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特報
2004.09.24
イラクの次狙うネオコン
イスラエルへの『イラン機密』漏洩疑惑
米大統領選が最後の追い込みを迎える中、ブッシュ政権にスキャンダルが浮上した。在米ユダヤ人団体を介したイスラエルへの「イラン機密」漏洩(ろうえい)疑惑だ。底流には、政権内の保守中道派とネオコン(新保守主義派)という対立構図が透けて見える。次期政権での主導権争いといえるが、攻防の行方は、大統領選後の対イラン軍事行動の有無に絡むだけに、懸念される。 (田原拓治)
米連邦捜査局(FBI)が捜査中という機密漏洩疑惑が表面化したのは先月二十七日。米CBSテレビがスクープした。
それは、国防総省内の情報機関、旧特殊計画室(OSP、現在は北部ペルシャ湾対策室=NGAO)の職員ラリー・フランクリン氏らが、核開発問題に絡む対イラン政策についての大統領指令を、在米ユダヤ人の最大ロビー団体、米イスラエル公共委員会(AIPAC)を通じ、イスラエルに流したという内容だった。
AIPAC、イスラエル政府ともに疑惑を否定したが、FBIは盗聴テープや写真など十分な証拠を握っていると強気だ。事が重大なのは、イランの核開発問題への対応をめぐり、ブッシュ政権の内外で緊張が高まっているからだ。
イランを敵国とするイスラエル政府は先月、「イランの核開発阻止に軍事行動を排除しない、と米政府に通告」(米ニューヨーク・タイムズ紙)。ブッシュ政権内、特に国防総省を根城とするタカ派のネオコンは、イスラエル右派政権と一蓮托生(いちれんたくしょう)の立場から、これに同調している。
一方、パウエル国務長官ら保守中道派は、イラク戦争の反省もあり、軍事行動には慎重とみられている。FBIはこの保守中道派の意向を受け、捜査着手にはネオコン封じの狙いがあったという見方が強い。
さらに、今回の捜査には、米国内の情報機関によるネオコンへの「逆襲」という側面もある。イラク戦争は旧フセイン政権による大量破壊兵器の隠匿など「誤情報」で引き回された。その情報操作の中核が今回、捜査対象になっているOSPだった。
OSPはダグラス・ファイス国防次官(政策担当)らによるネオコンの直轄機関。二〇〇一年の9・11事件後、イラクの大量破壊兵器の存在やアルカイダとフセイン政権の関係の証明を任務として設立された。
しかし、人員はわずか十数人。米中央情報局(CIA)や国防情報局(DIA)などが集めてきた情報のうち、開戦理由に有利な側面のみを切り張りし、大統領に具申したのだった。
イラク戦争が泥沼化した後、CIAに「誤情報」の責任が転嫁された。しかし、実際にはCIAは開戦前に「フセイン政権がニジェール(アフリカ)からウランを大量購入した」といった情報を虚偽と断定。大量破壊兵器の存在を訴える亡命者証言にも疑問を唱えるなど、慎重姿勢だった。
パウエル国務長官に近いトミー・フランクス前中央軍司令官が「(ファイス次官は)地球上で最も愚か」と憤ったのもそうした情報操作へのうらみだった。米ワシントン・ポスト紙も今回の疑惑を「政権内のCIAなど従来型情報機関とネオコンの内戦」と評した。
■人事刷新前に“追い落とし”
ニューヨーク在住の国際政治学者、松永泰行氏は「疑惑を追及しているのは保守中道派のみならず、非ユダヤ系の民主党支持者で連邦政府機構にいる人々も含まれている。ブッシュ再選の場合、ネオコン系の人々が現政権と同様の力を維持しないよう、大幅な人事入れ替えを前に追い落としにかかっている」とみる。
では、今回の「機密漏洩」の中身や漏洩の狙いはどこにあったのか。
イスラエルは米国の中東最大の同盟国。だが、これまでも同国の米国内での情報活動をめぐって、米国と激しいさや当てがあった。
