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(回答先: 偽りの記憶―「本庄保険金殺人事件」の真相 投稿者 エンセン 日時 2005 年 1 月 16 日 20:13:42)
December 29, 2004
高野隆ほか『偽りの記憶 「本庄保険金殺人事件」の真相』現代人文社
偽りの記憶―「本庄保険金殺人事件」の真相
http://202.33.140.26/genjin//search.cgi?mode=detail&bnum=20095
本の詳細情報:『偽りの記憶 「本庄保険金殺人事件」の真相』(著者:高野隆、松山馨、山本宜成、鍛治信明(八木茂弁護団)/出版社:現代人文社)
読後感はあまりにも強烈だ。おそるべき冤罪なのである。主人公、つまり被告の八木茂さん(以下、すべての人物につき敬称略)は二人の殺害、一人の殺人未遂で2003年10月1日に第一審死刑判決を受けた。本書はこの判決に対し、アルコール(飲酒)による病死が一人、自殺が一人、そして殺人未遂とされた一人はアルコールに由来する単なる病気だったことを立証している。開いた口が塞がらない。さいたま地方裁判所の痴呆裁判官には呆れ返る。
事件の概要は下記のリンク(といっても、誤判が下敷きだから嘘八百ばかりなのだが)をたどって確認することができるが、一人は多量の薬剤を長期間服用し連日高濃度のアルコールを飲ませながら常用の数倍の薬剤を健康食品と偽り長期間飲ませ、酒を連日飲ませて殺害し、もう一人は被告が三人の愛人と共謀のうえ、トリカブトを用いて殺害して三億円余の生命保険金などを詐取し、もう一人は、最初の一人と同様に薬剤とアルコールで殺害しようとしたが病院に駆け込み、失敗に終わったというのが、さいたま地裁の認定の骨子だった。
しかし、本書は上記認定がすべてデタラメだということを500ページにわたって詳細に立証してみせる。驚くべきことに、共謀し実行犯とされた愛人三人(受刑中)とさいたま地検検事・佐久間佳枝が口裏を合わせ、犯罪実行のストーリーを捏造したという。しかも、そのように捏造したストーリーは、実際に起こった出来事だと、少なくとも一人の愛人・武まゆみは信じているふしがある。これが本書のタイトル『偽りの記憶』となっている。
この捏造は、これまで日本で判例に現われた違法な取調べの手法を総ざらいした結果の産物であるという指摘には身の毛のよだつ思いがする。何十年も前の古い事件ではなく、たった三年前の事件である。マスコミによる疑惑報道もすごかったらしい。
白眉は第三章「武まゆみの証言と記憶」、第四章「捜査と公判の間」、第五章「武証言のおかしさ」で、これが本書の骨格となっている。現在無期懲役囚として受刑している武まゆみは、なんと取調べのほとんどの期間にわたる記録を残していたのである。この記録による、取調べの実態、供述の変遷の分析は極めて高い説得力を持つ。この部分だけでも読むに価する。事実は小説より奇なりとよく言われるが、寝呆けたような判決文の認定のおかしさを次々と指摘する鮮やかさは、下手なミステリより何倍もの読み応えのある内容となっている。捏造された記憶によって作られた調書と証言の、都合のいい部分だけをつなぎ合わせて書かれた判決文は悪文そのもの。その悪文を詳細かつ見事な論旨でぶった斬る手並みには脱帽である。
惜しむらくは序章に当る「イントロダクション」は、特に初心者には読みづらいと思われる。16ページにわたる、たんたんとした記述は資料価値は高いのだが、初めて本書を読む人には不親切だ。たぶんこの部分で多くの人は読むのを投げ出すのではないか。弁護側の主張をもっと前面に押し出し、最初に簡単なストーリーの梗概と弁護側の主張を対置し、そのうえで時系列の説明を加えた「イントロダクション」にすれば読みやすいだろうと感じた。しかしそれにしても労作であることは間違いない。これから読もうとする人に対し、読む順序をアドバイスするなら、「終章」→「第三章」〜「第五章」→「イントロダクション」→その他の章の順に読み進めることを提案しておきたい。そして読了後に「イントロダクション」をお読みになれば、実によくまとめてあることにお気付きになるだろうと思う。
弁護団はマスコミの取材を何度も受け、詳細に解説したがマスコミは取り上げなかったし、冤罪者支援組織に出向いてプレゼンテーションを行なったが、やはり無視され、本書を世に問う以外に、誤審を知らせる術がなかったという。あとがきには次のような記述がある――、
