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小さな靴の悲しい列、壁・窓に射殺痕跡 ロシア学校占拠
ぐにゃりと曲がった校舎の鉄筋の屋根、焼けこげた子供らの靴、散乱する始業式用の花束――。ロシア・北オセチア共和国の学校占拠事件の現場は、まるで戦場のあとのようだった。５日、事件のあった校舎を見た。
多くの人質が監禁されていたベスラン第１学校の体育館は、折れ曲がった鉄筋の柱を残して、高さ１０メートルほどの屋根が完全に抜け落ちている。建材や遺体の焦げたにおいの交じった異臭が漂い、窓や壁には大きな穴が開いている。砲弾や銃弾の穴があちこちに見える。体育館の床には、ピンクのリボンなどがついた小さな靴が３０足ほど整然と並んでいた。監禁時に衣服を脱がされ、靴も脱がされた子供たちのものだ。
体育館のバスケットボールのゴールには、武装集団が爆発物をつるしたワイヤが垂れ下がっていた。壁際には血のりがべっとりと残っており、無数の弾痕もある。
約２００平方メートルの広さの体育館の中央には、遺族たちが持ってきた花束が積み上げられていた。遺族らは声も失って、子供たちが死んだ場所に立ちすくんでいた。低くすすり泣く声が聞こえた。
多くの同僚や知り合いの子供たちを亡くした同市の第６学校副校長、アーラ・ハブリエバさん（４６）は、遺族のために子供たちのめがねや小さな靴などの遺品を探していた。「ここに来ている人たちに、多くの知り合いがいるが、慰めのためにかける言葉もない」と肩を落とした。
校舎は１８８９年に建てられその後建て増しされた。古いれんが造りだが、武装集団とロシア軍との戦闘で壁のあちこちが崩れ落ち、校舎の窓ガラスはほとんどが割れ落ちていた。
体育館から校舎の２階に上がる。１０メートルほど離れたところにある教室は、人質だった約２０人の男性が処刑された場所だ。正面に掲げられた旧ソ連のプロレタリアート詩人、マヤコフスキーの肖像画の下に約３０発の弾痕が開いていた。床はどす黒い血がしみこんでいる。この壁の前に抵抗した男性教師や子供の父親たちが立たされ、武装集団に射殺されたという。
マヤコフスキーは共産主義時代のロシアの英雄。肖像画の下には「レーニンが話したロシア語をあなたも勉強しましょう」という標語の金属プレートがはめてあった。イスラム教徒の武装集団は旧ソ連時代に宗教を弾圧した共産政権への反感を抱いており、この教室を見つけて特に処刑の場所として選んだものと見られる。
遺体は、中庭に面した窓から投げ捨てられた。血染めの窓枠には、死体を投げ捨てるときに脱げた犠牲者の靴が残っていた。
武装集団が持っていた多数の地雷やロケット砲などの武器弾薬は、あらかじめ学校の正面玄関脇にある図書室の床下に隠されていた。図書室は書架がなぎ倒され、木の床が大きく引きはがされていた。ロシア連邦保安局の当局者によれば、「８月に２回の図書室を含めた校舎の修理工事があった」と言い、その時に武装集団と関連のある工事関係者がひそかに武器を床下に隠したとみられている。
６歳から１２歳までの児童が学ぶ別棟の小学部の建物には、武装集団が作戦を練り、休息や食事をとった場所があった。１年生の一つの教室には、武装勢力が残したと見られる銃弾の残りや、チェチェン語と見られる文字が書かれた紙片が残されていた。武装集団が持ち込んだプラスチックの弁当容器も、転がっている。床には体育用のマットが敷かれており、ここで休息をとっていたと見られる。
１日午前の事件の発生場所となった校庭には、始業式と入学式の当日に子供たちが先生にプレゼントするため持ってきたバラの花束がいくつか転がっていた。校庭の片隅には武装集団が残した砲弾や自動小銃の弾丸のカートリッジ、顔を覆ったマスクが並べられた。遺族や関係者の男性たちが拳を振り上げて、チェチェン人ら武装集団をののしる姿が多く見られた。
校舎の正面玄関には、入学式と始業式を祝う横断幕が掲げられていた。それには「さあ新学期の始まりです」ともともと書かれていたのが、「さあ墓場への花束贈呈の始まりです」と赤いペンキで書き換えてあった。武装集団が上書きしたものとみられる。
(09/06 08:14)
http://www.asahi.com/international/update/0906/002.html
題名には必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。