現在地 HOME > 掲示板 > Ψ空耳の丘Ψ37 > 718.html ★阿修羅♪ |
|
Tweet |
わしズム Vol.12 秋季
評論 ブッシュ再選の布石――アメリカ大統領選を予想する 副島隆彦
http://webmagazine.gentosha.co.jp/wascism/wascism.html
私がこの原稿を書いているのは2004年8月14日である。この日、日本の映画館で例のマイケル・ムーア監督の映画『華氏911』の先行公開が始まった。
この映画は、ブッシュ政権に対する強烈な批判と皮肉を含んでいる。現在の大統領であるジョージ・W・ブッシュは、丁度3年前にアメリカと世界を震憾させた「9・11米中枢同時多発テロ」が発生したその日、フロリダの小学校を訪れていた。ブッシュが側近から事件の発生を耳打ちされた瞬間の表情から始まり、一部始終を映し出している。あの9・11も深く仕組まれたものであったことを強く印象づけている。
攻撃を知った時に、ブッシュは平静を装いながらも当惑した表情を見せていた。イスラム原理主義者であるオサマ・ビンラディンが創始したアルカイーダによる(ということになっている)同時多発テロが発生して以降、自由の国だったアメリカの国内の空気はすっかり変わってしまった。国民の恩想信条への事実上の検閲を行う「愛国者法」(パトリオット・アクト Patriot Act)の制定が行われた。5段階に色分けされた「テロ警戒情報」が断続的に発表されることで現在のアメリカは明らかに戦時下の状況である。
私は今年の春に、大統領戦の取材を兼ねて、アメリカの日本研究の第一人者である、チャルマーズ・ジョンソン教授に会いにアメリカを訪れた。ついでに5つの州を見て回ってきた。飛行機に乗る人は、靴まで脱がされて、厳重な身体チェックをされる。アメリカ国民があのような屈辱によく耐えているものだと感心する。テロが起きてから3年になるが、いまだにアメリカは厳戒態勢であると強く感じた。こんなことは恐らく日本軍が真珠湾を攻撃した時以来の異常事態である。あの真珠湾攻撃も上手にアメリカによって仕組まれたものであったことが判明しつつある。
デッドヒートだがやはりブッシュが再選される
そういう騒然とした国内事情の中で大統領選挙が行なわれている。現職(インカンベント incumbent)のブッシュ大統領と、民主党のジョン・フォーブズ・ケリー上院議員(マサチューセッツ州選出)がデッドヒートを繰り広げている。直近の、ギャロップ社が8月9日から11日にかけて行った世論調査では、ブッシュ陣営が48%、ケリー陣営が46%だが、AP通信がその直前に行った調査ではブッシュ45%、ケリー48%という結果が出ている。この手の調査は誤差の範囲が3%程度あるから、両陣営が拮抗していることを示している。
しかし、結論から言えぱ、私はブッシュが僅差で勝って、再選されるだろうと考えている。この流れは、共和党党大会が終わる9月上旬の「レイバーデイ」以降に明確になる。その前に、猛然とブッシュ陣営が反撃に出始めたことがわかる。後述する、ケリー候補のベトナム戦争での勲章(勲功)への疑惑間題である。
アメリカの選挙制度
選挙戦の分析に入る前に簡単にアメリカの大統領選挙について説明する。
アメリカの大統領選挙には特徴がある。50個の州の連合体から成る「合州国」であるために、各州の意思がはっきりすることが求められる。だから全有権者は、「一般投票(ポピュラー・ボート)」といって、大統領本人ではなく州ごとの「選挙人(イレクター)」を選ぶのである。人口の規模により、各州ごとに決められた数の選挙人が割り当てられており、その数は前述した全部で538人である。大統領になるには、このうち過半数の269人の選挙人を獲得する必要がある。選挙人たちは自分の政治的立場を予め明らかにしている。幾つかの個性的な州を除いては、一票でも多く取った候補者がその州の選挙人を「総取り」するシステムが採られている。例えぱ、フロリダ州の選挙人は27人が割り当てられている。ブッシュとケリーと無所属候補(インディペンデント)のラルフ・ネイダーのうち、州ごとに一般投票で一票でも多く獲得した候補者が27人の選挙人をすべて獲得し、対立候補者はひとりも獲得できないということになっている。
