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(回答先: 警察庁長官銃撃事件 長期化招いた『公安部』捜査【東京新聞】 投稿者 クエスチョン 日時 2004 年 7 月 18 日 06:53:39)
公安秘密組織<チヨダ>、『警察が狙撃された日』谷川葉著、三一書房、116頁〜120頁より。
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公安秘密組織<チヨダ>
対外的には「存在しない」ポスト
なぜ警察庁は、公安総務課などではなく、あくまで一人の不審警察官に関する事実として、淡々と公式ルートで、すなわち人事一課に対して「小杉ーオウム」情報を伝えることができなかったのだろうか。そして、非公式ながら、三月二十七日という早い段階で公安部参事官から情報提供を受けた人事部門は、なぜ独断で視察を開始したり異動を命じたりできなかったのだろうか。われわれは、この一連の不可解なプロセスにこそ公安警察の特異な体質が象徴的に出現していることを直感する。その体質とは、日本の公安警察の中核に存在するある「組織」の姿そのものである。そして、その「組織」は、不可解なる闇の中で陰謀めいた振る舞いをいまも粛々と繰り広げている。その名は<チヨダ>。それはごく一部にしか実像が知られていない極秘組織であり、日本公安警察の非合法性と秘密主義を凝縮した「暗部」である。そして「小杉――オウム」情報は、この「組織」の出身者たちと、この「組織」の力に逆らうことができなかった警察官僚たちで構成された特異な人脈と文脈の中で、意味不明のままもてあそばれた、これが実態であった。
<チヨダ>の世界へと進路を定める前に、まず公安の巨大な塔の中央出入り口に立ってみる。警察庁警備局は、道府県警察の警備部公安課と警視庁公安部の総元締めともいえる中枢機関である。警備局内には、警備企画課、公安一、二、三課、外事課など複数の課が配置されているが、このうち日本共産党などの左翼情報収集の全般について全国警察を統括指揮しているのが公安一課である。九四年から始まったオウム真理教関連捜査では、局長・杉田和博とともに、高石和夫(七七年入庁)が率いた同課が、全国の公安警察に教団捜査の徹底などを指導、特別手配容疑者の追跡捜査でも一定の成果を挙げた。ちなみに公安二課は右翼を担当、中核派など新左翼セクトに対する捜査の指導は公安三課で行われる。長官狙撃事件捜査で主導的立場となった警視庁公安一課は、この警察庁公安三課が扱うのと同じセクト関連の事件捜査を担当する部署であり、やや分かりにくいが、この間柄から、期せずして公安一課がたまたま担当することになった狙撃事件捜査の指揮も、警察庁公安三課の所管に属することになっているのである。
そして、これら各課の筆頭として警備企画課が存在している。ちょうど警視庁公安部における公安総務課の位置に近い。後述するが、あらゆる意味で近いのである。
多くの警察組織では、課長を補佐する役職として「理事官」と名づけられたポストが設けられている。警備企画課も例外ではなく、理事官職に表向き一名が就任している。だが警備企画課にはもう一名、理事官の本来の職制から外れた理事官、「裏理事官」と呼ばれるポストが存在する。それは、給与体系などは警備企画課に所属する理事官に準ずる扱いとなっているにもかかわらず、対外的には「存在しない」ポストなのだ。警察庁幹部の名簿にすら、その理事官の名は見つけ出せない。このポストこそが日本公安警察に存在する極秘組織<チヨダ>を牽引する核だからである。
<チヨダ>。この名称に聞き覚えがなくとも、<サクラ>と言い換えればひょっとして心当たりのある人がまれにいるかもしれない。スパイエ作、盗聴や盗写といった非合法捜査を総括する、まさに日本公安警察における「闇の組織」である。そして、不在の存在である「裏理事官」が取り仕切るこの<チヨダ>こそが、公安警察の特異な体質と非合法性を卑猥なまでに象徴しているのだ。
<チヨダ>とは一体何のために設置され、どのような活動を行っているのか。
簡単に言えば、それは全国の公安警察が、日本共産党など左翼系組織、中核派など新左翼セクト、右翼団体のほか、朝鮮総連や在日中国公安組織などに対するスパイエ作を行う際の司令塔なのである。
全国の警察本部には「警備部」と呼ばれるセクションが置かれ、各自治体警察によって若干の差異はあるものの、機動隊の運用など一般警備活動のほか、左翼団体などによるテロ・ゲリラ事件の捜査、情報収集に当たっている。公安部として独立した組織を持つのは、警視庁だけである。そして、全国警察の警備部には、必ず非公然の惰報収集・工作部隊が存在する。機動隊などを警備部の表部隊だとすれば、この組織はいわば公安の裏部隊であり、かつては<サクラ>とか<四係>と呼ばれた時期もあった。これを<チヨダ>は束ねるのである。
