現在地 HOME > 日本の事件16 > 867.html ★阿修羅♪ |
|
207系の資料がみあたらないので、とりあえず、他の電車にも共通する一般的な事柄で疑問を書いておきます。
■ブレーキ
電車で使われている「電気ブレーキ」は、自動車でいえばエンジンブレーキのようなもので、動力のモーターの電気極性を逆にすることによって発電機として働かせ、その時生じる回転抵抗を制動力として利用するもの。発電された電力は抵抗器によって熱に変換されて発散させる。
「回生ブレーキ」は「電気ブレーキ」と同じ原理で制動力を得る。「電気ブレーキ」と唯一違うところは、発電した電力を抵抗器で熱に変換して捨てるのではなく、発電した電力を架線に戻す(回生)という方法をとっていること。その架線に回生された電力は他の電車などが消費することになる(「回生ブレーキ」電車が”省エネ電車”といわれる所以。「回生ブレーキ」は、機械式ブレーキでのパッドやディスク、シューといった制動関連部品の消耗もない)。
これは”電圧は高いところから低いところに流れる”という電気の法則を利用したもので、架線の電圧が他の走っている電車などの電力使用によって多少電圧が低くなっているために可能になっている方法。逆にいえば、架線を使っている他の電車の絶対的な数が少なかったり、電車は多くてもほとんどが駅のホームに停車していて電力を使っていないような状態だと、架線の電圧が低くならないため使えなくなる。「回生失効」とはこのように他に電力を消費する電車が少なくなり、架線の電圧が高い状態になって、それまでモーターが発電して電力を”回生”していたのができなくなったときのことをいう。このとき電車の側では保護回路が働いてモーターが発電機としての動作を中止する。発電機としての動作を中止すればモーターの回転抵抗もなくなり、制動効果は消失することになる。
「回生失効」が起きると、制動機能が「回生ブレーキ」から常用ブレーキの「空気ブレーキ」に自動的に切りかえられる。「回生ブレーキ」と同程度の制動力を常用ブレーキの「空気ブレーキ」は備えているとされる。
「空気ブレーキ」とは、圧縮された空気の力でパッドやシューを動かし、円盤状のディスクや車輪に押し当てることによって制動力を生む機械式ブレーキ。
機械式ブレーキといっても、今の通勤電車は「空気ブレーキ」の動作に必要な圧縮空気の弁の開閉機構を電磁式にしていて、電気信号により弁の開閉、またその開閉量などをコントロールしている。機械式というのはあくまで、抵抗を生んで制動力を発揮する部分のみのこと。
「回生失効」では、「回生ブレーキ」から常用ブレーキの「空気ブレーキ」の切りかえ時に数秒の制動の空白時間が生じる。この制動の空白時間を避けようと、「回生ブレーキ」と「電気ブレーキ」の機能の両方を持った電車も作られているし、架線の電力を駅施設などの電力としても使えるようなしくみを作り、「回生失効」自体を避けるこころみも実際におこなわれている。また、研究段階として、電車に充電可能なバッテリーを積み、「回生失効」が起きた時にはそのバッテリーの充電に回生電力をまわすことで「回生失効=回生ブレーキの解除」を避けるこころみもおこなわれている。
「回生ブレーキ」は低速域では回転抵抗が小さくなるため制動力として使えなくなる。そのため、中・高速域の制動では「回生ブレーキ」を主に、低速域では「空気ブレーキ」を主に使用するように電車の制動システムでは自動制御されている。今のところ「回生ブレーキ」の低速側のリミットは時速5キロメートルあたりのよう。
自動制御による「回生ブレーキ」と「空気ブレーキ」の制動の配分比率(同じ電車でも速度などによっても違ってくる)は、電車によってまちまちのようだ。たとえば新幹線は、時速30キロメートルまで「回生ブレーキ」オンリーで、そのあとに「空気ブレーキ」のディスクブレーキが働く。
今の在来線を含めた電車は、全制動中の95%以上が「回生ブレーキ」によっておこなわれているといわれている。
207系の場合、高速域は「回生ブレーキ」だけのよう。
「遅れ込め制御」。
これは207系では1000番台から備わっている機能で、M車(モーターのある車両)が「回生ブレーキ」のみを使用しているときにも、T車(モーターのないトレーラー車両)を「空気ブレーキ」を使って制動し、制動力の不足分を補うというもの。
「遅れ込め制御」機能のない電車では、、M車が「回生ブレーキ」のみを使用しているときには、T車はブレーキはかかっていない状態になる。
207系では0番台にこの「遅れ込め制御」機能はない。事故を起こした電車は、先頭から4両目までが0番台で(M車は2両目と3両目)、あとの3両が1000番台(M車は5両目)の混成車両であった。この場合、この「遅れ込め」制御などはどのようになるのか、僕には資料がないのでわからない。
ちなみに、事故車両の207系には自動車でいう「ABS(アンチスキッドブレーキシステム)」は備わっていない。だから、急制動では車輪がロックをし「スキッド痕」を残すが、公表では『車輪がロックされて線路を滑走した痕跡などは確認されていない』。
6両目に乗っていた、尼崎電車区に所属する27歳の運転士は、「電車は減速せず、非常ブレーキをかけた感じもしなかった。その後、地震のような揺れを感じ、床に転がった」と証言しているし、次の証言などにみられるように、体感できるブレーキ動作はなかったようだ。
≪伊丹市の建築業、豊田広さん(57)は「ブレーキをかけた感じはしなかった。急に『ドカーン』と音がしたと思ったら、人が重なって倒れてきた。(略)」[毎日新聞4月26日] http://www.mainichi-msn.co.jp/today/archive/news/2005/04/26/20050427k0000m040145000c.html≫
ブレーキ動作どころか、直前の状態に関しては次のような記事もある。