この「親の総取り」システムが、今年の大統領選挙の行方に混迷をもたらしているといわれている。今回の大統領選挙は、投票から半年前の段階で8割以上の有権者が、すでに投票する候補を決めてしまっている、「浮動票」のきわめて少ない選挙だからだ。だから今回の選挙では態度を決めかねている、この十数パーセントの有権者(スウィング・ボーター)の票を奪い合う構図になっている。
そのため両陣営はこのスウィング・ボーターがきわめて多い16州を中心に重点的に遊説を行い、キャンペーンCMを集中させている。この「スウィング・ステート」は、アーカンソー(選挙人数は6、以下同じ)、フロリダ(27)、アイオワ(7)、ミシガン(17)、ミネソタ(10)、ミズーリ(11)、ネヴァダ(5)、ニューハンプシャー(4)、ニューメキシコ(5)、オハイオ(20)、オレゴン(7)、ペンシルベニア(21)、テネシー(11)、ワシントン(11)、ウェストヴァージニア(5)、ウィスコンシン(10)の各州である。
選挙人は「親の総取り」だから、例えぱ8月4日のソグビー社の調査では、現段階でケリーは291人の選挙人獲得が見込まれ、ブッシュは215人の獲得が見込まれているという(8月4日共同通信報道)。この調査では、合計が、二人の獲得選挙人数が、538人にならないのは、まだ調査では読みきれていない州があるからだ。
ここで、11月2日の一般投票で、ケリーが、フロリダ州、オハイオ州など16州ほどの接戦州で転んでしまえばブッシュが逆転する可能性が十分にある。以下に述べるように、ブッシュ陣営はケリーに対する、「ネガティブ・キャンペーン」を繰り広げており、今後ケリーの支持率が下落することが予想される。また、逆に、あと数州ケリーが獲得すれば、ケリーの「地滑り的圧勝」ということになる。したがって、両陣営としては、浮動票が多いとされている、これらの州は絶対に落とすことができない州である。だから、各陣営が、すでに接戦となっている以外の州での遊説をすでに捨てている。今回の選挙では、スウィング・ステートの動向がカギを握るというのはそのためだ。
現段階ではケリーがブッシュをリードしていると言われている。しかし、11月2日の投票日まで2ヵ月も残っている。共和党陣営は、8月30日からニューヨークで行なわれる党大会(コンペンション)に向けて、ブッシュを「戦時大統領」(ウォー・プレジデント)で売り込む戦略だ。「現職の強み」を最大限に生かして、次々と政策を打ってくるだろう。そのあとに、「勝つためなら何でもやる」の精神の「オクトーバー・サプライズ」(10月のビックリ)が飛び出してくるだろう。終盤戦でケリーが万一、盛り返すことがあったら、「アメリカに対して反抗的であるイランの核施設への奇襲攻撃」を行うかもしれない。泥沼のイラク戦争の他に「グローバル・バルカン」と呼ばれる中東、パキスタンの地域全域で遂行されているテロとの戦いにからんだ不可解な「オクトーバー・サプライズ」が起きるだろう。
持ち札を便い切ったケリー陣営
