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(回答先: 多国籍軍参加:米兵輸送も可能 政府指揮権で統一見解(毎日新聞) ―under unified commandを勝手に誤訳 投稿者 シジミ 日時 2004 年 6 月 14 日 22:12:18)
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United States-Japan Strategic Dialogue:
Beyond the Defense Guidelines
「21世紀の日米同盟:その具体的な形をさぐる」
第7章:憲法・有事法制
http://www.glocomnet.or.jp/okazaki-inst/2juproje/2juproje7.yuji.html
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第7章:憲法・有事法制
小川 最後のセッションです。他のセッションが発表者2名・25分づつなのに、このセッションだけは40分予定しております。理由は、発表者が3名おられるからです。アメリカ側の発表者は、国防総省のマーク・ステープルズ先生、日本側は、大阪大学の坂元一哉教授、元・統合幕僚会議議長の西元徹也先生のお二人です。坂元先生は、ご専攻が憲法ならびに日米安全保障条約です。本日は憲法と条約の観点からお話いただきます。西元先生には、有事法制についてのお話をお願いしてございます。ステープルズ先生には、有事法制についての発表をお願いしました。みなさん、よろしくお願いします。(17:50)
岡崎 では、プログラムの順番で、坂元先生、西元先生、ステープルズ先生ということで、よろしくお願いいたします。
坂元一哉先生(意見陳述)
坂元 大阪大学の坂元一哉でございます。
●21世紀には通用しない「基地を貸して安保を得る」
過去半世紀の間、日米安保条約は、東アジアの平和と安全を守る抑止力の柱として、また日米関係の基盤としてよく機能してきました。しかし私は、21世紀において、そうした機能が条約の基本的な協力関係だけでうまくはたせるとは考えておりません。「基地を貸して安全保障を得る」という安保条約の基本的な形は、過去の国際環境においては適当であったかもしれませんが、それだけではこれからの日米同盟にとって満足のいくギブ・アンド・テイクになるとは思えないからです。「基地を貸して安全保障を得る」という協力の形は、双方に感情的不満を生み出すところがございました。「軍隊を出し、相手の安全を保障する側」は、「そのようなリスクを負わない相手」を尊敬しません。一方、「基地を提供する側」は、基地を提供することによる不便や、基地を提供することによる政治的なコストも含めて、コストについて理解しないように見える相手の態度を面白くなく感じるからです。
冷戦はこのような不満を抑える働きをしました。
1 日本の基地は、ソ連封じ込めのために巨大な戦略的役割を果たしましたし、
2 冷戦下の日米同盟は全面戦争を想定していましたから、いざという時は日本も実際には基地を貸すだけでは済まず、アメリカとともに戦うという前提で理解されていたからです。
しかし、すでに冷戦は10年前に終わりました。
1 アメリカの世界戦略にとって日本の基地の価値はいまでも依然として大きいのですが、それが冷戦期ほど死活的なものであるかどうかは疑問です。
2 また冷戦後の日本国内には、米軍基地の整理統合を求める無視しがたい圧力があります。
3 それに日米が備えるべき脅威は全面戦争から地域紛争に変わり、ともに戦うという前提がはっきりしているわけでもありません。
●このままでは日米同盟はもたない
そうした中で、もし東アジアで地域紛争が起こった場合、遠く離れたアメリカがこの地域のために行動し、地域の大国である日本が基地を貸すというだけでは、安保条約の義務は果たせるかもしれませんが、日米同盟はもたないと思います。
もちろん「基地を貸して安全保障を得るという協力」は、これからも必要だと思います。東アジアの勢力維持の均衡に欠かせないアメリカのプレゼンスを支えることになるからです。
●集団的自衛権の行使の問題
しかし私は、21世紀の日米同盟はその協力だけではうまく運営できず、両国が安保条約を補完するように協力関係の拡大と深化を模索する必要があると思います。
