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実質審理なしの死刑判決に不感症のマスコミ(虎視牛歩)
http://www.asyura2.com/0502/nihon16/msg/103.html
投稿者 エンセン 日時 2005 年 1 月 16 日 20:20:55:ieVyGVASbNhvI

(回答先: 高野隆ほか『偽りの記憶 「本庄保険金殺人事件」の真相』現代人文社(虎視牛歩) 投稿者 エンセン 日時 2005 年 1 月 16 日 20:17:19)

 
January 13, 2005
実質審理なしの死刑判決に不感症のマスコミ

 いわゆる本庄保険金殺人事件の控訴審は有罪判決となった(控訴棄却、つまり死刑判決)。「予想」通りの判決である。この「予想」なるものははどこから出てきたのかを考えてみる。

 問題はマスコミの報道のあり方だ。というより、そもそもこの事件の発端は、マスコミが「保険金殺人疑惑」という過熱報道から「作られた」事件だったのだから、マスコミの責任は重大だ。マスコミと捜査当局によってどう「作られた」のかについては、高野隆ほか著『偽りの記憶 「本庄保険金殺人事件」の真相』(現代人文社)にくわしいので、本稿では指摘するにとどめる。

 さて、今回の判決をマスコミは「(本日)判決公判が開かれる」予告として、朝の10時ごろより報道を開始(Google News調べ、以下同じ)。判決公判で裁判長が主文を後回しにし、理由の朗読を始めたため、「八木被告2審も厳刑の公算」(おそらく共同通信社の見出し)などという「予告報道」を午後二時過ぎから行なった。主文を後回しにするという裁判長の発言の瞬間、何人かの記者は「死刑だ!」と言いながら法廷から飛び出したのだろう。そして主文言渡しのあとに一斉に有罪判決を報道した。

 この報道のあり方は相当おかしくないか。マスコミの役割は、先を争って結果を報じることなのか。本当にそれでいいのか。もっとほかにすべきことはないのか。マスコミに与えられたもっとも重要な役割は公権力を監視することではないのか。公権力機関が正当に権力を行使しているかどうかをしっかり見張ることこそ重要であったはずだ。これまでも、そして今回もマスコミはその役割を完全に放棄していると言わざるを得ない。

 控訴審は昨年の11月11日に始まったばかりだった。たった二ヵ月前なのである。実質的な審理は第二回公判の12月9日から始まる「はず」だった。ここで、東京高等裁判所の須田賢裁判長は強権的な訴訟指揮を行なう。弁護側が提出した新証拠(報道では400点近くにおよぶ新証拠=産経/共同)をほとんどすべて却下してしまったのである。弁護側は、裁判官の忌避を申し立てたが、却下された。これに対しさらに即時抗告を申し立てたが、これも棄却されたらしい。この須田賢裁判長の強権ぶりは異常ではないのか。この異常な裁判に疑問を持って詳しく取材し、報道するのがマスコミの義務ではないのか。しかし、本稿で述べる以上の報道は一切なかった(というより、残念ながら本稿執筆はマスコミ報道に依拠せざるを得ない)。

 弁護側は新証拠を却下されたため、「新証拠を基にした主張ができない以上、弁論を行う意味がない」として弁論すら行なわなかった。弁論を放棄したのではなく、できなかったのである。そんな事情から第二回公判であっさり結審となり、第三回公判すなわち判決公判の期日として1月13日が指定されたのだった。つまり検察側と弁護側による攻防はいっさいなかったのである。弁護側はほとんど控訴趣意書を提出するだけ、というありさま。こんなものが裁判と言えるだろうか。

 こういう事情に至った経緯をマスコミは報道しない。というより取材をした形跡もなさそうだ。マスコミは、実質審理のない裁判の事情を知りつつ判決の「予想」を立てた。しかし、実質審理のない裁判を異常だとは思わなかったらしい。マスコミの感覚はあまりにも異常である! 三審制の意味などどうでもいいと思っているらしい。

 マスコミが報道したのは、「本日、判決が行なわれる」、という単なる予告と、主文を後回しにしたため、「厳刑になりそうだ」、という予告。これは「予想」から来ている。そして判決が出たら「有罪でした」とし「認定事実要旨」を丸写しするだけ。そんなものを読まされて納得できるわけがない。読者に知らせるべき報道は、『なぜ実質審理のない裁判になったのか』ということの方である。そして『実質審理のない裁判は許されるのか』という点も重要だ。