一方のケリー陣営は、事実上、持ち札はない。あとはブッシュとの直接対決である9月末から10月初旬に行われる公開討論が残っているだけだ。マサチューセッツ州のボストンで、民主党党大会が行われたのは7月末である。この時点でケリーは自分たちが出せるカードをほとんど使い切ってしまったのだ。あとはブッシュの政権運営を逐一批判するしか他に手がない。普通なら10%程度の支持率アップが見込める党夫会直後の、メディアの世論調査でも、ケリー陣営の支持率はわずか3%しか上昇しなかった。イラク戦争反対を主張する民主党内の急進リベラル派の間ではますますケリーへの失望感が広がっている。クリントンがブッシュ父を打ち負かした時、民主党党大会後、一気に20%も支持率がアップしたのとは対照的である。
私は、一昨年から、ずっとブッシュが再選されるだろうという予測を、自分のホームページや雑誌等で発表してきた。イラクでのアブグレイブ収容所の捕虜虐待事件が発覚するなど、失政どころか世界中から残虐さを指摘されるブッシュ政権にとって逆風が吹いていた時も私は予測を変えなかった。その理由はいくつかある。
まずひとつ目。今度の選挙は、「民主党が勝つ選挙」ではなく、「ブッシュを落選させたいための選挙」という特徴が強いからだ。民主党の中では、「ブッシュ以外なら誰でも良い」Anybody But Bush)という雰囲気が強いのであって、ケリーを応援しようという熱気が感じられない。ハッキリ言えば、始めから民主党は今回の選挙をあきらめているのだ、と私は踏んでいる。
アメリカ民主党の党本部といってもよい民主党全国委員会(デモクラット・ナショナル・コミッティー DNC)は、ビル・クリントン夫妻の影響が非常に強い。2008年にヒラリー・ロダム・クリントン上院議員(ニューヨーク州選出)を夫統領候補として担ぎ出して、アメリカ初の女性大統領にしようと考えている、だから今回の選挙では落選したら引退するだけの気弱なケリーを候補者にして担ぎ上げたのだ、ともっぱらの噂になっている。仕組んだのは、夫のクリントンである。
7月末の党大会でヒラリーは、ケリーの党候補指名受諾演説と同じくらいの注目を浴びた。夫のクリントン前大統領を簡単に紹介するために壇上に上がったはずなのに、したたかにブッシュ政権の政治姿勢をダミ声で批判し、聴衆の熱狂的な喝采を浴びた。明らかにあれは「次は私よ」ということを意識した演出である。
今回、民主党の副大統領候補に指名された、ジョン・エドワーズ上院議員(ノース・カロライナ州選出)は若くてハンサムで、裏の少ない人物だ。北部金持ち階級出身のケリーでは人気が出ない南部諸州の票固めのために、DNC幹部たちが、民主党のスポンサーである金融財界人(多くがユダヤ系)と相談して、エドワーズを抜擢した。私は一昨年から、もしかしたら彼が民主党大統領候補に指名されるのではないかと分析していた。
エドワーズは南部の鉄工労働者の家の出身で、苦労して弁護士になった人物だ。小学校のプールで排水溝に巻き込まれて亡くなった女の子の側の訴訟代理人となって、地元の教育委員会の過失を訴える裁判で勝利し、3000万ドル(約30億円)の損害賠償金を勝ち取り、弁護士業界で頭角を現した。こういう人権派弁護士としてのキャリアを積んで上院に打って出て当選して、現在はまだ1期目である。さすがに1期だけの経験では、政治手腕が未知数ということで副大統領候補に落ち着いた。
エドワーズは、中国など海外の安い労働力に職が奪われているアメリカ南部の工場労働者層の強い支持を受けている。彼は選挙中、「二つのアメリカをひとつにする」というスローガンを訴えて、従来の民主党支持層のインテリ・リベラル派だけではなく、貧乏な庶民層や工場労働者層の心をつかんでいる。我々は、日本の新聞だけを読んでいると、何となくケリーが逆転当選するのではないかと期待したりする。それは日本の新聞各紙のネタ元が、民主党寄りの一ニューヨーク・タイムズやワシントンポストやCNNなどの大メディアだからだ。しかし、実際にタウン・ミーティング(地域の集会)でのケリーのテレビ映像を見たことがある人ならわかるだろうが、肝心のケリー自身にまったくオーラが感じられない。候補としての「タマ」が悪すぎる。
