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まず、貿易収支に関するこれまでの説明が不十分であったことをお詫びさせていただきたい。
通説や自分が築いた観念に囚われてはいけないと警告したり自戒しながら、それに囚われてしまっていた。
貿易に関するこれまでの説明は、純輸出(輸出額−輸入額)=貿易収支黒字にこだわったものだったが、それでは経済活動の規定論理を説明することができない。
貿易や外需について、純輸出はGDPに占める比率は2%に過ぎないからたいした問題ではないという説明をする人たちもいる。(貿易収支黒字10兆円/GDP500兆円)
しかし、あれこれマクロ経済の考察を進めていくなかで、日本経済は15%ほどのウエイトで輸出に支えられていると考えたほうがいいことがわかった。
■ 貿易に関する基本
通説のように「純輸出」で貿易の経済効果を考えるのは、貿易が国民経済内で原材料からすべて生産された最終消費財の相互取引であるときにのみ有効なものである。
現実の貿易は、原材料・中間財・資本財・最終消費財など経済的性格が異なる財が取り引きされている。
戦後高度経済成長期の特徴である加工貿易を突き詰めると、原材料を輸入して中間財や資本財を国内で生産しながら最終消費財を輸出というものである。
鉄鋼業であれば、鉄鉱石を輸入し、石炭(後には輸入)から生産手段そして労働力は国内で調達する。
動力源や輸送の問題もあるから、原油なども鉄鋼の生産活動に不可欠であることも考慮する。
鉄鋼はすべて輸出されるものと仮定し、
鉄鋼生産に投入される輸入財金額:150
生産された鉄鋼の輸出金額:800
と想定する。
800という輸出金額は、「輸入額150+製鐵会社「仕入れ」+製鐵会社人件費+製鐵会社減価償却+製鐵会社利潤」に分解できる。
※ 減価償却は、輸出された鉄鋼の量に対応した減価償却費。400の金額の鉄鋼を輸出するために生産設備の耐用期間の1/10000を使うのなら、生産設備金額の1/10000の金額。
製鐵会社の「仕入」は、他の会社の「輸入額+「仕入れ」+人件費+減価償却+利潤」を意味だから、「仕入」は、連鎖の最終形態として「輸入額+人件費+減価償却+利潤」に集約できる。
日本のGDPを考えたとき、「人件費+減価償却+利潤」がその構成要素=付加価値である。
輸入額は、他の国民経済のGDPを構成するものであり、輸入しただけでは日本経済には直接関わらないものである。
ここでは、800の鉄鋼輸出で使った輸入財が鉄鉱石の他に50があり合計200の輸入だったとする。
この鉄鋼の生産と輸出で形成された付加価値(GDPの構成要素)は、輸出価格800−輸入額200=600である。
ミソは、鉄鋼生産のために輸入した財は、輸出で国外に出てゆくということである。
端的には、輸出財の生産のために使われた輸入財は、輸入がなかったと考えることができる。(輸入代金が支払えるかどうかが問題になるだけで、GDPや国民所得には無関係ということ)
違う視点から言えば、鉄鋼の生産のために輸入した財の代金は、鉄鋼を輸入する国民経済が支払ってくれるということである。
これを一般化すると、輸出された財に使われた輸入財は輸入金額から控除できることを意味する。
別の表現を使うと、輸出された財に使われた輸入財は、国内に残らないという意味で中継貿易ないし「再輸出」の対象になった財と同じである。
■ 輸出と輸入の差異性
輸出と輸入は、たんに方向性が違うものと考えられがちである。
輸出は財が国外に出てゆく代わりにお金が国内に入ってくるもので、輸入は財が国内に入ってくる代わりにお金が国外に出てゆくものという理解である。
しかし、輸出の理解はそれでいいが、輸入は、前述のように、お金が国外に出てゆくことは確かだが財は国内にとどまるとは限らない。
輸入財は、まず、生産(供給)活動に投入される財とそのまま消費される財に区分する必要がある。
仮に、43兆円の輸入のうち30%が生産活動の中間投入に使われるものなら、
生産(供給)活動に投入される輸入財:13兆円
そのまま消費される輸入財:30兆円
と区分できる。
(原油なども、生産活動のエネルギーや輸送に使われる部分は、生産(供給)活動に投入される輸入財と考える)
生産(供給)活動に投入される輸入財(13兆円)の25%が輸出財の生産に使われているのなら、輸入金額のうち3.3兆円は“再輸出”されていることになる。
(3.3兆円の輸入金額は輸出先の国民経済が支払うから、日本は無関係で、輸出先が輸入元に支払ったと考えることができる)
輸出金額が55兆円だとすると、輸出で形成された付加価値は、55兆円−3.3兆円=51.7兆円ということになる。
輸出で形成された51.7兆円の付加価値は、人件費(雇用者報酬)と営業余剰に分解することができる。
GDPは付加価値の問題なのだから、日本は輸出で51.7兆円の付加価値を生産していることになる。
