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日の丸・君が代『適正実施』に揺れる都立高
卒業式で光る監視の目
■処分に震える先生たち
「国旗は壇上正面」「国旗に向かって起立し国歌を斉唱する」−。東京都教育委員会が、公立校の教職員に式典での“作法”を定めた指針だ。これに従わない者は処分もあるという。12日は、都立高校の卒業式集中日だ。一見、指針通り粛々と行われたように見えるが、日の丸掲揚・君が代斉唱の「適正な実施」強制に、現場は揺れている。
「起立、国歌斉唱」
会場にこのアナウンスが響き渡ると、出席者全員が立ち上がった。教員らも起立し、多数が君が代を歌う。会場に掲げられた式次第にも「国歌斉唱」の文字が見える。
会場正面には日の丸と都旗。仰ぎ見るように座った生徒や教員、父母らが見守る中、卒業生が一人ひとり壇上に登り、校長から証書を受け取った。十二日、都立府中西高校(府中市)の卒業生の晴れ舞台は終始落ち着いて進んだ。
これが都教委が推進した卒業式の風景だ。十二日は都立高(全日制)の約三割にあたる六十二校で卒業式が行われ、都教委の規定通り、日の丸が掲揚され君が代も歌われたようだ。
ただ一つ、府中西高の教員らが戸惑ったかに見えたのは座席配置。座るいすが事前に決められた。都教委はこの座席一覧表を「特に重要」と指示、各学校長に事前に報告させている。不起立の教師が現れた場合、すぐに誰かを特定できる仕組みだ。
■保護者らが式でイエローカード
一方で、進学校の戸山高(新宿区)では十一日の卒業式で、保護者の有志が父母らに手札サイズの黄色いカードを校門で配った。都教委の指導強化に「どう対応するかは大人の責任。強制は反対だという意思表示として、イエローカードを示そうと準備した」。
イエローカードについて「そうした事実があったとは認識していない」(同高)と言うが、参加者らによると「国歌斉唱」の呼びかけに対し、何人もの父母らがカードを掲げて反対の意思表示をしたという。
もともと同高は、式典のの形は生徒が自主的に決める自由な気風があった。二〇〇〇年三月の卒業式で初めて式場に日の丸・君が代が持ち込まれた際には、卒業生有志が、校長に反対を申し入れたが通らず、生徒は抗議を示す黄色いリボンを胸につけた。今回も卒業生らが校長と折衝したが学校側は譲らなかった。
都立高での日の丸・君が代の実施率は一九九〇年代には低かった。一転したのは九九年だ。広島県立高校長が、この問題で教員と県教委の間で板挟みとなり自殺。同年国旗国歌法が施行されたこともあり、文部省(当時)がより徹底するよう指導通知を出した。
これを受け都教委も指導を強化し、二〇〇一年春から実施率100%が続いている。だがこの間も教員の反発から、式典会場への日の丸掲揚を見合わせたり、君が代も起立を拒否するなど抗議が続いていた。
この経緯から都教委は、「適正な実施」を求め昨年十月、式典での日の丸掲揚・君が代斉唱の手順を定めた実施指針=左面の別表=を決めた。処分をちらつかせた指導強化で、市民団体が公表した都教委の資料によると、各校には「不起立者が出た場合、第一報を入れる」といった取り決めがされた。校長が教員に「服務命令書」を出し、協力を徹底させた。
■苦悩する組合側反対徹底言えず
日の丸・君が代の実施を厳しく求められた現場の教員側は、厳しい監視にさらされている。ある都立高のベテラン男性教員は三月初旬の卒業式で、「国歌斉唱」の呼び掛けに不起立を通した。数人の教員が起立しなかった。教頭が近づき、鋭い声を立て続けに発した。「先生、お立ちください」「処分されますよ」。「現認しました。〇時〇分」
この間、都教委からの派遣者が教員席後ろに立ち教頭の動きをチェックした。指示を守らなければ、教頭が報告されるからだ。「派遣は祝意を述べるため」(都教委)と言うが、現場は監視と受け止めている。
この男性教員は「昨年まではここまでひどくなかった。処分を受けるかもしれないが、ここで教員が踏ん張らないと今度は生徒たちへの強制が強まってしまう」と悲壮な表情で訴えた。