 事件の内容に関心を持たれた方は、虎視牛歩内の過去記事「高野隆ほか『偽りの記憶 「本庄保険金殺人事件」の真相』現代人文社」と同書をお読みいただきたい。

 ところで過去記事の訂正をここでしておく。過去記事中の「本書は上記認定がすべてデタラメだということを500ページにわたって詳細に立証してみせる」は、「本書は上記認定にはすべて『合理的な疑い』が残ることを500ページにわたって詳細に立証してみせる」とするのが正しい(つながる読書空間・雅薫さんのご指摘による)。

 ついでに裁判の感想。判決文を読んでいないので「感想」としておく。まず、須田賢裁判長ほか二名の裁判官は、いわば裁判官としての職務犯罪を構成するような極限的な逸脱ともいうべき訴訟指揮を、故意ないし重過失で行なったのであるから厳しく責任を追及すべきではないかというのが感想である。実質的な審理をまったくせずに判決を書いてよいものだろうか。元になった、さいたま地裁判決文がとんでもない悪文だったのだから、今回の判決文は、それに輪を掛けた悪文となっていると予想される。読むのはうんざりするほど疲れそうだけれども。いまのところは判決文が出るのを辛抱強く待つことにしよう。判決文全文を読まない限り、何をどう認定したのかはわからないのだから、判決に関する批判はここではすまい。それでもひとこと言っておきたい。第一回(控訴審)公判からたった約二ヶ月で、しかも実質審理もなく、人に死刑を課してよいものか、と。

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■ 朝日
http://www.asahi.com/national/update/0113/020.html
八木被告、2審も死刑判決 埼玉・保険金殺人事件(15:40)

 埼玉県本庄市の保険金殺人・同未遂事件で、実質的に経営する飲食店の客3人を死傷させたとして殺人などの罪に問われ、一審のさいたま地裁で死刑判決を受けた金融業八木茂被告(55)の控訴審判決が13日、東京高裁であった。須田賢裁判長は一審判決を支持し、被告側の控訴を棄却した。

 八木被告は一、二審を通じて無罪を主張。02年10月の一審判決を不服として控訴していた。

■ 毎日、2005年1月13日 16時17分、執筆記者・井崎憲
http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/jiken/news/20050113k0000e040104000c.html
本庄保険金殺人:
八木被告、2審も死刑 高裁が控訴棄却

 埼玉県本庄市の保険金殺人事件で、2件の殺人罪と殺人未遂罪などに問われた金融業、八木茂被告(55)に対し、東京高裁は13日、死刑を言い渡した1審・さいたま地裁判決(02年10月)を支持し、八木被告側の控訴を棄却した。須田賢裁判長は「共犯者の供述は十分信用でき、1審判決に事実認定の誤りはない」と述べた。

 判決によると、八木被告は95年6月、元工員の佐藤修一さん(当時45歳)にトリカブトを混ぜたパンを食べさせて中毒死させたうえ、生命保険会社に自殺したと虚偽申告し、保険金計約3億200万円をだまし取った。99年5月には、風邪薬と酒を大量に飲ませて元パチンコ店員の森田昭さん(当時61歳)を死亡させたほか、塗装工の男性にも風邪薬と酒を大量に飲ませ殺害しようとした。

 八木被告側は、検察側立証の柱となっていた共犯者の女性の供述について、「死刑を求刑すると脅され検察側に迎合しており信用性がない」と無罪を主張していた。【井崎憲】

■ 読売
http://www.yomiuri.co.jp/main/news/20050113i105.htm
埼玉・本庄の保険金殺人、2審も八木被告の死刑支持 (15:39)

 埼玉県本庄市の保険金殺人事件で、殺人、詐欺罪などに問われた金融業八木茂被告(55)の控訴審判決が13日、東京高裁であった。

 須田賢裁判長は、死刑を言い渡した1審・さいたま地裁判決を支持、無罪を主張した八木被告の控訴を棄却した。八木被告は出廷しなかった。

 判決によると、八木被告は共犯の女3人(いずれも有罪確定)と共謀し、1995年6月、元工員佐藤修一さん(当時45歳)に、トリカブトの根を混入したあんパンを食べさせて殺害、生命保険金約3億235万円を受け取った。

 また、元パチンコ店員森田昭さん(当時61歳)に98年夏以降、大量の風邪薬と酒を飲ませ続け、99年5月に肺炎などに陥らせて殺害。元塗装工川村富士美さん(43)も同様の手口で殺害しようとした。

■ 産経・日経(共同通信社配信記事、日経は最後の三パラグラフ欠落)、産経=16:44、日経=17:13
http://www.sankei.co.jp/news/050113/sha066.htm
八木被告、二審も死刑 埼玉の保険金殺人事件