※ 日本のGDPは500兆円といわれているが、ネットのGDPは340兆円程度だと推定しているので、51.7兆円の付加価値(GDPの「総生産」)は15.2%のウエイトを持つことになる。
(ネットのGDPはずっと少ないという事実は、日本に限らない話であり、GDPの算定方法(SNA)によるズレである。“二重計上”されている金額を削ぎ落としていけば340兆円程度になる。輸出は削ぎ落とす必要がない純粋な付加価値なのでそのまま残り、51.7兆円はネットGDPに対し15.2%の比率になる。もっと言えば、財の生産活動から得た可処分所得が家計向けサービス業の付加価値を形成しているという側面が強いので、輸出で形成される付加価値51.7兆円は、実質的には20%を超える重みを持っているはずだ。このGDP問題は、別の機会に改めて説明したいと考えている)
そして、この51.7兆円の付加価値が、家計可処分所得・政府部門税収・企業内部留保として分配され、家計可処分所得と政府部門税収はある割合で消費に使われることになる。
“再輸出”されなかった生産投入分やそのまま消費される財の輸入(39.7兆円)は、GDPを考えるとき、「総生産」にはほとんど関係なく「総支出」に関わることになる。
生産に投入された分は最終財の価格の一部になるが付加価値を形成するわけではない。輸入消費財は、流通マージンを別として日本で付加価値が生産されることはなく、日本で生産された付加価値から支払われる(購入される)だけの財という性格を持つ。
※ 輸入財については、「最終販売価格−輸入価格」が国内で生産される付加価値で、それはGDPの「総生産」に加算される。
このように、輸出と輸入は性格が異なり、「輸出額−輸入額」で算定される純輸出(貿易収支)は、輸入代金が支払い可能かどうかに関わるだけで、GDP(付加価値生産)と直接の関係があるわけではない。
※ 「輸出額−輸入額」は、輸出で形成される付加価値(「輸出額−輸出財に投入された輸入財額」)−「国内消費輸入財額」という内実である。
輸入額については、「輸出額−輸出財に投入された輸入財額」(国内生産付加価値)が、国内消費輸入財の“上限額”であると考えたほうが理に適っている。
■ 経済問題で喘ぐ韓国や苦悩する中国
韓国経済はIMF体制下でしばらく小康状態を保っていたが、このところは危機的な様相を呈している。
中国経済も、輸出が年率30%で増加しながらもデフレに陥ったり貿易収支の赤字に陥ったりしている。
政治的な問題は脇におき、貿易の論理から両国の弱さを考えてみたい。
日本と韓国や中国を較べて大きく違うのは、基礎的な産業力である。
基礎的な産業力とは、資本財や中間財を生産する技術力である。
日本が世界最強の産業国家と言えるのは、原材料を別にすれば、資本財・中間財・消費財のすべての面で高い国際競争力を維持しているからに他ならない。
消費財の生産だけであれば、強い産業国家とが言えない。
日本の輸出額は55兆円だが、中国の輸出額も5000億ドル(55兆円)とする。
数字的には同じ輸出額であるが、内実は大きく違っている。
日本の輸出に伴う付加価値を51.7兆円(対輸出額で94%)としたが、中国は、下手をすると30%の16.5兆円といったものかもしれない。
日本を「加工貿易」とすれば、中国は「組立貿易」である。
極端に抽象化すれば、中国は、生産設備や部品などの中間財を輸入し、最終組立を行って輸出している。
このパターンであれば、中国が輸出で生産している付加価値は、最終組立労賃+粗利益と内部輸送ということになる。
中国と日本の物価水準は10倍も差があるから、労賃(=物価水準)に較べて、日本など先進国から輸入する中間財や機械装置の価格はべらぼうなものになる。
だからこそ、中国政府は外資の誘致に励んでいる。外貨を膨大に投じなければならない設備投資を外資のお金でやって欲しいわけである。
(設備投資は、10年といった長い年月で回収するものだから負担に耐えない。中間財は、最終財の価格を形成するものだから、それを使って生産した財が輸出できるのなら高くても直接の問題はない)
ある財の輸出価格の要素比率が「中間財:75%・組み立て労賃:10%・減価償却10%・利潤5%」だとすると、中国が得るのは25%であるが、資本財を輸入しているのなら、減価償却費の製造装置部分は将来の輸入代金を積み立てていることになり、実質的には残らないことになる。
仮に、減価償却に占める比率が、工場建物:3%・機械設備7%であれば、減価償却で中国の手に残るのは、組み立て労賃:10%+工場建物減価償却3%+利潤5%である。
さらに、輸出企業が合弁で利潤を外国企業と折半するのなら、中国に残るのは15.5%になる。
衣料品など労賃が占める比率が高い輸出財は、中国に残る付加価値比率は高いが、それは絶対額(輸出価格)が安い。
一方、輸出価格が高い家電製品などは極めて付加価値比率が低い。
仮に、資本財(減価償却分)や中間財を日本などからの輸入に頼っている比率が輸出全体の40%なら、5000億ドルの輸出であっても、2000億ドルは日本などの付加価値生産に貢献していることを意味する。
