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イラク人質事件：
「自作自演」説はどのように出てきたか 2004.8.8
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はじめに
2004年4月、日本人五人がイラク国内で相次いで拘束され、人質となった。五人のうち最初の三人が拘束されたとのニュースが日本のテレビで速報されたのは、日本時間8日午後8時半以降だった（断りがなければ時刻は日本時間）。
さらに14日、別の日本人二人が拉致されたとの情報がもたらされた。
五人は無事解放された。しかし、最初の三人が拘束されて以降、ブログ「辺境通信」でも逐次お伝えしてきたように、五人の元人質、つまり犯罪被害者に対する非難が日本国内を嵐のように駆けめぐった。特に、最初に拘束されて解放された三人に対する糾弾は醜悪だった。
小泉純一郎首相、福田康夫官房長官（当時）、川口順子外相ら閣僚や政治家が三人を非難し、一部のマスコミがさらにそれを煽った。読売新聞、産経新聞、日経新聞といった全国紙が社説で三人を攻撃。「日経」はさらに被害者のプライバシーを暴いた（「日経」のウェブサイト「NIKKEI NET」が被害者の住所を掲載した件については、こちらを参照）。
政府と大手マスコミが犯罪被害者を糾弾するという前例のない事態に、海外メディアも注目、日本政府と「読売」などを批判する記事を相次いで掲載した。（仏ルモンド紙、米ニューヨーク・タイムズ、ＡＰ、その他）
日本を「同盟国」にしているアメリカのコリン・パウエル国務長官が三人を擁護したのは皮肉なことで、パウエル発言は複数の海外メディアに引用されていた。
それにしても、三人に対するあの誹謗中傷の嵐は一体何だったのだろうか。
「自己責任」、「自業自得」・・・三人に対する糾弾の言葉はいくつかあったが、なかんずく異様だったのが、「自作自演」説だった。
「それぞれの意思で危険な国に出かけて行って武装勢力に捕まった」（柏村武昭参議院議員、4月27日）という事実から「自己責任」「自業自得」などの結論を得るのはそれほど独創的ではないが、「自作自演」というのはかなり独創的といえよう。
「自作自演」説は今ではすっかり後退してしまったが、この説を推進したり、ネットなどのメディアで吹聴していた勢力のほとんどは、その後言論責任をとっていない。そこで本ページでは、「自作自演」説の出所について簡潔にまとめ、言論責任の所在をはっきりさせておきたい。
「自作自演」説を見込み、流したのは日本政府と警察
「週刊現代」をはじめとする複数の雑誌によれば、三人の「自作自演」説を見込んで流したのは、他ならぬ日本の政府と警察だった。
「週刊金曜日」（4月23日号）によれば、警察庁は、テレビの報道があった瞬間から警視庁と北海道警に指示を出し、三人の身元調査を開始した。（警察庁が警視庁と道警を指揮することができたのは、改正警察法のため。「辺境通信−イラク人質事件：解放・帰国で更に増してきたキナ臭さ」の疑問点2を参照。）
さらに警察庁で情報収集にあたった中心となったのは、同庁警備局の外事課だけでなく、左翼系団体の監視に当たる公安一課や極左対策室などだったという。
刑事警察が証拠を集めてからものの見方を絞っていくのに対し、公安警察ははじめから見込み捜査でいくことで知られている。今回、公安が含まれる警察が最初から「自作自演」説に基づく見込み捜査をしていたとしても何ら不思議ではない。事実、三人のうち郡山総一郎さんが記者会見で話したように、日本警察（名前も所属も名乗らない警視庁職員）はドバイで三人に先入観を持って事情聴取した。
三人のうちの一人・今井紀明さんへのインタビュー（「週刊現代」5月22日号、インタビュアーは寺澤有氏）によれば、警察は「秘密は守る」と前置きして聴取したが、帰国後、大手の新聞に「警視庁によると」というクレジットで、「自作自演」とか「演技」とか書かれたという。今井さんがいうように、『要するにあらかじめ決まった筋書きで僕たちに質問して、その筋書きをマスコミに漏らして書かせたんでしょう』（同誌インタビュー）と考えるのが合理的だろう。
