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(回答先: イラク戦争と米国の腐敗を描く 『華氏911』 MyNewsJapan 投稿者 外野 日時 2004 年 8 月 29 日 20:56:19)
『ロジャー&ミー』(1989年)のDVDには特典映像として、『ロジャー&ミー』本編を最初から最後まで全部映しながら(もちろん『ロジャー&ミー』本編は別に収録されています)、マイケル・ムーアがそれに解説をするものが収録されています。(この解説の収録が行われたのは昨年の5月です)
そのマイケル・ムーアの解説の中から、いくつかを紹介しておきます。
読み返すと、同時進行している映画の場面がないと、彼の言いたいことがあまり伝わ
らないかな、という感はあるのですが、本編をどこかで観る機会があったときに、少
しは役に立つかもしれないと思います。
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本作の主役、当時のGM会長ロジャー・スミスだ。経理畑の出身なので車には疎い。
彼はコスト削減のためレイオフを促した。そうすれば株価が上がり、会社が儲かる計算だ。
だが実際は失業者が増えれば消費は落ち込み、誰も車など買えなくなる。資本主義の
最悪のモデルだ。理解に苦しむよ。
この辺りまでは前置きで、これから本題に入る。
本作で取り上げてるのは主に1980年代、当時でのフリントでの出来事を順不同に
収めたので、シーンのよって時間が前後するんだ。だから時間的な説明を加えながら
進めたい。(90分の映画で、町と会社の10年に渡る変遷を描いた。時間が前後す
るのは僕の好みだ)
故郷フリントの映像を見ると心が痛む。
たくさんの店がつぶれてしまった。僕はこの映画を数年間観ていない。4、5年前に
同郷の妻と一緒に試みたが、悲しくて最後まで見続けることができなかった。今も家
族が住んでいる大切な町だ。
映画を作った1980年代、GMは3万人(町の人口は15万人だった)をレイオフ
し、8万人いた従業員は5万人に激減、現在では多くて1万5千人ほどだろう。この
映画の撮影後も人員の削減は続いてるんだ。
1980年に選挙運動中のレーガンが、町を訪れ、失業者を昼食会に招いた(この昼
食会に招待された12人の誰も工場に返り咲いていない)。
フリントの住民が今、本作を観たら、”古き良き時代”と懐かしむんじゃないかと思
う。当時の失業者は3万人だったが、現在は6万5千人という話だからね。
「自動車の町フリントで急速に犯罪が増えています」
「過去最高の殺人件数で、フリントは全米一の犯罪都市の仲間入り」
「犯罪件数は全米一に。増え続ける犯罪者に対し、刑務所が足りません」(註:本編の
当時のニュースのシーン)
こうして80年代は、悲劇が繰り返され、世の中は闇に包まれた。
犯罪や殺人が増え『ボーリング・フォー・コロンバイン』の前兆が。銃で安心を買う
時代…。最悪の状況だ。
フリントの住民には、荒れ果てた家の撮影を嫌がる人もいる。よく手入れされた家も
沢山あるからね。この映像が町の全容ではないが、映画を作る立場として、僕には目
的がある。それは美しい町の映像を撮ることではなく、間違っていることを指摘し改
善することだ。事実フリントは荒れたんだ。悲しいことに、今はこのときより悪化し
ている。地域によっては、この頃の5倍は悪くなってる。そんな町を見るのはとても
つらい。
僕がこの映画を作ってから、これらの問題を扱う番組も現れだした。以前はまったく
取り上げられなかった。アメリカでは立ち退きなど日常茶飯事で、話題性に欠けるん
だ。人が撃たれればニュースになる。だが、人々が路頭にまよってもニュースになら
ない。ニュースとは何か考えされられるよ。
フリントやNYの現状を報道は正しく伝えているのか?高い視聴率や刺激的な話題を
求めてるだけなのか?
