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『愛・地球博』開幕直前
万博景気 踊らぬ名古屋
愛・地球博(愛知万博)の開幕が三月に迫った。中部国際空港もいよいよ十七日に開港する。大阪万博以来三十五年ぶりの総合博覧会開催に、地元・名古屋ではそれを当て込んだ商戦が白熱化しているかと思いきや、そうでもないらしい。全国の注目も増すが、現地で聞く声は「景気がいい? 関係ないね」と意外にあっさり。経済好調で「元気な名古屋」だが、万博には踊っていないようにみえる。 (松井 学)
■仙台のほうが浮き浮きムード
「愛知万博って来月開幕なの。宣伝の旗が駅構内にいっぱいあったが、気づかなかった」
十二日、新幹線の名古屋駅で東京から出張帰りの会社員、清野隆さん(42)はきょとんとした顔を見せた。「名古屋の街は買い物袋を提げた人も多くて活気がある。ところが、街のムードは新球団・楽天を誘致した仙台のほうが浮き浮きしていた」と辛口に分析する。
駅前で地元タクシー「名タク」の運転手(54)は「七〇年の大阪万博の時は物珍しさで日本中から行った。愛知万博は会社の割り当てで一枚入場券を買ったから家族の分も買い足して出かけるよ。でもタクシーのお客さんが増えるかは、始まってみな(ければ)わからん」と慎重な物言いだ。
意外なのは地元住民の反応だけではない。この時期、旅行ガイドブックは愛知万博特集が多いが、JTBパブリッシング(東京)は一月、まず「るるぶ情報版シリーズ」として中部地域の産業資料館やモノづくりの現場を取り上げた「産業観光に行こう」を発売、好調な売れ行きという。
発行元の担当者は「須田寛・JR東海相談役が出版を持ちかけた、産業観光をテーマにした全国初のガイドブックで、目標は十万部」とベストセラーをもくろむ。一見地味な切り口だが、日本最大規模のトヨタ博物館、世界五指に入るコレクションがある愛知県陶磁資料館、食品メーカーの工場など「モノづくり観光」のルート紹介が受けているという。
■ホテル業界も静観の構え
一日三十四万人余りの乗降客があるJR名古屋駅前には、新たに高さ二百四十七メートルの超高層ビル建設が進む。好景気を反映するように昨年、基準地価の上昇率が9・9%と全国の商業地で一位の地点も同駅前に現れた。
再開発も進められ、ホテル業界も愛知万博来場者を当て込んでいるかといえば、同駅近くのホテル関係者は「万博期間中はレストラン従業員が着物姿のお祭りムードでもてなすつもり。でも万博に向けた設備投資はしなかった。景気がいいのになんて冷やかされるけれど、イチかバチかの商売をしなければ、万博後にも落ち込みは起こらない」と静観の構えだ。
愛知万博で期待される経済効果の一つが集客のはずだ。名古屋観光コンベンションビューローの担当者は「学会や国際会議の誘致が例年に比べて増えた。主催者側が、万博もある名古屋でぜひやりたいと言ってくる」と歓迎する。だが、名古屋ホテル旅館協同組合は「万博に向けて市内で客室数を増やす動きはなかった。部屋が足りない日が既に予想されている」と説明する。
一九九八年の長野五輪や七五年の沖縄国際海洋博覧会で観光客増を当て込み、ホテル建設や増築が相次いだのとは対照的だ。
■日本史上ないプロジェクト
共立総合研究所(岐阜県大垣市)の江口忍主任研究員は、こうした現状を「日本で開く三十五年ぶりの総合的な万博と、国際空港開港という二大プロジェクトがわずか一カ月の間に相次ぐことは日本の歴史にない。にもかかわらず地元は浮かれていない」とみる。
理由はこうだ。「私見だが、名古屋はソウルに負けた五輪誘致の失敗、円高不況と、厳しい八〇年代以降を送ってきた。たたかれ続けたことがトラウマ(心的外傷)になっている。今光が当たっているとはいえ、万博後に名古屋がこのまま大化けするのか、地方都市に戻るのか、まだ自信がない」
名古屋駅前の三省堂書店・名古屋テルミナ店の週間ベストセラー(二月五日時点)では中部国際空港と愛知万博のハンドブックが一位、二位を占め、地元の関心が高まっているのは事実だ。万博の目標入場者数千五百万人に対して、既に前売り入場券も約八百万枚売れている。
■新空港でお釣りくる
この人気でも愛知万博開催に地元が冷静な理由を、UFJ総研の内田俊宏エコノミストは「実は万博の最大のパビリオンは空港だ。空港というハードを利用してもらうソフトが万博ということになる。空港という元を取ったのだから、万博はもし赤字が出てもお釣りがくると考えれば、この地域が踊って見えない理由がわかってくる」と分析する。つまり空港という実を既に手に入れて、地元の目標は達成してしまったというのだ。
日本一、元気だといわれる名古屋経済は日本の貿易黒字の七割を稼いでいる。その上で、愛知県は二〇〇三年十二月に発表した試算で、「愛知万博と中部国際空港の二大事業の経済効果は〇五−一〇年度の六年間で二兆二千億円を超え、二万二千人以上の雇用を生み出す」と見込んだ。
■モノづくりが本当の「主役」
エコノミストで中京大学大学院の水谷研治教授は「名古屋への高い関心は、ほかに比べて景気がいいという相対的な評価だった。日本経済は右肩下がりが続くと思うので、堅実な名古屋経済への評価はこのまま続く」と説明する。
その上で「注目は、部分開通する東海環状自動車道をはじめ名古屋市周辺の自動車道路がどんどん開通していることだ。空港開港で物流拠点としての需要が高まり、こうした効果は長年にわたって出る。さらに、この地域は人がよく働く。働いて得たお金を会社なら本業を中心に堅実に投資する。決まっていることを黙々とやっているのだから強くなるのは当たり前だ」とバブル経済にも踊らなかった県民性の堅実さを指摘、一過性の万博にとらわれないというのだ。「るるぶ」の特集も“主役”の製造業を観光資源化しようとする試みだ。
前出の内田氏も「愛知万博は、大阪万博や長野五輪のような公共事業的な意味合いでなく、地元企業と地域参加で盛り上げると考えているのも強みだ。環境博というテーマは、この地域の製造業の次世代の課題とつながり、トヨタの戦略ともうまくマッチした」という。
江口氏は、万博後の名古屋にこう注文をつけた。「今の名古屋ブームは東京のメディアが火をつけたが、名古屋嬢や手羽先、ヒツマブシなど上っ面の紹介にとどまっている。本当の強みは、モノづくりをブランドにしていけることだ。例えば、燃料電池など次世代技術が、なぜかすべて名古屋から出てくるというように、先進性のある製品をつくる土地柄と知ってもらうことがカギになる。食べ物やファッションに比べて、やはり地味かもしれないが」
http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20050213/mng_____tokuho__000.shtml