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インフレの高まりや米国での金利上昇を受けて、これまで利上げには消極的であった中国当局は、10月28日にようやく利上げに踏み切った。ここでいう当局とは、一般的に中央銀行である中国人民銀行のことであると理解されているが、金融政策の面において中国人民銀行の独立性は低く、金利変更などの重要事項について、政府(国務院)の承認が必要になっている。物価の安定に政策目標を置く中央銀行と異なり、政府は雇用確保なども含めて金融政策を決める傾向がある。特に、政府は利上げによって国有企業の採算性がいっそう悪化して、倒産と失業が増えてしまうという懸念から利上げをためらったのである。中央銀行としての人民銀行の独立性が欠如していることが、利上げの判断を遅らせたと見られる。
中国人民銀行の本来の意味での中央銀行としての歴史はまだ浅い。1984年まで中国人民銀行は、中央銀行の機能だけではなく、企業や居住者を対象とする預金や貸出業務も行っていた。1983年9月、国務院は中国人民銀行を中央銀行の機能に特化させると同時に、中国工商銀行を設立し、商業銀行の業務を担当させることにした。1995年に「中国人民銀行法」が成立したことで、中国人民銀行が中国の中央銀行であることが法律によっても確定した。2003年には、中国人民銀行の銀行に対する監督機能を分離する形で中国銀行業監督管理委員会(銀監会)が正式に誕生した。2003年に改定された「中国人民銀行法」では、中国人民銀行は「国務院の指導の下で」、通貨政策を策定かつ実施し、通貨の価値を安定させ、経済発展に貢献する権限が与えられている。しかし、年度内の貨幣供給目標や、金利と為替レートの変更にかかわる重大事項の最終的な決定権は依然として国務院に属し、人民銀行は中央銀行として完全な独立性を持つに至っていない。
また、中国人民銀行に貨幣(金融)政策委員会が設けられているが、あくまでも諮問機関に過ぎない。現在の貨幣政策委員会は、委員会の主席である周小川・中国人民銀行総裁に加え、尤権・国務院副秘書長、朱之?・国家発展改革委員会副主任、李勇・財政部副部長、呉暁霊・中国人民銀行副総裁、李若谷・中国人民銀行副総裁、李徳水・国家統計局長、郭樹清・国家外貨管理局長、劉明康・銀監会主席、尚福林・証監会主席、呉定富・保監会主席、肖鋼・中国銀行総裁、余永定・中国社会科学院世界経済政治研究所長で構成されている。外部の学識経験者は余永定氏一人しかおらず、行政機関の責任者が委員の大半を占めており、政策決定における委員会の独立性が制約されている。
独立性を持つ中央銀行と比べて、政府は物価の安定を犠牲にしてでも景気や雇用などの他の経済目標を重視しがちである。しかし、長期的に見るとインフレと雇用の間にトレードオフ関係は成立しないため、景気と雇用の拡大を狙った金融政策は一時的に成果を上げたとしても、長期的にはむしろ高インフレを招くだけである。世界各国のこのような経験から見て、中央銀行は国内外の利益団体の影響を受けず、政府や政党からも独立性を保つべきであるという認識が専門家の間では共有されている。
中国においても、本来、金利政策は国有企業の支援といった特定分野のために行われる性質のものではない。低金利政策で効率の悪い国有企業の延命を図ると、モラル・ハザードが助長され、資金の運用効率の改善も見込めない。政府や政治の圧力から貨幣の価値を守るために、人民銀行の独立性を高めなければならない。具体的にいえば、人民銀行は行政機関である国務院の下に置かれるのではなく、立法機関である人民代表大会の常務委員会の下に置かれるべきである。さらに、貨幣政策委員会の役割を拡大し、最高政策決定機関にしなければならない。その一方で、構成メンバーのうち、行政機関の代表を減らし、外部の学識経験者を参加させるべきである。
日本では、1997年に行われた日銀法の改訂を経て、日本銀行の独立性が高められるようになった。日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会のメンバーの構成は、業界代表方式が廃止され、総裁、副総裁2名、審議委員6名に改められた。また、政府と意見を異にすることを理由として解任することはできない体制となっている。さらに、政府は日本銀行に対して業務を行うことを命令することができなくなった。こうした日本の経験も中国にとって一つの参考になるだろう。
(関連記事:2004年10月29日 「実事求是」欄掲載 「利上げに踏み切った中国」:http://www.rieti.go.jp/users/china-tr/jp/ssqs/041029ssqs.htm)
2004年11月5日掲載
http://www.rieti.go.jp/users/china-tr/jp/ssqs/041105ssqs.htm