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地下鉄サリンきょう10年
信徒らの家族は語る
死者十二人、負傷者五千人以上を出したオウム真理教による地下鉄サリン事件から二十日で十年。事件後も入信する信徒は後を絶たず、脱会も遅々として進まない。お布施で教団を支えた信徒は被害者であり、加害者でもある。そのわが子が戻る日を待ちわびる家族の苦悩は深い。入信した動機は何だったのか。連絡は。信徒(脱会者含む)を子に持つ親五人に聞いた。 (吉原康和)
――お子さんたちが、オウム真理教(現在のアーレフ)に入信したきっかけ、動機は。
A(六十歳代の父親) 息子は近眼で、健康保持のため下宿先近くのヨガ道場へ通ったのがきっかけ。ハルマゲドン(世界最終戦争)から家族を救うという動機もあったようだ。
B(六十歳代の父親) うちの息子も、高校時代に「体にいいから」という理由でヨガ道場に入ったのがきっかけ。オウムは受験の悩みや、親が本人に厳しく接していたため生じた親子間の亀裂につけ込み、「超能力」とか「世のため」という言葉でひきつけた。
C(七十歳代の母親) 娘はもともと宗教に関心が強かったが、大学在学中、他の宗教にも、大学の宗教の理論にもあきたらず、チベット密教の焼き直しのような迫力にひかれ、深入りしていったと思う。
D(六十歳代の父親) 息子の話では、修行を積むことによって悟りを開き、超能力が与えられ、オウム真理教により宗教が科学的に解明できたと思い込んでしまったようだ。
E(六十歳代の母親) 誰でもある人生の岐路といえばいいか。進路を決めかねていた二十歳代の息子がたまたま麻原彰晃被告(本名・松本智津夫、一審で死刑判決、控訴中)が顔を出す集会に参加したのがきっかけらしい。
■脱会状況 “呪縛”解放に4年を要した
――その後、脱会しているのであれば、そのきっかけと、脱会後の状況は。
B 九五年夏、資金難に陥った教団の指示で、一般社会で働いていた時期に知り合った女性から脱会を勧められたのが一つのきっかけ。九七年に、強い挫折感と親への不信感を抱きつつ家庭に戻ったが、マインドコントロールから解放されるまでには三、四年の年月を要した。深い心の傷を癒やしたのは家族の愛で、多くの方の支援があってこそ家族は乗り越えられた。
■連絡方法
――他の四人の家族の方は、本人との連絡方法は。気がかりな点があれば。
A 本人との連絡はずうっとメール一本で、息子からの連絡を待つ一方通行だ。一番気がかりな点は、社会復帰の問題。教団から放り出された時、年金もなく、将来の生活が不安だ。
E かつては手紙のみだったが、今はメールで連絡を取り合っている。
C こちらから三カ月おきぐらいに(アーレフの)家族連絡窓口の留守電に伝言を頼み、四、五日すると電話があり、コレクトコールで三十−四十分話すが、植え付けられた恐怖感とマインドコントロールが解けないことが一番気がかり。
D うちも留守電の利用だが、本人からの連絡を待つ一方通行の状況だ。一番気になる点は、サリン事件の補償を大義名分にして布施行為をさせ、依然信徒を拘束している点だ。
■教団に一言
――オウム真理教についてどう思うか。地下鉄サリン事件からちょうど十年になるが、教団に一番言いたいことは。
A 罪を潔く認め、教団を解散すべきだ。幹部は今も終末思想を振りまきながら、ちゃっかりと年金に入っていると聞いているが、一般信徒は年金にも入っていない。地下鉄サリンはテロ行為であり、その責任は重大だ。
C オウム真理教が総選挙に大量出馬して敗北して以降、テロ集団への道を加速させていった経過を忘れてはならない。
D これは宗教ではなく麻原被告の野望だ。教義はいろいろの寄せ集めで、ヨガをうたい文句にして絶対幸福の秘法と称し、解脱、悟りを得るため、すべてを麻原被告に全財産、全人生を投げ出させている。
B 信徒たちにも「早く目を覚まし現実に戻ってほしい」と言いたい。
E 教団と信徒全員には、自分たちの殻にとじこもらず、広く世の中のことをきちんと見つめ直し、これまでにしてきたことを真剣に考えてほしい。
■裁判には
――教団幹部の裁判で極刑を含む判決が相次いでいるが、どう思うか。
E 被害者の皆さんにおわびしなければならない。麻原被告の指示を断ることは自分の「死」につながる状況のなかで起こった犯罪であり、オウム裁判を単なる刑事裁判で終わらせないでほしい。
C 絶対服従の弟子が大量死刑。教祖本人はどこ吹く風の無責任さ。せめて弟子の方たちには、死刑でなく、一生を償いにあてていただきたい。
A 首謀者の刑が確定していないのに、ロボットである弟子の裁判が進んで刑が確定するのはおかしい。首謀者の確定刑を基準に弟子たちの刑を確定すべきだ。
B 悪事をたくらみ実行させた麻原被告と、マインドコントロールで罪を犯させられた信徒らが同じ死刑となるのは納得できない。
D 被告の多くは悔い改め、裁判での判決を重く受け止めている。麻原被告の絶対命令のもとでの事件であり、洗脳された頭脳で判断ができる状態でもなかった。極刑は麻原被告のみにしてほしい。
■社会には
――社会に望むことは。
C オウムに入る人は、深く考えるやさしい人が多い。カルトを学校や社会で扱い、人生の回り道をしないように教えてほしい。
D 世間では麻原被告の死刑判決でオウム事件は終わったと思っているが、信徒は組織に拘束されており、その家族の苦しみは続いている。マスメディアは一時的でなく、粘り強く報道してほしい。
A 純粋な気持ちで入信したが、いつの間にか大それた犯罪を犯すようになったマインドコントロールの恐ろしさを理解してほしい。
■カルト規制の法律を作って
B 悪徳カルト団体に惑わされることは誰でも起こり得るという認識を持っていただきたい。その防衛策の必要性と脱会者の社会復帰のため、差別意識の排除などの理解を望みたい。
E 国はフランスのように「カルトを規制する法律」をつくってほしい。まじめに仕事をする信徒が多い。脱会した信徒の過去にこだわらないで、就職できるような環境を整えてほしい。
オウム真理教家族の会 オウム真理教(現在のアーレフ)に入信した子どもや家族の脱会支援、家族のケアなどの活動を続けている団体。1989年10月に結成され、会員は現在、約120家族。89年当時、20歳代だった信徒も平均年齢40歳前後で、親ら家族も高齢化している。昨年2月、同月27日の麻原彰晃被告(本名・松本智津夫)の死刑判決を前に、東京都内で臨時総会を開き、「被害者に心から謝罪するが、松本被告は死刑としても、信徒は生きて償いをさせるべきだ」などとするアピールを採択。
オウム真理教の現状 公安当局によると、教団の信徒は約1650人(出家650人、在家約1000人)。昨年11月現在、17都道府県に26の拠点がある。海外ではロシアに約300人の信徒がいる。信徒数は地下鉄サリン事件があった10年前とほとんど変わらず、事件後に入信の信徒も少なくない。麻原被告の死刑判決を受け、昨年3月、教団幹部が信徒の動揺を抑えるため、説法などで「麻原回帰」をより鮮明にする動きも。
http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20050320/mng_____tokuho__000.shtml