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火薬庫レバノン   イグナシオ・ラモネ 訳/斎藤かぐみ (Le Monde diplo)
http://www.asyura2.com/0502/war68/msg/908.html
投稿者 愚民党 日時 2005 年 3 月 29 日 22:10:06: ogcGl0q1DMbpk

火薬庫レバノン

イグナシオ・ラモネ(Ignacio Ramonet)
ル・モンド・ディプロマティーク編集総長
訳・斎藤かぐみ

http://www.diplo.jp/articles05/0503.html

 2005年2月14日に起きたハリリ前首相の殺害事件は、シリアの仕業なのだろうか。ショックに打ちひしがれたレバノン世論の一部はそうだと確信している。「この忌まわしい犯罪を犯した者とその背後にいる者」をシリアのアサド大統領が糾弾してみせたところで、彼に向けられた非難が消え失せるわけではない、と言わざるを得ない。ほとんどの国際メディアは、バアス党政権の仕業に違いないという論調だ。考えられる動機はいくつもある。第一に、5月に予定されたレバノン総選挙を前に、シリア政府は同国に対する支配権を保ちたい。キリスト教徒、ドルーズ派、スンニ派からなる反シリア的な政治連合を資金面から支援し、結集を図っていたとして、シリアがハリリを快く思っていなかったことも指摘されている。シリアが彼を非難していた点がもう一つある。2004年9月に国連安保理で、フランスと米国の支持によって決議1559号が採択されたのは、彼が旧知のシラク仏大統領らに働きかけたせいだという疑惑だ。この決議が求めているのは、レバノンにおける自由な大統領選の実施、「今なお同国にとどまる全外国軍の撤退、レバノン人および外国人民兵の武装解除」である。

 ハリリ殺害事件によって、米国政府はシリアにさらに圧力をかける口実を得た。駐シリア米国大使は「緊急協議のため」に本国に召還された。殺された前首相の葬儀に出席するためにベイルート入りした中東担当のW・バーンズ国務次官補は、記者団に向かって次のようにのたまった。「ラフィク・ハリリの死によって、レバノンの自由と独立、主権を求める勢いが強まることになる。それは安保理決議1559号の即時実施、したがってシリアのレバノンからの即時全面撤退を求めるものだ」。米国がイラクについては国連の委任なしに侵攻、占領したことをバーンズはどうも忘れているらしい。

 思い起こせば、米国がイラクへの侵攻を開始した時にシリア政府がただちに考えたのは、戦争の主要目的の一つがシリア包囲網の完成にあるということだった(1)。ラムズフェルド国防長官は、戦争中はフセイン軍を支援し、占領後は米軍を苦しめる様々な抵抗運動の後方基地となっているとシリアを非難した。パウエル前国務長官は2003年5月にシリアを訪れた際、同じことをアサド大統領に面と向かって述べるとともに、イランとの同盟だとか、米国が「テロ組織」リストに載せている(が欧州連合はそうは見なしていない)民兵集団ヒズボラへの支援だとか、かねてからの非難を繰り返した。

 自滅を望むのでないかぎり、シリア政権がこのような状況下で自分の首を絞めるような真似をするものだろうか。シリアに「明々白々」な罪を着せることこそが、まさしくハリリ殺害犯のねらいだったのではないか、と疑問を示す者も出てきている。テル・アヴィヴ大学ダヤン研究センターのシリア専門家、エヤル・ジッセルは次のように言い切った。「シリアがやったというのはまったく理屈に合わない。そんな決定をしたとすれば実に愚かだということになる。衆人環視の下に置かれたシリアにとって、レバノンを不安定化させるメリットは何もない(2)」

 いずれにせよ、この襲撃事件が起き、シリアに対して威嚇が行われている現状からすれば、火薬庫レバノンがふたたび燃え上がることになる可能性がある。米国とフランスがレバノンで何を目標と定めているのかも問いただす必要がある。「真の民主制」を打ち立てることだというのなら、シリアと結束の強い最多数派のシーア派抜きでできるものだろうか。「一人一票」の原則を拒否し、時代に合わなくなった宗派別割当制度の維持を主張する野党がおとなしく是認するだろうか。あるいは目標は「被占領国レバノン」から外国勢力を撤退させることだというのなら、同じ中東で1967年以来、安保理の度重なる決議にもかかわらず、シリア領ゴラン高原、ヨルダン川西岸、ガザ地区(この夏に撤退が実施される可能性もあるが)、それに東エルサレムが占領状態にあることを、国際社会は忘れていられるのか。またしても二重基準が採用されるのか。

 あやしげな謀略の時代が再来した。中東という劇場で、どうやら第二幕が始まったようだ。レバノンで内戦が再燃するおそれもあるが、この国に「味方する者たち」が意に介する様子はない。イラク戦争に続けて(しかも占領政策が失敗し、米国が支持した候補者リストが選挙で惨敗に終わったにもかかわらず)、前々から名指ししていた他の二つの標的に対する大がかりな策謀が、同時並行的に再始動している。一つはイランであり、もう一つはイランよりも取りやすそうな駒に見えるシリアである。ハリリ殺害を実行した勢力は、それがシリア政権の命運を皿にのせて「国際社会」に差し出すに等しい行為であることを承知していたのだろうか。


(1) ポール=マリー・ド=ラゴルス「圧力下のシリア体制」(ル・モンド・ディプロマティーク2004年7月号)
(2) Quoted by Jefferson Morley, << Who Killed Rafiq Hariri ? >>, washington-post.com, 16 February 2005.

(2005年3月号)
All rights reserved, 2005, Le Monde diplomatique + Okabayashi Yuko + Saito Kagumi

http://www.diplo.jp/articles05/0503.html



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