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湾岸に屏風岩『トーキョー・ウオール』【東京新聞】
http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20040619/mng_____tokuho__000.shtml
東京湾岸に沿って林立する高層オフィスビルやマンション。都会生活を演出する華やかな舞台としてもてはやされるが、実は、こうした巨大ビル群が海からの風を妨げる壁となり、夏ごとに都心を襲うヒートアイランド現象を悪化させる“元凶”として注目されだした。学識者が警告する“トーキョー・ウオール”の怖さとは。 (蒲 敏哉)
梅雨の晴れ間、本社ヘリに乗り東京湾岸域を飛ぶと、すぐに目に付くのは港区汐留にそびえるビル群だ。高さ二百十五メートルの汐留シティセンターを筆頭に、電通本社ビル(二百十メートル)、日本テレビタワー(百九十二メートル)など百メートルを超えるビルだけで十棟が並ぶ。
これらが三十一ヘクタールの敷地にほとんど近接して並ぶのは、長引く景気低迷の浮揚策として、日米構造協議を受け政府が打ち出した最大1200%の容積率緩和の結果だ。
「建ってしまってから『なんでこんなことに』と気付いたが、これらのビルが新橋、虎ノ門をはじめとした都心中枢部のヒートアイランド現象の解消を妨げる大きな壁になっているんです」と指摘するのは、早稲田大学理工学部の尾島俊雄教授(建築・都市環境工学)だ。
環境省のヒートアイランド現象調査検討会座長を務める尾島教授は、研究グループで千分の一の縮尺模型を使い、海側から風を送る風洞実験を行った。
「その結果、ビル群の都心側は、奥行き一キロ以上にわたりまったく風が流れないことが分かった。まさにヒートアイランド現象を悪化させる要因となっている」と強調。「港区では同エリアでマッカーサー道路(環状二号線)を軸に再開発事業を計画しているが、将来、マンションに住む人はよどんだ空気で相当の熱帯夜に悩まされるのでは」と懸念する。
なぜそうなるのか。尾島教授は「ヒートアイランド現象の最大の原因はオフィスや家庭での冷房、コンピューターの普及だ。戦前まで東西道路は“太陽の道”、南北道路は“風の道”として都市造りが進められていたが、冷暖房機器の普及で、風の道は考慮されなくなってきた」と解説する。
東京湾からは七−九月に都心に向けて頻繁に風が吹く。この海風こそが都心に流れ込み、ヒートアイランド効果を軽減する役割を果たしてきたという。尾島教授は「ビル群によるトーキョー・ウオールがこれをせき止めつつある。構造改革特区で景気浮揚を目ざしながらエネルギー換算で数十億円を失っている計算だ」と苦笑いする。
さらに「一九九五年に計画していた世界都市博が中止になった原因の一つは、会場予定地の臨海副都心の高層ビルがヒートアイランド現象を助長することへの懸念があった。当時は行政のプロジェクトだったから意見の言いようもあったが、今は民間の開発事業がほとんど。法的担保がない状態では、問題点が開発計画になかなか反映されない」とその難しさを説明する。
尾島教授の研究グループは今夏、JR品川駅港南口のビル群や、田町駅にかけて想定される再開発計画を視野に入れながら、海風の影響をシミュレーションする予定だ。「この地域の高層ビル群の影響で高輪から五反田周辺まで海風が遮られる可能性がある。既存ビル群の問題点を挙げるのも重要だが、開発計画の際、いかに都心への“風の道”に配慮したビル造りをするかが重要。データも具体策もないままでは、都内の東京湾岸はいずれ屏風(びょうぶ)岩化した高層ビル群で囲まれてしまう」と懸念する。
気象学的側面から、都心のヒートアイランド現象の悪化を心配するのは、防衛大学校地球海洋学科の小林文明助教授だ。
「都心の局地的集中豪雨が増えているが、その要因としてヒートアイランド現象は無視できなくなっている」とし、代表例として九九年七月二十一日、練馬区で一時間に一三一ミリを記録、新宿区の男性が地下室で水死した集中豪雨をあげる。
小林助教授は当時、神奈川県横須賀市の防衛大学校屋上で積乱雲発生直後から観測していた。「通常、山ろくで発生した積乱雲は降雨とともに移動しながら海上で小さくなる。しかし、この雲は練馬区上空で、高さ十七キロの成層圏に達しながら同じエリアで沸き上がるように自己増殖を繰り返し、滝のような雨を降らせた」と説明。その発生メカニズムについて、「当日午後の都心はヒートアイランド現象で三三度の高温状態。気温が高くなると上昇気流が起きて、局地的に空気が薄くなり、ここに湿った空気が流れ込み雲ができた。さらに相模湾からの海風、鹿島灘からの北東風、北関東からの北風の接点がこの地域と重なり、熱と水蒸気の大量流入が巨大積乱雲の成長を助け、約一万回もの落雷を引き起こした」と分析する。
小林助教授は東京湾岸域での高層ビル群について、「海風は地上から高度一キロまでの厚さで都心に吹いてくるが、ちょうど地上からビルの高さ分だけせき止められれば当然、ヒートアイランド現象の助長につながる。ビル群そのものが冷房施設やオフィス機器などで熱や水蒸気の発生源にもなる」と指摘。「今後も都心部では集中豪雨や落雷の頻発、さらに竜巻も起こり得る」と予測する。その上で「集中豪雨とヒートアイランド現象の数値的な因果関係はまだ解明されていない。尾島教授の研究とともに、都心部で今まで以上に細密な観測体制の構築が必要だろう」と訴える。
尾島教授の取り組みに港区の担当者は「汐留の開発については、アセスメントの審査会でも、ビル単体ではなく群としての評価ができなかったことが課題として挙げられた。開発と環境のバランスの観点からも協力したい」と話す。品川区の担当者も「JR大崎駅西口では、都の都市再生特区第一号として高層ビルが予定されており、再開発によるヒートアイランド現象への影響は大きな関心事。風速、風向などのデータで協力できるのでは」との意向だ。
尾島教授はこう訴える。「自然との共生は農村部ばかりでなく大都市ほど重要。風という共有の資源を開発からどう守るか、データを示すことで提案していきたい」