≪ 兵庫県尼崎市のJR福知山線の事故で、脱線した快速電車が非常ブレーキ作動までの5秒間に、時速108キロからさらに数キロ加速していたことを示すデータが、車両に搭載されたモニター制御装置に記録されていたことが4日、県警捜査本部の調べでわかった。
このため、事故車両は速度超過のうえ加速状態で急カーブに向かい、一気に非常ブレーキを作動させるという「異常運転」をしていた可能性が浮かび上がった。
県警と国土交通省航空・鉄道事故調査委員会は、モニターの解析などを進め、非常ブレーキの作動地点や脱線時の速度などの特定を急ぐ。
調べでは、記録されていたのは5、7両目に設置されたモニター。いずれも非常ブレーキ作動5秒前の速度が「108キロ」となっており、県警などが解析した結果、作動時まで加速を続けていたことを示すデータが見つかった。
県警は、2つのモニターのデータを詳細に解析、現場検証の結果と照合するなどして、実際の速度の変化を詳しく調べる。
JR関係者によると、現場カーブでの通常のブレーキ操作は、直線の制限速度120キロから、8段階の常用ブレーキを何度かに分けて作動させ、カーブでの制限速度70キロ以下に減速する。
快速電車が非常ブレーキ作動まで加速を続けていたことは、常用ブレーキを全く使用していなかったことを意味し、県警は、高見隆二郎運転士(23)(死亡)が運転台のアクセルに当たる「力行(りっこう)ハンドル」でモーター出力を上げた状態から、いきなり非常ブレーキをかけた可能性があるとみている。同電車が108キロで走行した場合、毎秒30メートル進み、非常ブレーキをかけてから停車するまでは、天候などを考慮せずに計算すると、25・7秒、385・5メートルが必要になるという。
県警と事故調は、快速電車の速度超過と非常ブレーキ作動が、特異な「転覆脱線」の主原因との見方を強めている。[読売新聞 5月5日] http://news.fs.biglobe.ne.jp/social/ym20050505it01.html ≫
事故捜査本部は「ブレーキの故障などはなかった」と言っている。しかし、これは変だ。
1両目から3両目までは事故の際の衝撃と、救出活動、3両目は撤去の搬送のためにズタズタに切り裂かれている(検証作業が残っているはずの3両目の執拗な切断作業は、そこまで切り刻む必要があるのかと疑問に思えるほど異様であったそうだ)。
先に書いたように、電車のブレーキシステムは単純ではなく、単にディスクブレーキのディスクとパッドに異常がない程度のことでは「故障はなかった」とは全く言えない。何をもって「ブレーキの故障などはなかった」と断言しているのか非常に不可解だ。
また高速域の制動は「回生ブレーキ」が受け持つ。これはモーター部分が受け持つが、このモーターの制御システムは「空気ブレーキ」のシステム以上に複雑であり(そもそも、回生失効時の「空気ブレーキ」との切りかえもモーターの制御システムのほうがおこなう)、完全に電子コントロール化されているので、さまざまな電子素子の故障の有無も検証が必要だ(これは電子コントロール化されている「空気ブレーキ」のほうにもいえること)。
また各車両の複雑な機器システムを統括制御するのは運転台のある先頭車両の機器である。その先頭車両が大破している状態で、どのように現時点で「ブレーキの故障などはなかった」などと言えるのか。
「非常ブレーキ」は常用ブレーキと同じ「空気ブレーキ」だが、常用ブレーキが使う圧縮空気のタンク(「元空気溜め」という)とは別に、「制動管」という、常に約490kPaの圧力が溜められている管があり、そこから直接ディスクブレーキに圧縮空気を送り込んで制動をする。
ATS−Pの設置が鬼の首をとったように喧伝されている。もちろん、そのような安全に対する投資は何にも増して優先されなければならないし、設置自体は大賛成である。
しかし、ATSのような装置は、電車のブレーキのほうに問題があるときは用はなさない。
■列車防護無線機
列車防護無線機とは、緊急時に半径1キロ内を走行中の全列車に緊急停止を命じる信号を発するもの。
この列車防護無線機の故障という点も如何にも奇妙だ。
車掌は列車防護無線機が「事故発生後に発信させようとしたが、作動しなかった」という。
事故時に防護無線の信号を発したのは、事故が起きた約2分後に現場から約300メートルにさしかかっていた特急電車「北近畿3号」の運転士だとされている。彼は進行方向にある踏切脇にある特殊信号発光機が赤色点滅しているのに気付いて非常ブレーキをかけて停止してほぼ同時に防護無線を発信したという。
この件について、読売新聞は次のように書いている。
≪JR西日本によると、快速電車の7両目は車両に大きな損傷はなく、事故で架線が切断されたとしてもバッテリーを内蔵しており、同社は「故障は考えにくい」と説明。防護無線機による緊急停止信号を受けた周辺の車両では、作動させた車両が解除するまで警報音が鳴り続けるといい、「北近畿の運転士が作動させた後だったため発信されなかったのではないか」としている。[読売新聞 5月14日] http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050514-00000006-yom-soci ≫
しかし、先に「北近畿3号」が発信したのであれば、車掌室では警報音が鳴っていなければならない。6両目に乗っていた尼崎電車区の運転士は、≪事故直後、最後部に行くと、車掌が無線か電話で連絡をとっていたことを記憶しており、「いつのまにか車掌は姿が見えなくなり、防護無線の発信音はしていなかった」[神戸新聞 5月19日] http://www.kobe-np.co.jp/kobenews/sougou/00004387sg300505191000.shtml ≫と証言しており、警報音も鳴ってはいなかったようだ。仮に「北近畿3号」が先に発信して警報音が鳴っていれば、車掌が列車防護無線をあらためて発信する必要もない。