３月１７日付・読売社説（１）

http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20040316ig90.htm

　［スペイン］「反テロ国際戦線を緩めるな」　

　スペインで政権が八年ぶりに交代する。総選挙で、野党の社会労働党が勝利したためだ。

　投票日の三日前に起きた列車爆破テロが、選挙の様相をがらりと変えたのは間違いない。

　犯人像をめぐる情報開示について、政府の対応に不手際が目立ち、有権者の与党・国民党離れを決定づけたようだ。

　政府はテロ事件当初、バスク独立派の犯行と断定した。その後、国際テロ組織「アル・カーイダ」系組織による可能性が強くなっても、最初の見方にこだわり続けた。そのことが、有権者の目には政府による「情報隠し」と映り、結局、命取りとなった、と見られる。

　爆破テロ事件の翌日には、国民の四人に一人が街頭デモに加わり、テロを糾弾した。次期首相となるサパテロ社労党書記長も、「テロとの戦いを最優先する」と、決意を表明した。

　だが一方で、サパテロ書記長は、イラクの状況が六月末まで変化しなければ、イラク駐留のスペイン軍兵士千三百人を撤退させる、との方針も示した。

　国民党のアスナール政権が、米国主導のイラク戦争を強く支持し、軍を派遣してイラク復興を支援してきたことからすれば、大きな方針転換である。

　サパテロ書記長の発言は、選挙中からの主張、公約を改めて確認したもので、書記長がテロにひるんだ、と受け取るのは誤りかもしれない。しかし、方針転換は、テロ勢力にとっては結果的に、狙い通りの「成果」だろう。

　見返りを得たテロリストは、次の標的を探す。そうした悪循環を断つ意味で、サパテロ書記長には、従来の立場のままでいいのかどうか、イラク情勢を見据えた現実的な判断を求めたい。

　イラクは今月、暫定憲法にあたる基本法制定にこぎ着けたばかりだ。その後もイスラム勢力を中心に、基本法の中身に対する不満が噴出している。当面、主権移譲の際に受け皿となる暫定政権の構成を決め、六月の主権移譲への道筋を確かなものにしなければならない。

　イラク情勢が、極めて微妙な状況にあることを考えれば、国際社会は、負の影響をさらに与えかねない機運が醸成されるのを、許してはなるまい。テロの脅威に動揺せず、これまで以上に緊密な包囲網を構築したい。

　小泉首相は十六日の参院予算委審議で、「日本の基本姿勢は、スペインの選挙結果によって左右されるものではない」と答弁した。当然の認識だ。イラクで、自衛隊が人道・復興支援活動を続けている。こうした姿勢を堅持することが、テロに対する最大の防御である。
(2004/3/17/02:05　読売新聞　無断転載禁止)

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