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罪悪感なき尋問 表ざた 虐待か、拷問か イラク解放のシンボルで米に汚点【東京新聞 こちら特報部】
http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20040508/mng_____tokuho__000.shtml
「拷問ではなく虐待」。ラムズフェルド米国防長官は、拘置イラク人に対する米軍の暴行やわいせつ行為を、そう表現した。舞台となったアブグレイブ刑務所は、フセイン政権下で拷問が繰り返された「恐怖政治」の象徴でもある。米国にすれば「イラク解放」のシンボルにしたかった場所だ。そこが、なぜ新たな「虐待」の現場になったのか−。 (蒲 敏哉、中山洋子)
「情報を得るための拷問ではなかった」
自身も米兵に虐待され、公開された写真にも写っているイラク人男性(34)は、米ニューヨーク・タイムズ紙に、そう証言する。
五日付同紙によると、男性は昨年六月、米兵に拘束され、別の刑務所から九月ごろに、アブグレイブ刑務所に移送された。「当初は手荒な扱いは受けていなかったが、十一月に突然変わった。収容者同士のケンカで処罰がエスカレートした。素行の悪い者への処罰として虐待が行われた」
ケンカの被害者が男性ら六人を指さし、虐待が始まったという。六人は、裸にされピラミッドのように重なることを強要され、女性兵士の前でマスターベーションをしろと命じられた。
男性はこのほかにも「頭を壁やドアにたたきつけられてあごが壊れた。その後、裸になるよう指示され、拒否したものは殴られた。笛を鳴らしたら犬のように鳴けと命じられた」などと屈辱的な仕打ちを語った。
そんな虐待は約十日間続き、突然終わったという。
アブグレイブ刑務所での虐待は昨年十一月から十二月に相次ぎ、画像が入ったCD−ROMを実行犯の兵士から渡された別の兵士からの内部告発で発覚した。米軍は今年一月に捜査を始め、二月には内部報告書をまとめていたが、公表しなかった。先月末に米メディアの報道で表面化した。
■正規軍不足で未熟な兵が担当
六日付ワシントン・ポスト紙は、丸裸の男性に首輪をつけ、犬のように引っ張る女性兵士の新たな写真を報道した。この女性兵士はウェストバージニア州出身で、大学の学費を稼ぐために志願したという。事務作業の訓練しか受けておらず、女性兵士の母親は同紙に対し「上司の指示でやらされたことだ。娘は電話で『私は最悪のときに、最悪の場所に居合わせただけ』と話していた」と語った。
次から次へと明るみに出る残虐行為に、ブッシュ大統領も「憎むべき虐待」と一部軍関係者の処罰を約束した。だが、アムネスティ・インターナショナル日本の寺中誠事務局長は「米政府は、一部の不心得者の仕業とかたづけたいようだが、CPA(連合国暫定当局)が監督するイラクの刑務所で恒常的に行われていることだ」と指摘する。
アムネスティは昨年五月以降に、現地で聞き取り調査などを行っており、昨年夏には刑務所などでの虐待を報告している。
CPAの発表では、イラクでの拘束者数は八千五百人だが、複数の人権団体は一万人以上に上ると報告しているという。大多数が「テロ容疑者」や「治安目的による収監者」だ。
■軍情報部やCIAの手口
寺中事務局長は「捕虜ならジュネーブ条約に基づいて人道的な扱いをしなければならない。だが、CPAが直接に統制している四つの刑務所では、なぜ捕まったのか全く明らかにされないまま、何カ月も閉じこめられている。全くの無法状態でCPAは超法規的に、好き勝手に人権侵害を繰り返している」と批判する。
アムネスティの調査でも「足から吊(つ)るされて、性器を結ばれ、電気ショックを与えられた」「炎天下に長時間放置された」など米兵による虐待証言が相次ぐ。
それにしてもなぜ、これほど虐待が多いのか。米軍事アナリストのイワン・エランド氏は「イラクでは兵士の数が足りない。米政府による見込みが甘かったためで、そもそも訓練などあまり受けていない兵士や、民間人が取り調べにかかわること自体に問題がある」と分析する。
米軍の問題に詳しい国際政治学者の浜田和幸氏も、「当初、米陸軍の幹部は、戦争終結後の治安維持活動には三十万人の兵士が必要としていたが、国防長官の方針で結局十数万人しか派遣されていない。これを補う形で、不穏なイラク人の逮捕や取り調べは、二万人以上といわれる傭兵(ようへい)が主力になっている」と話す。
米兵が置かれた極限状態についての証言も出始めている。五日付オークランド・トリビューン紙は、この時期にアブグレイブ刑務所で勤務していたカリフォルニア州兵らが、激務によるストレスで自殺未遂を図るなど心理的に不安定な状況にあったことを報じた。
■幹部の歯止めなく、米兵『私たちも囚人』
同紙によると、兵士らは一日十二時間、一週間に七日働き、そのストレスから大酒を飲んだり、自殺未遂を図ったり、本国の妻と電話でケンカしたという。ある兵士は「私たちも囚人のようだった」と証言する。
カリフォルニア大サンタクルーズ校のクレイグ・W・ヘイニー教授(心理学)は「刑務所のような閉ざされた環境では、普通の人の感覚も変わってくる」と極限状態の心理を指摘する。
「非人道的行為は、とがめる人がいなければエスカレートする。今回の虐待も、幹部が容認していたか、異論を唱えなかったためではないか。その結果、虐待行為が当たり前の日常になり、行きすぎだという判断ができなくなる」
だが、軍事評論家の神浦元彰氏は、こうした「戦場の狂気」だけで、一連の虐待は説明しきれないととらえ、「軍情報部などによる拷問の技術が利用されている」と指摘する。
「近年の尋問技術は、肉体的に痛めつけるのではなく、心理的に追いつめるものになっている。一つは頭に布をかぶせて視界を奪うことなどで恐怖心をあおること、もう一つは裸体にして辱めを加えることなどで自尊心を砕くことだ」
米軍報告書によると、虐待に加担した人物の中に尋問技術にたけた元軍人もいた事実も確認されている。
「今回報道された虐待などは軍情報部やCIAなどの尋問技術にある。ただ、通常はプロが秘密裏に行うことで外には絶対に出ない。今回、表面化したのは、米軍による深刻な人手不足から、アマチュアレベルに教えたためだ」と指摘し、推測する。「恐らく、こうした拷問で面白いように情報が取れたはずだ。未熟な兵士らは、非常に立派な仕事をしていると思っているはずで、罪悪感のなさが、記念写真の撮影や関与していない兵士への画像の流出につながっている」
バグダッド近郊で武装勢力に誘拐され人質となったジャーナリストの安田純平さん(30)も、証言する。
「サマワ周辺で、不穏分子として米軍の刑務所に入れられたイラク人は『拷問され、密告者になれと強要された』と訴えていた」
(メモ)アブグレイブ刑務所
バグダッド西約20キロにある刑務所で、フセイン政権時代は政治犯などへの拷問や処刑が行われていた。昨年4月の旧政権崩壊で米軍下に移管された。大幅改修で、米軍は「拷問部屋もレイプ室もなくなった」とアピール。現在、武装勢力メンバーや刑法犯ら数千人が収監されている。