私はその際、二つの課題ある考えています。
1 日米間の協議を目に見える形で深化させること。もうひとつは、
2 日本は集団的自衛権の行使という問題です。
本日は後者についてだけ、ごく簡単に述べたいと思います。
●日米同盟にとってのアウト・オブ・エリア
東アジアで地域紛争が起こるとした場合、現在の日米安保条約ですと日本は、
1 米軍に基地を貸し、
2 日本国内でアメリカと共同行動すればよいことになっています。
3 しかしこれからは、ちょうどNATOで、アウト・オブ・エリアということが課題になっているように、日米同盟も条約区域外での共同行動が課題になると思います。そのことへの対応はすでに新しいガイドラインの中の後方地域支援というところに萌芽が見えるわけです。
●後方地域支援への大きな制限
しかし、この後方地域支援には大きな制限があります。それは、日本が周辺事態に際して日本の領域外、すなわち日本の周囲の公海およびその上空において、米軍に補給面で協力することができるとしながら、協力の地理的範囲を戦闘行動が行われている地域とは一線を画されるという、やや情け無い言葉で制限していることです。もちろんこうした制限がついたのは、「戦闘行動が行われている地域での米軍への支援は、たとえ水の補給であっても武力行使と一体化」するから駄目だという解釈があるからです。
そのような「武力行使一体化」論の根幹には、集団的自衛権に関する政府解釈があります。政府が「集団的自衛権を行使できない」と考えているからです。私は政府のこの解釈は困ったものだと思っています。
●海外派兵と集団的自衛権
政府が集団的自衛権を行使できないという解釈を明らかにしはじめたのは1954年のことです。その解釈は、自衛隊の創設にあたって、この軍隊を海外に派兵しないという政府の説明、あるいは参議院の決議に影響を受けております。
当時、日本国内では、「憲法は自衛権の行使すら禁じている」という議論がばかにできない力を持っていて、「集団的自衛権の行使ができない」という解釈は、少なくとも政治的に見ますと、国民がいみきらうところの海外派兵の禁止を明らかにするという目的のためになされたふしがあります。
そのような歴史的な経緯をも考え、将来、日米安保協力の地理的範囲を広げることを考えますと、
1 集団的自衛権の行使と、
2 海外派兵を、分けて考える必要があると思います。
もし、日本国民が強い意思をもって「海外派兵をしたくない」というのであれば、私はすべきではないと思います。たとえ、それが正しい目的のためであっても、「他国の領土、領空、領海のおいて、日本は武力をなるべく使いたくない」と考えることは、ある意味でひとつの見識かもしれません。
しかし、他国の領土、領海、領空__これを海外と呼んでおります__に入らない場所であれば、集団的自衛権の行使は、全く別に考えるべきではないでしょうか。
他国の領土、領海、領空でない場所とは、公海およびその上空のことです。
私は日本が、
1 日本の領域内、そして
2 公海およびその上空では、
3 米軍を支援することができる、すなわち集団的自衛権の行使ができるようになるべきだと考えます。
●どのようなプロセスで集団的自衛権を認めるか
どのようにして集団的自衛権の行使を日本が認めるかです。それはどのようにすれば可能でしょうか。現在の日本政府の集団的自衛権に関する憲法解釈がおかしいことは、岡崎久彦大使の長年の指摘を待つまでもなく、間違いありません。ですから、
1 政府があっさり解釈を変更すれば一番手っ取り早いのですが、これまでの経緯を考えるとそれは難しいかもしれません。
2 政府が解釈を変更しないのなら、憲法改正によればいいと言えますが、これには時間がかかるわけです。
3 本来、憲法が集団的自衛権の行使を認めるかどうか、最終的な判断は最高裁の仕事です。しかし、こうした問題で最高裁の判断は、いろいろな理由で回避されがちです。
4 それなら国権の最高機関である国会が集団的自衛権の行使に関して、何らかの国会決議をして認めたらどうかというアイデアもあるかもしれません。しかし、国会決議は慣例として全会一致を原則としていて、実際には簡単ではありませんし、「国会決議に憲法解釈の変更を頼るというのは筋が悪い」という議論もあると思います。
