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アナン国連事務総長の諮問機関「ハイレベル委員会」(委員長・アナン元タイ首相)がまとめた国連改革の報告書が30日、公表された。イラク戦争を機に世界が直面した「国連の危機」。報告書はその打開に向けた論議のたたき台であると同時に、安全保障理事会の常任理事国入りを目指す日本にとって重要なステップになる。ただし、国連機能の核心である安保理改革は、戦後60年近く続いてきた国際秩序の変更を意味する。改革実現のカギを握っているのは、秩序に君臨する米国にほかならない。【高塚保、ニューヨーク高橋弘司】
◆日本の常任理事国入り 懸念は中国
11月22日、イラクの選挙を支援する外相会議が開かれたエジプトの保養地シャルムエルシェイクで、町村信孝外相とアナン事務総長がこんな冗談を飛ばし合った。
アナン氏「日本は有名なギャング4を結成されたそうですね」
町村外相「いいえ、ジェントルマン4ですよ」
日本はドイツ、インド、ブラジルと相互に安保理常任理事国入りを支持する連合体を結成している。この4カ国が「G(グループ)4」と呼ばれていることに引っかけたやり取りだった。
11月30日にラオスで行われた日本と東南アジア諸国連合(ASEAN)との首脳会議で、ASEAN総体として初めて常任理事国拡大への賛同を表明した。事実上の日本支持であり、日本の根回しがあったのは間違いない。小泉純一郎首相も同29日の日中韓首脳会議で自ら日本の常任理事国入りの希望を説明した。外務省はあらゆる機会をとらえて日本の立場をアピールする方針だ。
国連改革について日本は「勢いが持続する来年が勝負」と見ている。来年3月に事務総長が総会に勧告を出し、同9月の国連首脳会合が、安保理改革に結論を出す場となる可能性があるためだ。ハイレベル委員会の報告書に従えば、国連分担金と任意拠出金の2分野でアジアのトップに立つ日本は新常任理事国として最有力候補になる。
政府は来年4月にも安保理改革に必要な国連憲章改正決議案を提出する方針だ。決議案はまず常任、非常任理事国の枠を増やし、新メンバーの選挙は後に行うという2段階方式が検討されている。どういう決議案を、どの国と共同提出するかが改革の成否に直結するため、総合的な外交力が求められている。
国連憲章の改正には、加盟国の3分の2以上の賛成を得たうえで、全常任理事国を含む3分の2以上の批准が必要になる。最後の関門になるのは、賛同国の数以上に常任理事国の中でも格段の影響力を持つ米国の意向だ。多くの国連外交筋は「ブッシュ政権内で国連改革の優先順位は極めて低い」と指摘する。多数派工作に意欲を示す外務省幹部も「米国が本気で動いていないのが最大のネックだ」と語る。
米国は日本の理事国入りを明確に支持しているが、他国には消極的。常任理事国が増えすぎて安保理の意思決定が複雑になるのを嫌っているためだ。対米協調に傾斜する小泉政権だが、日本だけの新規加入が支持されるはずはなく、米国の日本重視が逆に安保理改革を難しくしている。
中国が態度を明確にしていないことも懸念材料だ。日中の首脳交流は停滞しており、首相が靖国神社参拝にこだわり続ける限り、中国が日本支持を打ち出す可能性は乏しい。
◆2案併記 有力4カ国が巻き返し
「さまざまな問題を認識している(ハイレベル委員会の)委員たちのおかげで、合意に達した広範な問題もある。しかし安保理改革の議論は困難なもので、合意には至らなかった」
ニューヨークの国連本部で国連高官は30日、同委員会の報告書の内容をめぐり「この改革案が現実的なものだと思うか」との記者の質問にそう答えた。
安保理改革案は「常任理事国6カ国増」と「8カ国の準常任理事国新設」の2案併記となった。その背景について、ある国連外交筋は「巻き返しの結果だ」と指摘、水面下で猛烈な外交交渉があったと示唆する。
昨秋、世界の有識者16人を集めて発足したハイレベル委員会の議論が進む中、最初に浮上したのは拒否権を持たず、任期4年で再選可能とする「準常任理事国」新設案だった。
だが、日本、ドイツ、インド、ブラジルの新常任理事国の有力候補国4カ国は、いわば「格下」となるこの提案に満足するはずもなかった。今年9月の国連総会開幕以来、4カ国は常任理事国入りに向け共同歩調を取ることを確認、頻繁に会合を持った。
そして今国連総会で常任理事国拡大を訴えた国が昨年の3倍の84カ国に上ったことなどを“盾”に、ハイレベル委員会の委員らに対する働きかけを強化、それが「常任理事国6カ国増」の併記につながったとされる。
◆改革実現への前途は多難
イタリア、パキスタン、メキシコはそれぞれ域内にドイツ、インド、ブラジルという常任理事国の有力候補国を抱え、対抗上、「常任理事国拡大」に強く反対している。イタリア人のコーヒー好きにちなんで通称「コーヒークラブ」を組織し、反対運動の盛り上げを図っており、改革実現への前途は多難だ。
安保理改革の常任理事国6カ国拡大案で、南北アメリカ大陸に割り当てられるのは1カ国。最大の人口と経済力を誇るブラジルを前に、同じく地域大国を自負するメキシコは「地域内の2、3カ国による持ち回り」を求めている。
デルベス・メキシコ外相は11月末、安保理改革について「新たな常任理事国はラテンアメリカ地域に与える形にし、2、3カ国がその座を共有するのが良い」との一案を示した。他の有力候補はアルゼンチンだ。
メキシコは常任理事国入りに向け、ブラジルのような積極的なPR活動を控えてきたが、ここにきて、特権をブラジルに独占させまいとの強い姿勢がうかがえる。今回の報告を受け、国連のアナン事務総長が自らの勧告をまとめるまで、議論は紛糾しそうだ。
一方、日本が位置するアジア大洋州に割り当てられるのは2カ国。核保有国同士として緊張関係にあるインドの常任理事国入りを恐れるパキスタンは「国連は安保理の力が強くなりすぎている」として安保理拡大に一貫して反対している。特にインドが拒否権を得ることだけは避けたいとの思いは強く、現在の常任理事国5カ国以外への拒否権拡大に強く反対してきた。
パキスタンは今後も安保理拡大に反対していく可能性が強い。日本が新規常任理事国として拒否権の獲得にこだわれば、これに反対する急先ぽうとなる可能性もある。【メキシコ市・藤原章生、イスラマバード西尾英之】
毎日新聞 2004年12月2日 0時57分
http://www.mainichi-msn.co.jp/kokusai/america/news/20041202k0000m030163000c.html