 埼玉県本庄市の保険金殺人事件で3人に対する殺人、殺人未遂などの罪に問われた金融業、八木茂被告(55)の控訴審判決公判が13日、東京高裁であり、須田賢裁判長は、一審さいたま地裁の死刑判決を支持し、被告側の控訴を棄却した。

 被告側は上告する。

 八木被告は、捜査段階から一貫して無罪を主張したが、判決理由で須田裁判長は、八木被告からの指示を認めた共犯者の女3人の供述の信用性を認め、すべての事件で有罪と認定した。

 また、八木被告が被害者に多額の生命保険をかけていたことなどの客観的状況を挙げ「被告が保険金殺人に及んだのではないかという一定の推定が可能」と指摘した。

 弁護側は「トリカブトによる殺人との証明はなく、風邪薬の大量投与による殺人は不可能」などと主張したが、判決は「トリカブトによって殺害されたとして矛盾する証拠はない」として退けた。

 八木被告は、この日の判決公判に出廷しなかった。

 判決によると、八木被告は女3人(実刑確定)と共謀、1995年6月、無職の佐藤修一さん=当時(45)=にトリカブト入りあんパンを食べさせ殺害し保険金3億200万円を詐取。99年5月には、酒と風邪薬を長期間、大量にのませた副作用で元パチンコ店員、森田昭さん=当時(61)=を殺害し、元塗装工川村富士美さん(43)も重症にさせた。

 さいたま地裁は2002年10月、八木被告を首謀者と認定し「犯罪史上例を見ない巧妙、悪らつな犯行」として、死刑を言い渡した。

 控訴審で弁護側は、400点近くの証拠を新たに申請したが、高裁は大半を却下。証人尋問も行われず、審理は2回だけで結審した。

■ 中国新聞、1月13日17時11分、配信社のクレジットはないがおそらく共同通信
http://www.chugoku-np.co.jp/NewsPack/CN2005011301003193_Detail.html
八木茂被告の認定事実要旨

 八木茂被告の控訴審判決で、東京高裁が認定した事実要旨は次の通り。

 一、武まゆみ(37)、森田考子(42)、アナリエ・サトウ・カワムラ(39)の3受刑者と共謀、1995年6月3日、埼玉県本庄市で佐藤修一さん=当時(45)=にトリカブトを入れたあんパンを食べさせ殺害。保険金約3億200万円をだまし取った。(殺人、詐欺)

 一、97年5月、森田受刑者を森田昭さん=当時(61)=と、98年7月にアナリエ受刑者を川村富士美さん(43)と、それぞれ偽装結婚させた。(公正証書原本不実記載、同行使)

 一、3受刑者と共謀、98年8月から森田さんに強い酒と風邪薬を大量にのませ、アセトアミノフェンの副作用などで抵抗力を低下させ、99年5月に肺炎などで死亡させて殺害した。(殺人)

 一、武、アナリエ両受刑者と共謀、98年7月から森田さんと同様の方法で川村さんの殺害を図り、99年5月に重症にさせた。(殺人未遂)

■ 中日新聞、時刻記載なし
http://www.chunichi.co.jp/00/sya/20050114/mng_____sya_____002.shtml
八木被告、二審も死刑
埼玉保険金殺人 東京高裁控訴棄却

 埼玉県本庄市の保険金殺人事件で、愛人三人を使って男性二人を殺害したとして殺人罪などに問われた金融業八木茂被告(55)の控訴審判決が十三日、東京高裁であった。須田賢裁判長は「殺害を認めた共犯の女性らの供述には信用性がある」として、一審さいたま地裁の死刑判決を支持、八木被告の控訴を棄却した。八木被告側は上告する方針。

 須田裁判長は「生命保険契約が異常に多数、高額にわたり、保険金の大半を取得していることなどから、八木被告が関与したとの推定が可能だ」と判断。共犯の女性らの供述は「ありもしない事実を述べているとは考えがたい」と述べた。

 一審判決によると、八木被告は三人の愛人と共謀し、一九九五年に本庄市の無職男性=当時(45)=にトリカブト入りあんパンを食べさせて殺害、保険金約三億円をだまし取った。また、九八年から九九年にかけ、同市の元パチンコ店店員=当時(61)=に風邪薬とアルコールを大量にのませて殺害した。

