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『オピニオン「論」 犯罪統計と治安 浜井浩一・龍谷大法学部教授(2004.02.24 大阪朝刊)』
http://www2.gol.com/users/mct/GTmaeda/sankou.htm
犯罪が激増し、凶悪化する一方、検挙率はガタ落ち。世界一を誇っていた日本の「安全神話」は崩壊した、といわれる。だが、法務省時代に欧米に派遣され犯罪学を研究する一方、刑務所で受刑者と面接して犯罪統計を洗い直した経験から、浜井浩一・龍谷大学法学部教授は「犯罪はそれほど増えていない。凶悪化もしていない」と真っ向から否定、「むしろ刑務所が福祉施設化しているのが問題だ」と主張する。なぜか。論拠を聞いた。 【編集委員・奥田昭則】
◇検挙率低下は表の数字、背景に警察の方針転換
――日本列島を犯罪不安が覆っています。東京の地下鉄サリン(95年)以来、神戸の連続児童殺傷(97年)、昨年は福岡・一家殺害など、凶悪事件が絶えない。
◆犯罪不安が犯罪統計の数字を増やす、という一面がある。対策をとればとるほど治安がさらに悪化したように見える。社会の変動期に犯罪不安が起きやすい。不況で、ひったくり、侵入盗、「おれおれ詐欺」などの財産犯がゆるやかに増えてはいる。しかし、殺人はここ7、8年横ばい。長い目で見れば戦後一貫して減少している。
――犯罪認知件数は昭和期の2倍を超え、300万件に迫る勢いです。
◆警察統計は、警察の方針次第で動く面がある。かつて公安警察が主流で世界一の検挙率を維持するのが目標だった時代がある。そのために「自転車盗」を使った。例えば夜中に放置自転車に乗った若者を職務質問して止めると認知イコール解決で、検挙率100%。どんどん解決する。統計のマジックだ。一方、男女や親子の争いなどは民事不介入が原則だった。
――検挙率約20%は戦後最低水準。なぜここまで落ちたのか。
◆過去20年間の警察庁長官の訓示を調べ、犯罪統計にどう影響したか、分してみた。88年、金澤昭雄長官になって方針転換している。公安重視から国民が求めている警察」へシフト。また96年、国松孝次長官当時に「被害者対要綱」を出し、さらに変わった。ただ、警察は巨大階級組織で、上が変わって現場の警察官の意識が変わるまでに時間がかかる。
その最中の99年に桶川ストーカー事件が起き、警察の対応の悪さが厳しく判された。それ以降「告訴・告発は全件受理しろ」と指示を徹底し、一変した。男女や親子間のもつれ、ヤミ金融など全部受けて、ものすごく忙しくなった。「オイ、コラ」の警察が泣き寝入りしていた被害者の訴えを聞くようになったのは良いことだが、おかげで余罪捜査がほとんどできなくなった。刑法犯の8割以上が窃盗で100件以上、余罪のあることが多い。検挙率が急に低下したのも当然だ。
――刑務所が過剰収容の状態だそうですね。
◆昨春学者になるまでの3年間、横浜刑務所勤務だったが、治安悪化には実感がなく、疑問に思って多い時で1日5人、受刑者を面接してみた。食いっぱぐれて入ってきた人が多い。老人や病気持ち、障害者、中国人らだ。リストラで最初に首を切られる。一番困ったのは痴呆老人だ。本来、刑務所で処遇するような人たちじゃない。刑務所が「社会的弱者」の福祉施設化している。確かに罪を犯したのだろうが、「まず、食えるようにしてあげた方がいいんじゃないか」と思った。
――小泉内閣の全閣僚が出席した昨年12月の犯罪対策閣僚会議で、「犯罪に強い社会の実現のための行動計画」を決めました。少年の街頭犯罪や、外国人の侵入盗を重視して「少年や外国人をスケープゴートにしている」ともみられる。
◆日本のおとなから見て「えたいが知れない」という点で共通していると思う。非難されても何も言わないし、何も言えない。だから言いたい放題になりがちだ。刑務所に入っている外国人は、言葉が通じないので扱いは面倒だが、凶悪な人はいなかった。また犯罪の「低年齢化」は少年非行の専門家なら誰でも否定する。非行は14〜16歳でグンと増え、その後、高校に進学して就職すると落ち着く。ところが今は就職できず、フリーターになる。暴走族も足を洗えない。
若者の失業でむしろ少年非行が「高年齢化」している方が問題だ。