5 そこで、たとえば、中曾根康弘元首相も提案しているように、国家安全保障基本法のようなものを制定して、21世紀の日本が国家、地域、世界の平和と安全のためにどのようなビジョンを持ち、どのように行動するか、日常どのような準備をし、シビリアンコントロールをどうするかといったことを定める。そして、その中に集団的自衛権の行使を前提にして、同盟国に対する援助について規定するのがいちばんよいと思います。つまり、この法律の中に、自衛隊は日米安保の目的に沿って行動する米軍を公海および、その上空において援助することができると書き込むやり方です。
6 もし、こうした法律が通れば、政府のこれまでの集団的自衛権に関する解釈は乗り越えられますし、また、
7 もし何らかの形でこの法律が、違憲立法審査にかけられ、集団的自衛権に関する部分が最高裁で違憲と判断することになりましたら、それはそれで私はいいことだと思います。
8 そうなれば事態ははっきりしまして、憲法改正を考えるしかなくなると思います。
以上、私は21世紀の日米同盟の発展のために、日本はまず、「海外派兵をともなわない集団的自衛権の行使ができるようになるべきだ」という話をしました。ご静聴ありがとうございました。(拍手)
岡崎 実に明解なお話、どうもありがとうございました。次は西元先生、お願いします。
西元徹也先生(意見陳述)
西元 ただいま坂元先生が憲法問題をお話になりましたので、私はもう少しこれを具体的にした有事法制についてお話しさせていただきます。
有事法制は本来、憲法のような基本法に定められた「国家緊急事態への対応の基本的事項」に準拠して制定されるべきものであります。
ところが、我が国の場合には、そのような基本法の定めがないこと、それゆえに夫々の事態ごとに個々の法律によって個別に律されていること、これが我が国における有事法制の最も根本的な問題だと思います。
本日は、そのような観点から早急に解決しなければならないと思われる3つの問題点を皆さま方に提起いたしまして、それへの解決案をご提示申し上げますので、ご批判をいただければと思います。
●有事法制の主要な問題点
主として運用上の観点から早急に解決を要すると思われます現在の我が国の有事法制に関わる主要な問題点だけを挙げてみますと、次の3つです。
第一は、国家緊急事態への対応の基本を定めた法令が欠如していること。
第二は、有事法制全般について、平常時から危機時、そして危機時から有事に至る全ての段階で「危機管理」、あるいは「抑止」という概念が欠如していることです。このため、情勢の推移に適時適切に対応して連続的かつ一貫した措置を取っていくことが、非常に困難となっています。
第三は、現行法制に有事と平常時の間のいわゆるグレイゾーンに関わる法令あるいは運用上特別の考慮を必要とします弾道ミサイル防衛に関わる法令などが存在しないことです。
●どのような法制整備がもとめられるのか(1):包括的な基本法案
そこで、今後の法令の整備のあり方ですが、
第一は、言うまでもなく国家の緊急事態対応に関わる包括的な基本法の制定を一刻も早くしていただくことだと思います。その理由については、ただいま坂元先生がおっしゃいましたので省略させていただきますが、内容の一案を提示させていただきますと、
1 国家の総力、すなわち政府、地方自治体、民間、産業といった諸機能の結集。
2 国家緊急事態における内閣総理大臣に対する緊急権限の付与。
3 国家レベルにおける意思決定の体制とその手順。
そして、
4 坂元先生もおっしゃった非常に重要な問題ですが、平常時における危機の予防、危機時における危機の拡大防止と早期収拾に寄与するとともに、国際的な安全保障共同行動に積極的に協力していくための「集団的自衛権の行使」、あるいは「海外における限定的な武力の行使」、および「国連の集団的措置への参加」といったようなことを容認して、その条件を規定することだと考えます。
この問題は憲法改正によって解決するのが一番望ましいことは言うまでもないので
すが、それには余りにも年月がかかり過ぎると思います。
その他には、
5 国民の防護に対する体制の整備。
あるいは、
6 必要な場合における国民の私権の制限、その裏側にある国民に対する補償措置。
などであり、これらを、きっちりと規定する必要があると思います。
●どのような法制整備がもとめられるのか(2):防衛出動などに至る前の段階