 一審さいたま地裁は二〇〇二年十月、「犯罪史上例を見ない悪らつな犯行。反省の情はみじんもない」として求刑通り死刑を言い渡していた。

■ 東京新聞、時刻記載なし、執筆記者・白木琢歩
http://www.tokyo-np.co.jp/00/stm/20050114/lcl_____stm_____000.shtml
本庄市の保険金殺人
被告なき言い渡し

 本庄市の保険金殺人事件で、殺人、殺人未遂などの罪に問われた金融業八木茂被告(55)。東京高裁の十三日の控訴審で、八木被告が出席しないまま一審のさいたま地裁の死刑判決を支持し被告の控訴を棄却する判決が言い渡された。淡々と判決文を読み、八木被告の弁護団の主張を退ける須田賢裁判長。弁護団は「死刑の重みを全く考えない非人間的な判決」と憤りをあらわにした。 (白木 琢歩)

 午後一時半の予定時刻通りに開廷。須田裁判長は、誰もいない被告人席に向かって判決理由から言い渡しを始め、八木被告の弁護団の無罪の主張を次々と退けていった。

 一審判決で決め手になった共犯とされた女性受刑者(37)=無期懲役が確定=の証言について弁護団は「偽りの記憶に基づくもので信用できない」としたが、判決は「明らかに合理的根拠を欠く」「無理な推論をしているにすぎない」と突き放した。

 一九九五年に殺害された元工員=当時(45)=の死因はトリカブト中毒ではなく水死とする弁護団の主張も認めなかった。

 判決公判後、記者会見した弁護団は、八木被告の欠席理由を明らかにしなかったが、裁判長が弁護団が請求した証拠の大半を却下するなどした審理の進め方にショックを受けていたという。

 八木被告は「法廷は苦痛だ」として第二回公判を欠席。弁護側も「新しい証拠が調べられていないので弁論の意味がない」と最終弁論を行わず、公判は二回で結審していた。八木被告は最近は「証拠をちゃんと見れば、自分たちが殺人を犯していないことは分かってくれるに違いない」と話していたという。

 弁護団は「裁判長は客観的な証拠を軽視しており大きな問題だ」と厳しい口調で判決を非難。「ずさんな判決で人命が奪われるのは耐えられない」と上告する意向を示した。



この記事へのコメント

八木茂氏の主任弁護人の高野です。丁寧な解説を書いていただき感謝いたします。ミランダの会のホームページ「編集長のひとこと」欄に以下の一文を書きました。それを転載して私のコメントとさせていただきます。今後ともご支援をお願いします。

想像力の欠如、人間性の喪失――控訴棄却判決を受けて

 東京高裁第10刑事部(須田賢裁判長)は、昨日、八木茂さんの控訴を棄却して、一審の死刑判決を追認した。検察庁の倉庫にあるはずの300件あまりの鑑定書の開示を一切せず、弁護人が請求する新証拠については検事が同意したもの以外のすべての取調べを拒否し、1人の証人も取調べず、再鑑定もせず、事実上何の証拠も調べず第1回公判で即日結審した。手続だけではなく、判決もスピード感に溢れていた。弁護人の控訴趣意をバサバサ切り捨てるようなそんな判決だった。1年かけて530ページの控訴趣意書を書いたわれわれ弁護人をあざ笑うかのように、裁判官は小気味よく判決文を朗読して行った。
 判決は、佐藤修一さんをトリカブト毒で殺害したという武まゆみの証言は「偽りの記憶」だというわれわれの主張をただ一言「明らかに合理的根拠を欠いたもの」とだけ言って退けた。
 しかし、少なくとも次のことは疑問の余地がない。――2000年3月に逮捕された後1ヶ月間にわたる否認供述を撤回して「風邪薬事件」を自白した後も、武は「佐藤修一さんは殺していない」「佐藤さんに毎日のように少しずつトリカブトをあげていたけれども、最後は佐藤さんは利根川に飛び込んで自殺した」と供述していた。刑事からしつこく追及されても彼女は半年間この供述を維持した。しかし、10月24日(逮捕の7ヵ月後)に佐久間検事から「佐藤さんがトリカブトで死んだことは科学的に間違いない」「このままの供述をしていると八木と同じ否認扱いになる(死刑になる)」と言われたことをきっかけに、武は「頭の中にあんパンの絵が浮かびました」と言いはじめ、トリカブト殺人のディテールを少しずつ断片的に供述するようになった。武は大学ノートにその「記憶回復」のプロセスを克明に記録しているが、その様子は、ロフタスの『抑圧された記憶の神話』が描く「記憶回復セラピー」の様子と瓜二つである。このノートによれば武がトリカブト殺人のストーリーを完成させたのは2000年12月半ばであり、彼女は「記憶の蓋を開けてくれてありがとう」と佐久間検事に感謝の言葉を述べている。武は2001年9月はじめから10月末にかけて法廷で、獄中ノートとほぼ同じ記憶回復過程を証言した。
 《取調室の中で犯罪の記憶が捏造されることなどあり得ない、「偽りの記憶」などと言う荒唐無稽な主張はまじめに取り上げるに値しない。》第10刑事部の裁判官たちはそう言いたいようである。しかし、われわれの主張には科学的な根拠がある。催眠のような手の込んだことをしなくとも、虚偽の記憶が作られることを多くの心理学者が確かめている。そして、警察の取調べで比較的容易に虚偽の犯罪記憶が作られることを取調べの録音テープで実証している研究報告もある。われわれはこれらの研究成果も控訴趣意書の中で引用した。裁判官たちはそれらの実例と本件とがどう違うと言うのだろうか、判決は黙して語らず、ただわれわれの主張を「明らかに合理的根拠を欠いたもの」というのみである。何をもって「明らか」と言いたいのか、私には理解できない。

