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(回答先: 永田町WINS顛末記(第一回) 投稿者 竹中半兵衛 日時 2005 年 1 月 01 日 21:39:10)
<11月2日>(日)
永田町WINS顛末記(第二回)
http://tameike.net/jokes/wins.htm
官僚たちの異常な愛情
〜あるいは、いかにして我々は威張るのをやめ、永田町に場外馬券売場を開設するに至ったか〜
経済の活性化のためには、規制改革を行うことによって、民間活力を最大限に引き出し、民業を拡大することが重要である。現下の我が国の厳しい経済情勢を踏まえると、一刻も早く規制改革を通じた構造改革を行うことが必要であるが、全国的な規制改革の実施は、さまざまな事情により進展が遅い分野があるのが現状である。こうしたことを踏まえ、地方公共団体や民間事業者等の自発的な立案により、地域の特性に応じた規制の特例を導入する特定の区域を設けることで、当該地域において地域が自発性を持って構造改革を進めることが、特区制度を導入する意義である。
〜「構造改革特別区域基本方針」より抜粋〜
◎SCENE.1 2003年10月22日 東京霞ヶ関
農林水産省経営局構造改善課のパソコンディスプレーにメール着信を告げるメッセージが表示されたのは、秋も深まりつつあった10月22日深夜11時半のことであった。衆院が解散し、議員が選挙対策で地元に戻っている今は、霞ヶ関に本拠を置く官僚たちにとって比較的ゆとりのある時期ではあったが、それでも半数近くの職員が机にかじりつき黙々と業務に従事していた。
夜食のカップ麺をすすりながら、構造改善課課長補佐・鳥神公海は画面を覗き込んだ。
発信元:内閣官房構造改革特区推進本部
宛先:農林水産省 事務次官殿 同経営局構造改善課御中
取扱:[最重要][極秘]
件名:「農水関連事業促進特区」申請に関する特例措置法案化の件
本文:題記の件、添付内容の特区申請が出されたので、この実現にむけ、法案・省令整備を行うこと。
・本件改選後の第一回国会審議にかけるので、最優先で取り組み、かつ必ずこれを立法化すること。
・内容極秘扱とし、情報漏洩の防止に万全を期すること
(構造改革特区推進本部長)
「なんだ、こりゃ?」
はしを持つ手が止まった。「特区推進本部長」とは誰あろう内閣総理大臣小泉純一郎その人のことであり、つまるところ、これは総理の直命メールを意味しているわけなのだが、はなはだ腑に落ちなかった。
経済活動の妨げになると思われる規制を特定地域に限り緩和し、その経済効果を見極める実験場とすることで、最終的に日本経済活性化の突破口たらしめることを図るのが特区構想の趣旨であるのだが、その実現に際しては管轄官庁と入念な調整が必要であるにもかかわらず、「農水関連事業促進特区」なる特区名称は、農水省関連特区の事務窓口である鳥神にして初めて見るものであったのである。
眉をひそめながら、さめかけたカップ麺を片手に持ち、添付資料を読み始めた鳥神の顔は読み進むにつれみるみると青ざめていった。
「うわぁああ!なんなんだ!これは!」
驚愕にのけぞった反動でカップ麺が机の上にぶちまけられた。残り少ない麺と、最後まで大事にとっておいたチャーシューがキーボードの上にしなだれかかるの気にする余裕もなく鳥神は叫んだ。
「次官と審議官に連絡だ!あと経営局長と生産局長、それから競馬監督課長にも!大至急呼び出すんだ!緊急事態だ!」
◎「農水関連事業促進特区」計画の概要
1 申請日 平成15年10月22日
2 申請主体 東京都、千代田区 (事業の主体:日本中央競馬会)
3 構造改革特別区域の名称 農水関連事業促進特区
4 構造改革特別区域の範囲 千代田区永田町
5 構造改革特別区域のねらい
相次ぐ地方競馬の破綻、これまで磐石であったはずの中央競馬における採算割れ の懸念等、現在、日本の競馬産業は未曾有の危機に直面しております。
これは、馬券売上の減少、傲慢な馬主団体の既得権益、非効率的な馬産地の生産 性、未だ競争原理の働かぬ調教師・騎手の馴れ合いの横行等、様様な構造的要因 に、その責を求めることが出来ますが、とりわけ歯止めのかからぬ馬券売上の減 少がもたらす影響は深刻であり、これに対する抜本的な対策を講ずることが焦眉 の急となっております。
売上減の原因として次の二つの要因が挙げられます。