官邸もまた「自作自演」説を見込み、マスコミにそういう見込みを隠さなかったようだ。4月13日の共同通信が、武装グループからの人質解放の声明文について、『まるで日本人が書いたような違和感を持つ部分が多すぎる」（官邸筋）・・・「日本国内の人間とつながっている可能性も否定できない」（政府関係者）』と伝えたのがその証拠だ。（「週刊現代」5月1日号も、これらのコメントを引用している。）
実際、政府が「自作自演」説に凝り固まっていたとする情報はいくつかの雑誌で報道された。三人を攻撃した「週刊新潮」さえ、「自作自演」説については『なんとも被害者に対して失敬な憶測である』（4月22日号）と書いた。
ちなみに、「自作自演」説を流したマスメディアとしては、「新潮45」6月号の渡辺也寸志氏の記事『現地独走スクープ！ イラク人質事件犯人グループ直撃 「三人は立派に任務をこなした」』が挙げられる。
２ちゃんねるにおける「自作自演」説の書き込み
「自作自演」説はまずはインターネットを駆けめぐり、それをマスコミが後追いするような格好になったわけだが、これがネットでいつどのように出てきたのかを分析しておく必要があるだろう。
「自作自演」説の流されたネットメディアといってまず挙げられるのが、総合掲示板の「２ちゃんねる」だ。
２ちゃんねるには「ニュース速報」板と「イラク・中東・イスラム情勢ニュース速報＋」板があるが、私が調べた限り、「自作自演」説の初出は、「ニュース速報」板の「バクダットで日本人拘束」というスレッド
（元URL: http://news11.2ch.net/test/read.cgi/news/1081423819/）
（参照URL: http://snapshot.publog.net/html/news/2004/04/08/203019.html）
で、その内容とは
598 :番組の途中ですが名無しです :04/04/08 20:43 ID:YiDz3O7O
自作自演ですた
というものだった。驚くべきことに、日本マスコミの第一報から13分しか経っていない。
さらに注目すべきは、その直前に
596 :番組の途中ですが名無しです :04/04/08 20:43 ID:JcnctLq6
自衛隊撤退要求キタ━━━━━━(゜∀゜)━━━━━━ !!!!!
という書き込みがあったことだ。武装グループによる自衛隊撤退要求との報道を受けた書き込みと見受けられる。
「自作自演」説の異様に早い書き込みは、書き込んだ者が、「自作自演」説を事件報道直後、あるいはその前から見込んでいたことを疑わせる。
この板ではその後も
『これで晴れて自衛隊はイラクから撤退できると／今世紀最大の自作自演だなｗ（「バクダットで日本人拘束 part2」、#192、20:50）』
『反日朝日が自作自演の誘拐劇！！／自衛隊を撤退させようとする陰謀だ！！／ふざけるな！！（「バクダットで日本人拘束 ３」、#77、20:59）』
というような、「自衛隊撤退」と「自作自演」を結びつける書き込みが執拗にさなれていった。ちなみに「反日朝日」とは、「週刊朝日」と契約していた（に過ぎない）郡山さんを指しているようだ。
「自作自演」説の書き込みは、「イラク・中東・イスラム情勢ニュース速報＋」板の「【イラク】日本人３人が人質に アルジャジーラ放送[04/08] 」というスレッド
（元URL: http://news10.2ch.net/test/read.cgi/news5plus/1081424232/）
（参照URL: http://snapshot.publog.net/html/news5plus/2004/04/08/203712.html）
にも、次のように登場する。
291 :月の砂漠の名無しさん :04/04/08 20:57 ID:NGg0wlDa
プロ市民の自作自演だな。
324 :月の砂漠の名無しさん :04/04/08 20:58 ID:b90SJoze
どうせ捕まったのはテロ朝かＴＢＳのクルーだろ？
自作自演ぽいね。バレたら責任取るのかな？
