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http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20041007/mng_____tokuho__000.shtml
特報 東京新聞
危うい武器輸出部分解禁 戦中派が苦言 経済同友会・品川終身幹事に聞く
首相の私的諮問機関「安全保障と防衛力に関する懇談会」は4日、武器輸出の一部解禁を含む報告書を発表した。財界からの強い要望も受けた内容で、日本版「軍産複合体」の像が間近に浮かぶ。改憲にも熱心な財界だが、その中であえて「平和主義」にこだわる財界人がいる。経済同友会終身幹事の品川正治氏。戦中派の“一言居士”は、武器輸出の解禁も「日本のためならず」と警鐘を鳴らす。
■いびつな軍産複合体
――武器輸出三原則の部分解禁を提言した今回の報告書をどう考えるか。経済界では、国際的な先端技術競争での乗り遅れへの不安や民生転用による経済活性化の狙いなどから、積極的に評価する見方が強いが。
「そういう理由こそ、まさに米国流の軍産複合体の論理そのものだ。アメリカでは航空機産業など軍需に密接に結びついている産業のほか、情報通信産業や自動車産業も軍需と深いつながりがある。軍産複合体経済だから、米国は軍需関連産業の浮沈が経済全体の景気の浮沈につながる。
■世界に誇れる日本型の経済
一方、日本は戦後、軍産複合体が経済をリードせずに世界第二位の経済大国を築いた。これは世界に誇れる経済モデルだと思うし、実際、財界でも米国型になった方がいいと思っている人は少ないはずだ」
――日本の経済成長は米国頼みの「安保ただ乗り」によるという批判があり、真の独立には、産業も含めた独自の軍事力を高めるべきだとの意見がある。
■安保ただ乗り批判おかしい
「日本は東西冷戦の最前線基地としての役割を背負ってきた。朝鮮戦争やベトナム戦争で西側の兵たん基地として機能してきたことは事実だし、さらに米軍を駐留させ、基地を提供してきた。これらは米国の国益でもあり、安保ただ乗りという批判は当たらない」
――今回の報告書では、経済大国にふさわしい国際貢献を果たすためとして自衛隊の海外派遣をより積極的に位置付けるべきとの見解も打ち出されている。
「国際貢献というとどうして自衛隊の派遣しか出てこないのか。ここが一番おかしい。湾岸戦争でクウェートの感謝状に日本の名前がなかったとか、米国が自衛隊を出さなかった、と批判したとか、が政治家や財界人の一部にトラウマ(心的外傷)になっているんだろう。
しかし、イラクやアフリカには出せるかもしれないが、かつて日本軍が侵略したアジアに自衛隊を出せるのか。中国も韓国も北朝鮮もとても無理だし、フィリピンとかもダメだ。肝心のアジアに自衛隊を出せないとなると国際貢献のための軍隊という論理は崩れる。
日本の国際貢献は戦争をしない国、武器を輸出しない国としての立場を最大限生かしていくこと。これは日本外交最大のカード。日本人はイスラム教徒にもユダヤ人にも、アフリカ人にも嫌われていない。貧困の問題やキリスト文明とイスラム文明との『文明の衝突』の問題も、まさに日本こそが担える国際貢献だ」
――武器輸出三原則の部分解禁を主張する論拠として、日本経団連も指摘しているミサイル防衛(MD)の日米共同開発がある。MDに限定して例外的に輸出を認めることも選択肢の一つだが、報告書はこれを採用していない。
「単純に言えば、商売の機会を減らしたくはないのだろう。だが、そんな企業社会の論理と政治の論理は別のはず。政治は市民社会の論理によってなされるべきだ。政治が企業社会の論理に染まってはいけない」
――MD開発を積極的に推進する理由として「北朝鮮脅威論」があるが。
■MD徹底配備 コスト膨大に
