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例年ならシーズンが終わっているはずのスギヒラタケが、今年はまだ生えていた=新潟県北部で、江口一写す
食用キノコのスギヒラタケを食べた腎障害の患者が相次いで急性脳症を発症した問題は、厚生労働省や日本腎臓学会などの調査で、このキノコの何らかの有害成分が原因だとの見方が強まってきた。しかし、昨年までの発症例はごくわずかで、専門家は「なぜ今年だけ問題化したのか」と首をひねる。厚労省は緊急の研究班を設置して原因解明を急ぐ一方、一般の人もスギヒラタケを食べないよう呼びかけている。【江口一、西川拓】
人工透析を受けている新潟県北部の70代女性は9月29日朝、突然ふらついて転び、地元の病院に入院した。意識障害が進んだため、10月6日に県立新発田病院(新発田市)へ転院、急性脳症と診断された。同病院には、この女性も含めて人工透析患者5人が相次いで急性脳症で転院してきたため、病院は県に特異な事例として報告した。
10月中旬、同県中部にも発症者が拡大した。症例を検討した下条文武新潟大教授(腎臓内科学)は同21日、県の緊急会議で「腎障害のある人はスギヒラタケを食べないよう勧告すべきだ」と強く主張した。県は同日夕、問題を初めて公表した。
これをきっかけに、東北・北陸地方で同様の症例が次々に見つかった。厚労省のまとめでは、11月23日までに新潟や山形、秋田など9県で計59人が発症し、17人の死亡が確認されている。
日本腎臓学会が11月上旬までに確認した52症例(うち15人死亡)を調べたところ、平均年齢は69歳で、摂取から平均8日後に発症していた。
◆熱に強い成分?
急性脳症が広範囲に発生していることから、突然変異して毒性を持ったとする見方や、有毒物質の付着説には専門家は否定的だ。家族内で複数の発症例がないため、感染症の可能性も低い。一方、スギヒラタケを全く食べなかったことが確実な発症者はいない。これらの事実から、スギヒラタケに含まれる何らかの成分が、腎障害を持つ人に有害に作用したとの見方が有力だ。
同学会が新潟県などで透析患者522人に聞き取り調査をしたところ、290人がスギヒラタケを食べていた。このうち14人(4.8%)が脳症を発症した。これは統計的にスギヒラタケ摂取と脳症の間に相関があることを示しているという。
同学会理事長の下条教授は、スギヒラタケを炒め物やみそ汁にして食べた後に発症した例が多いことから、「熱に強い成分が原因だろう」とみる。「腎機能が正常な人なら体外に排出される物質が、腎障害の患者では体内に残り、中枢神経に悪影響を及ぼした」と推測する。
◆なぜ今年激増?
なぜ今年、発症者が激増したか理由は不明だ。
キノコに詳しい金沢大の太田富久教授(生薬学・天然物化学)は「スギヒラタケは香りが強く、煮ると泡がたくさん出る。多くの物質が含まれていそうだが、日常的に食べるキノコなので、成分について研究されていなかった」と指摘する。
新潟県森林研究所の松本則行研究員によると、今年は猛暑や多雨の影響で生育が早く、住民が採り始める解禁日には例年より大きく育っていた。「変なにおいがした」という住民もおり、生育環境の変化で、成分が変化した可能性がある。今年は豊作で、発症者の中には「例年よりたくさん食べた」と証言する人もいる。
◆原因解明へ動物実験
脳症の原因物質や作用機構の解明に向けて、新潟大は腎不全のラットを使った実験を始めた。実際に発症患者から提供されたスギヒラタケを食べさせる。下条教授は「ラットが人間と同様の神経症状を起こすかどうかは分からない。原因物質特定には、時間がかかるかもしれない」と話す。
厚労省も研究班設置を決めた。国立医薬品食品衛生研究所を中心に、スギヒラタケの成分分析などを進めている。「来秋に同じ事態が起こらないよう、今年度中には原因を突き止めたい」という。秋田県も独自に研究チームを作って、原因究明に乗り出した。
毎日新聞 2004年11月23日 19時00分
http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/wadai/news/20041124k0000m040047000c.html