僕は長い間、本作を観ることができなかった。
ユーモアのある作品になったと思うし、この闘いの正当性や意欲も盛り込まれてる。
だが、一個人として、人間として、町の出身者として正直に言おう。僕が本作を観れ
なかったのは、撮影時に描いてた理想のせいだ。映画を観た人々が、連邦議員に訴
え、町が救われるはずだと。だが、それどころか状況は悪化した。だから僕は失敗し
たような気分になる。
本作を誇りに思っているし、アメリカ映画に影響を与えたと自負している。20世紀
を代表する傑作とも言われた。とても光栄なことだし、驚いたのはこの作品が、教材
になったことだった。主に、経済や政治のクラスで。経済の裏側を見せているんだ。
次世代に伝えるべき内容だし、現在の不況は皮肉にも、14年前によく似ているし
ね。今観れば”不況は不滅の問題だ”と気づくだろう。だが、これらは予想外の結果
だ。
撮影を始めた当時は、ワーナーと契約できると思ってもみなかった。ただ町を救いた
かっただけだ。評価は得られたが、町は救えなかった。そう思うと観られない。僕個
人にとっては失敗作だからだ。
そして、こう思う。”きっと高望みだったんだろう”、”映画で町を救おうなんてバ
カげた考えだった”と。だが、どんな行動でも起こさないと、世界は変わらない。
この国では5千万人の住民が、医療を受けられない。
アメリカで自己破産する一番の理由は、医療費を払えないからだそうだ。
医療費のために、自己破産する先進国などほかにない。
ひどい制度だが、僕は国に対する望みを捨てていない。僕らには変える力がある。
こんな世の中だが、他人を気遣う気持ちがあれば、いい国になるだろう。
「クリスマスの2週間前また工場閉鎖が…。組合は大規模なデモを閉鎖の前日に行お
うとした。だが集まったのは4人だけだった」
このビルも壊された。
この数年で、人々は挫折を感じていた。あきらめるしかないと。残ったのは4人と
『?』のプラカード。信念のために闘うことの難しさが伝わってくる。
”どうにもならない。相手はGMだぞ”と思うだろう。
僕は一つだけ、国民の考え方を変えるかもしれない信念がある。
それは自由な民主社会が続く限り──いつまでかはわからないが──、民主社会であ
る限り、GMの会長でも入れられる票は一票だ。団体では、国民が有利だ。
そう考えると慰めにもなるし、社会に参加する気にもなってくる。選挙で統括される
世の中なのだから。
自分たちが選べるはずなんだ。
これは理想論かもしれない。2000年の大統領選で、やる気をそがれたかもしれな
い。だが、あきらめたら世の中は悪くなっていく。希望をもって、前に進むことが大
事なんだ。
仕事を掛け持ちして、政治に関わる時間もない人もいるだろう。夜中まで子供の宿題
を手伝ったり、生活するだけで精一杯の人も。だが、求めなければ何も改善されない
んだ。
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以上、特典映像編から。
マイケル・ムーアのナレーション:
レイオフってのは経営が苦しくてするものだ。ところがGMは、儲かっているのに工
場を閉鎖するんだ。…
会長のロジャー・スミスには素晴らしい計画があった。11の工場を閉鎖し、自給7
0セントのメキシコに同数の工場を建てる。人件費の差額で企業を買収──ハイテク
及び軍事企業だ。次に不景気を口実に数十億の賃金カットを組合と協約。その金で海
外に工場を建て、失業者のことはお構いなし。天才とは奴のことだ。(「ロジャー&
ミー」本編より)
この映画では上にあげたように、1980年に大統領選でレーガンがフリントを訪問した
シーンが出てきます。実はこの大統領になったレーガンと、日本の総理になった中曽
根氏は有名な「かたい握手」をした写真を残しているのですが、その中曽根政権はG
Mが行ったこととほとんど同じ政策を日本で推進した内閣なのです(さすがに日本で
はフリントのようなひどい例はないですが)。企業の多国籍化と国内空洞化、そし
て、それらの企業の一部の軍需品製造へのシフトです。
マスコミもそれに一役かっていました。曰く「不況なのでリストラは止むを得ない。
企業が賃金などの安い外国に工場を移すのも…云々」
この政・官・業・マスコミのやり方は今も続いています。