情報集約とスパイ養成
公安警察の情報収集のネットワークは、警察本部の警備部員だけで構成されているわけではない。現実には、街中にある所轄警察署、つまり一般市民にもおなじみのお巡りさんまでがその手足となり、蜘蛛の巣のような網が北方領土などを除く日本列島の隅々まで張り巡らされているのだ。
所轄警察署には、一般市民との接触が多い制服組の交通課や地域課、事件捜査を担当する刑事課などのほか、必ず警備課と呼ばれる部門が置かれ、公安警察官たちは、管内の左翼活動家やそのシンパなどの情報を収集し、その情報はただちに警察本部の警備部で集約されることになっている。この情報収集の過程で、「巡回連絡」と称して戸別訪問する警官が関与するのだ。突然に警察官の訪問を受け、生年月日から職業までさまざまな質問を受けた経験を持つ人も多いだろう。この「巡回連絡」は表向き、「管内の現状把握と防犯のため」「事件や事故の発生時に家族らに連絡がとりやすい」と説明されているが、各警察署の制服組が集めたこの個人情報が、左翼シンパの洗い出しやアジト発見のための公安警察の基礎資料としてもフルに活用されるのである。まさにプライバシーなどお構いなしといった状況だが、こうして全国に張り巡らされたネットワークは公安警察にとって重要な情報源となっているわけである。そして、この末端の公安警察にとっての中枢神経が、秘密組織<チヨダ>にほかならない。
公安警察にとっての最も重要な情報活動は、日本共産党や中核派、朝鮮総連といった対象組織の内部に「協カ者」なるスパイを育成することにある。言い換えれば、スパイ獲得こそが公安警察官の使命であり、全国の公安警察官は「作業」と称したスパイ獲得工作に血道を上げていると断定してもよい。そして、またしても<チヨダ>が、こうした活動を一元的にコントロールしているのである。
例えば、A県警の警備部が、ある人物を協力者に仕立てるための「作業」を開始したとしよう。しかし、狙う対象が重なることは、どの世界でもままあることで、この人物が実はすでにB県警の警備部によって運用されていた、などというケースが起こりうる。こんな事態になれば、スパイは二重の収入源を得て二つの情報提供先を持つことになり、ともすればスパイとしての価値を失うほどに精神的堕落をきたす危険性がある。協力者管理という側面で言えぱ、最悪のパターンだ。こういった混乱とトラブルを避けて、効率的なスパイの調整、管理を行うのが<チヨダ>なのである。そして同時に、協力者に支払われる報酬、協力者獲得作業の手法などに関する指導のほか、全国で協力者獲得に専念する公安警察工作員の人事に至るまで、<チヨダ>は一元的に徹底して介在するのだ。
公安警察官といっても、身分上はあくまで道府県警や警視庁に所属する地方公務員でしかなく、国の行政機関である警察庁の一部局が、いかなる理由と権限で人事権を行使しているのかと首をかしげたくなる。確かに、直接の人事権などはない。ただし、<チヨダ>の業務に従事している公安警察官の所属の置換に関しては、警察庁つまり<チヨダ>に対し、事前に届け出て、承認を得なくてはならない慣習になっているのだ。例え各自治体警察の最高責任者たる本部長といえども、<チヨダ>に無断でその工作員を配置替えさせるなど許されないことなのだという。協力者に加えて、協力者に関する個人データと非合法活動の実態を熟知する警察官そのものも、一元的に管理下に置こうとする大国家主義に貫かれているのだ。戦後の警察組織は、民主化と分権化の推進を建て前として構築されてきたはずだが、こと公安部門に関する限りは、戦前の特高ばりの国家警察組織が温存され、税金でまかなわれる協力者報酬の総額などについて、一切のディスクロージャーが拒まれ、一般市民などは知らなくてもよい、と言わんばかりに完全に謎に包まれ続けてきたのである。
さらに、全国の公安警察官の中から、特に優秀な人物を選抜し、定期的に東京に集めて徹底した公安工作員教育のカリキュラムを組み、それを実施するのも<チヨダ>の重要な仕事である。スパイ獲得工作、尾行、盗聴技術など、まさに公安警察官のエキスパートに仕立てるための実践的教育のほか、白分たちがいかに選ばれたエリートであり、自分たちの仕事がいかに国家に貢献しているか、左翼思想がいかに危険であるかなど、特権と愛国と反共を徹底的に叩き込まれるのである。これではオウム真理教の洗脳と何の違いもない。
こうして、<チヨダ>の活動にかかわる公安警察官たちの間には、奇妙な「連帯感」が醸成され、その秘密主義とともに、極端な反人権的タコツボの中へと共謀的に入り込んでゆくのである。そして、<チヨダ>は、スパイの管理や公安警察官の育成にとどまらず、一般市民の日常生活の感覚から遠く隔たった場所で、盗聴や盗写といった非合法捜査の実行許諾に関しても一元的な指導を行ってゆくのだ。