都教委の強硬策に都高校教職員組合(都高教)は苦悩している。鈴木敏夫副委員長は「強制反対に変わりはない」が「君が代斉唱の際、起立しない方針ではない」と言う。「服従しなければ処罰されることが分かっている中で『突っ込め』とは言えない」からだ。
行動で示すかは教員の自主的な判断だけだ。それだけに動揺も走る。卒業式を控えるある女性教員は「卒業式が終われば、すぐに入学式や学校の周年行事。不起立を三回か、四回繰り返すと分限免職(解雇)になるという話がまことしやかに伝わり、すごい圧力を感じている」と話す。現場で抗議する手を封じ込められつつある状況下、一月三十日には都立学校の二百人を超す教員らが、実施指針による起立斉唱の義務がないことなどの確認を求めて集団提訴した。
■「校長もヘビににらまれて…」
一方で、校長にもこの指針はプレッシャーになっている。指針は「舞台壇上に演台を置き、卒業証書を授与する」とも規定しており、養護学校も例外ではない。車いすの生徒などを壇上に上げるためスロープを設置したりしなければならず、準備に追われる。
都立江戸川養護学校の吉田昌義校長は「壇上でライトを浴びて緊張してしまう子が出るかもしれない。子どもの実情に合わせてフロアで授与することもあり得る。指針は指針だが、一人ひとりの実態に応じて対応すべきものだと考えている」と戸惑う。
都高教の鈴木副委員長は「校長にしてみれば(指針を現場に押しつけ)思考停止すればいいわけで、虎の威を借りて楽ができる半面、都教委から一方的に命令される屈辱も味わうことになる」と校長の立場を“解説”。卒業式で起立しなかった別の都立高の男性教員は「校長に何を言っても『規則だから仕方がない』と言うばかり。管理職はヘビ(都教委)ににらまれたカエル状態で、職場には無力感も漂う」と嘆く。
■『生徒の心に空虚さ広がる』
教育現場に詳しい野田正彰・京都女子大教授(比較文化精神医学)は「先生を処分で黙らせておいて、生徒に生きる力をつけさせるといっても無理だ。式典での伴奏が嫌で『君が代がない世界に行きたい』と精神的苦痛を訴える音楽教諭もおり、ある意味、上からの暴力だ。日の丸・君が代の是非ではなく『強制はだめだ』と言っているが、現場には最低限の抵抗もできない」と指摘、その上で生徒への影響をこう危ぐする。
「文科省は学校が自主性を持たなければいけないと盛んに言うがウソがある。先生たちが嫌だということをさせられるのを子どもたちは見抜き、決して良い学習にはならない。今子どもたちは周りにうまく合わせ、内心は明らかにしない傾向を強めるが、上からの強制は子どもたちの内面の空虚さを広げるはずだ」
■都教委の実施指針
【国旗掲揚】
(1)国旗は式典会場舞台壇上正面に掲揚
(2)都旗もあわせて掲揚。この場合国旗は正面左、都旗は右に掲揚
(3)屋外への国旗掲揚は、掲揚塔、校門、玄関等、国旗の掲揚状況が児童・生徒、保護者らが十分認知できる場所に
(4)国旗掲揚時間は、式典当日の児童・生徒の始業時刻から終業時刻とする
【国歌斉唱】
(1)式次第に「国歌斉唱」と記載する
(2)国歌斉唱の際、式典司会者が「国歌斉唱」と発声し、起立を促す
(3)式典会場で教職員は、指定された席で国旗に向かって起立し、国歌を斉唱する
(4)国歌斉唱はピアノ伴奏等により行う
【会場設営など】
(1)卒業式を体育館で実施する場合は舞台壇上に演台を置き、卒業証書を授与する
(2)その他の会場での場合は、会場正面に演台を置き、卒業証書を授与する
(3)入学式、卒業式等における式典会場は、児童・生徒が正面を向いて着席するよう設営する
(4)入学式、卒業式等での教職員の服装は、厳粛かつ清新な雰囲気の中で行われる式典にふさわしいものとする
http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20040313/mng_____tokuho__000.shtml