第二は、防衛出動などに至る前の段階における各種事態への対応の準備を促進し、あるいは抑止のための必要な措置が取れるような法制を整備することであります。その理由は、本日は時間の関係で省略しまして、その手段だけ申し上げますと、
1 不審船や武装工作員などへの対処に関わる法令を整備すること。
2 国として想定される各種事態に対して、適時適切に対応できるような準備段階・準備事項を定めた統一基準を決めておくことです。アメリカでいうWATCHCONやDEFCONといったようなものを定めておくこと。
そして、それに基づいて
3 自衛隊やその他の機関も含んだ行動基準(いわゆるROE)を整備する。
この三つを総合的に講じることによって、このことは可能だと考えます。
●どのような法制整備がもとめられるのか(3):平常時と有事の「グレイゾーン」
第三は、平常時と有事の間のいわゆる「グレイゾーン」における、自衛隊やその他の機関の行動に関する法制整備ですが、これは先ほど申し上げました
・ 武装工作員などへの対処に関わる法制
・ 弾道ミサイルによる攻撃、もしくは恫喝に対処するための法制
・ テロ、海賊行為、難民流入への対処といったように、国家の全ての機関が協力して対応しなければならないようなものに関わる法制などの整備であります。
なお、弾道ミサイル防衛に関する法制の整備にあたっては、柴山先生がおっしゃいましたように、これが非常に時間的な制約のもとに行われるということから、情報、指揮、統制といったような問題は、日米がばらばらにやっていたのでは、間に合わないと思います。したがって、これらについて一元的に対処できるような体制を築くことが必要だと思います。その他いくつかありますが、時間の都合上、省略させていただきます。
●どのような法制整備がもとめられるのか(4):いわゆる有事法制
狭い意味での有事法制の問題が、いまいちばんの焦点になっているわけですが、「第一」、「第二分類」に関しては、「法制化のための準備」についての指示を総理からいただくだけで措置は可能だと考えております。しかし、主として国民の防護に関わる「第三分類」、それから、我が国の防衛にあたる米軍の「国内における行動の根拠となる法制」、あるいは有事の「ACSA」については、まだ研究すら進んでいません。当然のことながらこれらについても急ぐ必要があります、
更に、国家全体の安全保障、防衛に関わる事項の秘密を守るための措置も我が国の国益を守り、日米間の情報の共有を促進する上から重要だと思います。
●普通の民主国家がごく普通にやっている法制を日本も早急に整備を
以上述べましたことは、決して特殊なことではありません。普通の民主国家であれば、ごく普通にやっていることだと理解しております。我が国においては、
1 長く続いた「55年体制」での安保政策の両極化であるとか、
2 過去の歴史への配慮からの周辺諸国に対する遠慮だとか、あるいは、
3 それを利用する周辺諸国からの絶え間無い圧力などによって阻害されてまいりました。
けれども、幸いにして、国民の間に、理解が広く深く行きわたりつつあり、政治の世界においてもようやく共通の土台ができつつあります。このチャンスを逃しては、21世紀を迎えた今日、我が国は、「危機を予防し危機の拡大を防止する」ことができないままになってしまうと思います。
●「同盟の差別化」という事態に我が国は対処できない
前のセッションでは「任務役割分担」についてお話させていただきましたが、「任務役割分担」と「有事法制」問題を解決しない限り、アメリカの中でおこるであろう「同盟の差別化」という事態に我が国は対処できないことになる可能性がある、それを、私は、非常に懸念いたしております。以上で私の報告を終わらせていただきます。ありがとうございました。(拍手)
岡崎 坂元先生、西元先生とお二人続いて、これだけ具体的に建設的な意見をきちっと述べられると、これはたいへんあり難く、感動をもって感謝の念を表明いたします。(拍手)
それではステープルズさん、お願いします。
マーク・ステープルズ先生(意見陳述)
ステープルズ 岡崎先生、ありがとうございます。私にとりまして、坂元先生や西元統幕議長とともにパネリストとして入ることを許されたことをたいへん光栄に思います。
●タイムリーな企画
