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(回答先: 公園のトイレ外壁に落書きした青年に「建造物損壊罪:懲役1年2月 執行猶予3年」で控訴審へ!【graffiti is not a crime!】 投稿者 処方箋 日時 2004 年 3 月 17 日 08:31:17)
意見陳述
被告人 K
右の者に対する建造物損壊被告事件について、弁護人の意見は次のとおりである。
2003年6月16日
右弁護人 西村正治
東京地方裁判所刑事第11部 御中
▼ 第1 本件公訴は棄却されなければならない。
全国にどれくらいの数の公園の公衆便所があるか調べたわけではないが、経験上、おびただしい数のトイレの壁に、落書きがなされている。しかし、その落書きが、建造物損壊罪で起訴されたというのは、私は聞いたことがない。
本件は、その落書きの内容が、戦争反対のメッセージであったが故に、通常あり得ない建造物損壊罪での公訴提起がなされたものであり、政治的理由による起訴であって、起訴は無効であり、公訴棄却されなければならない。
▼ 第2 被告人の現行犯逮捕手続は違法であり、その手続につながる本件訴訟は無効である。
1 被告人は、器物損壊の現行犯で逮捕された。しかし、逮捕した警察官は、被告人が器物損壊罪の罪を犯したことを何一つ確認しないまま、逮捕しており、この手続は、刑事訴訟法212条に違反するものである。
2 器物損壊罪の罪を犯したと認められるためには、その器物の所有者の意思に反した損壊行為がなされたことが認められる必要がある。本件にあっては、公園の所有者 である杉並区の意思の確認を待たなければ、被告人が罪を犯したのかどうかがわからないはずである。被告人が杉並区の許可ないしは同意を得て、メッセージを書いた可能性も否定できず、とりわけ、被告人が自分に書く権利がある趣旨のことを警察官に 主張していたのであるから、なおさら、杉並区の意思を確認しなければ、器物損壊であると確定できないはずなのである。
しかるに、逮捕警官は、杉並区に何一つ確認行為もしないまま現行犯逮捕したのである。
3 したがって、被告人の現行犯逮捕手続は違法であり、それにつながる本件公訴は棄却されなければならない。
▼ 第3 本件に建造物損壊罪は成り立たず、被告人は無罪である。
1 建造物損壊罪は成り立たない。
建造物の損壊とは、注釈刑法によると、「建造物の効用を害する一切の行為をいう」とされる。本件建造物は、公共の公園に設置された公衆便所であるが、そのような公 衆便所の効用とは、多数の者が入って便所を使用することである。
本件の落書がなされることによって、はたして、便所の使用が困難になることがあるだろうか。断じて否である。反戦の落書があるからといって、便所にはいることをためらうような人があるとは考えられない。仮にいるとするなら、それは、ウルトラ な戦争賛美論者に限られるのであり、そのような者の感情は保護するに値しない。
したがって、被告人は、建造物を損壊したことにはあたらず、建造物損壊罪は成立 しない。
2 仮に、建造物の効用の一つとして、その外観の美観が持つ効果も含めて考えるとしても、本件においては、被告人の書いた落書が建造物の美観を侵害したものとはい えない。
まず、被告人の書いた戦争反対のメッセージがそれなりに大きな文字であったとし ても、美観を損ねたかどうかは、主観的なものであり、その文字の存在だけで、一義的に美観が損なわれたと万人が理解するものとは決して言えるものではない。
また、被告人が書いたとき、本件公衆便所の外壁にはすでに、意味不明の「悪」「タツ」という大きな落書きが存在していた。被告人の落書が美観を損ねたというなら、すでに、「悪」「タツ」の落書によって美観は損なわれていたのであり、被告人 の落書によって生じたものではない。
さらに、美観という主観的観点から言えば、少なからぬ者が、意味不明の「悪」「タツ」という落書にこそ美観の侵害を感じるものであり、それを中和する内容の戦争反対メッセージが書かれることで、ほっとする気持ちを持つものも多いであろう。 すなわち、被告人の落書は、「悪」「タツ」という落書に反感を覚え、被告人の反戦 メッセージに共感を覚える人々にとっては、「悪」「タツ」の落書で侵害された美観の回復という意味も持つと言えるのである。
3 本件建物は、杉並区の公園の公衆便所であり、その近くに住み、杉並区民であった被告人には、その利用を図る権利があったのであり、その意味で、本件建造物は、 被告人にとって「他人の」建造物ではない。
したがって、「他人の建造物」を損壊したのではないから、建造物損壊罪は成立しない。
4 軽犯罪法1条33号は、「みだりに他人の家屋その他の工作物にはり札をし、・・・・これらの工作物もしくは標示物を汚したもの」を拘留又は科料にあたるとしている。
被告人の本件行為は、言葉の通常の意味においては、まさに、この軽犯罪法1条33号にあたるとされるのが極めて自然であり、どのように考えても建造物を損壊したと解するのは通常の言葉の用法ではない。
したがって、このような軽犯罪法の規定がある以上、それによって処罰がなされるべきであり、同一の行為を懲役5年以下という重罰の建造物損壊罪に問うのは、刑の均衡から言っても明らかに不当であり、許されない。
▼ 第4 被告人の行為は正当行為であり、違法性が阻却され、無罪である。
1 被告人の行為は、パブリック・フォーラムにおける思想的・政治的メッセージの表現という極めて高度に保護されるべき表現行為であり、憲法21条によって保護されるべき正当な行為であり、刑法35条により違法性が阻却され無罪となるべきものである。
最高裁昭和59年12月18日第3小法廷判決の伊藤裁判官の補足意見は、次のように言 う。「一般公衆が自由に出入りできる場所は、それぞれその本来の利用目的を備えているが、それは同時に、表現のための場として役立つことが少なくない。」道路、公園、広場などがその例で、これを「パブリック・フォーラム」と呼ぶ。「パブリック・ フォーラムが表現の場所として用いられるときには、所有権や、本来の利用目的のための管理権に基づく制約を受けざるを得ないとしても、その機能に鑑み、表現の自由の保障を可能な限り配慮する必要がある。」
本件は、まさに公園というパブリック・フォーラムにおける戦争反対メッセージという思想的・政治的表現行為が問題になっているものであり、憲法21条による保護が 強くはかられなければならない場面である。
2 イラクに対するアメリカのすさまじい攻撃が行われ、全世界的に戦争反対の声がわき起こっている中、被告人は、反戦のメッセージを自分の生活する地域で表現しようとした。その表現手段として資力の乏しい被告人が選択したのが、公共の場での落 書行為であった。
この公共の壁には、すでに「悪」「タツ」という落書がなされ、放置されている状態であった。被告人は、そのような意味不明の落書だけの存在では落ち着かず、なんとしても自らの反戦メッセージを書く必要を感じたのである。
被告人は、自らもその街の住民であり、杉並区民として、自らの街の公共の建物に、自らの政治的メッセージを書き残したのであり、まさに表現の自由として、憲法21条により保護される行為であって、違法性阻却により、被告人は無罪となる。
以 上