一方、現職のブッシュの選挙遊説は対照的で、観客席まで熱狂的に盛り上がっている。いくらあれほど見るからにアホでマヌケで、数々の失言を繰り返すブッシュであっても、ブッシュには、ケリーにはない親しみやすさがある。実際はブッシュ家も、ユダヤ系であるケリーと負けず劣らず、北東部のアメリカ貴族の家の血を引くエリート層「青い血(ブルー・プラツド)」の出身なのだが、アホなりに「庶民のオヤジ」のキャラクターを持つ政治家を民衆は好むのだ。
ケリーの軍歴詐称疑惑が再燃
ケリーが落選する2番目の理由はケリーの軍功詐称疑惑である。この疑惑については、私は今年4月号の月刊『現代』にいち早く書いた。案の定、私がテキサス州で調査して来て書いたとおりの事態になりつつある。ケリーのほうが優勢と伝える報道が多くなった8月になって、共和党系の活動家たちが一斉に反撃に出ている。「ケリーの軍歴はウソで、ケリーの勲章はあれは勲章に値しないものであり、一国の最高司令官(大統領のこと)になるに相応しくない人物だ」と言いふらしはじめた。
このネガティブ・キャンペーンを行っているのは、ベトナム戦争に従軍経験のある人たちが集まって作った「真実を求めるベトナム高速艇帰還兵たち」(Swift Boat Veterans for Truth)という団体である。この団体員であるジョン・オニールというベトナム帰還兵が、『指令するに不適格』という「反ケリー本」を出版して、反ケリー扇動を強めている。この団体の背後には、共和党に対して多額の献金を行っているテキサスのゼネコン会社のオーナーであるボブ・ペリーという人物がいる。」こういう人物が、テレビコマーシャルの時間枠買い取りのための資金を出していると言われている。
オニール自身、かつて71年にも、ベトナム反戦運動に参加していた若い日のケリーとニクソン政権に雇われて公開で直接対決したという日く因縁の経歴をもつ人物である。
これらのネガティブ・キャンペーンは、90年代にクリントン夫妻をセックス・スキャンダル(モニカ・ルーンスキー事件)や不動産取引にまつわるスキャンダルで失脚させようとして以来の、共和党の「院外団」の活動家たちの常套戦術になっている。こういう人物たちが、後にネオコン派と呼ばれる政治集団の活動家になっていったのである。
ブッシュ大統領は報道官を通じて「私はケリー氏の軍歴問題を争点にするつもりはない」とコメントを発表している。これは、ブッシュ大統領自身が、ベトナム戦争世代なのにベトナム行きを忌避して、パパのコネでテキサス州の州兵に押し込んでもらったという過去を抱えているからである。おまけにテキサス州の州兵時代に軍務をサボって、どこで何をしていたのかわからないという「スネの傷」がある。州の空軍に属していて戦闘機のパイロット姿の写真が残っているが、当時の関係者たちは「そんなやつ、いたかなあ」と証言している。つまりブッシュがケリーの軍歴を問題にすると、「徴兵逃れの弱虫」批判が自分に跳ね返ってくる危険性がある。だから「院外団」を使って予定通りの反ケリー中傷キャンペーンを行い始めた。すべて計画どおりである。ケリーは英雄勲章に値するほどの活躍をしていないことがバレつつある。
ケリーの軍歴詐称を暴露する人たちの主張の矛盾点や背景に関して、主流派のメディアが疑問を投げかけているが、この「反ケリー・キャンペーン」でケリー陣営が受ける打撃はかなりのものだろう。これが致命傷となってケリーは負けるだろう。