私は、現在、マンスフィールド・センターのフェロープログラムで、日本に長期滞在していますが、以下、申し上げることは、あくまで個人の見解です。
有事法制は、日本において、非常に微妙なテーマとなっておりますが、次期アメリカ政権も、この問題を十分に吟味していかなければならないと思いますので、タイムリーな企画であると考えます。その際、日本との積極的な対話が鍵になると思います。私は、アメリカ人ですが、東京に住み、日本の新聞を読み、民主党や自民党で議論が進んでいることを知って、非常に面白く思いながら見守っています。鳩山由紀夫さんや小沢一郎さんの立場にも非常に興味があります。
●有事法制、憲法は日本の主権の問題
有事法制、特に憲法を巡る議論は、日本の主権に関わる問題ですから、アメリカが干渉する筋合いの話ではありません。これは岡崎大使がおっしゃる通りです。しかし、ブッシュ政権にとっても、影響力を行使することはなくとも、目を放せない問題です。
アメリカは、過去50年間にわたり、この地域から湾岸に到る地域での平和を維持するために、日米同盟をスプリングボード(強い足場)として使ってまいりました。しかし、それは過去のことであって、いま、将来のことを考え、日本側が持つ曖昧性をただしていかなければ、日米同盟関係が将来寸断されることもあると、私は危機感をいだいています。曖昧性をただしていくためには、法的な改正がもとめられます。それをしなかった場合、また、それをした場合のそれぞれの場合について、「同盟関係がどうなるか」を、私は、考えてまいりました。
たとえば、日本は「国際紛争の解決は武力によらない」という立場をとっていますね。日本では国会決議により、自衛隊の活動にさまざまな制限的がつけられております。ここから先は日本国内の議論の話になりますが、それらの制限がつけられたのは、歴史的な経緯からであって、いまの時代に当てはめて考えると、「平時、戦時」のいずれの場合にも、もはや適切ではないのではないかという認識が国民のあいだに広がっているように思えます。これは、西元先生がおっしゃった通りでして、それによって、現在の有事法制を巡る活発な議論に至ったのだと思います。
私たちアメリカ人は、日本国内の議論を慎重に見守っていきますが、それは、同盟関係に、将来、摩擦が生まれる可能性があると考えているからです。
たとえば、日本での憲法改正のうねりですが、日本国民がなぜ改憲を必要と考えているのかを、アメリカ政府が十分に理解していないと、改憲がなされても、アメリカは戦略的視点で間違ってしまうことになります。
21世紀には、強力な日米同盟関係がこれまで以上にもとめられる時代です。将来に向けた準備を怠らないためには、日本国内の議論に十分に精通している必要があるのです。
アメリカは「50年にわたり成功してきた同盟関係、更に50年間続けようではないか」というメッセージを、送ることでしょう。日本が、その主権を行使し、安全保障関連の法整備を行うにあたるのを、アメリカは、ただ黙って遠くから眺めているわけにはいきません。アメリカにとっては、この時期に、沈黙を守ることはむしろ危険だと思います。
つまり、日本国内の努力に、我々が声明などを出すという形で支持表明していくことが大切なのです。同時に、日本の法改正により、同盟関係に新たな形が与えられるわけですから、これを十分に見守り、大事に育んでいかねばなりません。
今年は、旧安保が1951年に定められてから50年目にあたる重要な年です。日本では、過去5、6年のあいだに、大きな変化が起こっていると申し上げましたが、かつて議論がはばかられたタブーが、もはやタブーでなくなってきたことは、大きな影響を与えています。それは、日本が、徐々にですが、変わってきた証拠でありましょう。日本には、新たな政治的環境が生まれてきており、「日本国民として将来の国家安全保障法はこうあるべきだということを決めたい」という気運が広まってきております。
●集団的自衛権の問題は日米共通の利益に関わる
アメリカの対日政策を研究しますと、占領終了時から現在に至るまで一貫して集団的自衛権を支持していることがわかります。1951年のテーマ、そして、現在の議論が何かを考えれば、問題の本質がいまも変わっていないこと、すなわち集団的自衛権の問題に帰着することがおわかりいただけることでしょう。