@高すぎる控除率がもたらす取りガミ馬券の続出が馬券購入者のモチベーションを著しく冷ましている事実。
A馬券販売が日本国内に限定され、海外需要の存在を最初から排除している事実。
本計画は、上記二点に関する規制を緩和することで、馬券購入者=競馬ファンへのサービス向上を行い、馬券売上の増大を図るとともに、競馬産業の真の国際化を促進し、グローバルな競馬ユートピアの形成を目指そうとするものです。
◎本計画の骨子
1.東京都千代田区永田町議員会館横に場外馬券売場を新設する。
2.当該売場での馬券控除率を現行平均25%から12%に低減する。
3.当該売場にサーバーを設営し、電信取引による海外からの馬券投票を受け付ける。
4.当該売場における馬券購入は外貨による購入を可とする。
5.当該売場の入場者は当面、国会議員等特別公務員にこれを限定する。
6.当該売場の海外投票資格者は当面、海外首脳等、内閣総理大臣が認可したものにこれ を限定する。
6 申請する規制緩和項目(注。表がうまくコピーできませんのでソースを参照ください−−−竹中)
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規制緩和項目 規制緩和の内容 特例措置が必要な規制
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払戻金の計算方法 平均25%の控除率を12% 競馬法第8条、第9条 競馬法付 に低減。 録に定める第二号算式 農林省告
示第385号
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外国人投票者の受け入 海外投票者の電信投票の容 電話投票に関する農林水産省令
れ促進 易化。
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勝ち馬投票券の外貨建 週末レートに換算した海外 競馬法第5条
て販売 販売の投票券の外貨建て販
売の実施。
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◎SCENE.2 2003年10月23日 東京永田町内閣官房長官執務室
「これは一体どういうことですか!」
言葉に怒気を込め、農林水産省事務次官・尾毛良海道は内閣官房長官・福田康夫につめよった。
「どういうことって、書いてある通りだが。農水大臣の亀井さんからは何も聞いてなかったの?」
眼鏡の奥から眠そうな目をしばたかせ、福田は答えた。内閣官房の長官執務室に、尾毛良が経営局長と生産局長、それに競馬監督課長を従えて乗り込んできたのは、経営局に電子メールが着信した翌朝7時過ぎだった。
「大臣は選挙の応援演説でお忙しいのだそうで。」
「ふーん、あの人に応援頼む候補がいたとはね。こりゃ、ていよく逃げを打たれたな。」
「大臣だけじゃありません!都知事に連絡しても、この件は官邸に問い合わせてくれの一点張り。一体どのようにして、このようなふざけた申請が我々に提出されたのか、ご説明願いたい!」
背後に整列する部下達の視線を意識しながら尾毛良はたたみ掛けた。数少ない非東大卒の事務次官として、普通以上の自己防衛を強いられる尾毛良にとって、ここは一歩も引くわけには行かなかった。
「ふざけた、とはなんですか。特区の申請が出たから取り纏め部署の内閣官房として、関連官庁に調整を指示しただけじゃない。当然でしょ。」
「なにが当然です!特区の認可に関しては、申請の前段階で提案を提出し、管轄官庁と十分な調整をするのが規則ではないですか。その前段階をすっ飛ばしていきなり申請とは破廉恥極まりない!しかも都知事に言わせれば東京都は名前を貸しただけで、原案はすべて官邸が作ったそうじゃないですか。自治体の自発的意思を唄った特区法の根幹を踏みにじるこの行為、一体どのような説明をつけてくれるんです。」
「いやあ、確かにこれは総理の固い決意なんだけどね、タイでアメリカと色々あったらしんだ。いわゆる『外圧』って奴かな。」
「冗談じゃない!そんなことでこんなでたらめが通ると本当にお思いか。大体、よく都知事がこんな破廉恥行為に荷担する気になりましたな。」
「石原さん、えらく乗り気だったよ。税収も増えるし、なにより、この前、君達官僚がよってたかってボツにした「東京湾岸地区カジノ構想」の意趣返しができるって、そりゃもう大はしゃぎさ。」