さて、共和党右派の一派であるネオコン派の活動家たちについてだが、彼らが10年前どのように現職だったクリントン夫妻をセックス・スキャンダルで追いつめていったのかについては、『ネオコンの陰謀』(デイヴィッド・ブロック著、朝日新聞社刊)に詳しい。このネオコン派の政治人間たちは、「アメリカン・スペクテーター」とか「ワシントン・タイムズ」という新聞・雑誌に集まって政治活動をやっている言論人たちでもある。
政治家の金銭や女性のスキャンダルをキャンペーンにするのは、日本の親米派週刊誌もやるが、アメリカの場合は、受け手は、国民の中のキリスト教右派(religious right, レリジャス・ライト、キリスト教原理主義者ともいう)と呼ばれる低所得者層の右翼的な白人層である。この人たちを視聴者層として抱える地方の独立系のラジオ放送局やケーブル・テレビのネットワークの存在が重要である。今回の反ケリー本の宣伝も、CNNや三大ネットワークでは軽く紹介されるだけだったが、キリスト教右派の人々が視るキリスト教系のケーブル・ニュース局では、大々的に20分近くの特集が組まれていた。
このアメリカの右派大衆は、本来は反エスタブリッシュメント(反権力、反金持ち)感情が強いので、「国連中心を唱えるリベラル派の政治家たちが、アメリカの国益を売り渡している」と考えているから、従来はネオコン派やグローバリスト(アメリカのカで世界中を管理するべきだと考える人々)のような人たちとは一線を画す傾向が強かった。ところが80年代にレーガン政権が発足し、元来は民主党内急進派であったユダヤ系の知識人中心のネオコン派たちが雪崩をうって「思想転向」し、レーガンの共和党政権に結集していくにつれて、アメリカ国内で政治勢力の「化学変化」が起きた。これらユダヤ系の元左翼リベラルだったネオコン派は、思想信条において伝統的な共和党の温和で裕福な保守の人たちとは異なっている。ネオコン派は「イスラエルの安全保障のためにはアメリカはあらゆる手を尽くすべきだ」という政治姿勢で一貫している。
だから、ネオコン派が、次第にキリスト教右派の大衆を取り込んでいって、現在では両者がかなりの部分で「一体化・融合(フュージョン)」してしまっている。政治の世界では、異なる政治姿勢を持つ勢力が、あることをきっかけに融合することがある。現在は、親ブッシュの「ネオコンーキリスト教右派」勢力と、共和党内の伝統的な保守派との間に一時的連合(アドホック)が起きて、90年代のクリントン時代とは政治勢カの構図の組み替えが起きている。
私が主著『世界覇権国アメリカを動かす政治家と知識人たち』(講談社+α文庫)で解説したように、共和党は元来は温和な金持ち保守だから「アメリカは外国のことにはなるべく関わるべきでない。戦争はしないほうがいい」という国内問題優先主義(アイソレーショニスト、これを「アメリカの孤立主義」などと変な訳にすると間違う)の立場をとるのである。反対に、リベラル派である民主党が積極的に他国の軍事紛争に介入する姿勢を取ってきた。
ところが、外国で戦争を起こすことが大好きなネオコン派が登場から20年ほど経って情勢は変わってしまった。現在のブッシュ政権は、外交・軍事政策で、ネオコン派の原型ともいうべきウィルソン主義(ウィルソニアン)を採用しているといわれる。ウッドロー・ウィルソン夫統領(プリンストン大学長ストン大学長から政治家になった人)やフランクリン・ローズヴェルトといった民主党の大統領に特徴的だったのだが、「アメリカの民主主義を世界に押し広げよう」という「おせっかいな」リベラルな政治姿勢をもっていた。この「おせっかい主義」の態度を、現在の共和党政権が取るという「逆転現象」が起きたのである。共和党は、アメリカの商店主や裕福な農民たちの政党であるから、本当はアメリカ国内のことが優先であり、外国との戦争はなるべくやるな、若者を外地で死なせるな、という「右派平和主義」(ライトウィングタブ)なのである。それを、ネオコン派を裏から操るニューヨークの金融財界人たち、なかんずくロックフェラー財閥が、諸外国を戦争に巻き込んで、それで世界を活牲化させ、「戦争(による刺激)経済」(War boosts economy)で今の世界を運営しているのである。