放置するのが一番いいと思うけど。
331 :月の砂漠の名無しさん :04/04/08 20:59 ID:kmhXmk/i
なんだ朝日の仲間か
どーせ自作自演だろ
殺してみろよ、ホレホレ。
しかしこちらは「ニュース速報」板と違って、初めのうちは、「自作自演説」は「自衛隊撤退」とは結びつけられていなかった。
「ニュース速報」板で一応見逃せない書き込みとして、
『３人拘束は年金法案改正を隠蔽するための自作自演（「バクダットで日本人拘束」#813、20:46）』
『すべて福田〔官房長官？〕がしこんだ自演（「バクダットで日本人拘束 part2」#273、20:51）』
というのもあった。政府による「自作自演」との見方である。しかし、こちらは人質による「自作自演」説に埋没してしまった。
「ヒミツの大計画！」という「投稿」への疑問
三人のうちの一人・高遠菜穂子さんの掲示板（事件後の4月10日以降一時閉鎖）に次のような書き込みがなされていたという情報がある。
[208] ヒミツの大計画！（笑） 投稿者：今井です 投稿日：2004/04/07(Wed) 09:57
今日は週刊朝日の記者さんと知り合いになりましたよ！
アンマンで取材されているフリーライターなんだって。
とりあえず仲良くなったところで、郡山さん（記者さんね！）が、
あるとっておきの計画を持ち出したよ！
これってサイコーかも？（笑）
歴史に名前を残す大偉業のような気がする！
一緒に聞いていた高遠さんも乗り気みたいだし、
これはやってみる価値アリだとおもうね。
そのうち日本でもニュースになると思うから、チェックしてね！
「投稿」日は、高遠さんら三人が拘束されたと最初に報道された8日の前日午前10時頃とされている。あたかも今井さんが「投稿」したようにみえるこの「ヒミツの大計画！」が、２ちゃんねるばかりでなく、他の掲示板やページ、ウェブログに広まり、しばらくの間、ネット上で三人による「自作自演」の根拠にされた。
この「投稿」は出所不明で、今井さんの名を騙った何者かによる捏造との見方が今では有力になっているが、ここでは一応、「投稿」の矛盾点をいくつか挙げておく。
第一に、今井さんと郡山さんが知り合ったという「今日」と、「投稿」時刻との関係に矛盾がある。
アサヒ・コム（朝日新聞）などによれば、三人がバグダッドに向けてアンマンのホテルをタクシーで出発したのは、7日午前4時過ぎだった。当然、それまでに三人は「知り合い」になっていたはずである。
三人がアンマンを出発した日本時間7日午前4時過ぎは、アンマンあるいはバグダッド時間の6日夜[1]。今井さんらが現地時間に基づいて行動していたという常識から考えれば、「今日」は「投稿」の日付時刻にはなり得ない。
第二に、郡山さんは「ライター」ではなく、フォトジャーナリストである。ジャーナリスト志望の今井さんが「フォトジャーナリスト」と「ライター」を間違えることは考えられない。
そもそも、出所不明の情報を疑いもしないことが根本的におかしいといえる。
「ヒミツの大計画！」のでっち上げは結局のところ、その意図とは逆に、それを利用して今井さんらを攻撃したネットワーカーのメディア・リテラシーの低さを露呈する結果となった。
注
[1] バグダッド時間の世界標準時との時差は通常+3時間だが、04年4月1日より夏時間（+4時間、日本との時差は-5時間）だった。またアンマン時間の世界標準時との時差は通常+2時間だが、04年3月25日より夏時間（+3時間、日本との時差は-6時間）だった。
各地の標準時と夏時間の確認はhttp://www.timeanddate.com/worldclock/によった。
関連ページ
「イラク日本人人質事件・被害者自作自演説疑惑」の「根拠」を検証するページ
http://www.geocities.jp/iraq_peace_maker/index.html
http://www.nanzo.net/henkyo/war/hostages.html
題名には必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。