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職場から 石綿建材を売っていました
企業の責任は重いと思う
http://www.bund.org/culture/20050905-1.htm
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桜木 明
クボタの旧神崎工場(兵庫県尼崎市)で、従業員がアスベスト(石綿)関連の疾病で病死していたことが公表され、その後周辺住民にも健康被害が出ていることが明らかになった。今では、造船や建築業に携わった労働者に広範に被害が及んでいることが、公にされている。私はこうした報道を見て、「とても人事ではない」と思っている。なぜなら私は、94年〜01年までの7年間、住宅建材の販売店に勤務していたからだ。
わりと身近な石綿建材
最近のアスベスト問題の報道でよく目にするのは、防護服に身を包んだ作業員が行う天井の吹きつけアスベストの除去作業の映像だ。クボタやニチアスなどでは石綿が飛散する工場での、労働者の曝露の問題もクローズアップされている。私はこうした報道によって、アスベストの危険性が啓発されることを期待している。多くの人が考えている以上に、石綿は私たちに身近な建材で現在でも大量に使われているのだ。それを知ってほしいと思う。
当時の主力商品は「住宅用化粧スレート」と呼ばれる洋風の瓦だった。クボタの「カラー・ベスト」、松下電工の「フル・ベスト」などの商品が知られている。軽くて施工が簡単、そして安価なのがそれらの商品だった。それで、どこの町でもすぐに目にすることができるほど普及した。62年から販売され、今日まで500万戸以上の家屋に使用されてきた。現在両社は統合してクボタ松下外装株式会社となり、無石綿瓦を販売している。
私がこの種の瓦の多くには石綿が含まれていることを知ったのは、仕事を始めてまもなくのことだ。瓦を梱包してるダンボール紙には、「クリソタイル石綿・含有率10〜20パーセント」と表示されていた。「石綿ってずいぶん前に禁止されていたはずだけど……」。不安に思って同僚に尋ねると、「セメントで飛散しないように固めてあるから安全だ」と返事が返ってきた。
「そんなものかなぁ」と、そのときは納得してしまった。どうやら社員はメーカーからこのように説明されていたらしい。 80年代に石綿の吹き付け工事が禁止されたことは知られている。しかし石綿の使用はその後も今日まで続き、より毒性の強いアモサイト(茶石綿)とクロシドライト(青石綿)は95年に禁止になったが、クリソタイル(白石綿)は危険性が低いと言う理由で、04年にはじめて「原則禁止」になった。その間実に年間20万トンも使われてきたのだ。90パーセントが住宅用化粧スレートや、工場や駅の屋根に使われている波形スレートなどの身近な建材である。これを環境省などは「非飛散性アスベスト」と呼んでいる。
石綿舞い散る建築現場
手前の住宅は「化粧スレート」、奥の工場は「波形スレート」 建築現場に化粧スレートを配達したり、残材を回収するのが私の仕事だった。毎日現場に通っていれば、石綿が「飛散しない」などと言えないことはすぐに分かる。たしかに化粧スレートを施工する際、屋外で専用カッターを使い切断すれば大きな問題はない。しかし現場では室内でサンダーを使って切断する職人が多い。
化粧スレートは石綿とセメントを高圧プレスして、表面を防水加工している。10年〜15年で塗装がはがれ始める。その頃の葺きかえや解体作業がもっとも危険なのだ。劣化して脆くなった化粧スレートをはがして、屋根の上からトラックの荷台に投げ込むという乱暴な作業現場もあった。
石綿を含んだ砂埃が周辺に舞い上がった。廃材は産廃業者に持ち込むが、他のコンクリートなどと一緒にむき出しのまま放置されてしまう。商品には「取り扱いは、必要に応じてマスクを使用してください」「粉じんが飛散する屋内の作業所には、除じん装置を設置してください」と注意書きが添付されてはいる。しかし一度も除じん装置など目にしたことがない。
「非飛散性」の石綿含有建材も、結局施工や解体などの作業過程で、吹き付けアスベストに近い濃度で空気中に飛散してしまうのだ。日本産業衛生学会の規定するアスベスト許容濃度を上回る測定値が、クリソタイル含有建材の除去現場などで測定されている。
現場の作業者が発がん性物質であるクリソタイル石綿の危険を知らないか、「安全」だと思い込まされてきたのだ。石綿吹き付けなどの「飛散性アスベスト」の使用は大きく制限されてきたが、「非飛散性アスベスト」に分類された商品は別物と考えられてきたのである。
これらは現在も「廃棄物処理法」や「大気汚染防止法」でも特別な規制を受けてない。結果として多くの現場作業員に被害が広がっている。NPO法人「職業性疾患・疫学リサーチセンター」の海老原勇医師の調査によれば、建設労働者の肺がん患者の約7割にアスベストを吸ったとみられる症状が出ている。
石綿企業の企業責任
