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図 拡大する所得格差で低迷する民間消費
※都市は1人当たり可処分所得、農村は1人当たり純収入
(出所)中国統計摘要2004
中国では、昨年以来の引き締め政策の影響が顕著になり、固定資産投資が減速している。こうした中で、民間消費が投資に代わって景気を牽引するエンジンになることが期待されているが、残念ながら、循環要因から見ても構造要因から見ても、消費を押し上げる好材料が見当たらない。
まず、景気が減速する中で、賃金の伸びが鈍化し、失業率も上昇するだろう。また、インフレ率が高まる中で実質預金金利がマイナスになっており、株式市場も低迷していることから、個人の金融資産が目減りしている。さらに、これまで活気を呈した不動産市場も調整色を強めており、これまで高値で物件を購入した家計がローンの返済に追われるようになり、消費意欲が冷えてこよう。このようなマクロ経済の不確実性を反映して、中国国家統計局が発表した第2四半期の消費者信頼度指数は90.1となり、前期比で5.3ポイント下落した。消費者の経済状況に対する満足度指数と消費者の今後数ヵ月の経済動向予測を示す予測指数もともに低下している。
現に、これまで民間消費を牽引してきた自動車市場が変調を見せている。中国汽車工業協会の統計によると、国内乗用車販売台数は、2004年6月には前月比5.8%減の16万7300台となり、ピークだった3月の22万6300台から3カ月連続の減少を示している。 一方、6月の生産台数は前月比2.5%増の21万5600台となり、生産が販売を大きく上回り、在庫が急増している。
景気循環の要因に加え、中国が抱えているいくつかの構造問題も、消費を抑える要因として働いている。まず、市場経済が進む中で、従来の国有企業と人民公社がもはや社会保障の機能を果たせなくなってきており、その一方でそれに代わるシステムがまだできていない。国民は失業、病気、老後に備えて、消費を抑え、貯蓄に励まざるを得ない。また、所得格差が拡大している中で、一部の富裕層による高額商品の消費が伸びている一方で、人口の大半を占める農民の所得が伸び悩んでいることを反映して、消費全体は盛り上がりに欠けている。
実際、中国のGDPに占める民間消費の割合は、農村と都市間の所得の格差の拡大と連動する形で、低下傾向を辿っている(図)。2003年には43.2%となり、日本を始めとする先進工業国の60%程度はもとより、アジア各国の中でももっとも低い水準に留まっている。消費性向が低いことは、消費のGDPを押し上げる効果がその分だけ弱まるばかりではなく、消費拡大に伴う所得の上昇が更なる消費を誘発するという間接効果(いわゆる乗数効果)も小さいことになる。
持続可能な成長を目指すべく、胡錦濤・温家宝政権はこれまで中国政府が採ってきた効率一辺倒という経済政策を改め、「科学的発展観」を提唱している。農村部と都市部の間、また内陸地域と沿海地域の間の所得格差の是正による内需の拡大がその主な内容になっている。しかし、成果を上げるには、戸籍改革による労働力の流動性の向上や、後発地域における投資環境の改善、農民を含む全国民を対象とする社会保障制度の確立、中央政府を通じた地方政府への財政移転が欠かせないため、まだ長い歳月がかかるだろう。それまでは、投資主導型成長から消費主導型成長への転換は見込めない。
(関連記事:2003年5月19日 「中国の経済改革」欄掲載 「成長の妨げとなる所得分配の不平等」):http://www.rieti.go.jp/users/china-tr/jp/030519kaikaku.htm
2004年8月4日掲載
http://www.rieti.go.jp/users/china-tr/jp/ssqs/040804ssqs.htm