思えば、レーガンという人は、本当のアメリカ保守派だった。そのことは、最近、行われたレーガン大統領の国葬に対するアメリカ国民の哀しみ方を見たらわかる。ニクソンも泥臭い本物の庶民派の保守の大統領だった。それを、周囲からがっちりと首根っ子を押さえ込んで、ネオコン派のような人たちを使って、ニューヨークの金融財界が無理やり脅して操ったのだ。
2004年の大統領選挙では、ブッシュ選対の中心人物であるカール・ローブ大統領首席補佐官らが、この「ネオコン派とキリスト教右派の連合体」という支持基盤をさらに広げていくことを考えている。ローブ補佐官とは、誤解を恐れずにいえば、今の日本の小泉首相の側近である飯島勲首相補佐官と同じである。メディア戦略がものすごく上手で、「小泉の『よく頑張ったね』のようなものを企画する。選挙での当選のためには手段を選ばない狡猜な戦略家である。
もっと本当のことをいうと、キリスト教右派というのは、日本の創価学会(日本の特殊な東アジア型の仏教原理主義(ブッディストファンダメンタリズム)の勢力)とよく似ているのである。アメリカの共和党も、日本の自民党も、こういう「伝統的なのに新興の」宗教を背景にした勢力の選挙協力を借りなければ、議席と政権を維持できなくなっているということなのである。当然、この動きに対する共和党内の良識派からの反発もすごい。これも日本の自民党と事情は同じである。
安全保障政策で日の定まらないケリー
今回の選挙で最大の焦点になっている安全保障政策でも、ケリーの不安定さが懸念材料になっている。民主党はリベラルの「反戦平和の党」なのだから、「イラク戦争反対」と言えぱいいのに、そうは簡単には言えないからおかしいのだ。ケリーは、民主党の予備選挙を争ったハワード・ディーン前バーモント州知事のような、急進的なハト派のスタンスを取らない、イラク戦争賛成なのである。
イラク戦争反対を言うと、共和党やテロ対策を求める民主党支持者からも批判される。かといって、あまりにもブッシュと変わらないような外交・安保政策を取れば、民主党の支持基盤(ベース)の一翼を占めるインテリ・リベラル派から、「小型ブッシュ」(Bush-Late 小型ブッシュ)という批判を受けてしまうという難しい立場にある。それで、それぞれの支持者にいい顔をするために、演説のたびにイラク戦争やテロとの戦いに対する姿勢をコロコロ変えてしまう。ケリーは「その場しのぎで考えを変える決断力のない候補」(a flip-flop candidate フリップ・フロップ・キャンディデイト)だと批判されている。そして先週になって、ケリーはとうとうブッシュ陣営の仕掛けた罠にはまってしまった。「もしケリー候捕が、イラク攻撃の1年以上前からイラクには大量破壊兵器が存在していないことを知っていても、アメリカ軍の武カ行使を支持したのか答えよ」というブッシュ側の疑問に対して、ケリーは「イエス」と答えてしまったのである。本来ならケリーは「切迫した危機がないのに戦争を仕掛けることは間違いである」というべきだった、という批判が同僚議員から出ている。
このケリー発言を逆手にとってブッシュ陣営は、「ケリー候補は次々とこの戦争に対する『新しいニュアンス』を考え出している」と批判した。この大統領選挙の最大のテーマは、「誰が戦時下の米国大統領に相応しいか」ということなので、ケリーの掘った墓穴は致命的だろう。