「なにを能天気な。そもそも配当の公正は競馬の基本です。それを一部地域だけ割増の払い戻しを支払うなんて、ファンが暴動を起こします。そうなったら競馬事業の終わりだ!」
「だからねぇ、極秘にやるんでしょ。対象も国会議員だけにしてさ。大体、全国一律で導入したら失敗した時おっかないから、取り敢えず一部地域で導入して様子を見ましょってのが、そもそもの特区構想じゃないか。君も本末転倒なことは言わんで欲しいね。」
なんと言う厚顔無恥なもの言いであろうか!理が圧倒的にこちらにあるにもかかわらず、自分がじわじわと追い詰められつつあるのを尾毛良は感じた。
「そ、そうだ、JRAは!中央競馬会の理事長がこんな理不尽な構想を受け入れるはずがない!」
JRAは衰えつつあるとは言え、農水関連できちんと機能している殆ど唯一の事業であり、代代そこの理事長は農水省の事務次官が天下ることになっていた。農水省の権益確保に誰よりも熱心であった先輩の現理事長が、競馬行政を根本から破壊しかねない提案に乗るとはとても思えなかった。
「ああ、彼。彼ももちろん大賛成だよ。そりゃ控除金に関しては少々難色を示したけど、それだって、永田町だけの話だし、それ以上に海外売上が増えるのは魅力だった見たい。『海外売上が増えるのは結構だけど、最近の円高が気になるから、インフレターゲットを設定して為替を円安に導いてくれ』だって。出すぎたこと言うよ。まったく。」
「ああ、おいたわしや、理事長。ここまで堕落なさるとは!馬券の海外販売自体、各国との租税条約に抵触する恐れがあるから慎重に対処しなくてはならないというのに。。。」
「もういいでしょ。反対してるのは君達だけなんだから、さっさとあきらめて、法案作って持ってきなさい。」
絶望に押しつぶされそうになりながら尾毛良は最後の抵抗を試みた。
「こんなものを国会に出しても採択されるはずがない!」
福田の目に凶猛な光がともり始めた。
「君はそんなことは考えなくていい。とにかくさっさと法案を作ってもってこい!」
「こ、今度の選挙であんたら与党が勝つって保証はないんだぞ!」
「選挙の結果がどうなろうと、提出さえすれば法案は通る。民主だろうが共産だろうが社民だろうが、この案に反対の議員は一人もおらんのだ。」
「な、なんですと。と、いうことは。。。。」
「そういうことだ。」
尾毛良は全てを悟った。なにが、「競馬ファンへのサービス向上」だ。こいつらみんな自分が楽しみたくて、こんな無理を通そうとしていたのか。完全に逃げ場を無くした事務次官は振り返り部下達にすがるような視線を投げかけた。そして。。。。
部下達とのひそひそ声の相談の後、官房長官に向き直った尾毛良の目にも凶猛の光がともっていた。
「なるほど、よくわかりました。我々も最大限の協力をさせていただくことにします。」
「そいつは結構。」
「但し一つ条件がございます。本計画に関し、競馬法第29条に関する特例措置も追加させていただきたいのです。」
「ほう、どういうことかね。」
「監督官庁職員の馬券購入を禁じたこの条項があるせいで、我々も随分窮屈な思いをしておりまして。」
しばしの沈黙の後、福田は笑い出した。
「なーんだ、結局君達もやりたいんじゃないか。わはははは、いいだろう。好きにしたまえ。」
「ははははは、ありがとうございます。」
「わはわはわははは、それにしても農水省、そちらもなかなかのワルじゃのう。」
「いえいえ、先生方にはかないませぬわ。がはははははは。」
二人の笑いに農水省の部下達も加わり、時代劇の悪役もまっつあおな、高らかな哄笑が長官執務室の外に聞こえるくらい響き渡っていった。
かくして、驚くべき速さで法案が可決され、国会議員会館横に突貫工事で場外馬券売場が建築された。正式名称を「農水関連事業促進特区試行センター」というその建物を、その名で呼ぶものはなく、知る人からはその後「永田町WINS」と呼ばれるようになる。時に2003年11月27日。国際G1競争ジャパンカップの開催が三日後に迫っていた。
(続く)
次回予告
官邸と官僚の急転直下の和解により設立された永田町WINSにこけら落としの日がやってきた。憑かれたようにジャパンカップの勝ち馬予想に奔走する議員達。交錯する思惑、超大国の介入。そして暗躍するあの男の黒い影!事態はついに最大級のカタストロフに突入していくのであった。
次回「永田町WINS顛末記」最終話「議員たちの異常な愛情 〜あるいはいかにして我々は恐れるのをやめ、テロを愛するに至ったか〜」
乞うご期待!.