アメリカの立場は当時もいまも変わっていません。当時と現在が大きく異なるのは、日本側で集団的自衛権の問題が非常に大きなテーマとして浮上してきていることです。アメリカは、双方にメリットのある形で、うまく協力できる基盤が徐々にでも整えられてほしいと思っています。
●1951年2月のダレス講演
私は、論文のほうには、詳しく書いたのですが、1951年2月、日本記者クラブで、ダレス国務長官が安全保障問題について講演しました。これは旧安保条約を結ぶ前の話です。彼のスピーチの要点は次の通りです。
集団的の安全保障措置が、唯一の信頼にたる抑止力をもっている。それによって平和が維持され、国際連合の理想が実現できる。個別的そして集団的な自衛権を実現することができるが、これは共通の利益になる。
当時のアメリカが、日本を集団的自衛の枠組みに加わらせたいと考えたのは、封じ込め政策の一環であり、それはヨーロッパでやろうとしたことと同じです。米国は、ヨーロッパの同盟国と一緒に共産主義と戦っていた。そしてアジアの同盟国にも同じことをもとめたのです。
これば、旧日米安保条約の立場であり、同条約第四条に次のように反映されています。 「この条約は、国際連合又はその他による日本区域における国際の平和と安全の維持のため充分な定めをする国際連合の措置又はこれに代る個別的若しくは集団的の安全保障措置が効力を生じたと日本国及びアメリカ合衆国の政府が認めた時はいつでも効力を失うものとする。」(1951年の旧安保条約第四条)
アメリカが最初から日本の集団的自衛権を支持していたことはこれで明らかでしょう。このような集団的自衛権に対する言及は、1960年の新安保条約で取り除かれましたが、それは、アメリカの意図ではなかったのです。
その後の、ソ連封じ込め政策については、割愛しますが、朝鮮戦争での中国義勇軍介入後に出された1950年のNSC68で、日本を「軍事的真空」であるとの判断を明らかにし、さらにそれを補強するために、1952年8月に対日政策基本文書NSC125/2が出されました。これには、日本再軍備の第1段階として、「バランスのとれた10個師団の陸上兵力と適切な海空軍力」を日本が持てるように援助することが盛り込まれていました。時間が無いので、このあたりは、割愛します。論文をお読みいただければと思います。
●不確実性への対処
そして、冷戦が終わりました。現時点では、われわれは、今後、どういったことが起こるか分からない世界に住んでいます。われわれは、不確実性に対処していかなければならないのです。これに対処するひとつの選択肢が日本の集団的自衛権の行使なのかもしれません。
同盟という観点から、1993-94年の朝鮮半島危機を見ますと、アメリカは、この地域で、同盟国とともに行動することができなかった。もちろん、米国が単独で対処することはできます。しかし、同盟国である日本は、緊急事態に対処できなかった。これは西元さんのプレゼンテーションにありましたが、日本の法律が障害になったわけです。
その後、96年の安保共同宣言により、日米同盟は強化されましたが、それでも、平時と戦時の両分野において、日本ではいまだに、厳しい制約が課せられています。西元さんが指摘したように、これは、日米協力を阻む可能性をもった制約なのです。たとえば、集団的自衛権の行使が禁止されているために、危機の際に、充分な情報の交換ができないかもしれない。「グレイゾーン」がありますから、日本は、第三国に不利になる情報を入手しても、それが「集団的自衛権の行使の禁止」という縛りがあるために、米国に渡せないかもしれない。これは、同盟にとって非常に重大な問題に発展するかもしれません。
巡行ミサイル、弾道ミサイルの防衛では、集団的自衛権の問題は、もっと大きな障害となる可能性があります。
●二国間の情報センターの設置とバランスの取れた人員配置
そのような見地からみますと、アメリカが、日本の有事法制整備をなぜ歓迎するかがおわかりいただけるでしょう。
日本が有事法制を整備すれば、アメリカは、この地域の諸国に向けて、強く歓迎するむねのメッセージを発信することでしょう。なぜなら、これが、日米関係をきちんと整理する絶好の機会になるからです。
このように、日米同盟が新段階を迎えるに際して、両国は対話を強化していかねばなりません。日本が普通の国になれば、日米同盟も普通の同盟になるのです。それは、どういうことを意味するのでしょうか?
