301-00000185-kyodo-pol
一方、毎日新聞によると、「指定地方公共機関」を指定している都道府県は、3月18日現在で秋田、神奈川、福井、鳥取、香川の5県に留まり、このうち、放送局を指定しているのは秋田と神奈川の2県にとどまっているとされる。多くの放送局が放送の自由、表現の自由が脅かされることを嫌っているのである。
※指定公共機関:めぐる地方局の対応 「有事の放送制約」に懸念(毎日新聞)
http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/wadai/news/20050322ddm012040147000c.html
(3) 国が強制する各地での国民保護計画づくりと訓練はまだ始まったばかりである。一つ一つの強制と対決することが当面の課題になる。国民保護法でも、国民保護基本指針でも、「国民協力の義務化」を明文化することができなかった。この点を産経新聞など右翼マスコミは、法の欠陥として非難している。しかし「必要な協力をするよう努めるものとする」とは、国旗・国歌法の条文が示すように一方では強制の官僚用語である。指針は、国民への協力を要請することを国や地方自治体の義務とすることで、事実上国民に限りなく強制することを認めている。
また、狭い学校の中ならいざ知らず、現代社会で1億3千万人、数千万人もの国民を一糸乱れず動かし戦争準備に強制することなど事実上不可能でもある。あきらめることなく「義務化」をめぐる法律の矛盾を突くことが重要である。この矛盾を武器にしていかに浸透しないようにするかは反戦平和運動の今後の闘いにかかっている。
※武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律
第一章 総則 第一節 通則 (国民の協力等)
第四条 国民は、この法律の規定により国民の保護のための措置の実施に関し協力を要請されたときは、必要な協力をするよう努めるものとする。
2 前項の協力は国民の自発的な意思にゆだねられるものであって、その要請に当たって強制にわたることがあってはならない。
3 国及び地方公共団体は、自主防災組織(災害対策基本法(昭和三十六年法律第二百二十三号)第五条第二項の自主防災組織をいう。以下同じ。)及びボランティアにより行われる国民の保護のための措置に資するための自発的な活動に対し、必要な支援を行うよう努めなければならない。
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/hogohousei/hourei/hogo.html
2005年4月1日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局
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(第1号 2002/05/08; 05/09 加筆訂正)
有事法制の危険性とデタラメ
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