「テポドンが一発や二発日本に着弾しても、日本が滅亡するわけではない。銀行の不良債権問題と同じ。一行や二行つぶれても、経済破たんを起こさないことを最初にはっきりさせておけば、十年間も不況が長引かなかった。テポドンを防ぐにはMDだというが、それなら何千発もある中国のミサイルの矛先が日本でない保証はなく、それがMDで防げるとは思えない。
テロ一般でいえば、米国でさえ九・一一事件を防げなかった。MDの徹底配備や軍事衛星の活用などにかかるコストは膨大。さらに補強のため、世の中は監視社会化するはずで、国民がその窮屈さを容認できるかという問題もある」
――財界では改憲派が主流だ。経済同友会も小泉内閣発足時に憲法改正、集団的自衛権の行使などを実行するよう提言した。
「私の回りには批判的な人が多いが、残念ながら主流には改憲を志向する人が多い。この主流派は、いわば勝ち組中心だ。自動車産業とか情報通信産業とか。強い者、カネのある者の勝ちという価値観は、米国の軍産複合体関係者とぴったり一致する」
――ここ数年有事法制整備やイラクへの自衛隊派遣など、なし崩し的に日本の安全保障政策は変化してきた。それでも、徴兵制などはあり得ないというのが、一般的な考え方だが。
「私は一九四四年十二月に中国戦線に投入された。西安などを転戦してまさに最前線の中にいた。足に銃撃を受けたし、死を覚悟したこともあった。右足にはまだ、銃弾が残っている。さまざまな戦争体験があるだろうが、兵隊として見る戦争と、参謀として東京などにいて見る戦争は全然違う。彼らは本当の戦争を知らない。
参謀の価値観では相手に勝つことがすべてだ。戦前でも余裕があるときは農家の長男は兵隊に取られなかったが、余裕がなくなったら、長男だろうが学生だろうがお構いなしになった。戦争を本当にする体制になったら、徴兵制なんて簡単に復活するだろう」
■『三原則』見直しは財界の要望を反映
武器輸出の部分解禁を含む「安保・防衛懇」報告書の趣旨は、日本経団連を中核とした財界の要望を反映した中身になっている。
日米の防衛関連産業は九六年、米国八社、日本の十二社で「日米安全保障産業フォーラム(IFSEC)」を設立した。日本側事務局は経団連・防衛生産委員会(委員長・西岡喬三菱重工会長)に置かれた。
経団連は九五年の「提言・新時代に対応した防衛力整備計画の策定を望む」に続き、二〇〇〇年には「次期中期防衛力整備計画についての提言」を発表。
この中で「(欧米での防衛企業の再編を受け)わが国防衛関連企業も、このような世界の動きから孤立して技術基盤を維持していくことは困難」としたうえ、MDの推進と、そのための共同開発と生産が可能な「環境整備」として、現行の武器輸出三原則を“問題視”した。
さらに〇二年のIFSEC共同宣言改訂版では、日米の防衛産業を「単なる供給者(米国)と顧客(日本)の関係から、将来の防衛システムの開発におけるパートナーシップを構築する関係」と位置付け、旧来の「国産」路線から一転。その結果、総合力からみて事実上、米国の「下請け」を担うことを示唆した。
そのために「提言」からさらに踏み込み「(三原則は)共同研究の段階では十分な内容だが、全体システムの開発、生産での連携を行う上では十分でない」「関係する第三国への(データや試作品の)移転は認められていない」と三原則排除を強く求めていた。
MDについては、米政府内にも効果を疑問視する向きもあるが、日本では導入を昨年末に閣議決定。当面は米国製システムを購入するため、三原則には触れない。だが、次世代型は日本も技術協力しており、その生産・配備には三原則の骨抜きが条件となっている。
しながわ・まさじ 1924年、兵庫県生まれ。東京帝国大学法学部政治学科卒。第二次世界大戦中の44年、徴兵で中国戦線へ。49年、日本火災海上保険(現日本興亜損保)に入社し、84年に社長就任。会長を経て、91年から相談役。このほか、現在は経済同友会終身幹事、双日監査役を務める。経済同友会を含め、憲法9条改定を唱える財界の中で、一貫して護憲を訴えている。