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(回答先: 命奪う国家テロは許されるのか 投稿者 長壁満子 日時 2004 年 9 月 05 日 11:22:21)
なぜ防げない相次ぐテロ
ロシア情報機関の実情
ロシア南部北オセチア共和国の学校占拠事件は、少なくとも子どもら320人以上が死亡するという最悪の結果となった。ロシアでは、今年だけでもモスクワの地下鉄の2度の自爆テロ、旅客機爆破などテロが相次ぐ。冷戦時代、旧ソ連の情報機関は欧米と情報収集能力を競ったが、対テロ戦争ではその力をまるで失ったようだ。なぜテロを防ぐことができないのか。
旧KGBの情報収集能力のすさまじさについて、ロシア問題評論家の滝沢一郎元防衛大学校教授は「かつてはエベレストの頂上に行ったら、KGBがいたという冗談もあったぐらい。実際、鎖国していたブータンにすら数人を送り込んでいた。それぐらい全世界に網を広げていた」と指摘する。
KGBは西側先進諸国でスパイ活動を行い、アジアやアフリカでは共産ゲリラを育成して破壊活動を陰で操る一方、国内では秘密警察として猛威をふるった。
「極度の監視・密告社会をつくり、政府の悪口を言うと、五分後にはKGBに逮捕されシベリア送りとなった。KGB本部のあったジェルジンスキー広場には、今でも行かないというロシア人はたくさんいる。KGBに殺された人たちのうめき声が聞こえるから、と彼らは言う」(滝沢氏)
■旧KGB採用はトップエリート
そのKGBの要員自体は、旧ソ連社会ではエリート中のエリートで、大学や高校でトップの学生が採用され、優秀なスパイ育成には有利な環境だった。
しかし、一九九一年の旧ソ連崩壊でKGBは国内担当の連邦保安省と対外スパイ活動担当の連邦対外情報局(SVR)に分割。さらに九三年の連邦議会占拠事件に旧KGB幹部が連座したことから、当時のエリツィン大統領は旧KGB勢力をそぐ目的で連邦保安省を連邦防諜(ぼうちょう)局と連邦国境警備局に分けた。後に再統合し連邦保安局(FSB)となったが、省ではなく局にとどまった。
■分割・解体、資金乏しく弱体化
ロシア情報機関が弱体化していった経緯について、青山学院大学の袴田茂樹教授はこう説明する。
「ソ連が国家として破たんしたのに伴い、KGBも五つの組織に分割、解体され予算もほとんどつかない状態になった。冷戦時代はKGBに集まっていた有能な人材も、民間企業の情報管理や危機管理部門、または警備会社に高給で雇われていった。テロ対策を講じるには資金と人材、組織が必要だが、いずれの面でも弱体化を余儀なくされた」
一方で、「実は、分割後の方がSVRもFSBも人員は増えている」と滝沢氏はいう。SVRは人員の重点配置を進め、ワシントンやロンドン、東京など主要都市に今まで以上に要員を投入。FSBも主にチェチェン共和国内でのスパイ活動要員などを増やしたが、これが功を奏していないという。なぜか。
SVRは主要国以外の情報が手薄になり、FSBも「ただ太っただけで筋肉がついていない」として、滝沢氏は続ける。
■大統領爆殺では情報の内通も…
「一番深刻なのはロシアの役人の腐敗ぶりだ。金を出せば情報提供するような職員はFSBにいくらでもいる。チェチェン独立派を探ろうとしたFSB要員が逆に独立派に取り込まれ、二重スパイになっている。五月のチェチェン共和国の式典で、親ロシアのカディロフ大統領らが爆殺された事件にしても、大統領が座った席の真下に爆弾が仕掛けられていた。こんなことはチェチェン側がFSBに浸透していなければできるはずがない」と指摘する。
先月の旅客機二機爆破事件でも「旅客機が出発した空港はモスクワで一番新しい空港で、検査機器も西側から最新のものを導入している。しかし、空港職員が腐敗しているから、金さえ出せば爆弾でも銃でもなんでも見逃される」と話す。
一方、チェチェン人武装勢力の取材を続けてきたジャーナリスト常岡浩介氏は「確かにFSBが優秀な新人を獲得するのは難しくなっている面はある」と指摘した上で、「破壊工作集団としての旧KGBはまだ健在」との見方だ。
一例として挙げるのは一昨年のモスクワの劇場占拠事件だ。「この時、ハンパシャ・テルキバエフという男が射殺されずに逮捕され、数日後に釈放された。男は一カ月後にフランスで開かれた欧州議会に、ロシア政府の報道官として現れた。この不思議な結果から考えると、スパイだったとしか思えない」と話す。
■国境監視態勢の機能も低下した
一方、情報機関の機能低下だけでなく、国境監視態勢の機能も低下し、外国人が容易に国内に侵入してこられるようになったこともテロを招いた背景にある。
「トルコから陸路でアゼルバイジャンに入ることや、黒海から船でグルジアに乗り付けることも今ではかなり自由にできる。アゼルバイジャンやグルジアまで来れば、チェチェンに入るのはたやすい」と青山学院大学の寺谷弘壬教授は話す。
敵対組織の内情を探るため情報機関が放つスパイも、相手がチェチェンとなると有効性が限られてくる。
■部族社会・チェチェンへ潜入困難
チェチェン共和国は四国とほぼ同じ広さ。「親族、知人で結ばれた部族社会で、ここにスパイを送り込むのは至難の業だ。ロシア側に寝返ったチェチェン人を二重スパイとして放とうとしても、発覚すれば一族もろとも殺されるという厳しいおきてがある」(軍事評論家の神浦元彰氏)ため、ロシア側の情報入手をさらに困難にしている。
テロ対策で後手後手に回った失態を糊塗(こと)するためか、ロシア政府は今回の事件で意図的な情報操作を行ったフシがある。
「当初、人質の数を三百五十人あまりと発表したが、学校近くに家族の待機所ができ、人質がそれよりはるかに多いことはすぐに分かったはずだ。航空機爆破テロでも、チェチェン人の女が搭乗していたことはマスコミが発生直後に報道したが、当局の発表は数日遅れた。プーチン大統領は強い指導者という自らのイメージに傷をつける情報は過小評価して流している」と神浦氏は見る。
その一方で、学校への突入直後、「死亡した武装集団のうちアラブ人十人が含まれている」と不自然なほど手際のいい発表をした。
神浦氏は「バラバラになった遺体もあるはずで、こんなに早く数字が出てくるのはおかしい。この発表は事件を『チェチェン対プーチン大統領』ではなく、『国際テロ組織対一般市民』という構図に誘導する意図があるのでは」と推測する。相手がチェチェンではなく、国際テロだったから、防げなかったのも仕方ないというわけだ。
テロを防げなかった教訓から、袴田教授は「ロシア政府は解体された旧KGBの五つの組織を再統合し、FSBを事実上の省に格上げするなど、機能強化に乗り出している」と指摘。「KGB復活」ともいえるこの動きを、ロシア国民はどう見ているのか、についてこう解説する。
「国民の目には警察、内務省は完全に腐敗しているが、それに比べて旧KGBは強権的ではあってもクリーンなイメージが根強い。日本のように基本的な秩序がある国では想像できないかもしれないが、ロシアではどんな強権体制でも無政府状態よりはましだという考え方がある。情報機関の再統合はむしろ一般国民が積極的に受け止めている」
http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20040905/mng_____tokuho__000.shtml