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増谷栄一の経済コラム:HP、トップ解任でどう変わるか?
フィオリーナ解任でヒューレット・パッカードは再び栄光を取り戻すか?
【ライブドア・ニュース 13日 東京】 − ヒューレット・パッカードといえば、“フィオリーナ”というぐらい、有名なカーリー・フィオリーナ会長兼CEO(最高経営責任者)が先週の9日、突如、辞任した。辞任というより、正確には、同社の取締役会がCEOとしての役職を十分に果たしていないとう理由で解任したのだ。それも1週間後の16日に同社の第1四半期(2004年11月−2005年1月)の決算発表があるという微妙なタイミングでの解任発表劇だった。
経済調査会社、トムソン・ファースト・コール社のアナリスト調査では、同社の同四半期の売り上げ予想の中心値は20.9億ドル(2200億円)で、最終利益は1株あたり37セント(39円)だが、会社側は市場予想を一致したとの見解を示している。とりわけ、業績の悪化が予想されていたわけでもなく、なぜ、この時期に解任なのか疑問は残るが、会社側は数週間、社内で議論した結果であり、唐突ではないと主張している。
フィオリーナと同じ女性幹部役員で、フィオリーナの辞任で会長代理に就任したパトリシア・ダン取締役は、「絶えず、会社の業績とトップとしてのリーダーシップを評価しており、その評価の過程から出た結論だ」と冷静を装う。
一方のフィオリーナは「役員会と私との間で経営戦略を実践する方法をめぐって、意見の対立があったのは残念だが、その決定は尊重する」とのコメントを発表している。余談だが、会社からはフィオリーナには退職金2140万ドル(22.5億円)と年金やストック・オプションなど株式関連で2110万ドル(22億円)の合計4200万ドル(44億円)以上の解任費用が支払われる見通しだ。
市場関係者もビジネス戦略自体は解任の大きな原因ではなかったと見ているようだ。ゴールドマンサックス証券が、フィオリーナ解任後の同社の投資判断を「インライン」のまま、据え置いたのもそういう見方による。つまり、フィオリーナと他の役員とは、経営方法をめぐる確執があり、会社業績に対する不満も原因で、通常の会社業績レビューの一環として、フィオリーナの解任に至ったというものだ。
解任の是非は数週間前から役員会の議題になっていたようで、少人数で役員幹部が6日から7日にかけて、シカゴのホテルにカンヅメになって長時間議論したという報道もある。業績に対する不満は、やはり、フィオリーナが2002年に190億ドル(約2兆円)の巨額な投資までして、IMBやデルとの熾烈なシェア争いに打ち勝つため、パソコン大手のコンパックを他の役員の猛反対を押し切って買収したものの、その後、パソコン部門の利益率は会社の全事業部門でも最も低い方になって、もうからないお荷物になってしまったからだ。
今回の第1四半期の業績全体が予想と一致したとしても、それは、好調なプリンターや映像機器が支えているという構造には変わりはない。また、フィオリーナが1999年7月にルーセント・テクノロジーズのグローバル・サービス・プロバイダー事業部門の社長からヒューレット・パッカードのCEOに就任して以来、在任の5年半で同社の株価が50%以上も下落した株主への責任は大きい。
2004年10月期のプリンター・映像機器事業部門(プリンターやデジカメなど。当時)は、会社全体の売上高800億ドル(8.4兆円)の30%だったが、営業利益42億ドル(4400億円)の90%を占めた。同事業部門の売上高は242億ドル(2.5兆円)に対し、営業利益は38億ドル(4000億円)で営業利益率は15.9%と最も高かったのに対し、PC事業や企業向けコンピューター事業部門(記憶装置やサーバー)ははるかに利益率が低い。
企業向けコンピューター事業部門の売上高152億ドル(1.6兆円)に対し、営業利益は1.7億ドル(180億円)で利益率は1.1%、また、PC事業部門は売上高246億ドル(2.6兆円)に対し、営業利益はわずか2.1億ドル(220億円)で利益率は0.9%にすぎない。ちなみに、HPサービス事業部門(コンサルティングやシステム統合)は売上高124億ドル(1.3兆円)に対し、営業利益は14億ドル(1500億円)で利益率は11.0%とまずまずだ。
今後の焦点は、フィオリーナに代わる新CEOがどう事業再編を行うかだ。9日のニューヨーク株式市場ではフィオリーナの解任発表を受けて、同社の株価は6.9%高の21.53ドルに急伸した。これは、新CEOの下で好調プリンター事業や企業向けコンピューター事業の会社分割が行われ、業績が回復することへの期待からの買いだった。実際、メリルリンチ証券は投資判断を「ニュートラル」から「バイ」に引き上げたほどだ。
ダン会長代理とCEO代理に急遽、就任したロバート・ワイスマンCFO(最高財務責任者)も、異口同音に「前CEOが立てた戦略は維持する。ただし、戦略を実施する方法は変える」と明言しているが、同社は、新CEOが就任後の数ヵ月後には会社分割による特定分野への資源集中や採算性の低いPC部門の事業売却、あるいは、シナジー効果を狙って、イーストマン・コダックやゼロックスの買収などへ戦略を転換する可能性があると見るアナリストも少なくない。
コダックの株式発行総額は98億ドル(1兆円)、ゼロックスは142億ドル(1.5兆円)だが、ヒューレット・パッカードは両社のいずれかの買収を検討しているともいわれるが、買収資金についても同社は海外で稼いだ140億ドル(1.5兆円)以上の利益を米国内に再投資すれば、非課税となるので資金的には問題がないようだ。とくに、コダックについては、デジカメで撮影した画像処理をインターネットによるオンライン発注やキオスクでの受注ネットワークを持っていることから、家庭でのプリンター印刷に特化している同社にとって、合併のシナジー効果は大きい。
ただ、会社分割については、同社は1月にプリンター・映像機器部門と統合し、イメージング&パーソナル・システムズ・グループを新設、PCやテレビ、デジカメ、プリンター、iPodのHP版など携帯音楽プレーヤーなどデジタル家電、携帯端末などが1つの部門で扱われるように組織変更し、「家庭エンターテインメントセンター」という戦略展開が期待されていることから、会社分割がない可能性もある。その場合は、マイクロソフトのXBoxとソニーのプレステ3がライバルとなる。
新CEOの候補については、市場では、社内外からの起用をめぐって、うわさが飛び交っているが、社内候補で有力なのは、企業向けコンピューター事業部門のトップである、アン・リバモア女史とイメージング&パーソナル・システムズ・グループのトップであるバイヨメッシュ・ジョシ氏だ。社外では、長距離電話会社のMCIのマイケル・カペラCEOだ。同氏は元コンパックのCEOで、2002年のヒューレット・パッカードとの合併後はフィオリーナの下で社長だったが、2002年11月に辞任している。もう一人は、元サン・マイクロシステムズの社長で、現在はモトローラのエド・ザンダーCEOの名前も取りざたされている。
もともと、人材や技術力、製品力など優れた経営資源を持ちながら、有機的に結合し、効果を発揮していないと言われるだけに、新リーダーがどこまでヒューレット・パッカードの真の実力を発揮できるかに同社の将来がかかっているといえよう。 【了】
ライブドア・ニュース 増谷栄一記者
(参照:http://blog.livedoor.jp/emasutani/)
http://news.livedoor.com/webapp/journal/cid__985003/detail