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ニッポンの空気----参院選を前に
4.摘み取られる自由
反戦活動に介入
神奈川県内に住むボスニア・ヘルツェゴビナ人の語学学校講師スーレイマン・ブルキッチさん(35)は昨年四月、通勤途中にある電柱に、自分の顔写真が入った張り紙を見つけた。
漢字が読めないスーレイマンさんは、妻の加奈子さん(28)を呼び出した。「指名手配」。A4判の大きさの張り紙にはそう書かれてあった。所轄の警察署名も記され、スーパーや駅などで約三十枚見つかった。悪質な嫌がらせだった。
思い当たる理由は一つしかなかった。米中枢同時テロ後に米国がアフガニスタンなどで始めた戦争以来、東京・赤坂の米国大使館前で行ってきた反戦の抗議活動だ。
来日して十四年。それまで特別な団体で活動したり、街頭に立った経験もなかった。だが、旧ユーゴスラビアの内戦で傷ついた祖国を憂うスーレイマンさんには、圧倒的な軍事力で他国を従わせようとする米国の横暴が見過ごせなかった。
加奈子さんも米国に追随する日本にかつてない危うさを感じ、戦争に苦しむイラク市民の姿をパネルに掲げ、自衛隊撤退を訴えた。
□ □
張り紙事件から半年後、加奈子さんの職場に私服の刑事二人が現れた。任意出頭を求められ、数日後、警視庁赤坂署に出向いて驚いた。加奈子さんに「暴行容疑」がかけられていた。
「米国大使館から出てきた人の顔の前で、ハンドマイクで怒鳴りつけた」というのだ。全く身に覚えはなかった。
大使館前には制服の警察官がいる。暴力を振るえば、その場で逮捕されるはずだ。そもそも怒鳴っただけで暴行になるのか。加奈子さんは非暴力に徹していることを告げ、「これからは弁護士を通してほしい」と念を押した。
しかし、警察はことし二月十六日夜、強制捜査に踏み切った。四人の私服刑事が自宅を訪れ、令状を示して家宅捜索を始めた。
刑事たちは、「ここにはありません」と説明したハンドマイクを、事件の証拠品として探すのだと言って、下着しか入っていない洋服棚まで開けた。
約三十分。刑事たちは室内のあちこちの写真を撮っただけで引き揚げた。帰り際、刑事の一人が言い放った。「とことんやってやるからな」
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東京都立川市では二月、自衛隊官舎内にイラク派遣反対のビラを配った市民団体の三人が、住居侵入容疑で警視庁公安部に逮捕された。
起訴後も保釈が認められず、拘置は異例の七十五日間に及んだ。ビラ配布で住居侵入罪が成立するのか。現在東京地裁八王子支部で争われているが、「司法は本当に歯止めになるのか」と支援者は疑う。
スーレイマンさんと加奈子さんは今、米国大使館前を自由に歩くことができない。警察官が通さないからだ。仕方なく二百メートルほど離れたビルの前で、週に二、三回、仕事の合間に反戦を訴えるマイクを握る。
警察の監視は続くが、二人は抗議活動をやめるつもりはない。「自分たちの意思を表明する権利は、だれも奪えない」と信じるからだ。それでも時々、思わずにはいられない。「この国で保障された自由はどこにあるんだろう」
(2004年6月17日)
http://www.tokyo-np.co.jp/kuuki/txt/20040617.html