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特報
2004.07.17
君が代不起立 『再発防止研修』の波紋
東京都教育委員会が君が代不起立問題で懲戒処分した教員らに命じた「再発防止研修」に対し、教員百三十七人が十六日、中止を求める訴えを東京地裁に起こした。処分自体がおかしいと争っている最中に“反省文”を書けとは何事か、という申し立てだ。ただ、都教委側は「研修は特別なことでない」と一歩も引かない構えだ。研修命令の波紋と避けられない教育現場への影響とは−。 (松井学)
「教員の仕事を続けたいのに研修に行かなければ、やがて職場を追われることになりかねない。でも、行けば自分が悪かったと認めることになるから毎日、引き裂かれるような思いでいる。私は校長が命じた起立・斉唱自体がおかしいと確信を持って立たなかった。自らの敬礼行為はやがて子どもを立たせることにつながる。私は人権侵害の加害者にはなりたくない」
提訴した教員の一人、都立大泉養護学校の渡辺厚子教諭は、提訴後の記者会見でこう胸の内を明かした。
■220人余りに来月実施通知
この再発防止研修の正式名称は「服務事故再発防止研修」。都教委は六月末、入学式や卒業式等の君が代斉唱の際に不起立だったなどの理由で懲戒処分を受けた教職員二百二十人余りに対し、この研修を八月二日から実施すると通知した。
都教委は二〇〇一年三月に再発防止研修の実施要項を作った。セクハラや飲酒で処分された教員の再発防止が狙いと受け取られていた。要項にも「非行に対する反省を促す」とある。「日の丸・君が代」問題で処分を受けた教員に当てはめるのは今回が初めてだ。
■都人事委にも不服申し立て
現在、処分を受けた教員らの多くが別途、都人事委員会に処分への不服申し立てをしている。その最中に「非行」を認めて、報告書に「反省」を書くのは納得できない、というのが今回の提訴の理由だ。
弁護団の山中真人弁護士はこう例える。「仮にセクハラや飲酒運転をして処分を受けた人が、事実と違うと争っているのに、自ら非を認めて反省文を書けるだろうか。一般論でもおかしい。加えて、内心の自由という回復しがたい損害は事前に避ける必要がある」
提訴した男性教諭の一人は「都教委は報告書を学校長にも作らせ、成果がなければ何度でも研修を命じるという。これでは思想改造だ」と指摘した。
都教委は今回の研修内容の詳細は明らかにしていない。東京都教育庁の藤森教悦職員課長はこう話す。
「研修は特別なことではない。教育公務員として法令順守の必要性をしっかり学んでもらいたい。起立して斉唱するという上司の具体的な命令に対して違反し、処分を受けたのだから。ペナルティーを科すわけでも、思想を変えろと言っているわけでもない」
研修の成果はどう評価するのか。藤森氏は「一律には言えないが、研修終了とみなせなければ繰り返し受けていただく」と言う。
■処分受けない教員にも影響
教員らが、繰り返しの研修は「思想改造」だと批判するのに対し、教委が既定方針とするのは今年六月、横山洋吉教育長の都議会での次の答弁だ。
「指導に従わない場合や成果が不十分な場合には、研修終了とはなりませんので、再度研修を命ずることになりますし、受講しても反省の色がみられず、同様の服務違反を繰り返すことがあった場合には、より厳しい処分を行うことは当然のことであると考える」
余波は処分を受け、研修を命じられた教員だけではなく、処分や職を失うことを避けるため起立、斉唱した教員にも広がりそうだ。
一方、この問題を取り巻く世論の動向はどうか。東京新聞が今月初め、都内の有権者を対象にした調査では、「教職員への起立義務づけ」に対しては「行き過ぎだ」や「義務づけるべきでない」と否定的に答えた人が計七割に達した。
都立高校の卒業生を持つある母親はいう。「親として子どもにはいい教育をしてもらいたい。一人の先生が卒業式と入学式で立つか、座るかというだけの問題ではなく、強制は学校の雰囲気や授業内容にも直接響くのではないか。モノを考えたら処罰されてしまう現状が進めば、モノを考えない教師が目に見えて増えていく恐れがある」
別の都立高に通う生徒の父親も「都教委は生徒が立たないのは教員の指導力不足だという。教員ばかりか、生徒の内心の自由や判断力まで奪われ、教員も子どもたちも指示に従うだけのロボットになってしまわないか」と懸念する。
「日の丸・君が代」問題で処分者が出始めると教職員には精神疾患の休職者が増える、と警告を続けてきたのが精神科医で関西学院大教授の野田正彰氏だ。
■自殺者の広島 進学率落ちる
「研修を命じられたから教職員が心を壊すのではなく、一連の抑圧状況がずっと進行して抑鬱(よくうつ)的になり、苦痛の表れである『君が代神経症』と呼べる事態も生まれている。不起立し、提訴してたたかっている一部の人でなく、むしろ消極的に抵抗して病気や休職になる人たちの中から一、二年後に退職者が出る。一九九九年から教員への抑圧を続け、自殺者を出し続けている広島県では子どもたちにも影響が出て、進学率が落ち、不登校も増えている」
広島県では九九年に「君が代、日の丸完全実施」の職務命令が出た。野田氏によると、同県では定年前に辞める教員が急増。小中学校教諭の早期退職者(広島市を除く)は九八年度の七十人から昨年度は百八十九人に増えた。休職者も昨年度は二百二人を数え、しかもこのうち55%が精神疾患を休職理由とした。
「これは教員それぞれの資質の問題とばかりはいえない」。今年三月、同県議会で、教職員の精神疾患の急増をこうただした大曽根哲夫県議(県民連合)は次のように説明する。
「教員は報告書作りをはじめあまりに仕事が多く、肝心の子どもと向き合う時間がない。さすがに広島県でも県教委が報告書の削減などに乗り出したが、校長と教員が話し合いの場を増やさなければ、意欲のある学校づくりができないことが分かってきた」
前出の野田氏は「教育は教員と生徒、子どもと子どもの人間関係がなければ成り立たない。ところが、教育行政は、表向き『心のケア』と言っておきながら、日の丸・君が代処分では子どもたちに『世の中は自分らしく生きるよりも、表向きうまく立ち回らないと』というメッセージを伝えている。処分を受けた教員らが、いよいよ解雇かという時点になって初めて社会問題化し、提訴を受けた裁判所がどう判断するか、が問われるのかもしれない。それでは遅いのだが」と心配する。
研修中止を申し立てた弁護団の尾山宏弁護士は十六日の記者会見で、こう強調した。「研修により、教職員の良心の自由が侵害される。その教職員たちの苦悩を裁判所がどこまで理解するのか。これがこの国の民主主義の存否と程度を示す尺度にもなる」
http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20040717/mng_____tokuho__000.shtml