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〈月刊メディア批評〉 情緒的過ぎる日本メディアの拉致被害者報道
http://210.145.168.243/sinboj/j-2004/05/0405j0802-00001.htm
共同通信記者時代に、三年半特派員として過ごしたジャカルタに日本人記者が殺到した。拉致事件被害者の日本人女性の夫で米軍から脱走罪などで訴追されているチャールズ・ジェンキンス氏と娘2人が7月9日、ジャカルタで再会したからだ。
女性の一家4人は、日本に移動し、在日米軍に移籍されたジェンキンス氏が米軍の独立法務官と面会することになった。
それにしても、日本の企業メディアと特殊法人NHKによる拉致被害者報道はあまりに大量で情緒的過ぎないか。
今回も朝鮮民主主義人民共和国への悪意に満ちたニュース作りが行われた。朝日新聞系列のテレビ朝日が最悪だが、ジェンキンス氏が自らの意思で38度線を越えて朝鮮に渡ったことは疑う余地もないと思うが、ワイドショーなどに出る文化人たちは「拉致された可能性もある」とまで言っていた。朝鮮からの「同行者」3人について、「赤十字職員と言っても工作員だ」「会わせるべきではない」などと言いたい放題だった。
重村智計・早稲田大学教授、編集者の辺真一氏らが連日のようにワイドショーに出て、「ジェンキンス氏が映画に出演したのは10年後。スパイと疑われていた。信用されていなかったのだろう」「洗脳するのに時間がかかったのかもしれない」などと放言を繰り返した。
大学教授がこれだけテレビに出ていたら、研究調査や教育をする時間はほとんどないだろう。
また、沖縄在住のエディ・キャラゲイン弁護士を何度も長時間登場させているのも問題だ。「脱走したという証拠は何もない」「ジェンキンス氏が、北の情報を提供すれば実刑はない」。こういう無責任な発言を延々と述べるキャラゲイン弁護士は01年に沖縄本島で起きた米軍による強かん事件で、被害者の女性を誹謗中傷するコメントを米誌紙に寄せている。詳しくは『「報道加害」の現場を歩く』(社会評論社)の246頁以降を読んでほしい。
地元沖縄の知人の記者は、「彼女を見ていると、米国の弁護士というのはピンキリだと分かる。法律知識も浅いし、発言も無責任だ」と論評している。
ジェンキンス氏の来日から6日後の7月24日、米軍が1965年に脱走など四つの罪で訴追済みであることが分かった」という報道があり、細田官房長官も認めた。外務省当局者はとっくの昔に、ジェンキンス氏が起訴されているのを知っていたのだ。日本政府は彼が米軍に訴追されたのをずっと隠していたのだ。
「私たちの番組はいったい何をやっていたのか」と7月25日、思わずつぶやいてしまったのは、テレビ朝日の「スーパーモーニング」の渡辺宣嗣キャスターである。隣の女性キャスターも「そうですね」と相槌を打った。正直ではあるが、政府にだまされていたことを反省すべきだ。
「姑息な手段だが、(ジャカルタの空港で)タラップを降りてくるときに担架で降りてくるとか、両肩を支えられてきたりしたらよかったのでは」。7月14日午前に放送されたフジテレビ系のワイドショー「とくダネ!」で、小倉智明キャスターもなかなかきわどいコメントをした。
7月25日のTBS系の朝の番組で、文化人のコメンテーターたちは、「この程度の病気ならインドネシアの病院でよかったのでは」「とにかく病気でいてくれないとということのようです」などと本音を語っていた。
ジェンキンス氏は家族と共に、しばらくインドネシアで静養しながら、今後の行き方を決めるはずだった。ところが、中山恭子参与はまたウソをついたことで、4人の日本移動が決まった。中山参与が「芝居を打った」といってもいい。
ジェンキンス氏の妻の信頼が厚いとされる中山参与は7月10日、臨床経験ゼロの外務省医務官の診察結果を受けて急遽帰国。小泉首相に「平壌で受けた手術の手当てが不十分で、予想したより重病だ」「医療水準の高い日本の病院で早期治療が絶対に必要」などと直訴し、そこで 「人道的見地」急遽来日が電撃的に決まった。
ジェンキンス氏の病状について、東京女子大の担当医は23日記者会見で、「体調は回復しつつある。再手術の必要はない」と述べ、中山参与らが政府とメディアに流した情報を完全に否定した。
ジャカルタでのジェンキンス氏を診察した日本人医師の姓名などを公表すべきだ。
平壌を出発するときと、ジャカルタから東京に着いたときの変わりようはあまりにも極端だった。
中山参与の言い方は、再会場所を受け入れたインドネシア政府と国民に対して失礼ではないか。ジェンキンス氏が診察を受けたインドネシアの病院は最新の設備を誇っているという。
「週刊現代」8月7日号は「日本がジェンキンス氏を拉致したようなものだ」というインドネシア政府高官の憤りの発言を引用しているが、中山参与はどう答えるのか。
中山参与は反省するどころか、30日、朝日新聞(上野麻子記者)のインタビューに応じ、「ジェンキンスさんについて「4月に(北朝鮮で)手術をした時、一説には『がん』と言われていたようだ」と述べた上で、一家の再会場所として当初、金正日(キム・ジョンイル)総書記らが北京を挙げていたことに関して、ジェンキンスさんが「ひとみを平壌に連れ帰れば、車がご褒美にもらえるはずだった」とジャカルタで語ったことも明らかにした」として平壌に帰国する日程も提示されていたと述べた。
上野記者は、取材の中で、中山参与が一昨年十月の一時帰国の際についたウソなどについて聞くべきだった。公務員である中山参与が、プライバシー情報を漏らしていいのだろうか。また、中山参与が引用したジェンキンス氏の発言内容は真実なのかと疑う。本当に金総書記は引用されたようなことを言ったのか。朝日はきちんとフォローすべきだ。(了)(浅野健一、同志社大学教授)
[朝鮮新報 2004.8.2]