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在日米軍再編をめぐる11月の日米審議官級協議で、陸軍第1軍団司令部(米ワシントン州)をキャンプ座間(神奈川県)に移転させた場合の司令部機能について、米側が極東有事に限定した作戦指揮権を持たせる方針を提示していたことが18日分かった。米軍駐留の目的を「日本と極東の安全」とした日米安保条約第6条(極東条項)があることから、米側は座間移転を含む在日米軍の再編協議を加速させる狙いで、極東有事に限定すると説明したとみられる。20、21両日に日米両政府の担当者が東京都内で改めて意見交換する。
◆協議促進を狙い米側が極東条項に配慮
ブッシュ米政権は国際テロや大量破壊兵器の拡散が進む中東から東アジアにかけての「不安定の弧」に即時展開できる態勢を目指し、米軍の変革・再編(トランスフォーメーション)を進めている。アジア太平洋地域全体に米本土から機動部隊を展開させる第1軍団司令部の座間移転もその一環とされ、日本政府は一時、極東条項を逸脱する懸念を米側に伝えたが、10月の審議官級協議で「極東条項は必ずしも障害にならない」と受け入れに前向きな姿勢に転換。これに対し米側も極東条項に配慮することで応えた格好だ。
11月の審議官級協議で、米側は「アジア太平洋地域で作戦指揮権を持っているのは太平洋軍司令官だけだ。キャンプ座間に移転する司令部に平時の作戦指揮権はない」と強調したうえで、極東地域の紛争に在日米軍が出動する場合に限り、陸海空と海兵隊の4軍の統合指揮権を第1軍団司令官に与える案を示した。ただ、第1軍団に所属する部隊が極東の域外に派遣される可能性を否定したわけではなく、その場合は指揮下から外れることにより、同司令部の日本駐留は極東条項に抵触しないという理屈だ。
横田基地(東京都)の第5空軍司令官を兼ねる現在の在日米軍司令官は有事の指揮権を持っていない。政府内には、第1軍団司令官が兼ねることになる在日米軍司令官が指揮権を持てば「自衛隊と米軍との連携がとりやすくなる」(防衛庁幹部)と座間移転を歓迎する声がある。一方で、自衛隊と米軍の一体化が進むことや在日米軍基地の増強につながることへの強い反発も予想される。【高塚保】
【極東条項】日米安保条約第6条は「日本国の安全」と「極東における国際の平和及び安全の維持」に寄与するために米軍は日本での基地使用が許されると規定しており、「極東条項」と呼ばれる。政府は極東の範囲を「フィリピン以北で台湾、韓国を含む日本周辺地域」と定義している。
◆解説:朝鮮半島と台湾海峡に備え自衛隊と一体化
在日米軍の再編協議で米側が陸軍第1軍団司令部に極東有事の作戦指揮権を与える方針を示した背景には、極東条項問題を決着させてキャンプ座間への移転を加速させるとともに、朝鮮半島と台湾海峡を抱える東アジア情勢の不安定化に備える狙いがある。移転が実現すれば極東有事に対処する在日米軍の司令部機能が強化され、自衛隊と在日米軍の一体化が一層進むことになる。
再編協議は極東条項をめぐる政府対応の迷走もあって停滞していたが、パウエル米国務長官が来日した10月、日米同盟の強化へ向けた戦略対話の促進に両国が合意したことで進み始めた。11月にワシントンで開かれた日米審議官級協議では、東アジアを中心とした国際情勢の認識や日本の「防衛計画の大綱」見直しなどを議題に戦略対話を行い、その中で米側は第1軍団司令部の機能について説明した。
同司令部の座間移転は中東から東アジアにかけての「不安定の弧」を重視する米軍再編の一環として提案されたものの、日本へ移転する具体的な目的はこれまで示されていなかった。極東有事に備える姿勢を鮮明にした米国の念頭に、6カ国協議の再開に応じない北朝鮮の核開発問題や海洋進出を進める中国の軍事的台頭があるのは間違いない。日本も新防衛大綱で北朝鮮と中国を「地域の不安定要因」と名指ししており、朝鮮半島有事などをにらんだ協力強化が在日米軍の再編とともに進められそうだ。
ただ、在日米軍を「不安定の弧」に対応した戦略拠点とする考えを米側が放棄したわけではない。沖縄の第3海兵遠征軍からは今もイラクへ部隊が派遣されており、在日米軍の行動範囲は極東の範囲を超えている。今後はさらに、イラクなどへの戦略爆撃機の出撃拠点となったグアム基地の第13空軍と横田基地の第5空軍との統合も予定される。
政府は日本からの部隊の「移動」なら極東を超えても構わないという強引な安保条約解釈をとってきたが、今回新たに「作戦指揮権さえ極東有事に限定すれば極東条項に触れない」との解釈が加わることになる。【平田崇浩】
毎日新聞 2004年12月19日 3時00分
http://www.mainichi-msn.co.jp/kokusai/america/news/20041219k0000m010110000c.html