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命の綱、地方に動き 自殺予防、44都道府県市が施策
最近の自殺者数の推移
自殺率の国際比較
都道府県と政令指定市の7割以上が独自の自殺予防対策事業に取り組んでいることが、朝日新聞の調査でわかった。国内の自殺者は98年に一気に約8千人増えて3万人を超え、昨年まで7年連続して3万人台が続く。日本の自殺率は世界でも高い方に位置し、厚生労働省は自殺者を減らそうとしているが、予算は過去最大となった今年度も8億円止まり。国が有効な手を打てない一方で、地方の取り組みが活発化してきた。(奈賀悟、杉山正、木野正章)
●脱タブー 真剣さ増す 冊子や講演、民間の相談電話支援
調査は国立精神・神経センター精神保健研究所(東京都)の竹島正・精神保健計画部長の協力により、47都道府県と14政令指定市を対象に今月実施した。
自殺予防事業については36都道府県と8市の計44都道府県市が「実施している」「今年度中に実施の予定」と答えた。事業化の時期は29道府県市が02年度以降と回答した。自治体の取り組みはここ数年で活発化してきたようだ。
具体的には、大阪府など37自治体が自殺とうつの関連を記したパンフレット作りなど「自殺予防啓発」事業を実施。「いのちの電話」など民間活動支援には東京都など27自治体が取り組む。
事業名に「自殺予防」などと、「自殺」を明記しているのは北海道など15道府県。これ以外は「自殺と明記しては刺激が強い」などを理由に、事業名を「心の健康」「うつ病対策」などとして予算を組んでいる。
竹島部長らが02年に行った同様の調査では、事業名に自殺と明記した自治体は8県市だけ。3年間で倍増した。
竹島部長は「秋田県などが自殺をタブー視しないで正面から取り組み、予防に成果を上げた結果、明記する自治体が増えてきた。自殺は社会全体を視野に入れないと解決できない。地域の様々な団体がそれぞれの領域で動くことが予防のかぎだ」と話している。
●地域と連携、きめ細かく
自殺率(人口10万人当たり)が昨年まで10年連続全国ワースト1の秋田県。00年度に「自殺予防」を事業名に掲げて県民に訴え、総合的な予防対策を本格化させた。
特に自殺者が多かった6町をモデルに、従来のうつ病対策に加えて健康教育や悩み相談をきめ細かく実施した。自殺の不安がある人に強く関与する手法で、01年に計30人に上った自殺者は昨年、13人に減った。
さらに自殺予防の考え方を地域に広く浸透させようと、県内8カ所の地域振興局ごとに「自殺予防ネットワーク」をつくる。計画では保健師が事務局を担当し、農協、医師会、商工会、社会福祉協議会や警察などが参加。各分野で自殺予防に取り組み、併せて各地の講演会などに講師を派遣する。勉強会も開く。
県健康対策課の担当者は話す。「ネットワークで地域の力を引き出すこと。個々が実施してきた事業の中に、自殺予防の観点をいかに採り入れられるかが成否の鍵だ」
大阪府は03年度、人口の多い都市部では啓発活動が有効と考え、事業展開を急いだ。年2千人以上で推移している府内の自殺者数を、2010年までに1500人に減らすのが目標だ。
事業内容は府民に案を募った。家族や友人が自殺した人などの体験談を「自殺防止に役立つ体験談・アドバイス集」として冊子にまとめ、相談窓口の連絡先も掲載して自殺防止のシンポジウムなどで配った。うつ病のチェック、多重債務や医療、法律など悩み別の相談電話の番号一覧を掲載したテレホンカード大の小冊子も作った。
今年度は、自殺防止のホームページを作り、体験談を紹介、関連団体にリンクさせる。また、体験談をもとにした創作劇や発表会も計画中だ。
徳島県は今年度、「自殺予防対策推進事業」として150万円の予算を組んだ。うつ病対策の相談事業などはこれまでも進めてきたが、今回は「自殺」という言葉を初めて前面に出した。
◇ ◇
◆施策実施の自治体
自殺予防事業を「実施」「実施予定」と回答した自治体は次の通り。
【都道府県】北海道、青森、岩手、宮城、秋田、山形、福島、茨城、群馬、埼玉、千葉、東京、新潟、富山、石川、長野、愛知、三重、滋賀、京都、大阪、兵庫、和歌山、鳥取、島根、岡山、広島、徳島、愛媛、福岡、佐賀、長崎、大分、宮崎、鹿児島、沖縄
【政令指定市】仙台、さいたま、千葉、横浜、静岡、京都、神戸、福岡
◇ ◇
◆国家戦略で減少例も 欧州
欧州各国の自殺予防対策はここ30年間で本格化した。先駆けたフィンランドでは目に見える効果も確認されたという。
旧ソ連諸国や東欧では自殺率が高い傾向にあるが、専門家によると、本格的な原因究明は今のところ、なされていないという。
●日本
厚労省が自殺予防対策を担い、01年度に初めて関連予算3億円余がついた。05年度は8億5500万円。
同省は2010年に自殺者数を2万2千人に減らすことを目標に、うつ病対策の研究や産業医の研修、いのちの電話支援などを進めている。だが、内容はうつ病対策に特化しており、例えば、ここ数年で急増した借金やリストラなど経済苦の自殺には対応できないとする批判が根強い。
●フィンランド
秋田大医学部の本橋豊教授(公衆衛生学)によると、86年、世界に先駆けて「国家自殺予防プロジェクト」が始まった。
86〜91年を「研究期」とし、専門家チームが自殺の原因究明を急いだ。92〜96年の「実行期」には自殺予防にかかわる各分野の関係者がネットワークをつくり、連絡を取り合いながら対策を実施した。基本の集団は地域、職場や軍隊などで、例えば軍隊では将軍が自殺予防を訴えた。
「評価期」の97年、86年と比較して自殺は9%減少。「少なくとも自殺率の増加傾向を反転させることに成功した」と評価された。本橋教授は「フィンランドでは、うつ病対策はごく一部。社会全体を活性化させるモデルで成功した」と分析する。
●イギリス
自殺率は日本の約3分の1だが、自殺予防は社会的関心が高い。02年9月、国立精神衛生研究所が初の「自殺防止国家戦略」を実施に移した。2010年までに自殺率を20%減らすことを目指し、「自殺の危険性が高い人への介入」「貧困層や虐待被害者など幅広い人々のケア」「(市販される睡眠薬のパッケージを小さくするなど)自殺に用いられる物を減少させる」などの目標を掲げた。
調査した中山健夫・京都大大学院助教授(健康情報学)は話す。「自殺率は低下しつつあり、戦略は成果を上げた。現状に合わせてプログラムを修正し、柔軟な対応をしている」
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