代表例だけでも一九七八年には、上院外交委員会の職員ステファン・ブライアン氏がイスラエル軍高官に機密書類を提供したが、指紋から発覚して失職。ただし、ブライアン氏はその直後のレーガン政権で、ネオコンの代表格リチャード・パール国防次官補(当時)の下、次官補代理として“栄転”している。
八五年には「ジョナサン・ポラード事件」が起きた。これは海軍の情報分析官だったポラード氏が十八年間にわたり、イスラエル特殊任務室(LAKAM)に計八十万ページに及ぶ米海軍の機密書類を流していた事件だ。イスラエルはこれらをソ連(当時)に提供し、その親アラブ政策を変えようと試みていたとされる。これもネオコン絡みだった。
■対イラン軍事 行動で密議も
ただ、今回の場合は従来の事件とは意味が異なりそうだ。米ワシントン・マンスリー誌などによると、前出のフランクリン氏らは二〇〇一年十二月にローマ、〇三年六月にパリで、イラン反体制派の武器商人やイスラエル高官、加えてイラク戦争を支持するイタリア右派政権の情報機関SISMIのニコロ・ポラーリ長官らと会合を繰り返した。
当時、米国とイランの間では、イランが拘束しているアルカイダ幹部五人の米国引き渡しと引き換えに、米国はイラン反体制派への支持を取り下げるという秘密協議が進んでいた。会合では、それをいかに壊し、イラクに続いて米国の対イラン軍事行動をどう仕掛けるかを検討したという。
米ミシガン大のフアン・コール教授(近代中東史)は「今回の機密漏洩は機密提供ではない。むしろ、こうした会合の結果、ネオコンが来年初めにも想定される米議会の対イラン強硬措置決議に向け、それへの支援ロビー活動やイスラエルが呼応するよう政権内の動きを知らせ、準備させたのでは」と推測する。
■ブッシュ再選 障害にならず
ただ、こうしたスキャンダルが、そもそもの大前提となるブッシュ再選の足かせになることはないのか。
複数の米国人識者はこの点について否定的だ。というのも、ケリー陣営にもジョセフ・リーバーマン上院議員らネオコンに近いイラク戦争推進派がおり、中東問題の責任者には元下院議員で、AIPAC役員だったメル・レビン氏が就任。すなわち、中東政策では大差がないも同然だからだ。
そうなると、注目はブッシュ大統領の選択だ。ちなみに同大統領はネオコン以外にも、イラン攻撃に傾くイスラエル右派政権の米国最大の支援勢力、宗教右派とは強く結ばれている。
先月二十七日、同大統領はCIA長官の権限拡大を表明。これがネオコン離れと一部では受け止められたが、今月二十一日には「イラクが内戦状態に陥りかねない」というCIA報告書を「推測」と一蹴(いっしゅう)した。
■イランは強硬 米の反発必至
一方、イランは核開発問題で世界の懸念をよそに「核拡散防止条約(NPT)脱退も辞さない」と強硬姿勢を打ち出しており、米国が今後、軍事行動に「追い込まれる」可能性もある。
世界にとっては、大統領選の結果より「第二のイラク戦争」勃発(ぼっぱつ)の危険性の方が重要だ。その一つのバロメーターとなるのが、今回の疑惑追及の進み具合だ。米メディアは、捜査と解明は十一月の大統領選直後に本格化すると伝えている。
(メモ) イランの核開発問題 高濃縮ウランの検出から昨年来、イランの核兵器開発疑惑が深まった。国際原子力機関(IAEA)を舞台に、イランを「悪の枢軸」とみなす米国は、制裁の前提となる国連安保理への問題の付託を主張。英独仏などはこれを抑え、IAEAは結局、イランに査察強化など全面協力を求める決議を採択。イランもこれを受け入れてきた。さらにIAEAは今月18日の定例理事会で、全てのウラン濃縮活動の即時停止を求める決議を採択した。だが、イランは21日、「平和利用」を理由にこれを拒否した。米国の強い反発は必至とみられ、緊張が一気に高まっている。
http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20040924/mng_____tokuho__001.shtml