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http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20040831/mng_____tokuho__000.shtml
治安悪化するサマワ 自衛隊がけっぷち
アテネ五輪に一喜一憂していたすきに、イラクへ派遣された自衛隊の宿営地がある南部サマワでは、治安が急速に悪化していた。今月激化したシーア派内の反米強硬派サドル師グループと米軍の戦闘は二十六日、停戦で沈静化したが、その後も近隣のオランダ軍宿営地付近には迫撃砲が撃ち込まれた。政府は依然、サマワを「戦闘地域とみなさない」としているが、自衛隊の撤退論議再燃は必至だ。
「サマワ周辺では、サドル師の支持者が増加傾向にある。当初の『自衛隊熱烈歓迎』の雰囲気は急速に色あせた。期待が大きかった分、限定的な支援への失望が大きかったのだろう。市内のあちこちにサドル師のポスターが張られていたが、市役所の警備員宿舎にもあったのには驚いた」
七月中旬まで現地に滞在したジャーナリストの志葉玲氏は、サマワの住民感情をこう解説する。
それを裏付けるのが陸自宿営地への攻撃回数の増加だ。今年に入り八月二十八日までに七回攻撃を受け、特に今月に入ってから四回と頻発。“陸自の護衛役”オランダ軍は五回も攻撃を受けている=別表参照。着弾地点も、どんどん宿営地に近づいている形だ。
現在、サマワに滞在する陸自隊員は約六百九十人。活動面では、機材の故障防止のため夜間に浄水し、日中に配水している。医療支援は病院などで週一、二回、機材の取り扱いや症例について助言。道路三カ所、学校四カ所などで施設補修をしているという。
それにもかかわらず、なぜ地元住民は強い不満を抱くのか。志葉氏は「配水活動もイラク人の運転手任せで、宿営地から一・五キロの村にも二週間に一度程度しか水が配給されない。さらに、そのドライバーが現地人に水を売っているという話すら聞いた」と話す。
■支援は『役に立たぬ』の声
こうした“とばっちり”に加え、失業問題が影を落とす。サマワでは七割が失業中。当初の「日本の大企業が来て、雇ってもらえる」という誤解は「裏切られた」という悪感情に転化している。電力事情が逼迫(ひっぱく)しているが支援メニューには電力支援がなく「『役立たず』という声も多くなった」(志葉氏)。
こうした潜在的な不満をベースに今月に入り、再燃したナジャフを拠点とするサドル師グループと米軍の戦闘が、サマワにも不穏な空気を招いたという。
志葉氏は「米軍のナジャフ包囲攻撃をきっかけに、“米軍協力者”として自衛隊への敵対心が高まった。自分の通訳がサドル支持者に一人で接触した際、『おまえは日本の味方か。米国の味方の日本は敵だ。自衛隊員を殺してやる。サドル師から命令があれば、戦う用意はある』と激しい口調で脅された」と振り返る。
「四月ごろから、取材で現場に行くと『日本人は帰れ』と石を投げられるなど対応が厳しくなった」と話すのは、六月初旬までバグダッドに滞在したアジアプレスの玉本英子氏だ。
「四月初旬、スンニ派モスクを取材したがスンニ派とシーア派が異例の合同礼拝をし、『われわれは米軍と戦う』とスローガンを叫んでいた。五月下旬に取材したバグダッドのスンニ派武装勢力は『自衛隊は米軍と同じ攻撃対象』と明言しており宿営地攻撃にスンニ派武装勢力が協力している可能性も否定できないと思う」
こうした状況でも、日本政府は現在もなお、サマワがイラク特措法で派遣条件に定めた「非戦闘地域」に当たるとしている。
三夜連続の攻撃があった二十四日、防衛庁幹部は「サマワは平穏という認識に変わりはない」と強弁。同日、石破防衛庁長官も「非戦闘地域の前提を超えるものではない。自衛隊を狙ったものなのか確定できる情報はない」と述べ、細田官房長官も翌日、「攻撃は散発的」で戦闘行為ではないという見解を示した。
たしかにサドル師派と暫定政府との停戦合意によって、事態は沈静化するという楽観論も流れている。しかし、中東調査会上席研究員の大野元裕氏は「サマワの情勢が悪化しているのは確かだ」とし、先行きについても不透明とみる。
「今月初めからの動きをみていると、サマワにおけるサドル師支持の武装勢力と、ナジャフの“本丸”とは、必ずしもうまくいっていない。サマワの場合も、今回の停戦情報が伝わっていなかった可能性がある。ただ、サドル師支持の武装勢力の中でも、“本丸”に統合されていない跳ねっ返りがサマワにいる可能性もある。サドル師が『日本は占領軍ではない』と発言した後も、自衛隊を標的にした攻撃が起こっている。武装勢力は一枚岩ではない」
サドル師支持とは別の武装勢力が行動を起こす可能性もあると言う。「南部で現状に不満を持つ勢力としては、アッダワ党(暫定政府内のシーア派宗教政党の一つ)などもある。今のところ、日本に対し強い不満を持つ状態ではないが、何らかのきっかけで矛先を向ける可能性はある」
軍事評論家の神浦元彰氏は一連の攻撃を自衛隊に対する「警告」とみている。
「使用されている迫撃砲は三、四キロの射程がある。約一キロ四方の自衛隊の宿営地内に撃ち込むのは簡単なことだ。いまはあえてそれをせず、警告の意味を込めて近くに着弾させているのだろう。しかしいつまでも警告でとどまるとは限らず、宿営地攻撃が始まることもありうる」
■オランダの後米軍なら最悪
来年三月には現在、自衛隊を「防衛」しているオランダ軍が撤退する。「その後に米軍が出てくれば、自衛隊にとっては最悪のシナリオだ。サマワを選んだのは米軍がいないから。『自分たちは復興支援のために来た。米軍とは違う』と言ってきたのに、米軍に警備されるようなことになれば、一体化した存在と見られる。自衛隊にとっては悪夢だ」
神浦氏は続ける。「自衛隊ができるのは、コンテナを二段、三段と重ね、そのうえに砂袋を置く穴ごもり作戦だけだ。外に出れば攻撃され、いても砲弾が降ってくる。撤退しかないのではないか。宿営地の中に砲弾が落下したら、一つの重要なタイミングだと思う」
東京国際大学の前田哲男教授(安全保障論)は「米兵の死者数を見ても今月は六十人とペースが上がり、統治能力がない暫定政府に対する抵抗運動は激しくなっている。イラク全体が戦場で、連日のように砲声が響くサマワ周辺も、イラク特措法による『武力行使は必要ない』という想定は崩れている。法律上の問題とともに、数百億円もかけてほとんど何もできないという(復興支援の)コスト問題もある」と指摘する。
そうであるにもかかわらず、前田氏は自衛隊の撤退はもはや困難と判断する。
「小泉首相は国会に諮ることもなく、多国籍軍に入ることをブッシュ大統領に約束してしまった。日米問題にしてしまった以上、国内の法律の都合で撤退というのは実際には困難だ。宿営地が攻撃されても、撤退よりも増強の口実になってしまうのではないか」