毎日新聞のインタビューに答え、クボタの幡掛社長は「石綿の健康被害を認識したのは、中皮腫で社員2名が死亡した86年」「環境改善に取り組んだが白石綿は高品質で代替物もないため生産を続けた……。法令違反ではないが、今にしてみれば、もっと安全性に注意すべきだった」と発言している。この間のクボタの情報公開がきっかけとなって、アスベスト禍の問題が明らかになった。クボタは最低限のことを始めたばかりなのだ。石綿を規制する法律を阻止してきたのは、クボタも加わっている「社団法人石綿協会」であることが知られるべきだ。
1992年に石綿問題に取り組む市民団体の力によって、社会党(当時)が議員立法で、アスベストを原則禁止とする「石綿製品の規制に関する法律」の成立を目指した。これに反発した石綿協会は、法案反対の意見書を自民党や関連省庁に配布した。
その内容は次のようなものだった。石綿は「安全性を確保しながら製造および使用されている」ので、「改めて規制を行う必要はない」「大部分がセメントとかゴム質・プラスチックなどの結合材によって石綿が固定化されており粉じんが発生しにくい」「作業従事者の健康被害は起こりえないと確信しています」「石綿製品の製造販売が禁止されることは、石綿業界ならびに経済界に、はなはだ大きな影響を及ぼすものと考えられます。この法案が制定されないよう御尽力賜りたくお願い申し上げます」。
結局法案は廃案となったが、その後も社会党は法案の再提出を目指した。しかし石綿建材メーカー8社の労働組合が反対し、「連合」も事実上反対をした。結局94年に法制化は断念された。理由は「急な規制は雇用不安をまねく」と言うものだった。
その一方で、石綿業界は「自主規制」を始め、ノン・アスベストの代替商品の開発に力を注いだ。石綿は管理すれば安全だと言いながら、「ノン・アスベスト商品」の開発を進めてきたのだ。私の知る限りでも「人にやさしいノン・アスベスト」と銘打った化粧スレートが製造されていた。
04年になって、はじめて主な石綿製品が原則禁止となった。それまでの期間は、石綿建材会社がコスト的にも技術的にも一様に「ノン・アスベスト建材」を販売できる体制になるまでの、時間稼ぎであったのだ。私が石綿建材を配達していた数年間は、石綿の「在庫一掃セール」の時期だった。その間にいったい何人の作業員や住民が、石綿曝露したのだろうかと思ってしまう。
化粧スレートを葺くのは板金屋や瓦職人だ。多くが「一人親方」や零細企業で働く労働者、元請けから仕事を依頼された下請け・孫請けのそのまた下の労働者である。安い手間賃で短い納期で仕上げるために、健康や安全対策の上で万全とはいえない環境で仕事をしている。たとえ「中皮腫」や「肺がん」におかされても救済される道は困難だ。多くの人命を奪ったことが明らかになった今日、どこの誰が「健康被害は起こりえない」「飛散しないから安全だ」と判断して規制を拒んだのか、それを明らかにして企業は責任を取るべきだと思う。
被害者救済と石綿撤去を
今やっと国や行政も重い腰をあげて石綿問題解決に着手し始めた。石綿関連企業の情報公開や、自治体の石綿関連の健康相談の窓口も開かれ、どこも対応に追われている。
私もさすがに自分の健康に不安を感じ、名古屋市の労働局が開設した労災認定の相談窓口に電話をした。この間の職歴などを告げ、今後健康被害が出たとき、どうしたら労災認定を受けられるかを聞いた。
「今は健康ですが、石綿障害の潜伏期間は20〜30年なので今から準備できることはないですか」 「現在、症状はないのですね……。まぁ、職場で定期的に健康診断を受けてください」
認定を受けるためには、アスベストを吸引した最後の現場を特定しなければならない。その建築現場の「元請け会社」も明確にする必要がある。しかし一般の作業員がそれを特定するのは大変なことだ。石綿曝露の可能性のある人は、今から勤務先の就業証明・石綿曝露を証明するための日記・同僚の証言などを保存しておく以外ない。
「石綿障害予防規則」も7月1日から施行された。厚生労働省のパンフには建築物の解体作業を行うときには石綿使用の有無を事前調査し、吹き付け石綿の除去作業には届出が義務付けられているとある。解体現場を隔離・立ち入り禁止にしたうえで、防じんマスク等の保護具の着用を作業者に義務付けたのだ。
しかし早くも関係者からは、工賃の安い「ヤミ解体」の横行を懸念する声が上がっている。吹き付けや耐火被覆材などの「粉じんを著しく飛散する恐れのあるもの」以外は、計画の届出も現場の立ち入り禁止も義務付けられていないからだ。これでは「ザル法」ではないだろうか。より実効性のあるものにするためには、化粧スレートや波型スレートなどの場合も、石綿含有建材であることを事前に家主に報告し、最低でも重機による解体を行わず、専門業者による「手ばらし」による作業を義務付けるべきだと思う。
波形スレートなどはバールを使って破壊して解体する方法が手っ取り早い。ボルトを手作業ではずしながら行う「手ばらし」が理想だが費用はかかる。今後は民間の建築物の解体には「公的補助金制度」の導入も検討されるべきだと思う。
アスベスト問題は明らかな「企業責任」であり「国策の不備」の結果だ。石綿商品を販売する企業に勤めていた私自身にも、もちろんその責任の一端はあると思っている。より多くの人々に、この問題の深刻さを訴えることが私にできることのひとつだろう。
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http://www.bund.org/culture/20050905-1.htm