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かなしみの星にうまれて:04夏・平和の自画像/1 イラク(その2)【毎日新聞】
http://www.asyura2.com/0406/war57/msg/1223.html
投稿者 スタン反戦 日時 2004 年 7 月 31 日 08:29:30:jgaFEZzEmIsYo
 

(回答先: かなしみの星にうまれて:04夏・平和の自画像/1 イラク(その1)【毎日新聞】 投稿者 ラクダ 日時 2004 年 7 月 31 日 05:47:22)

http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/wadai/news/20040730ddm041070093000c.html

かなしみの星にうまれて:
04夏・平和の自画像/1 イラク(その2止)
 (1面から続く)


 ◇残るのは、涙と叫び

 ◇写真の息子、指でなぞる母/長男「戦争、死…もういやだ」


 カシの大木が夏風にざわめいている。木陰に建つ白い平屋の玄関に手のひらほどの星条旗が揺れていた。4月7日、バグダッドで死亡した米兵ジョージ・S・レンチュラーさん、31歳。故郷のケンタッキー州ルイビルでは長男のスコット君(12)が、独り暮らしの祖母リリアンさん(53)に寄り添い、夏休みを過ごしていた。ジョージさんの死後、スコット君は母、弟とともにドイツの駐留米軍基地から米国に戻った。

 イラク人民兵が殺した米兵から奪った写真。写っている兵士は誰なのか。推定される死亡日時や場所を米国防総省などに照会、数人に絞り込み、最後にたどりついた先がここだった。葬儀の日に贈られた勲章や星条旗と遺影を抱える2人に写真を手渡した。

 本当なら、オハイオ州の実家に戻った妻レイチェルさん(27)、二男ブロック君(5)にも写真を渡したかったが、「悲しみが深く、話せる状態ではない」と、結局会えなかった。

 米兵が高機動車で隊列を組む写真。隊列後方に立つぼやけた人影をリリアンさんの指がなぞる。「服装も体つきもジョージよ。間違いないわ」

 スコット君は父の面影をそのまま残している。取材の間たびたび涙をこらえるように唇をかんで父の部屋に駆け込んだ。

 ジョージさんが93年入隊したケンタッキー州フォート・ノックス基地。イラク帰還兵らは写真を手に言った。「いつもジョージがパトロールしていた通りだ。ここが野菜市場で……」。基地内外でジョージさんは子どもたちにスポーツを指導していた。「イラクでは子どもが武器を持っている可能性もあるから遊ぶこともキャンデーをあげることもできないって残念がっていてね」。リリアンさんが付け加えた。

 復活祭(今年は4月11日)の3週間ほど前、高校などで代理教員をするリリアンさんは教え子と激励の寄せ書きをバグダッドへ送った。お菓子と一緒にカメラとフィルムも包んだ。ルイビルは世界最高峰の競馬レース、ケンタッキー・ダービーが間近に迫っていた。ジョージさんが妻と出会ったのもこの季節。「ダービーズ・デーに遅れないでね。ジョージ」。リリアンさんは同封の手紙にそう記した。イラクを離れる予定の4月19日は目前だった。

 しかし、届いたのは悲報だった。翌週、星条旗に包まれた棺(ひつぎ)がケンタッキーに帰った。軍服や道具はあったが、送ったカメラはなかった。

 5月1日のダービーの日。州出身のイラク戦争戦死者の遺族はフィールド中央の特別席に招待された。14万人の観衆が歌う「マイ・オールド・ケンタッキー・ホーム」が悲しみや思い出を誘う追悼の歌に聞こえ、リリアンさんは泣いた。優勝馬に贈られた赤いバラの飾りも悲しく映った。

 昨年3月20日のイラク戦争開戦から米兵の死者数は900人を超えた。しかし、黒焦げの親子、戦車でひき殺された子ども……。犠牲になるイラクの人々の絶望や憎悪も伝えねばならないと思った。イラク人の死者数は1万人を超えるとされ、子どもや女性も数多く含まれている。

 記者が訪ねて3日目の朝だった。祈りを終えたリリアンさんから言葉がこぼれた。

 「自由と民主主義のためにジョージは死んだのよ。親を失った子、子を失った親の悲しみは、イラクでもどこでも同じ。戦争は世界に涙や叫びしか残さない」

      ☆

 スコット君は父とよく通った野球場をリリアンさんと訪れた。3A「ルイビル・バッツ」の本拠地。米国国歌が流れると、2人は胸に手をあてた。リリアンさんは「私たちのヒーローに名誉を」と書かれた野球帽を握りしめている。

 「ジョージを殺したイラク人は嫌いだ。戦争も、人が死ぬのも、もういやだよ」。そう語ったスコット君の瞳は、一心にボールの行方を追っている。地元バッツの選手の打球が緑のまぶしい左中間を抜けていく。「イエァー」。立ちあがったスコット君の歓声が夕暮れの空に溶けていく。その甲高い声が、私の耳の奥で鳴り続けた。


【高尾具成、写真も】

毎日新聞 2004年7月30日 東京朝刊

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