【単にわれわれの意見や八木さんの主張を書き連ねただけでは、世間はこれを簡単に黙殺するに違いない。これまで何度も黙殺したように。だから、われわれはできるだけ多くの証拠を引用して、われわれの言っていることが絵空事ではなく、本件を冤罪であると考えるのにはきちんとした裏付けがあることを読者に理解してもらわなければならない。そのために頁数が増え最終的には500頁以上に膨れ上がってしまった。できるだけ専門用語を使わずに一般の読者に理解できる表現で叙述するように注意した。しかし、なにぶんにも本書では医学・薬学・心理学などの最先端の部分に触れざるを得ないので、われわれの努力がどこまで成功したかはよく分からない。この点は読者の批判を待つよりほかにない。】
――ひとりの読者として、弁護団の努力は成功していると断言したい。繰り返しになるようだが、本書は、今年の出版物の収穫ベストテンに入れるべき労作である。ちなみに、本書で読まなかった部分がある。巻末に付録として付けられた「判決」(抜粋)の部分、馬鹿が移ると困るし、批判すべき部分はすべて本文に含まれていると判断し、読む気にもなれなかった。
出版元の現代人文社は、現在もっともエクサイティングな法律書出版社であることを指摘しておきたい。社長の成澤壽信は元日本評論社の編集者。人権と報道・連絡会の常連メンバーでもある。
裁判の現況にも触れておくと、控訴審の第1回は2004年11月11日、東京高等裁判所で行なわれた。控訴趣意書は検察側の取り調べの違法性を述べて無罪を主張していた。裁判長・須田賢は、弁護側が提出した新証拠すべてを棄却、これに対し弁護側は裁判官の忌避の申立をするも却下。即時抗告を行なったがこれも却下されたらしい。第2回は12月9日、すべての証拠が認められなかったため「新証拠を基にした主張ができない以上、弁論を行う意味がない」とし、弁護側は弁論すら行なわず結審。判決公判は来年2005年1月13日の予定。
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関連リンク(鵜呑みにしないで下さい、誤審の判決を下敷きに書かれています):
http://www.alpha-net.ne.jp/users2/knight9/saitamakenhonjousi-hanketu.htm
埼玉県本庄市保険金殺人事件 [ さいたま地裁判決と判決要旨 ](無限回廊 endless loop)
http://gonta13.at.infoseek.co.jp/newpage71.htm
埼玉・保険金殺人疑惑事件(事件史探求)
http://kodansha.cplaza.ne.jp/broadcast/special/2000_03_29_2/content.html
埼玉保険金殺人事件を読み解く(Web現代)
http://courtdomino2.courts.go.jp/kshanrei.nsf/0/1622b996531254a449256c4d003249fd?OpenDocument
さいたま地判平14・2・28
http://www.mirandanokai.net/
ミランダの会(著者の高野隆さんは1995年8月14日から2000年11月18日まで代表、現在ウェブサイト管理者を務めている)
http://www.mirandanokai.net/cgi-bin/wforum/wforum.cgi?page=0&list=
ミランダフォーラム
http://www.mirandanokai.net/cgi-bin/wforum_miranda/wforum.cgi?mode=allread&no=135&page=0#1
「最近報道されたことについて」(旧ミランダフォーラム(休止中)01/10/20(Sat) 18:10 No.135 - 02/06/06(Thu) 19:39 No.193)
http://www.mirandanokai.net/cgi-bin/wforum_miranda/wforum.cgi?mode=allread&no=168&page=0#1
「先に出た判決は進行中の裁判に影響を与えるか?」(旧ミランダフォーラム(休止中)02/03/07(Thu) 16:41 No.168 - 02/06/04(Tue) 17:25 No.190)
http://www.mirandanokai.net/cgi-bin/wforum_miranda/wforum.cgi?mode=allread&no=217&page=0#1
「お疲れさまでした」(旧ミランダフォーラム(休止中)02/10/03(Thu) 15:23 No.217 - 02/10/04(Fri) 01:22 No.218)
http://blogs.dion.ne.jp/verdure/archives/389256.html
「高野隆ほか『偽りの記憶』のこと」(Miscellaneous Thoughts 雑感:某大学法学部研究室から)