そのほか、ケリーの奥さんである、テレサ・ハインツ・ケリーは、モザンビーク育ちという異色の経歴をもつ女性で、ケチャップ会社「ハインツ社」の令嬢である。ユダヤ系である。ところが、このテレサがとんでもないじゃじゃ馬で、記者に対して「くそ食らえ!」(Shove it)となじったことが大きく報じられ、「ファースト・レディー失格」の烙印が押されてしまった。この頃からケリー夫妻は、夫婦喧曄が公然化して、行く先々のホテルは別々の部屋である。
これに対してブッシュ夫妻は、8月13日にCNNの有名トークショー「ラリー・キング・ライブ」に出演し、全世界の視聴者に「家族の価値を大切にする夫婦」のイメージを見せつけた。アメリカ大統領選挙では家族の価値(ファミリー・バリュー)を重視することが候補の必須条件になっており、選挙期間中は各候補が夫婦仲良くテレビ出演し仲の良さを演出することが約束事のようになっている。最新の世論調査では、ローラ・ブッシュ夫人の支持率は70%と圧倒的である。このような理由から、ケリーは今後少しずつ支持率を落としていくだろう。
現役の強みを思い切り活かせるブッシュ
一方、党大会を間近に控えたブッシュ大統領は、「現職の強み」を最大限に活かして今後の選挙戦を戦うだろう。この先の2ヵ月は、安全保障上、経済政策上の様々な「オクトーバー・サプライズ」(10月のビックリ)が次々に起きるだろう。
まず「テロとの戦い」の節目となるような出来事が、この先、定期的に起きる。10月の中頃に突然、9・11テロの首謀者と目されるオサマ・ビンラディンが、パキスタンの国境で捕まるかもしれない。
サウジのビンラディン家とブッシュ家は、石油ビジネスやカーライルという投資グループを通じて深い関係があるということは有名である。この関係から、9・11テロの発生を、ブッシュ政権側はあらかじめ察知していただろう。このつながりからも、「10月にビンラディンが捕まってもおかしくない」と言われているのである。
7月末の民主党大会の最中から、パキスタンとアフガニスタン周辺に潜んでいるといわれる、アルカイーダの幹部たちの捕縛作戦が一気にぺースアップしてきた。パキスタンでは、アルカイーダの活動家といわれる、ムハンマド・ナイーム・カーンという人物がパキスタンで捕まった。この人物(アメリカの二重スパイだったらしい)が所持していたノートパソコンから、アメリカの金融強関への攻撃を臭わせる資料が見つかったということで、国土安全保障省HSDがアメリカ国内のテロ警戒レベルを引き上げた。これまで何度も不確かな惰報でテロ警戒レベルが引き上げられてきて、アメリカ国民は「オオカミ少年」の警告にウンザリしている。
民主党のハワード・ディーンは「プッシュは自分が政治的に劣勢になると、テロというカードを切り出す悪いクセがある」と批判しているが、この批判は支持を得ていないのが現状だ。リベラル派のニューヨーク・タイムズから保守系のメディアまでがグルになってテロ警戒ムードを演出している。国民に対して断続的に恐怖感を植えつけて、政権に反対できないようにするのは、典型的な「全体主義国家」(トータリテリアリズム)のやり方である。さしずめアメリカのマス・メディアは、ジョージ・オーウェルの小説『1984年』に出てくる、「真理省」(トゥルース・デパートメント)といったところだろう。
さらにブッシュ大統領は、CIA長官にポーター・ゴス共和党下院議員(フロリダ州選出)を指名したことに加えて、「9・11テロ独立調査委員会」が設立を勧告した「国家情報庁長官」にも彼を任命し、「テロに対する強い姿勢」を表明した。このようにブッシュ大統領は、党大会を終えて、選挙戦が終盤になった段階でさらに、安全保障問題で、に矢継ぎ早に「オクトーバー・サプライズ」を打ち出していくだろう。このようにして、ブッシュ再選への布石は着実に敷かれているのである。