 判決は、佐藤さんの臓器や毛髪からトリカブト毒の成分が検出されたという鑑定結果は武の語るトリカブト殺人を裏付ける客観的な証拠だという。しかし、この証拠は武が捜査官に繰り返し語っていたもう一つ別のストーリー、すなわち、「毎日少しずつトリカブトをあげていた。けれども、最後は佐藤さんは利根川に飛び込んで自殺した」というストーリーをも裏付けるのではないだろうか。そして、さらに、佐藤さんの肺や腎臓から利根川に生息する珪藻類が検出されたという鑑定結果は、まさにこのストーリーの後半部分(佐藤さんは溺死した)を裏付けるのではないか。
 判決は、このプランクトン検査について、汚染防止の措置がとられていないから信頼性に欠けるという。確かに汚染防止の措置はとられていない。しかし、肺から検出された珪藻のうち小型のものばかり腎臓から検出され、肺から多数検出された珪藻が腎臓から一つも検出されていないということは、「汚染」では説明ができないだろう。汚染であれば、両者には相関関係があるはずである。この相関関係の欠如は、要するに、腎臓から出た珪藻は肺胞を通過して心臓に至ることができたものだけ(すなわち佐藤さんは溺死した)だからではないのか。判決文はこの点についても沈黙する。
 われわれは、この問題に決着をつけるために、科捜研に冷凍保管されている佐藤さんの臓器を使って再鑑定することを求めた。裁判官は「必要ない」と言ってこれを却下した。そのうえで、1審で提出されたプランクトン検査結果は汚染だと決め付けた。再鑑定が無意味である証拠はどこにあるのだろうか。この態度はフェアなものだろうか。人の生死を決める判断をする裁判官のとるべき態度だろうか。

 どんなに控えめに見ても、この事件は何も調べずにバタバタとやっつけられるような事件とは思えない。いまだかつて死刑事件の控訴審の審理と判決がこのようなやり方でなされたことがあっただろうか。私はその例を知らない。

Posted by 高野隆 at January 14, 2005 19:01


Devlinです。貴重なコメントをわざわざ転載していただき、ありがとうございました。髪が逆立つ思いで拝読いたしました。裁判長・須田賢の名前は聞いたことがあると思っていたら、いわゆる「麻原裁判」控訴審の裁判長で控訴趣意書の提出期限を8月31日まで延長して、「事件の重大性にかんがみると、控訴趣意書を提出できないまま死刑判決を確定させることには、やや躊躇を覚えざるを得ない」と言った裁判官ですね(産経1月8日付)。八木さんの事件が重大な事件ではないとでもいうのでしょうか。でも、これは、渡辺脩弁護士の名著、『麻原を死刑にして、それで済むのか? 本当のことが知らされないアナタへ』(三五館)が利き目を発揮したのかもしれません。ですから『偽りの記憶』出版の利き目はこれからじわじわと広がっていくでしょう。上告審がどのようになるか非常に気掛かりです。上告審における控訴判決の破棄自判を目標に、弁護団のみなさまのご健闘を心より祈ります。

■ 虎視牛歩、読者のみなさんへ
『偽りの記憶』をぜひ読んで下さい。またお近くの図書館へリクエストしてくださるよう、あわせてお願いします。
Posted by Devlin at January 15, 2005 15:00


http://blog.livedoor.jp/devlin/archives/12275099.html

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