1 日米同盟をうまく管理していくために、日米双方で人員増強の必要があります。アメリカは、現在NATOに対してはブリュッセルに多数の人員を配置し、ソウルにもかなりの人員を配置をしていますが、東京に張りついている人数は、これらと較べて貧弱です。もちろん横田基地には若干おりますが、これでは不足でしょう。東京とワシントンの両方で、日米ともに人員の増強が必要です。
2 また、NATOの使節団が国防総省内にオフィスを持って駐在しています。日本が普通の国になったら、日本にも国防総省にオフィスを構えていただきたい。これは、先ほど柴山先生が「TMDのセッション」でおっしゃられた通りです。
3 RMA、ITの革命により、国防総省は革命的変化を迫られています。関心の焦点を、冷戦時代とは異なるものに移すべきです。ところが、国防総省では、いまだにアジアよりもヨーロッパ担当者の人数がずっと多い。しかし、新政権は、アジアへの関心を高めることでしょう。アジア系の人たちが国防総省に増えます。アジア担当官のポストを国防総省に増やすことも重要でしょう。
4 二国間の情報交流センターが必要です。ビジネスの世界、とくに金融界ではIT革命などにより、意思決定の一元化がすすめられています。軍隊においても同様です。お互いに独立の指揮権をもちながらも、意思決定の一元化がすすめられなければなりません。
5 情報交換は、対等な立場から行なわれねばなりません。・サイバー・テロ、・弾道ミサイル、・巡行ミサイルへの対処は、日米が共同部隊を持つというところまでいかないまでも、情報交流センターを設置し、その指揮は、日本とアメリカが交替で行うべきでしょう。情報交流センターは地域紛争のときにも役立つでしょうし、人道援助や、災害救助でも役立つでしょう。二ヵ国が共同してセンターは設立することもできますし、一ヵ国づつが独立した情報交流センターを設置して行うこともできます。(拍手)
岡崎 ステープルズさん、どうもありがとうございました。質疑に入りたいと思います。これだけ重大な問題ですから皆さんご関心があると思うので、少しぐらい時間が延びても許されるだろうと思います(爆笑)。(岡崎議長にメモが差し入れられる。それを読んで)それが済んだところで、マイケル・グリーンさんが一言しゃべりたいとのことです。それじゃあ、質問かご感想がありましたらどなたでも。
中森芳明氏・軍事評論家(質問)
●海賊・不審船等に関する日米の情報交換
中森 ガブリエル・中森芳明と申します。海賊問題の国際フォーラムを主催しております。西元さんから「グレイゾーン」のお話が出ました。また、同時にそれに関連して「ROE」の話が出ました。
グレイゾーンは、・有事と平時の間、・軍事と準軍事の間、・日本の自衛隊と米軍の間に、3つあります。ちゃんとしたROEがないがために、日米間のいろいろな作戦に支障を来すわけです。たとえば、去年の10月、イエメンで、たった二人のテロリストによってアメリカのイージス艦が、完全にやられてしまった。そういうことが、日本でも起こるかもしれない。
海賊、不審船、スパイ船などに対して、アメリカと日本の間の情報交換はどの程度進んでいるのですか?また、アメリカの情報の中心はどこですか、お聞かせいただきたいと思います。
西元徹也先生(回答)
●日米の情報交換
西元 「グレイゾーン」が3つあることはご指摘の通りでございます。私どもが検討しているのも、まさしくその3つでございます。
ただ、いまの非常に微妙な情報の問題は、いまご指摘の不審船という問題についても、情報の交換がかなり積極的に行われていることは申し上げられるとしても、それがいかなる手段でキャッチされた情報であって、いかなるルートを通って誰がいつどのようにして伝えたかについては、現段階ではご勘弁をいただきたいと思います。
ただ、これは、日米間で、かなりシステマティックに行われているとご理解いただきたい。お互いがセパレートされた状態にあるとか、それぞれがアクシデンタリーに情報を交換しているということでは決してありません。それぞれの国が、それぞれの国の防衛のために必要な情報を収集し、それを交換しているとご理解いただきたいと思います。相手の要求にしたがってこちらが情報を収集し、それを渡すということではありません。アメリカ側が、日本の求めに応じて、そのようなことをやってくれる場合もあるわけでございますが、その逆は非常に難しい。お答えになったかどうか分かりませんが、この辺でご勘弁をいただきたいと思います。
岡崎 宝珠山さん、どうぞ。
宝珠山昇氏(質問)
●日本には外圧が必要
宝珠山 坂元先生、ありがとうございました。立法府がしっかりして日本を改革しろということでありましたが、実はそれがいちばん問題でございまして(爆笑)、この半世紀できなかったことは、これはもう先生がよくご存じのことでございます。
しかし、セミナーの冒頭で、田中明彦先生、---あるいは、北岡伸一先生でしたでしょうか---がご指摘になった、「日本が少しずつよくなってきた」のは、これはひとえに、外圧によってでありました。そう、北岡先生でしたね、「日本の安保政策が、少しずつよくなってきた」とおっしゃったのは。
マイケル・グリーンさんは、「外圧は、かけるものではない」とおっしゃっておられましたが、日本の改革をやるのは、金融改革もそうだったかと思いますが、やはり「外圧」でなければならない(爆笑)と思っております。その点については、お答えは、むしろグリーンさんがこれからなさるという最後のお話で、うかがえたらと思います。
岡崎 それでは、グリーンさんにお願いしましょう。有事法制と憲法のセッションは、これで終ります(拍手)。(18:25)
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第6章 任務役割分担
第8章 まとめ
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