中国の視点で言えば、中国の実質輸出額は3000億ドル(33兆円)未満ということである。
2000億ドル(22兆円)は、中国からの輸入国(米国など)が日本などに支払っていると考えるべきである。
(日本が輸入している中国製消費財は、それに占める日本からの輸入比率に応じて日本が日本に支払っていることを意味する)
韓国も、中国よりは産業基盤が育成されてきたとは言っても、主力輸出品で半導体製造装置や家電製品の部品を日本からの輸入に依存している。
韓国は、中国と日本のあいだ、すなわち、中国よりは労賃(物価水準)が高いが日本よりは産業力が低いという位置にあるため苦境に陥っているのである。
この貿易に関わる論理は、国内経済にも深刻な影響を与える。
中国は、開発途上国でありながらデフレに陥るという経験をした。(日本の対米金融35兆円でなんとかデフレから脱け出した)
輸出の場合は、資本財や中間財が高くても財そのものを国外に流出させてしまうので、「労賃+減価償却費+利潤」に相当するお金だけを手に入れることを意味する。
「労賃+減価償却費+利潤」に見合う財は国内にないから、そのお金は、国内で生産された輸入されたかは別として他の財の需要に向かう。
ここで問題になるのが、国内で生産されたとされる財に占める輸入財の割合である。
「中間財:75%・組み立て労賃:10%・減価償却10%・利潤5%」という価格構成を持つ財が国内に供給されると、この財の供給活動で生まれた購買力(=税込み家計所得)は10%である。
わかりやすくするために金額に換算すると、2万円で販売したい財のうち2千円相当しか購買力がないということである。
この財を国内で思惑通りの価格で販売するためには、生産した財の90%を輸出しなければならないことを意味する。
1000個の生産:購買力200万円
900個を輸出し、100個を国内販売すれば、200万円/100個だから1個当たり2万円で販売できる。
しかし、輸出が900個を下回れば下回るほど、国内の販売価格は、利潤を失い、減価償却費が回収できなくなり、中間財のコストも全額回収できないレベルへと下がっていく。
1000個の生産:購買力200万円
855個の輸出:国内販売の145個は1個当たり13,793円になる。
資本財の減価償却を含む財に占める輸入財の割合が高いと、輸出量がわずか5%減少しても、利潤が手に入らないどころか、大きな赤字になる。
このような現実は、中国は米国の輸入力=購買力が下がると瞬く間にデフレに陥ることを意味する。(同時に、中国側合弁企業が借り入れを行っているのなら債務不履行を増加させ、銀行は不良債権をさらに増加させることになる)
このような経済的惨状を防ぐ方法の一つが、政府が公共事業に膨大なお金を投入して消費財の購買力を高めることである。
もう一つの防止策は、国内で付加価値が生産される割合が高い不動産開発や工場建設といった投資を継続的に行うことである。
(公共事業や固定資本形成は、消費財を生産するわけではないので、それに投じられたお金は消費財に使われることがポイント)
中国政府は、自国経済を惨状に陥れないために、投資(固定資本形成)を促進し自らも励んできたが、投資の増加が輸入の増大を招き貿易収支を赤字に転換させた。
(政府債務も積み上がったがそれはともかく、それが原材料や鉄鋼などの国際価格上昇にもつながり、韓国経済に大きな打撃を与える要因にもなっている)
中国政府が経済を冷却させる政策をとっているのは、インフレ対策というより、貿易不均衡の是正や債務(=不良債権)問題を憂慮したものである。
産業力を基盤にしている日本は、「小泉改革」のように株式取引の推奨などの金融主義に走るのではなく、産業力の維持・強化に務めなければならない。
国際金融取引はともかく、国内金融取引は、お金が移転するだけで付加価値をまったく生まないのである。
日本人が達成した産業基盤の育成を中国人ができないと考えるべきではない。
中国人が達成できないとしても、日本企業が全面的に中国に進出すれば、経済論理的には中国が達成したのと同じになる。
日本企業のなかには中国を開発拠点にする動きもあるが、元々日本が輸出していた財の組み立て拠点として中国を活用したり、中国の内需のために資本財から消費財までを中国で生産するする範囲なら問題ないが、コストだけに気を奪われてそれを超えた“移転”を行えば日本経済の破壊につながっていくことになる。
(中国の内需拡大や日本の輸出の部分的な肩代わりのために進出することは好ましいと考えている)
それはともかく、これだけ強力な産業国家である日本を14年間も経済的苦境に陥れたままにしている政治家・官僚・企業経営者は、無能の謗りを免れることができない。
「郵政民営化」という必要もなければ意味もない政策を実現するために、政治的活動力を無為に浪費している小泉政権は自国破壊者である。
企業経営者も、政府に頼らない民間主体の経済活動を語るのなら、現状の経済的苦境を自らの智恵で解決しなければならない。
それこそが「規制緩和」の基本である。